荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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飛行船内部への潜入に成功したレオナたち。しかし内部情報が
乏しく、道中出会う船員たちから情報を聞きだしつつ、目的地の
船橋にたどり着く。
そこで彼らを待ち受けていたのは、かつての依頼人だった。


第6話 再会 あなたの名前は、依頼人?

 

「……よし」

 

 人がいないことを確認し、ハルカたちは先へ進む。

 飛行船内部はとにかく広い。加えて、船内はいくつもの区画に区切られているのか、ちょっと迷いそうにもなる。

 おまけに、船内の情報もないのでは勘に頼るしかない。

 とりあえず、船橋はおそらく2つの飛行船をつなぐ中央構造物の前方の可能性が高いため、その方向を目指して進んでいく。

 足音をなるべく殺し、周囲の音に聞き耳を立て、見つからないよう注意を払いながら進む。

 ふと、通り過ぎようとした部屋のドアが開いた。

 中から出てきた飛行服を着た男性が、こちらを見た。

 レオナの顔が引きつる。

 瞬間、ハルカが左足を軸足にして右足をあげ、男性の頭の右側面をけりつけた。

 男性は部屋の中にたおれる。

「入って!」

 ハルカは急いで部屋に入り、レオナにリリコが続く。

 部屋に入ると、リリコがドアを閉めて鍵をかけた。

 ハルカは男性の両手を部屋にあったベルトで縛ると、膝をつかせた状態で口を押え、上半身だけおこさせた。

 男性の口を押えながら、ハルカは後ろから話しかける。

「ちょっと教えてほしいんだけど、あなたたちは、ポロッカ所属の人々?」

 男性は笑みを浮かべる。

 こちらをあざ笑うかのように。

 すると、ハルカは左手で男性の口を押えたまま、右手で防寒用の茶色の上着の背中から、何かを抜いた。

「ねえ、もう一度きくよ?」

 彼女が抜いたのは、黒光りする鋭い金属の刃、戦闘用ナイフだった。

 ハルカは男性の首にナイフを突きつけ、静かに問いかける。

 男性の顔が、瞬間的にひきつった。

 

「あなたたちは、ポロッカ所属の人々?そうじゃないなら、だれ?応えないなら、応えるまで、あなたを切り刻むよ」

 

 冷凍庫から漏れでた冷気のように、ハルカの声が冷たい。

 

「指先から、少し、少~しずつ。少しずつ切り刻んでいけば、だれでも口を割るとおもうんだ」

 

 ハルカが、笑みを浮かべた。

 いつも浮かべる笑みではなく、どこか楽しそうな、締め上げた獲物をこれから食べるのが楽しみという、蛇のような瞳をしている。

 おまけに、舌を少し出して、唇をなめる。

 その表情や仕草に、男性だけでなく、レオナも寒気が走ったのを感じる。

 明らかに、冗談を言っているようには見えなかった。

「さあ、どこから切り刻んでほしい?」

 彼女は縛っている男性の手の指に、刃の先端を少しあてる。

 

「最初は小指の第1関節まで、次に第2関節まで。そして次は……」

 

「っひいいいいい!ち、違う!俺たちはポロッカ所属じゃねえ!」

 

「じゃあ、あなたたちはだれ?」

 

「そ、それは……」

 

「それは、……何?」

 

 笑顔を浮かべるハルカが、この上なく不気味さと圧をまとっている。

 男性の表情筋が引きつり、顔が震え始めた。

 

「でも、いちいち切り刻むの面倒だから、いっそのこと、首を切り飛ばして……」

 

 ナイフの刃が、男性の首にわずかにあてられる。

 

「ひいいい!お、おれたちは、イケスカから来た」

 

「そっか」

 

 特に驚きもしない、想定された答が出てきた。

「ねえ、船橋ってどこ?」

「……この部屋をでて、左へ向かって歩いていけばつく」

「そっか。じゃあ次の質問」

 彼女は男性の耳元で囁くように言う。

 

「だれに雇われたの?誰からこの船の情報を手に入れたの?何が目的?」

 

「……し、しらねえ!俺は、ただ命令で」

 

 ハルカは男性の腹部に拳を叩き込み、気絶させた。

 これ以上の情報は聞きだせそうにないし、時間をかけすぎてはいけない。

 船橋への道がわかっただけでも御の字だ。

 彼女は男性の両足を縛り、さるぐつわをかませると、男性を部屋にあるロッカーの1つに放り込んだ。

「これでよし」

 一仕事終えた、そんな感傷に少々浸っていると、ふと視線を感じた。

 彼女はレオナたちに視線を送ると、明らかにひきつった表情のレオナとリリコがいた。

 

「随分、……手慣れているのね」

 

「君、まさか本気で、切り刻むつもり」

 

「ち、ちがいますよ!ただ情報を吐かせるための演技ですよ!」

 

 レオナとリリコは顔を見合わせる。

 

「あれが演技?」

 

「君は嘘が下手だ。とてもじゃないが、演技とは思えない」

 

「やっぱり、あなたこういう尋問や拷問が得意なんじゃ」

 

「違います!尋問や拷問なんて最低限しかしりません!」

 

―――尋問や拷問の最低限って、なんだ?

 

 2人の心の声が重なる。

「お~い、およびだぞ~」

 ドアの向こうから聞こえた声に、全員が体を硬直させる。

 このままでは見つかり、増援を呼ばれてしまう。

 ハルカは周囲を見回す。

「リリコさんはそこのベッドの下へ。レオナさんはこちらへ」

 ハルカはレオナの手をとると、一緒にロッカーの中へ入り、素早くなるべく音をたてないようドアを閉めた。

 同時に、リリコはベッドの下へ素早く潜り込む。

 まもなくドアが開き、声の主が入ってくる。

 飛行服を着た男性。

「おや、いねえのか。あの飛行機が突っ込んできた件で、駆り出されたか」

 狭いロッカーの中、ハルカは小さな穴から外の様子をうかがう。

 一方、ロッカーが狭いせいでレオナはハルカと体が密着する形になる。

 お互い向かい合う形で立っているが、低いロッカーゆえに少し膝を曲げなければならないし、お互いの胸を押し付けあっているような形だ。

「……っち、このままじゃ出られない」

 早く部屋に来た男性に出て行ってほしいとじりじりしている。

 

―――こ、腰が痛い……。

 

 無理に中腰で立っているせいか、腰や足が悲鳴を上げている。

 レオナは、右足を上げようとした。

「ひゃう!」

 ふと、ハルカが悲鳴をあげる。見れば、彼女の膝はハルカの太ももの間、スカートの中にめり込んでいる。

 どこに当たったかわかり、謝罪の言葉を述べようとすると、ハルカは即座に自分とレオナの口を押え、隙間から外をみた。

「なんだ、今の声?」

 男性に聞かれた。

 彼はこのロッカーに向かって歩いてくる。

 どこにも逃げ道はない。

 男性の顔が間近に迫り、ロッカーの取っ手に手をかけようと……。

「ぐはっ!」

 突如吹っ飛ばされ、床に倒れこんだ。

 リリコの蹴りが頭部側面に命中し、男性が気を失った。

「もういいわよ」

 ロッカーを開け、2人は外へ出た。

「すいません、リリコさん」

「気にしないで。ところで、さっきの声は誰?」

 ハルカはスカートの前側の裾を引っ張りつつ、顔をそむけた。

 それを見たリリコは、何やら笑みを浮かべる。

「レオナ、暗いからっていたずらしちゃだめよ?」

「私は何もしてない!」

 

「そう。でも度が過ぎると、ザラの前で口が滑っちゃうかもしれないわね」

 

「そ……」

 レオナは両手を合わせて、拝むようにリリコにいう。

「それは、勘弁してくれ」

「考えておくわ」

「それより、2人とも」

 ふと、ハルカはレオナとリリコに何かを投げつけた。

「飛行服?」

「どうやら、この飛行船の船員はこれを着ているようなので、これを着て船橋まで行って、急いで占拠しましょう」

 ロッカーにあった予備に、倒れた男性2人の身ぐるみをはいだものだろう。

「……少し汗臭い」

「贅沢言わないでください。少しの辛抱ですから」

 ハルカは着ている服の上に飛行服を重ね着していく。

 男性サイズ故か、少し袖をまくってサイズを調整している。

「それから……」

 ハルカは2人に何かを投げ渡した。

 それは、黒光りする6連発のリボルバー拳銃だった。

「……実弾、か?」

「心配しなくてもゴムスタン仕様です。それでも、当たれば大の大人がもんどりうつ程度には痛いですが」

「なるべくなら、使いたくはないが……」

 彼女はシリンダーを出し、6発すべてが装填されていることを確認すると腰のホルスターに収めた。

 最後に、飛行帽をかぶり、なるべく顔を隠す。

「それじゃあ、行きましょう」

 3人は手早く準備を終えると、船橋に向かった。

 

 

 

 

 あの屠龍強行着陸のせいで、今甲板は火災騒ぎ。消火に人手が割かれているのか、意外にも船橋までの人は少なかった。

 それでもすれ違いの際には緊張するし、見つからないにこしたことはないから、道中ある段ボールや木箱の中に隠れてやり過ごしながら向かう。

 そして、行き止まりにきた。

 その場所には、鉄扉が1枚あるだけ。

 ハルカは周囲に気を付けながら、静かに扉を開いた。

 室内は、窓が多く視界が開けており、左右や中央には舵を操作する舵輪や計器類が多数配置されている。

「……ここが船橋か」

 静かに扉を開けると、足音を殺して侵入する。

 万一のことを考え、いつでも銃を抜けるようにしておく。

 静かに船橋内に入ると、鉄扉を閉め、彼女は周囲を見回した。

 

「……誰もいない?」

 

 誰もいなかった。

 舵を握る操舵士も、船長席と思われる場所さえも。

「どういうことだ?」

 飛行帽を脱いで周囲をくまなく観察するも、だれもいない。

「席を外しているのかしら?」

「そんなこと……」

 いくら人手が駆り出されているとはいえ、船橋を無人にするなどありえない。

 先ほど強行着陸した屠龍から、パイロットの遺体が見つかっていないことは、もうわかっているはず。

 ふと、ハルカは1つの可能性が思い浮かんだ。

「……まさか」

 それが間違っていないことが、まもなく証明された。

 床に転がってきた軽い金属音に、彼女はそこを向いた。

 床に転がっていたのは、細長い缶詰のような形。

 それを見て、ハルカは即座に駆け出し、その物体を遠くへけり飛ばした。

「ふせて!」

 ハルカはレオナとリリコの手を引いて、そばの操作盤の影にかくれる。

 直後、物体が煙を吹き出した。

「口をふさいで!姿勢を下げて!」

 そばにいるレオナの口をふさぎ、床に這いつくばるように姿勢を低くする。

 だが、煙が次第に部屋に充満し始めた。

 飛行帽をとって口に当てるが、このままではいずれ煙を吸う。

 ハルカは銃を抜き、全弾を窓の同じ場所めがけて撃った。

 ガラスにひびが入り、割れて穴が開いた。

 気圧差で、煙が吸い出されていく。

 薬莢を即座に排莢し、弾薬を装填。彼女は銃を構える。

 直後、隠れている操作盤に何かが跳弾する音が聞こえる。

 周囲を見ると、こちらを包囲しようとしてくる。

 ハルカは左側から回り込んでくる2人に向かって、頭部を狙って発砲。リリコは右側から、先ほど進入してきた鉄扉から入ってくる2人へ向けて発砲。

 4人とも昏倒する。

 だが、その後ろからも増援が入ってくる。

「罠か……」

 レオナのいう通りだろう。

 相手は、ここが侵入者の目的地と知っていて、待っていたとしか思えない。

 

 

「やれやれ、とんだネズミが入り込んでいたようですね」

 

 

 ハルカは銃を構え、声のする方向へ銃口を向ける。

 

「おやおや、だれかと思えば、あなたでしたか。……蒼き悪魔」

 

 オカッパ頭の、丸眼鏡をかけた男性はいう。

 その顔には、見覚えがあった。

 そのいけ好かないしゃべり口調も、聞き覚えがあった。

 

「あなた……」

 

 ハルカは、その男性に向かってその名を言おうと口を開いた。

 同時に、首を少し傾げる。

 

 

「……誰?」

 

 

 レオナとリリコを含む、その場にいる全員がずっこけた。

 

 何かまずいことを言っただろうか。

 

「あなた!ここはお互いの名を呼びあって、因縁の再会を演出する場面でしょう!?」

 

 なぜか苦情が入った。

 

「そんなこと言われたって、出会ったときあなた名乗ってなかったでしょう?……依頼人」

 

 そう。

 ハルカは、確かに目の前にいる男性を知っている。

 ウミワシ通商にいた頃、ラハマ襲撃を依頼してきた依頼人だ。

 それ以上でも以下でもない。

 何より、自身の名を名乗ってなかった。

 男性は眼鏡のブリッジをおし、位置を直しながら言う。

「そうでしたか、これは失礼。では改めて」

 男性はいった。

 

「わたくしは、旧自由博愛連合の参謀役、頭脳労働が担当のヒデアキと申します」

 

「ヒデアキ……」

 

 レオナは苦々しくいった。

「生きていたのか!イサオの子分!」

「おやおや、コトブキの隊長さんまで。これは思わぬ収穫ですね」

「そっか。この船を奪ったのは、旧自博連の残党だったってわけ?」

「ええ、そうですとも。羽衣丸のウエイトレスさん」

 リリコの言葉を、ヒデアキは肯定する。

「今更何のつもりだ!イサオがいなくなった今、お前たちは何を考えている!?」

「決まっています。自由博愛連合の再興を、イサオ様の夢の実現。このイジツの、覇権を握るためです」

「何が夢だ!そのためにいくつもの都市を、焼野原にしておいて!」

「必要なことだったのですよ」

「ふざけるな!イケスカの内乱一つ収められないのに、イジツの覇権を握るだと?何を考えている!?」

「まあ、少し前まではそうでしたよ。ですが、イサオ様の後継者が現れましてね。もう内乱からは脱し、準備を進めているのですよ。準備にあたって、こんな飛行船を野放しにしておくわけにはいきません。」

「……イサオの亡霊共が」

「諦めがわるい人々」

「何と言おうと勝手ですが、我々は負けたままでは終わりません」

 レオナは銃を抜き、ヒデアキに銃口を向けている。

 だが、その手は震えている。

 ゴムスタン仕様とわかっていても、人に銃を向けたことがないのだろう。

「まあ、まず今回はユーリア議員にお礼参りに伺います。今邪魔をされるわけにはいかないのですよ」

 ヒデアキが指を鳴らす。

 合図で、周囲の男性たちが一斉に3人に襲い掛かり、取り押さえられた。

「コトブキの隊長とウエイトレスは閉じ込めておきなさい。その悪魔には聞きたいことがありますので、そこの椅子にでも縛っておきなさい」

「くそ、離せえええええええええ!」

 レオナとリリコは抵抗むなしく部屋から連れ出され、ハルカはその様子を見送るしかなかった。

 

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