荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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飛行船を盗んだ一味に捕まったレオナたち。レオナとリリコが隔離される中、
彼女は船橋で尋問を受けていた。
これまでのお礼と言わんばかりに、彼女を痛めつける一味。
そして、飛行船を盗んだ彼らの思惑を彼女は知り、これから
始まるガドールとの交渉材料にされることになる。


第7話 彼らの思惑

 

「いだ!……ぐっ!……あぐっ!」

 

 船橋に響く、肌を打つ音と、痛みに苦しむ悲鳴。

 木製の椅子に座らされ、手足を縛られたハルカは、奪った飛行服を脱がされ、いつもの姿になっていた。

 そして、白色のスカートから延びる太ももや、上着の袖から出た腕を鞭や縄で叩かれ、身体にはみみずばれが何本も刻まれていた。

「……うっ」

 体を打たれるのが終わり、うなだれると前髪を掴まれ、顔をあげさせられる。

 目の前には、ヒデアキの顔があった。

 

「これくらいで済むなんて思わないでくださいね。何度も私たちの邪魔をしてくれたお礼が、まだ済んでいませんからね」

 

「邪魔?なんのこと?」

 

「とぼけようったって、そうはいきませんよ。我々が新兵器を投入する先々で、あなたがいつも邪魔をしてくれましたからね」

 

「だから、何の」

 

「イヅルマでの桜花、ヤマセでの橘花、ハリマでの銀河に新型の桜花。どれも知られていないユーハングの遺産にも拘わらず、あなたがいる先々でどれもユーリアやコトブキたちは対抗策をもって対応してきた」

 

「それが、何の関係が?」

 

「ほう、まだとぼけるつもりですか?」

 

 ヒデアキは、鼻先が触れそうなほど顔を近づけてくる。

 

 

「ユーリアめたちに、余計な入れ知恵をしていたのは、あなたですね」

 

 

「なんで、そう思うんですか?」

「それは単純です。我々がたくらみを阻止された先には、必ずあなたがいたからです」

「……ほかの人という可能性も」

 

「タカヒト」

 

 ハルカは息をのんだ。

「この名前に聞き覚えは?」

「……なんで、その名前を?」

「知っていて当然です。富岳をはじめ、いくつもの遺産の実用化に協力してくれた技術者です。今はイケスカを去ってしまっていますが……」

 前髪を強引に引っ張られ、顔を近づけさせられる。

「あなたの祖父だそうですね」

「それが何?」

「あなたが、タカヒト氏の血縁の人間であることは、調べがついています。それだけじゃない。あなたは、タカヒト氏から色んなことを教わった」

 彼女は息をのんだ。

 

「そうですね、例えば……。記録にしか残されていない、ユーハングの未知の遺産の情報、とか」

 

 彼女は視線をそらした。

 ヒデアキが確信を抱くには、それで十分だった。

 彼は、ハルカの頭を両手で左右からつかんだ。

 

「この頭の中に、まだ未知の遺産の情報が眠っている。それについて、少々話してもらえませんかね。もしくは、我々の仲間になってくださいませんか?平和な空の実現のために。喜んで、お迎えする準備がありますよ」

 

「……お断りよ」

 

 ヒデアキの表情が怪訝なものにかわった。

「はあ?今なんと?」

「お断りっていったの」

 背中と腕が縄で打たれ、彼女は顔をしかめた。

「おやおや、まだ理解できていないようですね」

「だって、私の知っていることを引き出したい。そう言っている時点で、平和な空の実現のために、どんな手段を使うかは明白。そうやって遺産を奪い合って、このイジツがどれだけ荒れることになったか、知らないわけじゃないでしょ?」

「だからこそ、自由博愛連合を再興し、このイジツを平定。平和な空を実現させ、我々の主人が、このイジツを導くものが遺産を管理し、どう利益を分け与えるかを決める必要があるのです」

 

「傲慢な考えね。あなた方がやっていることは、自分たちに従わない人々を、武力をもって排除し、自分たちの主人に従う家畜のような人間のみ残した世界の実現。そんな世界の実現のための片棒を担ぐなんて、お断りよ」

 

 太ももがまた打たれ、彼女は悲鳴をあげる。

 

「やれやれ、やはり血縁の人間というのは本当のようですな。タカヒト氏と言っていることが同じです」

 

「そりゃあどうも」

「ですが、このままでおわるとでも」

 ヒデアキはハルカの足を縛っている縄を切ると、彼女を強引にたたせ、銃を抜いて額に突きつける。

 

「あなたをこのまま、ユーリアたちのもとにおいておくことは危険です。本当は今すぐ殺してやりたいところですが、あのお方のご命令ですから、今は見逃しましょう。今は、ガドールとの交渉材料になってもらいます」

 

 ヒデアキが合図すると、控えていた別の男性に後頭部と縛られた両手首を掴まれる。

 

「ポロッカの作ったこの爆撃飛行船トドロキをもってガドールを攻撃し、ユーリア議員をあわよくば殺し、できなくともポロッカとユーリア議員との間に亀裂を入れる。そのためにも、あなたには時間稼ぎのために人質になってもらいますよ?」

 

 イケスカの戦力が限られる中、少人数でも使える兵器の整備のみならず、相手方の関係にも亀裂を入れる。

 それが、彼らの目的のようだ。

 

「何ばかなこと言っているの?用心棒一人のために、町全体を危険にさらずバカな議員がどこにいるっていうの?」

 

 評議会議員の優先すべきは、町と住民の安全だ。

 たかが用心棒1人のために、数多の住民を危険にさらすバカな議員はいない。

 だが、ヒデアキは勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 

「まあ、普通の用心棒ならそうでしょうね。ですが、あなたが遺産の情報を持っているとしれば、ガドールの評議員どもは、見る目を変えるかもしれませんね」

 

 ヒデアキは部下に指示を出す。

 

「……ガドールに通信をつなぎなさい」

 

 

 

 

 

 評議会の控室で、ユーリア議員は同じ場所を何週も回っていた。

 屠龍がトドロキに強行着陸してから時間がたつが、ハルカたちから船橋が制圧できたという報告はない。

 制圧に失敗したのだろうか。

 トドロキの監視をさせていたコトブキ飛行隊たちの隼は、残りの燃料が少ないからとガドールに帰還させたので、ユーリアがトドロキの現状を知るすべはない。

「ゴドロウ、ポロッカの制圧部隊はトドロキ付近にいるんでしょうね?」

「はい、ユーリア議員。もちろんおりますとも」

 助役が即座に応える。

「じゃあ、その制圧部隊を送り込めないの?」

「残念ですが、火器がない上に遅い輸送機ゆえ、対空火器が無効化できない限りは接近すら困難です」

「では聞くけど、もし制圧に失敗した場合、どうするのかしら?」

「……そのときはやむを得ない。制圧部隊は引き上げ、潜入したものたちは、自力で脱出をしてもらうしか……」

 ユーリア議員は今、腹の虫の居所が悪い。

 

「それじゃあ、私が一方的に被害を被って、ポロッカに大した被害はない。あなたたちの飛行船でしょう?自分たちが先頭にたって行うべきことじゃないかしら?」

 

 ユーリアは、極力感情の抑揚を金属ケースにしまっていう。

 

「私の用心棒は犠牲にしておいて、ポロッカに被害はない。自分たちが原因でこの事態を招いておきながら、ちょっと他人事じゃない?」

 

「そんなことはない!」

 

「そうです」

 

 そうと言われても、事態はそのようになるのが容易に想像できる。

 ハルカたちから連絡はこないし、ポロッカが自分たちの飛行船を取り戻すのにあまり協力的でない。

「ユーリア議員」

 護衛隊隊長が息を切らしながら入ってきた。

「何事?」

「トドロキから通信が、入っているそうで」

 ユーリアは即座に立ち、隊長たちに案内されて議会に入った。

 

『こちら飛行船トドロキ。ガドール評議会の方々、聞こえておりますかな?』

 

 議会に設置された無線機から声が響く。

「こちらガドール評議会議長。飛行船トドロキ、諸君たちは何者か」

『われわれは、空賊です』

 皆が顔を見合わせる。

 ユーリアは、先日のハリマでの件を思い出す。

 空賊が、わざわざ空賊などと名乗ることはない。

 それに、ユーリアはこの声に聞き覚えがあった。

 ガドールをおわれ、ラハマに身を寄せたときに来た、イサオの使者を名乗っていた、あの男。

「では空賊に問う。貴様らの目的は?」

『ガドールへの報復です』

 議会の中がざわつく。

「われわれは、空賊に報復されるようなことをした覚えはない」

 

『ありますとも。評議会議員でありながら、密かに空賊とつながりを持った議員がいるのは、周知の事実でしょう。散々利用してくれたのに、用済みになったらポイ捨て。そんなの納得できますか?』

 

「空賊が何を言うか。違法行為に手を染めておいて、そんなことをいう資格はない」

 

『違法行為なら、あなた方ガドール評議会もいい勝負ではないでしょうか?空賊を利用して町や競合相手を襲わせたり、汚職、賄賂、上げだしたらきりがありません』

 

 議会に緊張が走る。

 

『かつては、空賊を利用して利益を得ていたのに、今検討されているガドール議定書。それでは、我々と関係を断つことが書かれておりますね?散々利用して利益を得ておきながら、もう自分たちは関係を断った潔白な議員ですと。……ちょっと虫が良すぎませんかね?』

 

 この声の主の顔はわかるし、空賊でないこともわかるが、言っていることは間違っていない。

 ガドール評議会は、汚職や賄賂が横行し、空賊やマフィアとつながっているなど、上げだしたらだれもいなくなるほどスキャンダルにあふれている。

 それで議会が円滑に進めばと思っていたが、実際はそうはいっていない。

 現在検討されているガドール議定書にしても、あくまで検討段階のものだ。

 空賊との関係を断つと言われれば聞こえはいいが、確かに利用された側からすれば虫がいいと言われれば否定はできない。

 

『そういうことをおっしゃるなら、こちらにも考えがあります。このトドロキで、ガドールを攻撃します』

 

 評議員の皆が唖然とした。

 

『このトドロキには、ガドールを殲滅できるだけの爆弾が積載してあります。さきのイケスカ動乱の際は無事でしたが、今度はガドールが火の海になる番ですね』

 

「……そんな脅しに乗ると思ったか!飛行船など、ガドール上空に来る前に撃墜してしまえばいいだけだ!」

 

 ゴドロウは何か言いたそうだが、いざとなれば評議会は無視してトドロキを撃墜するだろう。

『……ふむ。まあ、確かに普通の飛行船なら、それでいいでしょう』

「……なんだと」

『このトドロキには、長い距離を飛翔できる爆弾が搭載されております。ガドール上空まで行かなくとも、攻撃は可能です』

 皆に緊張が走った。

 ポロッカは、無人の桜花のような新兵器を実用化したのか?それとも、この自称空賊たちが取り付けたのか。

 いずれにしても、イヅルマやハリマでその脅威を目の当たりにしてきたユーリアは、事は穏やかではないことがわかる。

 あれらが一斉に放たれてガドールに着弾すれば、ただでは済まない。

 

『ですが、私たちも鬼ではありません。ガドールが一定の援助をしてくれるというのなら、攻撃はやめます。どうですか?町全体が危険にさらされるより、安いものでしょう?』

 

 評議員たちは顔を見合わせる。

 取引に応じれば、町は助かる。

 だが、それは空賊に屈したということに他ならない。

 

「我々は、空賊と取引はしない。貴様たちは撃墜する」

 

 議長は言い切った。

 

『そうですか?ところで、ユーリア議員はおりますか?』

 

 議長が目配せをし、ユーリアは無線を手に取った。

「私がユーリアだけど、空賊さん」

『あなたに確認したいことがありましてね』

「……何?」

 

『このままトドロキを撃墜するなら、あなたの自慢の、蒼い翼の用心棒も一緒に死ぬことになりますが、よろしいのでしょうか?』

 

 ユーリアは体が硬直した。

 ハルカたちは、制圧に失敗したのだ。

「……それは」

「たかが用心棒1人と、町そのものと住民。評議会議員として、どちらを選ばなければならないかは明白だ」

 議長が代わりに応える。

 

『そうですか?ユーリア議員、ならばこの用心棒、私たちがもらい受けてもよろしいでしょうか?』

 

 議会はわずかにざわついた。

 あの悪魔が、空賊の手に渡ればどうなるかは明白だ。

 

『この用心棒、空戦以外にも使い道がありそうなので、ねえ』

 

 だが、ユーリアにはそれ以上の懸念があった。

 なぜ、たかが空賊がハルカを欲しがる。

 彼女が戦力になれば、大きな脅威になる。

 でも、彼らは言った。

 

―――空戦以外にも。

 

 ただの空賊が、ポロッカの最新飛行船を盗み出すなどできないし、何より意味がない。

なら、彼らの目的がガドールを攻撃することにあるのだとしたら。

 間違いなく、この声の主たちは空賊ではなくイケスカの一味だ。

 この声の主も、イケスカの過激派の一員。それは確実だ。

 そして彼らは、彼女の価値に気付いている可能性がある。

 

―――どこから。

 

 ハルカが遺産の情報を持っていると知っているのは、彼女の母方の家系、ホナミにカスガ議長、シズネ市長。

 ナガヤの市長クラマ氏に、ナガヤ飛行機のナオト工場長とカガミ社長。

 加えて、自分にルゥルゥ、護衛隊の隊長に弟、コトブキ飛行隊のレオナ隊長とケイト。

 これだけだ。

 情報管理には気を付けるようにと言われた以上、ここから情報が漏洩したとは考えにくい。

 

 いや、思い返せば、イケスカだけは知っていた可能性はある。

 

 それが、彼女の祖父のタカヒト氏だ。

 彼がイケスカにかつていたことがある以上、唯一生存している孫であるハルカを可能性として考えるのは自然だ。

 まして、彼女は未知の遺産の使われた現場にいずれも居たし、いずれも事態の鎮圧に成功している。

 その状況から、彼らは彼女が遺産の情報を持っている可能性があることを悟ったのかもしれない。

 それだけでは根拠として弱い気もするが、今はこの状況をどうするかだ。

 だが、議長のいうように、1人の用心棒のために、町全体を危険にさらすことはできない。

 それに、取引に応じたとしても彼女を返す保障はない。

 ここで彼女が遺産の情報を持っていることを言えば、評議会は奪回に動くかもしれないが、それではそのあとが問題になる。

 唯一の可能性は、彼女たちが自力で脱出してくること。

 

―――用心棒は、本質的に使い捨ての人材ですから。

 

 いつか彼女が言った言葉が脳裏をよぎる。

 

『せっかくですので、彼女と少し話をしてはどうですかな?』

 

 

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