荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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評議会へ向かったユーリア議員。彼女には、雇った
用心棒の女性についての報告義務が課されていた。
日々何気ない日常を送りながらも監視を行っていた
ユーリアたち。その内容を議会に報告するユーリア
議員だが、次第にいら立ちがつのってくる。



第2話 ガドール評議会、通常運転

 

 評議会へ向かう道中、隊長が口を開いた。

「彼女のこと、気に入っているようですね」

 誰が、とは聞き返さなかった。

「そうね」

 ハルカがユーリアのもとに来てから、およそ一週間がたつ。

 彼女を雇うことに決めた原因は先日、彼女がかつて所属していた空賊、ウミワシ通商の飛行隊をラハマ上空で殲滅したことや、それ以前に幼馴染のルゥルゥが雇った凄腕飛行隊コトブキ飛行隊と、ラハマ自警団の総数の半数近くを単機で落とす様を見てからだった。

 あのとき、ユーリアは彼女の強さに魅了されると同時に、底知れぬ恐怖にかられた。

 単機で10機以上の敵に挑み、自身も甚大な被害を受けるも相手を殲滅。

 あろうことか、ルゥルゥ自慢のコトブキ飛行隊の半数を撃墜した、蒼翼の悪魔と呼ばれるパイロット。

 

 彼女を敵にしてはいけない。そう直観した。

 

 敵にするぐらいなら、お金を払ってでも味方に引き入れたほうがいい。そう、あの場にいた誰もが考えた。

 そうやって、ハリマのホナミ議員、オウニ商会のルゥルゥと一種の協定を結び、彼女を共有することになった。

 

 生活の拠点をガドールにおくことになったものの、空戦での腕前はよくても彼女は他に何ができるのか、ユーリアは当然ながら知らなかった。

 そこで、飛行機の整備や事務仕事、秘書等色んな仕事を試しにしてもらったら、どれも普通にこなしてくれた。

 また、イジツの飛行機乗りというのは、喧嘩っ早かったり、頭に血がのぼりやすい、気性が荒い等ゴロツキのようなパイロットが多い。

 そんな中彼女は元来温和な性格なのか、議会のクソ連中と接した後ここに帰ってくると温かく出迎えてくれるし、時折浮かべる笑みが微笑ましい。

 悪魔などというおどろおどろしいあだ名がついていても、彼女も年相応なのだな、とある意味でユーリアは安心した。

 

 護衛隊や整備員たちに彼女を紹介したとき、ユーリア議員のお子さんですか、と言われたのは甚だ遺憾であるが。

 

「あの子が空賊やっていたなんて、いまだに信じがたいわね」

「議員のお言葉を疑うわけではありませんが、正直、私も信じられません」

 コトブキ飛行隊のキリエが、ハルカを自警団から庇ったと聞いた。確かに、空賊と言われると荒くれ者たちを連想するから、そのイメージとは一致しない彼女を空賊だとすぐ認識できるのは、元空賊か空賊嫌いくらいなものだろう。

 なので、キリエがそういう行動に出たのも、仕方ないと思えなくもない。

「でも、残念ながら事実なのよね」

 ユーリアはハルカから、空賊行為に加担したいきさつを聞いている。褒められたことではないが、身内を無くし生きるためと言われてしまえば全否定はできない。

 

 野垂れ死ぬか、略奪してでも生きるかと問われれば、どちらを選ぶかは明らかだ。

 それに彼女が身内をなくした原因の一端は、今を生きる大人たちにもある。

 

 彼女が身内の多くを無くした、リノウチ大空戦。

 

 ユーハングの残した遺産をどう使うか考えず、奪い合った結果起こったイジツ史上最大の空戦。

 多大な犠牲を払ったあの戦いが、彼女の運命の歯車を狂わせてしまった。

 彼女に限らず、多くの者たちの運命も。

「……そうですか」

「そして、彼女のような例が、今後生まれないとも限らない」

「そのために、議会で法整備を急ぐのですね」

「年寄り連中が理解してくれれば、ね」

 かつて自由博愛連合の会長イサオは、ユーハングの遺産をもたらした穴を独占しようとした。その目論見は阻止できたが、だからといって事態が好転したわけでもない。

 ユーハングの遺産をどう活用していくか、結局結論は出ないままなのだから。

 でもせめて、奪い合わなくて済むように、皆の利益になるように、横のつながりを強化し、皆で生き抜ける体制を作る必要がある。

 

 まずは、生きなければならない。

 その上で、改めて皆で決めればいい。 

 

 それには、最初にガドール評議会を説得できなければならない。

 かつて自由博愛連合に加盟したことで、ガドールはイケスカの味方だったと、加盟していなかった都市からの視線は冷ややかなものになっている。

 それでも、議会には未だ自由博愛連合の再興を望むものが多い。ユーリア派も増えたが、まだ少数にとどまっている。

「でも、どんなに難しくても、頑張らないと」

「彼女のため、ですか?」

 隊長は笑みを浮かべる。

「……それもあるわ」

 空賊離脱者支援法。その法案の意義を示すための実例として、彼女を経過観察の対象にしたために、処刑など過激なことを言う連中もなんとか黙り、過去の行いに対する処分は一時保留となった。

 だが結果が芳しくなければ、彼女は勿論ユーリアもただで済むわけはない。

 他にも、彼女が議会に提案している法案はいくつもある。

 でも、いずれも可決には至っていない。空賊離脱者支援法1つとっても、理解が得られておらず、提案したとき反乱分子みたいに彼女は扱われた。

 ハルカが足を洗った空賊として今後活躍してくれれば、風向きが変わるかもしれないが、かつてイサオの仲良しクラブに入って自治独立を放棄しようとした連中の多いガドール評議会。風向きを変えることは容易ではない。

 

 でも、やらなくてはいけない。

 

 共倒れの、滅亡の未来を迎えないために。

 

 彼女のような人々を、これ以上生まないためにも。

 

 間もなく評議会に到着し、ユーリアは車を降りた。

 

 

 

 

「ではユーリア議員、定期報告をたのむ」

 壇上にたつ、先ほど別れたばかりの評議会議長の指示に従い、彼女も壇上にあがる。

「では、一週間前に私の用心棒となった女性のことで、定期報告を始めます」

 正式な隊員と認められていないが、一応評議会護衛隊の一員であり、元空賊という経歴を持つハルカ。

 ユーリアは彼女について定期的に、議会に報告をすることが義務付けられることになった。

「まず皆さんが心配していた情報漏洩の件ですが、心配ありません」

 対面に並んで座る、年寄り議員たちが一斉に怪訝な顔をする。

「それは本当かね?彼女は以前ラハマに潜入し、町の戦力や建物の配置、対空機銃の位置まで把握し、それを空賊に伝えて襲撃したと聞いたが?」

 本当に空賊から足を洗ったのか、最初に議長は問う。

 彼女は以前、ラハマに潜入し内部の戦力などの情報を集め、襲撃作戦を行ったことがある。

「見落としていた、では済まされないのだぞ!」

 彼女よりも評議員の中に空賊やマフィアとつながっているものがいる方が、余程問題だがそれはとりあえず脇に置く。

「彼女には常に誰かがついています。事務所にいるときは私が、私が議会にいるときは護衛隊のものが必ず。いずれも、彼女は空賊に通じている様子はありませんでした」

 彼女には仕事を手伝わせる、という体でユーリアと護衛隊隊長たちによる監視が行われていた。

 評議会は町の方針の決定や法整備を行う場。知られてはいけない情報は多い。同時に汚職等外部に知られたくないことが山盛りである。

「持ち物検査はしたのか?ひそかに無線を隠し持っているとか、そんなことはないのか?」

「無線機を持ち歩いていれば、衣服の上からでもわかります。そもそも、どこに伝えるというのですか?」

 携帯用の無線機ですら、服の中に隠せる大きさではない。そんなものを持っていればすぐわかるし、そもそも同胞を撃った彼女に伝える先もない。

 

 先日彼女は、ラハマ上空で同胞だった空賊を、自身の手で殲滅したのだ。

 むしろ彼女は裏切り者として、空賊たちからは要注意人物、同胞殺しとしてお尋ね者になっている。つながる理由はもうない。

「彼女が外出しているときはどうする?」

「彼女が外出する先は図書館と決まっています。その際には、護衛隊の者か、あるいは図書館の職員に依頼しています」

 コトブキのキリエ達同様、年頃の女の子であるハルカだが、外出先はザラのような酒場でも、キリエがパンケーキを食べるように食べ歩きに出るわけでも、アンナやマリアが鞄や靴を買うように好きなものを買いにくわけでもなかった。

 彼女は仕事のないときは、町の図書館で調べものをしているらしい。

 閲覧していたものは、いずれもイジツの歴史や、空戦の教本、法律に関するものばかりだった。

 それがむしろ気がかりであるが、少なくとも空賊につながっていないのは間違いないだろう。

「そうか」

「議長、私から1つ、よろしいでしょうか?」

 議長に発言許可を求める。

「なにかね?」

 ユーリアは言った。

 

 

「彼女のことを疑う一方で、引き抜こうと勧誘を続けたり、結果の見えている対戦演習を申し込むのは、やめてもらえませんか?」

 

 

 議会内がざわついた。

「彼女が1人のときを狙って、正式な隊員とは認めないといったあなた方が、自分の護衛隊に引き抜こうと勧誘を続けるのはやめてください。節操のないことですね」

「評議会議員が、自分の隊の人員を、自分で探すのはおかしいことではない」

 ガドール評議会護衛隊は、議員1人につき戦闘機と人員の定数が設けられおり、それで不安な場合は個人的に用心棒を雇う議員だっている。

 また撃墜された場合や体調不良の際を考え、ある程度余剰人員を抱えるし、同じ職場でマンネリにならないよう、定期的に希望を調査してそれに基づいて配置換えを行う。

 だが、ユーリアの護衛隊はずっと人員が同じ状態が続いており、護衛隊の希望調査によると、ユーリア護衛隊だけは配属されたくない、という結果が出ている。

 その理由は意外なもので、彼女がよく対談で他都市にいくためだ。

 

 コトブキ飛行隊のような輸送船の用心棒と異なり、護衛隊は敵機を撃墜すれば手当がついて収入は増えるが、大きくは変わらない。むしろ、訓練に明け暮れる日々であっても、実戦ばかりの日であっても給料に劇的な変化はない。

 なので、護衛隊員は他都市へあまり行かない議員に集まる傾向にあった。ガドールにとどまる議員の護衛隊ならば、日々は訓練ばかり。

 町の防衛は自警団に任せればいいので、訓練飛行だけで給料がもらえる。

 そんな環境なのだから、すすんで空賊と戦いたいとでも思わない限りユーリアの護衛隊への配属は望まないのが普通になっている。

 そんな隊員が多いため、多くの議員は外遊の際には用心棒を独自に雇うことが多い。

 

「彼女はまだ正式な隊員と認めない、そういったのは議会のあなた方です。それに、彼女は私が見つけてきた用心棒です。加えて私だけでなく、ハリマ評議会、ラハマのオウニ商会との共有です」

 

 もとは、脅威になりかねない彼女に首輪をつける目的で始まった協定である。

 商会だけならまだしも、ハリマまで介入しているとなると、そこに他の者が介入する余地はない。

 各都市の胃袋を文字通りつかんでいるハリマの機嫌を損ねては、自分達の明日にかかわってしまう。

「それはわかったが、結果がわかりきっているとはどういうことかね。対戦演習を行うのは悪いことではない」

「そうだ、皆が互いに腕を競い、高め合うのはいいことだ」

「最初はそうでしょう。ですが週も変わらない内に、10回以上もの対戦を挑んでくるのは、流石に業務に支障が生じます。本業に支障をきたすほどの演習は控えてもらいたい。それに彼女が来て間もなく行われた演習を見ていれば、やらなくても結果はわかりきっています」

「君は、他の隊員を侮辱するのか!」

「対戦演習自体、互いの技量向上が目的ではなく、日々訓練しかない隊員や整備員たちにとって賭けの対象にしかなっていないのは、ご存じでしょう」

 自警団と違い、評議会護衛隊は議員を守ることが仕事。対談で他都市にでも行かない限り、護衛隊は訓練しかやることがないのだ。

 唯一ユーリア護衛隊だけは例外で、先のイケスカ動乱にも隊長たちは参加した。

 ただ他の護衛隊は、他都市にいくことは少ない。

 日々同じ景色を見続ける中でのささやかな娯楽として、対戦演習と称して賭けが行われることは珍しくない。

 ただその中で、唯一賭けが成立しない演習がある。

 それが、ハルカを相手にした演習だ。

 彼女が来て間もなくおこなわれた対戦演習では、あまりに一方的な展開に皆驚き、彼女との対戦演習に限っては賭けが成立しないことをすぐ悟ることになった。

 いずれにせよ、空賊との戦闘経験も碌にない護衛隊の隊員たちが、修羅場をいくつも潜り抜け、戦場で生き残ってきた獣にかなう道理はない。

 

「彼女の技量を確かめるためにもなる」

「彼女の技量については、報告書にて提出した通り、信頼できるものと思いますが?」

「その報告書は読んだ。コトブキ飛行隊、ラハマ自警団の半数を、たった1機で落としたそうだな」

「加えて、彼女が所属していたウミワシ通商の機体、それを10機以上撃墜するのを、私は目撃しています」

 彼女を雇うきっかけになった戦果だが、議員たちは皆首をひねっている。

 

 

「その技量については、皆懐疑的だ」

 

 

 ユーリアは眉をひそめる。

「なぜですか?」

 議長はため息を吐きながら言う。

「コトブキ飛行隊にせよ、ラハマ自警団にせよ、いずれも使用している機体は彼女のものより性能で劣る。負けるほうがおかしいのだ」

「……なら、あなたたちの護衛隊の隊員で、彼女と同じ芸当ができる者がいますか?」

 ハルカが乗っているのは、彼女の祖父と父の残した零戦52型丙。

 彼女の機体を調べたオウニ商会のナツオ整備班長が言うには、生存性は従来の零戦より高いが、運動性や速度ではガドール評議会の52型に劣るらしい。

 本当は火力がもう少し高いらしいのだが、彼女の機体はなぜか主翼の13.2mm機銃が2丁外されており、丙型本来の火力ではないという。

「隼や九七戦より性能で勝るとはいえ、護衛隊の52型より速度や運動性は劣ります。にも関わらず、対戦で一方的な敗北をしていて、彼女の技量に疑問を抱くのはなぜですか?」

「実際に君の外遊に同伴し、その結果を見ないことには判断しかねる」

 ユーリアはイライラしてきた。

 要するに、今の段階では彼女は信じるに値しない、と言っているのだ。日々演習を嫌な顔せず引き受けて結果を示しても、ユーリアの業務を手伝っても、監視の目を受け入れていても。

 

 

「頭の固いことですね、皆さん」

 

 

 議会内が喧噪で埋め尽くされた。

 

「目の前で結果を示しているのに、それを認めようとしない。あなたたちは、彼女が元空賊だからという一点で、その気がないだけではないでしょうか?」

 

「空賊行為という許されない行為に加担した人間を、簡単に信用できるとでも!?」

 

「彼女が襲った輸送船には、ガドール船籍のものもあったのだ!本来なら処刑すべき彼女を、生かしているだけでも大目に見ているのだぞ!」

 

「空賊を連れてくるなど、議員としてあるまじきこと!」

 

 皆が野次を飛ばし、ユーリアに色んなものが投げつけられる。そんな中で、彼女は冷ややかにいった。

 

「汚職や賄賂という、議員にあるまじき行為を行っているものたちが、この中にいることは周知の事実でしょう」

 

「ユーリア議員!」

 

 議長が彼女の言葉を遮った。

「それに、彼女が空賊行為に加担しなければならなくなったのは、誰も手を差し伸べてくれなかったから。そして、私やあなたたち大人が、ユーハングの遺産をどうするか決めず、奪い合った結果でもあります。リノウチ空戦で多大な犠牲を払っておきながら、何も学ばなかったのですか?」

「だから、法整備を今行って……」

「私の提唱する、空賊を減らすための法案に反対なさっているのはなぜですか?彼女が空賊となったのも、なる者たちが未だ絶えないのも、多くは経済的困窮が原因。空賊離脱者支援法が可決されれば、そういった者たちを少しずつでも減らせると思いますが?」

「市民の心情を考えたまえ!イケスカ動乱以降、皆生活が苦しくなっている。その中で空賊だけ足を洗ったら面倒を見るというのでは、不公平ではないか!」

「ですから、収入が一定の額以下の住民たちを支援する法も一緒に出しているはずですが?」

「それは検討中だ」

 結局、空賊を容認することによって利益を得ている人間が、イジツの至るところにいる。

 ガドール評議会も例外ではない。

 

 

「イケスカ動乱の際、このガドールは、自由博愛連合の側でした」

 

 

「何が言いたい……」

「自由博愛連合は、ショウト、ポロッカ等、いくつもの町を焼野原にしました。その行為に加担した罪を、この町は清算する必要があると考えます」

「ガドールはその行為に加担しておらん!」

「ですが加盟し、動乱が終わるまで資金や資源を提供していたのは事実。周囲の都市から、悪評が未だ絶えないのはそういうことです」

「口を慎みたまえ!」

 それでも、彼女は引かない。

 

 

「自由博愛連合は瓦解しましたが、今だ残党は残り、多くは空賊に鞍替えしています。かつて加盟していたガドールだからこそ、自由博愛連合の残党や空賊に対し、どんな姿勢をとるか明確に打ち出す必要がある。私は、そう考えます」

 

 

「だから、今……」

 

「少なくとも、今は姿勢を明確にしておりませんし、まだ自由博愛連合の再興を望む方もいるようです。あのいけすかない男、イサオは穴に消えました。再興を望んでいないで、本来の自治独立に戻るべきでしょう!それとも、イサオにおんぶにだっこされないと、歩けもしないのですか?」

 

「君は議会を侮辱するのか!」

 

「高飛車女が!」

 

「静粛に!」

 

 議長の声で議会は静まり返った。

「話がそれてしまったが、とにかく彼女については引き続き監視を続けること。対戦演習については、業務に支障の出ない範囲で行うこと」

「勧誘については?」

「……嫌なら断ればよかろう」

「わかりました。彼女に伝えます」

 その後いくつもの議題が上がったが、どれも進展はないまま、その日の議会は終わった。

 

 

 

「はあ~……」

 議会の廊下を歩きながら、ユーリアは頭を抱え大きなため息を吐く。

 問題は山積み、議会の理解は得られないまま。現状に変化はない。

 全くもって通常運転の議会だった。

「どうしたものかしら……」

 だが、夢や理想を実現するために政治家になった彼女に、あきらめの文字はない。

「とりあえず、帰ろうかしら」

 ふと空を見上げると、イジツでは貴重な雨が降っていた。

「議会にも雨にもふられるとはね……」

 とりあえず隊長を呼ぼうと議会内に設置されている電話を探すが、そこには同じく秘書を呼ぶべく電話に群がる議員たちでごった返していた。

「はあ……」

 その列に並ぼうと憂鬱そうにしていると、議会の正面の通りに1台の車が止まった。

 車の運転席のドアが開くと、中から傘をさした人物がかけてくる。

 傘で顔が見えなくても、パイロットたちがよくはいているブーツに、裾の方に青いラインの入った白色のスカートで誰なのかユーリアはすぐにわかった。

 

「お迎えにあがりました、ユーリア議員」

 

 微笑む彼女を見て、少し表情を和らげる。

「ありがとう、ハルカ」

 彼女はユーリアに傘を差しだし、自分はもう一本持ってきた傘を開く。

「さ、帰りましょう」

 ハルカは後ろの席をすすめるが、ユーリアは助手席のドアをあけた。

「いいんですか?」

「そういう気分なの」

 2人は運転席と助手席に腰かけると、ハルカは車のエンジンをかけ、人が周囲にいないことを確認するとゆっくりアクセルと踏み、車を発進させる。

 車は町中でも広い通りを進んでいく。

「あなた、運転ができたのね?」

「はい、空賊時代に、ちょっと……」

 きっと怪しまれないために色々仕込まれたのだろう。

「あの……」

 彼女に視線を向けると、前方を注視しながらも、どこかそわそわしている。

「どうでした、議会は……」

 ユーリアは前に向きなおった。

 

「別に、平常運転よ」

 

 無論、決していい意味ではない。

「そうですか……」

「あなたは気にしなくていいの。クソ野郎どもの相手は私に任せて、あなたは空を舞うハエを追い払ってくれれば」

「……はい」

 そのまま何事もなく、2人はユーリアの事務所へとたどり着いた。

 

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