ユーリアたちは唖然とする。この事態を早く終息させ
るため、護衛隊や彼女は捜索に向かう。
しかし、手掛かりがなくあてもなく飛ぶ日々。
そんな中、食事処で興味深い話が聞こえてきた。
「爆撃、飛行船……」
ゴドロウ市長の言葉に、皆が唖然とする。
飛行船の役割は、物資や人の輸送であり、運び屋が使うもの。
イジツではそれが一般的な理解だ。
その飛行船で爆撃を行おうなど、だれも考えない。
飛行船の積載量なら、爆弾を積み込み、爆撃機として使うことはできるだろうと予想はできる。
だが、ユーハング爆撃機に比べれば速度や防御力は無論劣るし、敵機に捕捉されても回避行動がとれないという難点がある。
それなら爆撃機を持つ方が有効だが、イジツでは爆撃機など通常必要にならない。
そんなものを下手にもてば、周辺の都市との関係に亀裂が入ることになる。
かつて、自由博愛連合に加盟しない都市を焼き払った、イケスカを除いては。
「……どうして、そんなものを建造したの?」
「先のイケスカ動乱の際、わが都市ポロッカは自博連の富岳に焼き払われた。表向き連合は崩壊したことになっているし、復興に取り組んでいるが、それでも住民たちの不安はぬぐえるものではない」
イジツに住んでいて爆撃の被害にあうなど、空賊に遭遇する確率とは比べ物にならないほどに低い。いや、ほぼないだろう。
爆撃機を改造した輸送機はあっても、爆撃機そのものを運用している都市など、イケスカくらいのものだ。
逆に富岳は、イケスカしか運用することができない、自由博愛連合の絶対的な強さの象徴。相手を一方的に蹂躙する、情け容赦のない存在。
その被害にあったものたちに、富岳の爆撃はトラウマを受け付けたといっても過言ではない。
「だからこそ、あの富岳のような存在を持てば、イケスカをけん制し、もうポロッカに手出ししようとする気を起こさせない。……抑止力が必要だった」
「つまり、イケスカがかつてもった富岳のような存在がポロッカにもあれば、イケスカはポロッカにもう手出しはできない。復興に専念できるし、住民も安心できる。その存在として作ったのが、そのトドロキなわけ?」
「……そうだ」
ユーリア議員は眉間に皺をよせ、表情を険しくする。
理屈はわかるが、これは大きな問題でもある。
たしかにイケスカがかつて富岳をもったことは事実だが、動乱後に他都市による査察が行われた。
無論、重要な戦力や設計図等は隠したか他に移動させた可能性はあるが、富岳は見つからず、震電の残骸や設計図などいくつかの残骸が見つかっただけで、パイロットの多くは空賊に流れ、今の混乱を招く結果になった。
そんな中、他都市を攻撃できる戦力を持ったとなれば、今度はその都市が世界に緊張をもたらす可能性が高い。
確かに、ポロッカが町を富岳に焼かれたことは事実だが、表向きイケスカにかつての力はなく、連合のなくなった今、だれを標的としているのかわからず、都市間で要らぬ緊張を生み出すことになる。
他にも懸念はある。
さきもいったように、イジツでは飛行船は商売の道具というのが一般的な理解だ。
だが、爆撃飛行船というものの存在が世界に知れ渡れば、都市に入港しようとする飛行船1隻1隻を警戒しなければならなくなる。
これまでの常識が、大きく変わってしまう。
新たな対応を、各都市は求められることになるのは想像に難くない。
それは大きな弊害になる。
だからこそ、彼は詳細を教えたくなかったし、なるべく知る人間を少なくして内々に処理したかったのだろう。
だが、そのトドロキが都市を爆撃してしまった今となっては、もう遅い。
こうなれば、一刻も早く事態を収拾するしかない。
ポロッカの資金で建造した船だから、取り戻したいという気持ちはわかるが、奪った当人たちがだれであれ、この1件だけで事を収める保証はどこにもない。
ユーリア議員が言ったように、最悪、その飛行船の破壊も視野にいれなければならない。
この一件で、ゴドロウはポロッカ内部から突き上げをくらうかもしれないが、そんなことを気にしている場合ではない。
「……わかったわ」
ユーリア議員は護衛隊隊長を振り返る。
「隊長、直ちに護衛隊を招集。9機全機で被害のあった町へ急行して情報収集を。その後、4機ずつに分かれて捜索にあたって」
「は!」
「ハルカ、ルゥルゥに連絡するから、あなたはコトブキ飛行隊が被害のあった町に来たら彼らと合流。捜索にあたって」
「はい!」
「準備ができ次第出発。私はゴドロウと、飛行船が発見できた場合の対策を話し合うわ」
「「「了解!!!」」」
彼らは格納庫へ走り、全機に増槽を装備。
爆撃の被害にあった町へと飛び立っていった。
そんなわけで捜索が始まったものの、捜索開始からはや3日。
いまだ発見には至っていない。
「どこにいるんだ……」
レオナも日々あてもなく飛び続けることに、少々焦りを感じ始めている。
爆撃の被害にあった町は、町全体ががれきの山になっていた。
幸い死者はいなかったそうだが、それでも被害は富岳のときのそれと変わらない。
そんなものを、いつまでも放置してはおけない。
「ハルカ」
ふと、レオナが話しかけてきた。
「飛行船を爆撃機にすることに、なにか有効性はあるのか?」
ケイトも視線を上げ、ハルカをじっと見つめてくる。
「……正直、あまり有効とはいえないでしょうね」
ハルカは、容赦のない一言を言い放った。
「なぜ?」
「今回のトドロキの場合、双胴式の船体を持っているそうです。それなら、大きな搭載スペースを得て、積載量は相当なものでしょう。無論、それを動かせるだけの機関があっての話ですが」
「有効のように聞こえるが?」
「積載量については、そうでしょう。ですが、爆撃機に比べれば、やはり速度や防御面は劣りますし、船体も巨大になり、発見されやすくなりますし、回避行動のとれない飛行船など的でしかないでしょう」
特に、ユーハング爆撃機は搭載量を犠牲にして速度に重点を置いている機体が、飛龍や銀河のように多い。
ハリマ襲撃で使われた銀河など、鍾馗でさえ追いつくのは容易ではなかった。
「おそらく、ポロッカで実現できる抑止力、ということで、双胴式の飛行船を作ったのでしょう」
「そうか」
「にしても、そんな巨大な飛行船がなぜこうも発見できないのか、ケイトは疑問」
「そこなんですよね……」
捜索が始まって3日たつが、それでも発見の報告はない。
双胴式の飛行船など、イジツにはそのトドロキ1隻だけだろうから見間違えることはない。
それに、その構造故に巨体のはず。
それでも、広い空にくらべれば大きさは大したことない。
問題は、捜索隊の目をかいくぐって都市を爆撃したり、レーダーに引っかからずどうやって移動しているかだ。
「高高度で移動しても、都市に近づけば電探に引っかかるはず」
「でも、トドロキはこちらの目をかいくぐって移動している」
「巨大な飛行船で、そんなことできるのか」
疑問はつきない。
だが、現にそうなっているのだからそのような手段はあるはず。
「なあ、その話、本当なのか?」
「うそじゃねえよ!見たんだよ!大きな飛行船をよ!」
ふと耳を傾ければ、酒を飲みながら交わされる会話が耳に入る。
「うそいえ。2隻つなげたような飛行船なんてあるわけないだろう?2隻ならんで飛んでいたのを見間違えたんだよ」
「ちくしょう!誰も信じてくれねえなあ!」
「あの~」
鍛えられた肉体をもつ、少しあごひげを生やした男性が、樽ジョッキ片手に振り向くと、そこには笑みを浮かべる黒髪の女性、ハルカが少し中腰で立っていた。
男性たちの視線は、彼女の笑みや胸元、スカートから延びる太ももに注がれていく。
「ほう、姉ちゃんなかなかキレイじゃないか!」
「ありがとうございます。で、その飛行船の話、ちょっと聞かせてもらってもいいですか?」
ハルカは椅子の空きスペースに腰かけ、ビールの追加を注文する。
こういうとき、酒を飲ませたほうが口が軽くなる。
「それで、その飛行船の話なんですけど」
彼女は、運ばれてきた樽ジョッキを男性に渡す。男性は樽ジョッキに口をつけ、中身を一気に半分ほどあおる。
「聞いてくれよ、姉ちゃん!こいつが俺の話をちっとも信じてくれなくてよ!」
男性の手が、ハルカの右足太ももをなでるように触った。
一瞬びくっと体が震えるが、彼女は耐える。
「信じるわけないだろう?今朝、飛行船を2隻つなげたようなでかい飛行船を見た、なんて」
「面白い飛行船ですね。どこで見たんですか?」
樽ジョッキの中身をつぎ足し、さらに飲むように促す。
「ここから南のほうだ。峡谷の方に向かっていくのを見たっていうんだ」
「俺は驚いたぞ!でっけえええ飛行船だったからな。側面にでかい目玉みたいなマークもあったし」
「でっけえ目玉だったんじゃねえの?」
「飛行船に目玉なんかついているかよ!」
男性はビールをあおり、顔がさらに赤くなっていく。
「まったく、だれも信じちゃくれねえ」
飲みすぎたのか、男性は酔いつぶれ机に突っ伏した。
「おいおい、つぶれるなよ。お前の機体、2人乗りじゃないんだぞ」
ハルカはスカートのポケットから札を取り出し、テーブルにおいた。
「これ、面白い話のお礼です」
「おう、ありがとうな姉ちゃん」
彼女はその場を後にすると、レオナたちのもとに戻る。
そして、手ぬぐいで男性に触られたあたりをふいた。
「それらしき情報がありました」
「……君も、ザラみたいなことをやるんだな」
敵地で情報を得たり、潜入する際、ザラはその色香と酒の強さを使って上手に相手の口を割らせていた。
ザラが、異性が見れば見とれる色香を持っているのは、コトブキの誰もがわかっている。
ハルカはザラより年下とはいえ、同い年のキリエたちに比べればスタイルはいい方で、足は特にキレイだとユーリア議員たちも証言している。
だからこの手が使えたのだろう。彼女は意識してないようだが。
「この際仕方がないです。それで、トドロキらしき飛行船を見たそうです」
「どこで?」
「ここから南の方で峡谷に向かっていったと」
「南?」
いま彼女たちがいるのはショウトよりも北である。
爆撃の被害にあった町で情報をあつめ、捜索に出発したのだが、そこから北へ向かったと聞いてその周辺を探したが空振り。
もしやと思い、ハルカは地図を見直す。
よく見れば、爆撃で被害にあった町のそばまで、峡谷が走っている。
その幅は飛行船が十分通れるほど広いもので、爆撃にあった町から南へ、この空の駅のそばを走っている。
電探に引っかからなかったのは、ここを通っていた可能性がある。
峡谷に隠れて移動しているなら、南へ向かっているとするなら、進路は読みやすい。
「この空の駅から、そう遠くはないですね」
「追いつけるかもしれない」
「出発しよう」
3人は食事の残りを平らげると会計を急いで済ませ、愛機で飛び立っていった。