今回は作中に登場したキ109になります。
照明の落とされた羽衣丸の船内を、コトブキ飛行隊のキリエ、チカは静かに歩き、目的地である格納庫へと足を踏み入れる。
そのとき、格納庫内の明かりが一斉に点灯し、一角を明るく照らした。
そこにいたのは……。
「おう、てめえら!さぼらずよく来たな!」
この場に2人を呼び出した張本人、ナツオ整備班長はそばに置いた黒板を拳で殴りながら言い放った。
「それじゃあ、ナツオ整備班長の戦闘機解説講座、開講だああああ!」
ナツオ整備班長の戦闘機解説講座。その名の通り、ナツオ整備班長が戦闘機、もとい飛行機について懇切丁寧に解説してくれる講座である。
「じゃあ、飛行機乗りのくせに、飛行機のことをなんにも知らないお前たちのために、この私が特別に教育してやる!ありがたく思え!」
「「は~い」」
「おほん。じゃあ今回は、特殊防空戦闘機、キ109だ」
「トドロキ破壊するのに使った機体だね」
「そうだ。ナガヤからの借り物で、爆撃機を迎え撃つために作られた機体の1つだ」
「というかさ、何、この機首から延びている細長い棒?」
「カッコ悪う」
「バッカモーン!キ109はな、この砲を積むために作られたんだぞ!」
「あ、そうなの?」
「おほん。このキ109が機首に積んでいる砲は、75mm砲だ」
「75mm!?」
「でかくない!?」
「そうだろ!威力も射程も抜群だ!」
「でもさ、空戦の最中、そんなもの当たるの?」
「屠龍の37mm砲でも疑問符がつくのにね……」
キリエとチカは、この機体だめなのでは、という空気をすでに感じ取っている。
「この機体はさっきも言ったように、高空を飛んでくる爆撃機を撃ち落とすために、ユーハングが実用化した機体だ」
「なんでこんな砲積むことにしたの?20mm機銃とかでいいじゃん」
「それには、ちゃんとした理由がある。まず、キ109を作ったのは、ユーハングの陸軍の方だ。構想が始まった当時、ユーハングは敵国の爆撃機に手を焼いていた」
「隼や零戦じゃだめなの?零戦なら20mmあるじゃん」
「屠龍の37mm機関砲とかさ」
「まあ、これまでの話で爆撃機が出てくるときは、大抵ハルカが零戦の20mmで迎え撃っているから、そういいたいのはわかる。だが、彼女が爆撃機に向かっていくとき、敵機は大抵何している。黙って落とされているか?」
「えっと、機銃撃ってくるよね」
「そうだな。じゃあ彼女は、なんで機銃が撃ってくる距離まで近づくんだ?」
「えっと……、近くでないと当たらないから?」
「まあ、そういうことだ。零戦の20mm機銃は、弾道の直進性がいい方じゃなく、弾がばらける。翼の剛性の問題もあるが、翼の剛性がある雷電にせよ、紫電にせよ、20mm機銃を当てるにはある程度近づく必要がある」
「でもそうすると、敵爆撃機が機銃を撃ってくる」
「そういうことだ。一方、ユーハングが戦っていた敵さんの使ってきた12.7mm機銃は、弾道の直進性がよく、初速も早く、貫通力も20mm機銃に負けなかった。だから敵爆撃機を迎え撃つ際には、機銃に苦しめられることもあった。それで、当初は機銃弾の直進性を改善しようとしたんだが、すぐに実現するのは無理だって断られてな……」
「そうなの……」
「敵さんの爆撃機による脅威に頭を悩ませている中、改良や新規開発なんて時間はない。それ以外にも問題はある。敵爆撃機の性能向上で、防弾性能も上がり、12.7mmはおろか、いかに20mm機銃でも撃墜が難しくなった」
「じゃあ、37mmがあるじゃん?」
「屠龍が37mm機関砲を積んでいたのは確かだが、屠龍が高高度まで上がるには、必要ない装備をすべて外して機体を軽くする必要があった。それでも、ユーハング機っていうのは、大抵中低高度を想定して作られていて、高高度は苦手だった。だから、上がれたとしても再上昇して再攻撃することは難しいと考えられた。だから、少ない機会に大火力を集中して、叩き落すことが考えられた」
「まあ、そうなるよね」
「でも、少ない攻撃機会も、弾道の直進性が悪くて失敗したら目も当てられない。でも接近するのは大きな危険を伴う。そこで行きついたのは、大火力で直進性がいい砲を積んで叩き落すという考えだった」
「そんな都合のいい砲があったの?」
「あったんだな、これが」
ナツオは、黒板に写真を張り付けた。
「それで搭載が考えられたのが、この八八式七糎野戦高射砲だ」
「野戦、高射砲?」
「航空機関砲とかじゃないの?」
「航空機関砲にいいものがなくてな。それで、当時陸上部隊で使われていた、この対空高射砲が選ばれた。この砲は、敵航空機を迎え撃つ高射砲の中では、割と小口径だが高初速で直進性が高く、1000~2000m離れていても、弾道はほぼ直進を描く。これなら、敵爆撃機の機銃の防御圏外から狙うことができる」
「それで75mm砲を積もうってことになったの?」
「そういうことだ。今手に入る砲の中で、威力があって、直進性もいい。これを積もうってことになったわけだ」
「でも、これ陸上で使う砲でしょう?」
「もちろん、すんなり搭載とはいかない。この陸上で使われていた砲なんだが、重さは砲身だけでも500kg近く。空虚状態の隼が大体1.5トンくらいだから、いかに重いかがわかる」
「そんな重たいの……」
「こんな重たい砲を積む上に、陸の上なら問題なかったが、飛行機の上で撃ってどうやって反動を吸収するかが問題になった。反動は実に4トンだ」
「……そんな砲を積んで撃てる飛行機なんて、あるの?」
「あった」
「「どこに!?」」
キリエとチカが、驚愕の表情を浮かべる。
「それで選ばれたのが、大東亜決戦機と呼ばれた2機のうちの1機。四式重爆撃機の飛龍だ」
「あ、この機体って飛龍をもとに作っていたの?」
「言われてみれば、なんとなく、似ているよね」
「まあ、飛龍は重爆撃機として作られたからな。予想外だったかもしれない。だが、機体強度には余裕があり、速度は零戦と変わらない550km/h、急降下ができる堅牢な作りで、爆弾を積まなければ曲芸飛行ができるくらい運動性がいい」
「あのさ、これって……」
「本当に、爆撃機なの?」
「爆撃機だ。ちなみにいうと、当初キ109に75mm砲の搭載は予定されてなかった」
「え!そうなの!?」
「当初は、飛龍に改造を施し、37mm機銃を搭載したキ109甲と、照射灯を搭載したキ109乙の二機種を作る予定だったんだ」
「2機もつくって何やるの?」
「このキ109甲は、胴体に斜銃を搭載し、月光のように爆撃機を下方から直接攻撃する機体。一方、乙型は照射灯に地上電波標定機を搭載して、敵爆撃機の索敵を行う。夜間に行動し、この2機種が連携することで、爆撃機を迎え撃とうとしたわけだ」
「なるほど」
「だが、敵さんの新型爆撃機の情報を掴んだユーハングが、37mm機関砲では威力が不十分なのではないかと言い始めた。それに、高高度に弱い機体が多いから、チャンスは少ない。少ないチャンスを確実にものにする必要があるけど、普通の機銃じゃ直進性が悪いし敵の機銃に撃たれるかもしれない」
「それで、威力が抜群で、機銃の射程外から撃てて、直進性がいい、75mm砲を積もうってなったわけ?」
「そういうことだ。そんで、爆撃機のままだと余分な装備があるから、高射砲も合わせて改造が行われることになった。副操縦席や爆弾倉の撤去、機首のガラス張りをやめ、改造した75mm砲を搭載して通常の機首のように改造された」
「これが今のキ109の姿なんだね」
「ああ。そんで試験を行うことになったんだが、いきなり飛行中にこんな砲ぶっ放して空中分解でもされたらこまるから、まずは地上で機体を固定して発射試験が行われた」
「それでうまくいったの?」
「風防が粉々になった」
「ダメじゃん!」
「でもまあ機体に異常はなかったから、かねがね成功とされた。後に反動軽減のために、75mm砲周りに、反動を軽減するためにゴムを使うなど改造が施され、空中発射試験も問題なく行われた」
「空中でどうやって試験したのさ」
「隼に吹き流しをとりつけ、吹き流しを75mm砲で撃つという試験だ!」
「ウソ!」
「もし当たったら隼粉々じゃん!?」
「まあ、パイロットは生きた心地がしなかっただろうな……。まあこうして無事に試験も終わり、なんとか使えそうな段階にまで機体は完成した」
「で、活躍したのの?」
「実は試験飛行中に、敵さんの爆撃機に遭遇していてな」
「おお!」
「で、どうなったの!?」
キリエとチカは期待に満ち溢れている目をしているが、ナツオはため息を吐き出した。
「爆撃機に挑みかかっていた。だが、期待されたほどの戦果は挙げられなかった」
「なんで!?」
「確かに飛行性能はよかった飛龍なんだが、そもそも飛龍の高高度性能はあまり良く無くてな……。それに75mm砲なんて重いものに砲弾まで積んで重くなった上に、高高度では空気が薄く、エンジンの吸気が安定しないせいで速度が下がってしまう」
「ダメな子だった!」
「まあ、局地戦闘機の雷電でも追いつくのに苦労するのに、キ109程度の速度では追いつけない。高高度での速度低下を防ぐために、排気タービンを搭載したエンジンの搭載が急がれたんだが、実用化が遅れていて、結局高高度を飛んで飛来する爆撃機を迎え撃つには不適当と判断された」
「え~」
「それじゃ75mm砲積んでも意味ないじゃん!」
「ま、そうなんだが。こんなキ109でも、地上目標や海の上を進む船を攻撃するには都合がよくてな。そっちへ使おうって話になった」
「高高度はだめでも、地上目標や船が相手なら効果絶大ってわけか」
「そういうこと。結局、そっち方面に使おうって話になって、来るべきときまで温存され、そして終戦を迎えた」
「ダメじゃん!」
「でもまあ、海の上の哨戒とか船の護衛には実際使われた。別の目的で生かされただけ、兵器としては幸せな方だろう。消えるものが多いしな」
「そう考えれば、……そうだね」
「爆撃機相手には、高高度性能も速度も不足していた。まあ、今回の話では、相手が速度の遅い飛行船だったし、的もでかかったからちょうどいいってことで、使ったわけだ。75mm砲の破壊力もいかんなく発揮できたしな。イジツでは活躍できたってこった」
「というか、ハルカずるいよ!自分だけこんな機体のってさ!」
「彼女がナガヤでテストパイロットをしているから、まあそこは仕方ないさ。ちなみに、他にもいくつかの試作機を並行して開発・試験しているみたいだから、またほかの機体が、今後登場するかもな」
「ナガヤにとって、富岳の襲来はそれだけ衝撃だったんだね」
「まあ、あんな爆撃機を相手にすることは、イケスカの力が落ちている今、少ないかもしれないが、対抗手段は用意しておくべきってことで、作っているらしい」
「じゃあ、私たちも!」
「ラハマのどこにそんな金がある?ポロッカみたいな大きな町だから、抑止力としてトドロキを用意しようとしたし、ナガヤは工業都市かつ、ハルカに彼女の爺さんの協力があってキ109やほかの機体が用意できるんだ。技術と金、そして人材。それがないとこういったことはできない。ラハマには、そういったものが少ない。少なくとも、ラハマはナガヤと関係持っているから、それでいいんだよ。守り神の雷電もあるしな」
「ぶ~。新しい機体乗れるチャンスだと思ったのに!」
「隼愛はどこに行った……?」
「キリエの浮気もの!」
「だって、私たちいつも隼じゃん!?だったら時々違う機体乗ってみたいって思うの,自然じゃない?」
「まだキリエは屠龍に本編で乗ったことあるだろう?」
「あれは操縦席じゃなくて後席の機銃の方だったもん!レオナが一緒だったから仕方ないし」
「まあ、お前たちが他の機体に乗るのは、ちょっとやめといたほうがいいな」
「「なんでさ!」」
「だって、な……」
ふと、ナツオ班長は笑顔を浮かべてはいるものの、背後からまがまがしい殺気が放たれる。
「いくらナガヤと関係もって、隼の部品が安定して手に入るようになったからって、その分被弾していいわけじゃねんだぞ!」
「「ひぃ!」」
「安定して手に入るようになっても、その分被弾していたら部品の減りがおおくてかなわねえんだよ!この間は、レオナとザラの隼借りて出撃した挙句、大穴開けて帰ってきやがって!」
「「ごめんなさい!」」
「口先だけの謝罪なんざ聞きたくねえ!申し訳ない気持ちがあるなら、この講座を聞いて、少しは勉強して、被弾を減らして整備班の負担軽減に貢献しろ!」
「「はい!」」
「よし、今日の解説はここまでだ。次回があったら、よろしくな!」
「「は~い」」
キ109の簡単な解説になりました。
特殊防空戦闘機という名前や、75mm砲という巨砲を積んでいることから
どことなく惹かれるものがあるキ109ですが、速度や高高度性能で
爆撃機迎撃には向かず、温存されたら終戦に……。
まだ船の護衛や哨戒に使われたり、実際爆撃機と遭遇したことがある
だけマシかもしれません。