彼らの進路上に、巨大な飛行船が現れ、所属のマークも確認。
目的の飛行船に間違いないと確信した彼らは、まず呼びかけを行う。
呼びかけを行う中、突如旋回機銃が彼女の方を向いた。
空の駅から峡谷へ向かって飛び、情報にあったように南へと進んでいく。
「……まだ追いつけないのか」
「そういえば」
ケイトが、ふと疑問を口にした。
「もし、トドロキを見つけた場合は、どうする?」
「ユーリア議員からの連絡では、まず呼びかけを行ってほしいと」
「呼びかけ?」
「飛行船を盗んだ、ポロッカの人か、どこの誰とも知らない人とまずは話せ、と」
今回の件、ポロッカの造反者か、他の勢力が関与しているのか、詳しいことは何もわからないが、まずはそのあたりを探ってほしいとのことだ。
「だが、呼びかけを行って、それで相手が何者か簡単にいうものだろうか?」
「言わないでしょうね」
トドロキが行方をくらましてから、町が爆撃され、それら一連の出来事の前後、いずれもトドロキからの連絡はないという。
無線を封鎖しているのかもしれないが、あきらかに自分たちの所属を明かしたくないという意図が見えている。
「ですが、実のところ、警告もなくいきなりポロッカ船籍の飛行船を撃墜するわけにもいきません。ゴドロウ市長から、破壊してほしいという命令もない以上、従うしかありません」
「もし、相手が攻撃してきた場合は?」
「……回避に専念し、相手の射程距離圏外からじっと監視するしかないですね」
「不安だな……」
ユーリア議員からの定期連絡では、まだ飛行船を発見した場合の対処、特に攻撃を受けた場合の対応は協議中だという。
通常なら応戦していいのだが、ゴドロウがなかなか譲らないらしい。
復興途中のポロッカの苦しい予算から建造費用を捻出して建造したのだろうし、富岳にならぶ抑止力をもとめて作ったのだから、失いたくないのはわからなくもないが。
ふと、前方に何か巨大な物体が見えてきた。
その巨体に、3人は言葉を失った。
薄い雲の向こうに見えるのは、巨大な飛行船が2隻並んだような特異な船体。
オウニ商会の羽衣丸の2倍の大きさはあるのではないかという巨体が、中央の構造物で左右に連結されている。
「……これは」
3人は距離をとりながら、側面に回り込む。
峡谷は、その巨大な船体が窪地に入ってもなお余裕がある。
こうやって索敵や電探を避けていたのだろう。
側面に回り込むと、中央に黒い円、その周りを黄色の円が囲んでいる模様、ポロッカのマークが描かれている。
「ポロッカのマークを確認。……これが、トドロキですか」
「なんていう巨体だ……」
中央の構造物の最上段には、艦載機の発着艦を行うための屋根付きの甲板が設けられている。
その下には、船橋や格納庫に機関部、最下層はきっと爆弾倉だろう。
左右の飛行船の格納区画も合わせれば、物資、艦載機、爆弾が多量に積載可能なのは一目瞭然。
これだけの巨体であれば、250kgや500kg爆弾を何発搭載可能だろうか、艦載機は何機詰めるか。
そんなことをハルカは考えるも、とりあえずわきに置く。
見たところ、武装は機体上面にもうけられている連装機銃だけのようだが、この飛行船の護衛戦闘機隊を撃墜した点からして、まだあると考えたほうがいいだろう。
彼女はチャンネルをあわせ、ユーリア議員につなぐ。
「こちら捜索隊、ハルカです。ユーリア議員、聞こえますか?」
『こちらユーリア。状況はどう?』
「トドロキと思われる飛行船を発見しました。場所はショウト南方の峡谷にて」
『発見したの!?』
「ポロッカのマークを確認。飛行船を2隻横につなげたような外見です」
『まちがいない、トドロキだ』
ゴドロウ市長の声がわってはいる。
だが発見したはいいものの、問題はここからだ。
「それで、どうすればいいんですか?」
発見後の対応で、ユーリア議員とゴドロウ市長は折り合えたのだろうか。
『……まず、無線で呼びかけをおこなって、停船、あるいはポロッカへの帰還を促してちょうだい』
「相手が受け入れない場合は?」
『トドロキを攻撃することは、許可できん』
ゴドロウ市長は、あくまでトドロキを取り戻したいらしい。
だが、ハルカはそれが望み薄であると考えている。
この飛行船は、護衛機を撃ち落として逃走している。
その時点で、中にいるのは裏切者か敵対組織とみていい。
目的が何であれ、すでに都市を1つ攻撃している以上、ただの呼びかけで素直に従ってくれるとは思えない。
だが、警告なしにいきなり飛行船を撃墜することは、後々大問題に発展するため、正当な手順は踏んでおく必要がある。
「レオナさんとケイトさんは、今の距離を維持。私が接近します」
『大丈夫か?』
「飛行船からの応戦には、慣れています」
これまで、何隻もの飛行船を撃墜してきたハルカだ。
無論、飛行船から出撃してくる艦載機の撃墜や、飛行船に設置されている機銃の弾幕の回避など、何度も経験してきた。
それに、もし、高確率でなると考えられるが、機銃を撃ってきた場合、回避行動をとるにあたって、2人が周囲にいないほうが自由に動ける。
『……わかった。気を付けてな』
「了解」
ハルカはレバーを操作し、胴体下の増槽を切り離す。両足の間の確認窓から、増槽の落下を確認すると、少しずつ速度を上げてトドロキへと接近していく。
機銃の射程距離近くまでやってくると、心臓の鼓動が若干速さをます。
彼女は機上電話のチャンネルを操作し、トドロキに伝わるように設定。呼びかけを始める。
「ポロッカ船籍の飛行船トドロキ、こちらはガドール評議会護衛隊の捜索機です。あなた方は、所属都市であるポロッカから捜索命令が出ています。今すぐ停船しこちらの誘導に従うか、ポロッカへ戻ってください」
最初の呼びかけを行うものの、返答はない。
機上電話からは、沈黙が聞こえるままだ。
「ポロッカ船籍の飛行船トドロキ、こちらはガドール評議会護衛隊の捜索機です。あなた方は、所属都市であるポロッカから捜索命令が出ています。今すぐ停船しこちらの誘導に従うか、ポロッカへの帰還を要請します」
それでも機上電話から聞こえるのは、沈黙だけだった。
ふと、ノイズが聞こえた。
『残念だが、その要請には応じられない』
返答があったことに彼女は一瞬驚くが、応答があったのなら確認しなければならないことがある。
彼女は機上電話に話しかけた。
「なぜ要請に応じられないんですか?あなた方はポロッカの所属、なら市長の要請に応じるのは当然でしょう?」
『我々はポロッカ所属の人間ではない』
「では、あなた方は誰ですか?」
少しの間、沈黙が操縦室内を支配する。
機上電話の向こうから聞こえた声は、短く答えた。
『……空賊だ』
「へえ、空賊ですか……」
『そうだ。我々は空賊だ。だから従う義務はない』
ハルカはそれが嘘であるとわかっている。
呼びかけを続ける。
「空賊なんですね?」
『だから、我々は空賊だと』
「略奪行為を行わなければ生きることもできない空賊が、そんな巨大な飛行船を盗んでどうするんですか?」
『それは、……都市を爆撃して、物資を奪って』
「そんなことすれば、物資も一緒に粉々になってしまうんじゃないですか?先日爆撃した都市のように」
機上電話の向こうの声の主が、一瞬言葉に詰まるのがわかった。
「空賊がそんな維持に窮するような、アジトを発見される危険性のあるデカブツを手に入れる理由はなんですか?どこかへ売るつもりですか?そんな特殊な飛行船では足が付きますよ」
声の主は黙り込んだ。
「それに、空賊には空賊の名前がありますが、あなた方の名前は何ですか?言えますよね?シロクマ団とか、アナグマ団とか。……あなた方は?」
返答はない。
彼女は、最後の疑問をぶつけることにした。
「まさかと思いますが、あなた方、空賊じゃないのでは?」
『そ、そんなことはない!我々は……』
「空賊は、自分たちのことを空賊だ、などといいませんよ。これでも、私も元空賊ですから」
『……』
「あなた方、おそらくポロッカと敵対している組織の人間ですよね?ポロッカに対し恨みがあり、なおかつ他都市を爆撃しようなどという発想ができる組織の人間……」
『何がいいたい……』
「いやですね、そんな人間のいる都市、1つしか思い浮かばないんですよ。例えば……、この飛行船くらい大きな爆撃機を何機も持っていて、飛行隊もたくさんあって、多くの都市を攻撃した。今は、内戦状態ですが、イジツ最大の都市、……イケスカとか」
瞬間、彼女の本能が何かを感じ取り、下方を見た。
飛行船上面に設けられた連装機銃が、こちらへ旋回するのが目に入る。
彼女はとっさにフットペダルをけりこんだ。
機体を横滑りさせた直後、飛行船上面に設けられた連装機銃8基が一斉に火を噴いた。
彼女は、機体を左へ横滑りさせて飛行船の端へ移動。機体を水平に戻すと高度を上げ、機銃の射程外に逃れようとする。
『ハルカ!』
「来ちゃダメです!」
レオナの通信に応えると、彼女は弾幕を回避するべく、右へ上へと移動する。
弾幕が緩くなる気配がないことを悟ると、機首を下げて降下し、船体下部に潜りこもうとする。
すると、船体下部に設けられた8基の機銃が火をふいた。
「下面にも機銃が同数……」
上面も下面も変わらないならと、彼女はスロットルレバーを開いて速度を上げ、機首を上げて上昇しながら機銃の防御圏外まで距離を取ろうとする。
すると、船体上面の構造物が旋回し、彼女の方を向いた。
箱の中に装填されていたものが、尻尾から火を噴きながら4発連続で放たれ、彼女に向かって飛翔した。
「ロケット!?」
彼女が地上攻撃の際、時折用いるロケットだ。
彼女はロケットの未来位置を予測し、急いで機首を下げて急降下に入った。
その直後、彼女の上方でロケットが放った小弾が炸裂した。
トドロキがまた動いた。間を置かず、再びロケットが4発放たれた。
彼女は降下を止め、水平飛行に転じ、速度を上げて距離をとる。
彼女の進路後ろでロケットが炸裂し、爆発音をたてた。
「……ふぅ」
回避に成功したことに安堵すると、船体上面の構造物の蓋が開き、またロケットというより、小型の飛行機のようなものが1発放たれた。
彼女は左へ舵を切ってロケットを回避する。
ロケットは彼女の下方を素通りしていった。
しかし、直後の光景に彼女は目を見開いた。
回避したはずのロケットが翼を可動させて向きを変え、こちらに帰ってくるではないか。
これをハルカはしっていた。確か祖父に教わった中にあった。
ユーハングが実用化しようとした、無線誘導で飛翔する爆弾。
「無線誘導弾!?」
外見からして、イ号一型甲無線誘導弾だろう。
ポロッカは、無線誘導弾の実用化に成功したのか。はてまたトドロキを占拠したものたちがとりつけたのかは、この際どうでもいい。
彼女は機首を上げて上昇に転じる。
すると、誘導弾も上昇して迫ってくる。
ユーハングでかつて実用化が検討された、無線誘導弾。
もともとは船を攻撃するためのものだが、それを彼らは対空用に使ってきた。
使い方は違っても、ユーハングが実用化しようとしたそれと同一のものなら、あのトドロキに誘導弾を無線操縦している者がいるはず。
ロケットエンジンで飛翔しているゆえにそう飛翔時間は長くないはずだが、速度が速い。このままでは命中しない保障はない。
船体上面に操縦主がいるなら、下面に回り込めば可能性はある。
彼女は機首をさげ、ほぼ垂直に降下に入った。
彼女のあとを、誘導弾が追ってくる。
速度計に気を付けながら急降下で速度を増し、少しでも誘導弾との距離をとる。
トドロキの船首をかすめるように降下した直後、操縦桿を全力で引いて機首を起こす。
機首を起こし、地面すれすれの低高度で飛行する。後ろをかすかに確認すると、誘導弾も機首を上げ追いすがってくる。
トドロキの船体下面から放たれる機銃弾を回避しながら飛ぶ彼女に、誘導弾は距離を詰めていく。
直後、彼女は機首を上げて上昇に転じる。
そして、誘導弾はその先にある崖に激突して爆発した。
上昇して距離をとろうとする彼女に、2発目の誘導弾が飛翔する。
「……こうなったら」
彼女はトドロキとの距離を詰めていく。
激しさを増す弾幕の中を駆け抜け、彼女はトドロキの中央構造物、艦載機の発着艦を行う甲板の上面すれすれを飛行していく。
すると、誘導弾は彼女を追うのを止め、高度をあげた。
万一、今の状態で命中しようものなら、トドロキ自身にも被害が及ぶ。
それを操作している人間は嫌がったのだろう。
彼女は上昇に転じ、誘導弾に向かって13mm機銃を放った。
機銃弾は誘導弾の翼を破壊。
そのまま峡谷の底へ落ちていき爆発した。
それを見送り、彼女はトドロキから距離をとると、レオナたちのもとに戻った。
『無事か!?』
戻って早々、過保護な隊長から心配そうな声が聞こえる。
「はい、無事です」
風防越しに、大きく息を吐き出すのが見える。
『ハルカ!?無事なの!?』
機上電話から聞こえる心配性の議員からの通信に、彼女は答える。
「はい、なんとか無事です」
『……トドロキと交戦したの?』
「色々装備盛りだくさんな飛行船ですね。回避に専念し、こちらからは機銃弾の1発も撃っていません」
『……そう』
嘘は言っていない。
放たれた無線誘導弾に発砲したのであって、トドロキに発砲したわけじゃない。
しばし、ユーリア議員が沈黙する。
『レオナ隊長、そちらにまもなく副隊長さんたちが到着するから、来たら彼らにトドロキの監視を頼んで、あなたたちはガドールへ一度もどってくれないかしら?』
『わかりました』
その後、トドロキの監視をやってきたザラたちに頼み、彼らはガドールへ向かった。