荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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孤児院に急いで戻るレオナたち。孤児院へと戻ると、見覚え
のある男性が院長先生と言い合いをしていた。




後日談 第2話 再びやってきた男

「ですから、ここの管理者はオウニ商会で」

 孤児院に引き返したレオナたちは、院長先生が誰かと言い合っている様子を目にする。

 相手を見て、彼女たちは目を見開いた。

「あいつは……」

「なら、オウニ商会に連絡をとってもらえませんか?今が売り時だと」

 院長先生の前にいたのは、いつだったかこの土地から立ち退き迫ってきた地上げ屋の男。名前をクマギリというが、どうでもいいからとレオナたちは名前を覚えていない。

 彼の後ろには、銃をもった用心棒らしき男たちが見える。

「院長先生!」

 戻ってきた彼女たちを見て、院長先生は胸をなでおろす。

「おやおや、久しぶりですな」

 男性は、余裕の笑みを浮かべながら視線を向ける。

「以前来た地上げ屋だな。もう来るなと言ったはずだが?」

「こちらも仕事なんですよ。それに私はあくまで、譲ってください、と言っているのです。無論タダとは言いませんよ」

「この土地はオウニ商会が買い取った。交渉ならマダムに頼むことだな。応じるわけないが」

 ふと男性は笑みを浮かべつつ、右手をあげた。

 すると、背後に控えていた男性2人が拳銃を抜き、構えた。

「きゃあああああああ!」

 子供たちが一斉に悲鳴をあげる。レオナは、そばにいたミユリを後ろへ隠した。

「何の真似だ!」

「……負けたままで引き下がるのはしゃくでしてね」

 上空に聞きなれた爆音が響く。

 孤児院の上空に、銀色の機体に同じ塗装を施された四式戦闘機疾風が現れた。全部で、6機確認できる。

「さあ、穏便に交渉をしようじゃありませんか?」

 地上げ屋は、遂に手段を選ばなくなっていた。

「だから、交渉はマダムに……」

「ええ。ですから、あなた方からマダムへ、土地を譲るよう説得してください」

 地上げ屋の男性は口端を吊り上げる。

「でないと、わかりますね?」

 マダムと正面からの交渉では勝ち目がないとふんでか、地上げ屋の男性は孤児院の人間を脅すことで、マダムを動かそうと考えたようだ。

 

 

―――どうする?

 

 

 レオナは周囲を見る。地上げ屋の男だけなら問題ないが、武装した用心棒らしき男たちが2人一緒にいる。上空には疾風が6機。

 まずは上空の疾風をなんとかする必要があるが、ここから羽衣丸のところまで無事にたどり着ける可能性は低い。

 それにもし、下手に動いて疾風が地上を機銃掃射してきたら、子供たちが危ない。

 この事態を察知して自警団が発進してきても、97戦で疾風の相手は無理だ。

 こんな時に運悪く、コトブキのキリエたち残り4人は別件で出払っている。

 

 

―――打つ手なし、か……。

 

 

「レオナさん……」

 ユーカは、レオナに目配せをする。

「な、なんとか、隼の所まで……」

 以前地上げ屋が来たとき、ユーカは孤児院にあった97戦で、エリカは赤とんぼで空賊に戦いを挑んだ。今度も同じことをやろうとしているのだろう。

 当時は無許可で危険なことをやったからと、ユーカと手を貸したエリカの2人に対し、院長先生と2人で説教をした後、反省するまでトレーニングをかした。

「……ダメだ。時間がかかる」

 今彼女たちは、ハルカゼ飛行隊の隼3型に乗っている。97戦や赤とんぼとは比べるべくもない強力な機体。しかし、それでも彼女たちの腕で疾風6機の相手は無謀だ。

「じゃあ、ベルなら……」

「……相手は武装している」

 いくら怪力のベルでも、武装した男性を相手にするのは危険が大きい。

「でも……」

 レオナは首を左右に振る。

「今君たちは、ガデン商会のパイロットだろう?社長の許可なしに事を起こせば、どうなる?」

 雇われ飛行隊が、雇い主である社長に無断で事を起こせば、ただでは済まない。

 レオナは地上げ屋に向きなおった。

 今とれる選択肢は、これしかない。

「……わかった。マダムに連絡をとる。少し時間をもらえるか?」

「ええ、勿論」

 地上げ屋の口端が吊り上がる。

「……院長先生、電話をお借りします」

 レオナはその場を離れ、建物へ向かう。

 

 

 部屋に入ると彼女は電話をとり、マダムのいるオウニ商会の社長室の番号にダイヤルを回す。

『もしもし』

 間もなく、マダムが電話口に出た。

「マダム、レオナです。その……」

 レオナはそれまでの成り行きをかいつまんで話す。

『ふうん、あの地上げ屋もしつこいわね』

「ですが、キリエたちは出払っていて……。それに自警団の戦力では……」

 キリエたちがおらず、自警団の戦力では勝ち目が薄い。

 そんな状況でも、マダムなら何か手を考えてくれるのではないか。

 すがるような思いで電話をかけたが、マダムはしばし沈黙する。

 彼女が何を考えているのか、レオナはわからなかった。

『わかったわ』

「何を、ですか?」

 彼女は胸騒ぎがした。

 

『交渉に応じるわ』

 

 レオナは言葉を失った。彼女の予想に反し、マダムは交渉に応じるといった。それは、孤児院の土地を渡す、ミユリたちの居場所が無くなることを意味する。

「ま、まってください!」

『すぐに向かうわ』

 レオナは電話に向かって叫ぶ。

「マダム!待ってください!交渉に応じたら、みんなの居場所が!」

『レオナ』

 妙に弾んだ声で、マダムは言った。

『みんなを、危ない連中から遠ざけておいてちょうだいね』

 それだけを言って、一方的に電話は切られた。

 レオナは静かに受話器を戻すと、弱々しい足取りでもどっていく。

「で、連絡はつきましたか?」

「……ああ、もうすぐ来る。交渉に応じるそうだ」

 地上げ屋は笑みを浮かべ、院長先生や子供たちは表情が引きつった。

 

 

 

 それからほどなく、いつもの真紅のドレスに身を包んだマダムが、キセル片手に現れた。

「お待たせしたわね」

 いつもの、余裕たっぷりの表情で。

「お待ちしておりましたよ、マダム・ルゥルゥ」

 地上げ屋の男はマダムに向きなおり、勝ち誇った笑みを浮かべる。

「それで、この土地を譲っていただけると?」

 マダムの言葉を、皆は固唾をのんで見守る。彼女が口を開いた。

「あら?誰が譲るといったのかしら?」

 地上げ屋は拍子抜けした表情に変わる。

「何をおっしゃるんですか?交渉に応じてくださるということは、譲るという意味では?」

 マダムの顔には、いつもの余裕の笑みが浮かべられている。

 何か策があるのだろう。

「誤解してらっしゃるようですね。あくまで私は、交渉に応じる、といっただけで、譲るとは一言も言っておりませんわ」

 地上げ屋は歯をかみしめ、叫んだ。

「この状況が見えないのですか!コトブキが出払っているのはわかっている!自警団の機体で、疾風に勝てるわけもない!なんなら、あの子たちに説得してもらいましょうか?」

 男はそばにいるものに合図し、銃口を子供たちに向けさせた。

 レオナは悲鳴を上げる子供たちの手を引き、建物まで下げさせた。

「あなた、見落としているわ」

「……何をですか?」

 ルゥルゥは笑みを崩さない。

 

 

「私の手札が、コトブキだけ(・・)だと、思っている所」

 

 

「……何を言って」

 その時だった。

 突如爆発音が上空で響き、1機の疾風が火を噴きながら荒野へ墜落していく。

「なっ!なんだ!」

 次いで上空で機銃が奏でる銃撃音が木霊する。突如現れた1機の灰色の戦闘機が、疾風に襲い掛かっていく。

 想定外の奇襲に、疾風のパイロットたちは混乱し対応が遅れ、次々落とされていく。

「あれは……、零戦ですか?」

 ユーカの視線の先には、疾風を追い回している1機の零戦が見える。零戦は小回りの良さをいかし、疾風の後方や側面に回り込み、3丁の機銃を一斉に放って落としていく。

 その動きと強さに、ハルカゼのメンバーは目を奪われている。

「……あれは!?」

 上空を見上げたレオナは目を見開いた。

 その零戦は、全体が灰色で塗装されている中、翼は青色で塗られ、尾翼には空を翔ける稲妻のような模様が描かれている。

 その上、多勢に無勢の状況下でも引くことなく挑んでいく姿勢。

 レオナの知る限り、そんなパイロットは1人しかいない。

「ええい!零戦1機に何をてこずっている!さっさと落とせ!」

 逆に、疾風たちが落とされていく一方だった。わざわざ零戦の背後をとろうと旋回戦を挑むが、結局勝てずに落とされていく。

 最後の1機が零戦を引き離そうと機首を下げ急降下に入る。零戦もあとを追って急降下。みるみる地表が迫るにつれ、2機は速度を増していく。

 速度計の針が、次第に零戦の制限速度に近づく。並みの零戦乗りならもう機首を上げるが、その零戦は上昇するどころか疾風の後ろから離れない。

 零戦を相手にするなら、この対処法で間違いではない。零戦の急降下の制限速度では、疾風に追いつくことはできない。だが、このとき疾風は孤児院の関係者を脅すために、低空を飛行していた。

 そんな高度から降下したところで、下げられる高度も、得られる速度もしれている。

 加えて、相手はよく見かける零戦21型や52型ではなく、急降下速度を上げた52型丙。

 降下する疾風に、ある程度までなら食らいついていける。

 地表が迫り、先に水平飛行に戻ったのは疾風だった。疾風と、そのあとを追う零戦が孤児院の建物の真上を猛スピードで通過していき、一瞬砂が舞い上がった。

 町の上空を抜けた瞬間、零戦の機銃が咆哮を上げ、疾風の主翼や胴体を撃ち抜いた。

 瞬く間に、6機いた疾風全機が荒野へと消えていった。

 

 

 

「騒がしくして申し訳なかったわね。空を舞うハエがやかましいから、掃除させたの」

「くそ、なんでこんな」

 地上げ屋が上空を見ると、彼は目を見開いた。

「蒼い翼の零戦……、なぜ悪魔がここにいる!?」

「あら、ご存知ありませんでした?」

 ルゥルゥは余裕の笑みを浮かべながら、少し楽しそうに言う。

「あの子、今は、私の用心棒もしてくれているの」

「なん、だと!?」

 間もなく、ルゥルゥの背後に武装した自警団がやってきた。

「さて地上げ屋さん、交渉を始めましょうか?」

 余裕の笑みを浮かべるルゥルゥに対し、地上げ屋の男性は顔が引きつり始めていた。

「要件は、この土地を譲るかどうか、でしたね?」

 地上げ屋は僅かに頭を縦に振って頷く。

 

 

「お断りしますわ」

 

 

 彼女は表情を引き締め、言い放った。

「そして、もう来ないでくださいませんか?」

「ですが、こちらも仕事で……」

 土地を買い、工場を誘致する。イケスカ動乱以降、民間で飛行機需要が高まっている現在、土地を買う際の金額が高くても、少し時間をかければ十分な利益を出すことができる。そう地上げ屋はふんでいた。

 ルゥルゥは上空を見上げる。

「素直に引いて下さらないかしら?それとも、あの用心棒がお相手しましょうか?」

「ぐぬぬ……」

 上空を飛んでいた6機の疾風は荒野に消え、1機の零戦が優雅に周回飛行を行っている。

 彼もあの零戦の噂は耳にしていた。また部下をよんでも、結果は明白だった。

 そこに人込みをかき分け、ラハマの町長が現れた。

「町長さん!ここら一帯の土地を譲ってくだされば、工場を誘致できます。そうすれば飛行機需要が高まる中、確実に町にうるおいをもたらします!」

 ついには町長を説得しようとする。

 土地に不自由しないイジツでも、工場を作るにはどの土地でもいいわけではなかった。工場で働くのは無論人間。彼らの生活の場が必要になるため、荒野のど真ん中には作れず、町の一角、多くは外れに建設されることが多い。

 そしてこの孤児院は、まさにラハマの外れにある。管理しているのはオウニ商会。有名なコトブキ飛行隊を有する商会だが、コトブキが留守のとき、力で脅せば手放すだろうと踏んでいたが、あてが外れた。

 小太りの町長は表情を引き締めていった。

「2度と来るんじゃない!この土地を、譲るつもりはない!」

「で、ですけど町長さん!」

「確かに、工場が誘致できれば、町は潤うかもしれない」

「そうですよ!お約束します!だから……」

「だが、そのうるおいが、行き場のない子供たちの犠牲の上に得るものなら、私は容認できない!」

「利益に犠牲はつきものです。なに、利益はこの子たちよりも……」

「子供たちは、町の将来そのものだ!彼らを守れない町に、未来はない!私は町長として、皆を守る義務がある!」

 かつての事なかれ主義が欠片もない口調で、町長は言い放った。額に少々汗が浮かんでいるが。

 子供たちの最期の居場所を犠牲に、まして地上げ屋の力に負けたとなれば、周辺の都市からは冷たい視線を向けられ、弱腰と知られればその噂を聞きつけ、空賊たちが来る可能性がある。

 ラハマは、自分の町は自分で守る、そう以前住民たちが決めた。その姿勢を、彼は今回も崩さなかった。

 地上げ屋は周囲を見る。以前と違い自警団がいる。かつて平和ボケしていたラハマとは、もう違っていた。

 手下より自警団の方が人数が多く、上空に展開させた疾風6機が落とされた今、もう彼に手札は残ってなかった。

「……帰るぞ」

 地上げ屋は部下に静かにそう言い放ち、去っていった。

 

 

 

「は、はああ~~~~~」

 地上げ屋の背中を見送った町長は緊張から解放されたせいか、その場に膝をついてしまった。

 町民たちは、悪質な地上げ屋に引かなかった町長に賞賛の声を送っているが、彼はそれどころではない様子だった。

「マダム」

 レオナはルゥルゥに駆け寄る。

「電話ではごめんなさいね。急ぐ必要があると思ったから……」

 聞けば、ルゥルゥはレオナとの電話の後、急いで自警団に状況を伝え人員の派遣を要請。そして偶然ラハマを訪れていた彼女に、疾風の撃墜を依頼したとのことだった。

「そういうことだったんですか」

「管理者である以上、見捨てるつもりはないわ」

「……そうですよね」

 思えば、マダムが簡単に屈するはずがない。ようやく頭が冷静になったレオナは、安堵のためか大きく息を吐き出した。

「でも、彼女がラハマを訪れていたのは運がよかったわ」

 上空を見上げれば、周回している零戦が時折主翼を振っている。孤児院の子供たちも、空に向かって手を振っている。

 ルゥルゥは無線機を取り出す。

「ありがとう。約束通り特別ボーナスを支給するから、着陸してちょうだい」

『え……。でも、ガドールにすぐ帰らないと……』

「ユーリアには私から言っておくから」

『いえ、その……。あの人約束の時間には厳しくて』

 折角敵機を落とした特別ボーナスが支給されるというのに、彼女はなぜかすぐにこの場を去りたがっている。

「そう?なら私の懐に直行?それとも、キリエの食費?あるいは、ザラの酒代にしようかしら?」

『そ、それは……』

「それに、さっき機銃の弾に燃料だって使ったでしょ?補給しないで帰り道は危ないわよ?」

『……わかりました』

 上空を周回していた零戦は、滑走路に向かって進路を変えた。

 そのとき、レオナは頭の中で、パズルのピースがハマったような気がした。

 

 

 ウミワシ通商に払ったみかじめ料

 その組織の名を語って返された大金

 目撃情報にあった、黒髪と白色のスカート

 

「ちょっと、レオナどこ行くの!?」

 ザラの声を無視し、彼女は走り出した。その後を、ザラにユーカたちは走って追いかけていった。

 

 

 

 ラハマの滑走路の脇にある格納庫を目指し、レオナは走る。

 間もなく目的地へ到着したとき、先ほど孤児院上空で空戦を繰り広げた零戦は整備員たちに押され、格納庫へ入る所だった。

 間もなく、後を追って走ってきザラが到着し、息を切らせながらユーカにエリカ、ベルも追いついた。

 マダムだけは車でやってきた。

「レオナ、どうしたの?」

 だがレオナは目的の人物が下りてくるのを待つことに頭が一杯らしく、反応しなかった。

「……一心不乱なんだから」

 ザラは苦笑をうかべる。

「……来た」

 格納庫へ収納が終わると、風防が開き、操縦者が下りてきた。

 

「ご苦労様、急な話で申し訳なかったわね」

 

「いえ、偶然用があって訪れていたので。それに、雇い主の意向なら従います」

 

 蒼い翼の零戦のパイロット、ハルカが下りてきた。

 

「はい、これ」

 ルゥルゥは彼女に少し厚めの、今回の報酬の入っている封筒を手渡した。

「ありがとうございます」

 封筒を受け取ると、彼女はすぐスカートのポケットにしまった。

 

「あの、ザラさん、あの方は?」

「さっき、疾風を落とした零戦のパイロットよ」

「滅茶苦茶強いじゃありませんか。ザラさんやレオナさんより年下みたいなのに……」

「蒼翼の悪魔って、聞いたことない?」

「確かタコ……、ウッズ社長が口にしていたような……」

「彼女の通り名よ。運び屋の間では、恐怖の対象だったの」

 

 ユーカとエリカ、ベルが唖然としているのを背後に、レオナは彼女に歩み寄っていく。

「ラハマに来ているなら、顔くらい出せばいいのに」

「いえ、すぐ終わる用事だったので……。それにコトブキの皆さんは忙しいだろうな、と」

「そんなに気兼ねするな。これからマダムが君を呼んで仕事をすることもあるのに」

「ま、まあ、そうですけど……」

「……それで」

 レオナはまぶたを半分ほど下げ、彼女をジトっと見つめる。

「何の用事で、ラハマに来ていたんだ?」

「えっと……」

 ハルカの目が一瞬、左右に揺れたのを、レオナは見逃さなかった。

 

「ちょっと、レイの部品を買いに……」

「ガドールの方が手に入りやすいんじゃないか?」

 とレオナが反論。

 

「ユーリア議員からの頼まれごとで……」

「あら?私なにも聞いてないけど?」

 マダムが即答。

 

「ちょっと、補給のために寄り道……」

「にしては、さっきとっとと帰ろうとしていたわよね?」

 ザラに否定される。

 

 彼女は嘘が余程下手なのか、言うことがことごとく疑われる。

 そんなに隠したい事情でもあるのか、3人は疑惑に満ち溢れた眼差しを向ける。

「……家族の最期の場所に、花を供えに……」

 途端に、レオナたちは表情を曇らせた。

 約半年前に、ラハマ近郊に輸送機が墜落した。その機体は彼女がかつて属していた空賊、ウミワシ通商の輸送機で、不要な人物を事故に見せかけて処分するために起こされた出来事。

 ハルカの残された家族も、一緒に。

 家族が最後を迎えた場所に花を手向ける。その自然な行動には、流石に誰も口を挟まなかった。

「……というわけで。花は供えてきましたので」

 彼女は、零戦の主翼付け根に足をかける。

「用事は終わりましたので、帰りますね~」

 レオナは咄嗟に地面を蹴って駆け出す。

「ちょ!」

 ハルカは突如後ろに引っ張られ、主翼から落ちないよう風防の枠を咄嗟につかんだ。

「い、いきなり何するんですか!」

 彼女は少し顔を赤くしながら叫んだ。見れば、レオナはハルカのスカートの裾を鷲掴みにしていた。

「レオナさん!離してください!」

 同性同士とはいえ、流石に羞恥を感じないわけではないのか、彼女は顔を僅かに赤く染めながらも、レオナの手をはがそうとする。

「ちょっと話がある。下りてきてくれないか」

 このときレオナの頭の中には、ある疑惑が浮かんでいた。それを確かめるためにも、彼女を逃がすわけにはいかない。

「いえ、でも私、帰らないと……」

 レオナは無言で手に力を込めた。離す気はない、そういう意味だ。

「ユーリアに連絡したけど、問題ないそうよ」

 いつの間にかマダムは電話片手に確認を取っていた。

「だ、そうだぞ」

 ここで無視できるわけもなく、彼女は地面に足を下ろした。

 

 

 

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