荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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ユーリアについていき、訪れた客人と話をする彼女。
あくまで雇い主、という認識しかない彼女。
そんな彼女を見守る者の、胸の内に秘めた気持ちとは……。


第7話 見守る者の胸の内

「こんにちは」

 部屋に通されると、迎えてくれたのは温和な笑みを浮かべる眼鏡をかけたスーツ姿の女性。

「待たせて悪かったわね、ホナミ」

「申し訳ありません、遅くなりまして」

「気にしないで、突然お邪魔したのはこちらだから」

 ハリマ評議会評議員、ユーリア議員の考えの理解者、ホナミ議員が紅茶を飲みながら待っていた。

 ユーリア議員が斜め向かいに座り、最後にハルカが一礼してホナミ議員の正面に座った。

「久しぶりね、ハルカさん(・・)。新しい生活には慣れた?」

「は、はい。おかげさまで……」

 初めはユーリアの起伏の激しさに戸惑ったものの、隊長たちの助言もあり短期間で慣れた。

「そう、よかった。議会や周囲がうるさいかもしれないけど、気にしちゃだめよ」

「は、はい……」

 政治家ということもあってか、彼女はホナミに少し物怖じしてしまっている。

 そんな彼女を、ホナミは少し寂しさを含んだ表情で見つめる。

「まあ、とはいってもすぐには無理よね。少しずつでいいから、胸を張って、しっかりあるいてね」

 彼女はハルカの頭に右手を伸ばし、軽くポンポン、と撫でた。

「あ、……はい。わかりました」

 頬を赤らめはにかみながらも笑みを浮かべるハルカに、少し満足げなホナミ。

 そんな光景を見てユーリアは少しむっとする。

 

「ところで、あなたも呼ばれていたとは意外だったわ」

 

 わざとらしく咳払いをし、話題を変える。

「ええ、ナハタの件で呼ばれてね。多分、あなたに仲介役を頼みたい、というところじゃないかしら?」

 表情を引き締め政治家の顔に戻るホナミ議員。気のせいか、ハルカの頭から手をひっこめるとき一瞬残念そうな顔をしたが。

「仲介?」

「ナハタは今、食料と経済の危機に陥っていてね。今、うちに食料支援を求めてきているの」

 そういえば、ガドールを出発する前にハルカがそんなことを言っていたな、とユーリアは朧気に思い出す。

「もっとも、ハリマはその要請を断っているけど」

「それは、やっぱり評議会の方針?」

 彼女は頷く。

「ハリマ評議会は、ナハタの支援要請には応じないんですか?」

 ハルカが首をかしげながら聞く。

「あ、誤解しないでねハルカさん。あくまで、無償での支援はやらないのが、うちの評議会の一致した見解なの」

「なんで無償ではしないんですか?」

「過去に無償で支援した結果、住民たちに食料がいきわたらず、支援物資を売って儲けていた都市があったの。以降は敷居を上げて、無償での支援は行わず、あくまで後払いか前払いで請求。つまり有償でのみになったの」

 イケスカ動乱以降、イジツは依然混乱の中。増え続ける空賊に対処するため独自に飛行隊を設ける会社や都市が増えたため、飛行機需要が高まり、部品の価格は上昇した。

 食料も例外ではなく、いくつもの都市が焼野原にされた結果、供給が滞るものが出始め、価格が次第に上昇している。

 イジツに流通する食料の半分近くを生産している一大食料生産都市、ハリマ。ここで作られる農産物はどれも評判がよく、欲しがる人々はいくらでもいる。

 食料生産都市の責務として支援を求められれば行いたい一方、支援物資を売って儲けられてはたまったものではないし、他都市も似た行為を行うかもしれない。

 そんなことをされては通常の交易が行えなくなるし、住民を救うこともできない。なので、敷居を上げるために有償にし、物資を住民に配布しているか監視も行うことにしているという。

「今回の対談相手のナハタは自由博愛連合に加盟していた当時、紅茶の高級品種の専売で潤ったけど、先の動乱以降、収入源だった紅茶の売り上げは激減。それにより潤沢だった予算も減った。食料を買えるだけのお金も無くなり、遂には支援を求めるまでになった」

「確か、ハリマが競争相手だった、と……」

「ええ。おかげで自由博愛連合の飛行隊に畑の一部を爆撃された」

 自由博愛連合に加盟することで、田舎は特産品が専売制になり価格は安定した。だが同時に、自由博愛連合は加盟しない競争相手を消していた。

「今その紅茶畑の再建に取り組んでいるけど、出荷できるほどに回復するのは、まだ先になるわね」

「で、ナハタはなんて?」

「返済の見通しが立たないから、無償での支援を頼みたい、と言ってきている。うちは無償支援はしないっていう堂々巡り。押し問答の結果、遂にはアレシマ市長とユーリアを巻き込み、要求を飲ませようっていう魂胆かもしれないわね」

 同じく自由博愛連合に加盟していたアレシマ。ホナミ議員に接触ができるユーリア議員。もうなりふり構っていられない状態らしい。

「返済の条件はそんなに厳しいものなんですか?」

 食料危機ならなりふり構っていられないはず。それでも有償支援を選ばないあたり、条件が厳しいのだろうか。

「いえ、期限や返済額は両者の合意に基づいて決めるし、利息も付けない。今あなたが、マダム・ルゥルゥを通じて賠償金を払っているような形ね。とくに厳しいものじゃないんだけど……」

 ハルカは今、空賊時代に損害を与えたラハマ及び輸送船に対して、賠償金を払っている。請求額を示されたときは血の気が引いたが、月々の支払額は厳しい額ではなく、そんな少なくていいのか、と思わず聞き返したほどだった。

 支払い額はマダムと合意の上で決め、期限は定められていない。支払いが終わるまで、お金はオウニ商会が肩代わりするという形になっている。

 もっとも、マダムにとっては借金の返済という理由で彼女を用心棒として呼べるので、長く使いたいという思惑もあってのことだが。

「それでも無償を誇示するあたり、何を考えているのかしらね」

 町が経済的に困窮し、食料支援がすぐにでも必要なら1回の支払額を低くし、返済期間を長めにとればいいはず。その条件をハリマは飲むはずなのに、それでも嫌がるのはもはやわがままのレベルだ。

 あるいは、何か別の意図があるのか。

「ところで、ユーリア議員」

「何かしら?」

「私への客人っていうのは?」

 ユーリアは何かを思い出したようにホナミを見た。

「そういえば、あなた彼女に用があったのよね?」

 ホナミ議員は笑みを浮かべる。

「ええ。明日、対談にアレシマ市長とナハタ市長に会うでしょ?私とユーリアは同じ場所にいるわけだから、警護対象に私も含めてもらえないかなって」

 昨今、政治家は常に色んな危険にさらされる。恨みをもったもの、殺し屋、空賊。なんでもありだ。 

 ユーリア議員はガドールの政治家の中で最も外遊に行く人物なので、その近辺には常に護衛隊がいる。

 ユーリア護衛隊は、戦闘機で空賊を追い払うことは勿論、書類仕事や時には警護として襲撃者と戦うこともある。

 最近では空賊時代修羅場を潜り抜け続けた経験を買われ、ハルカもその1人になっている。

「別にいいけど、報酬はちゃんと払ってね」

「ええ、勿論よ」

 ホナミ議員は笑みを浮かべる。

 自身が連れてきたハリマ自警団の技量に不安があるのか、それとも単にハルカをそばに置きたいのか、そんな所だろうとユーリアはあたりをつけた。

「それじゃ、そろそろお暇するわ」

 ホナミ議員は紅茶のカップを静かに置き、椅子から立ち上がった。

「それじゃあ、明日からよろしくねユーリア」

「こちらこそ」

 2人は握手を交わし、彼女は部屋をでようとする。

「……ハルカ」

 ユーリアに呼ばれ、彼女は振り向く。

「道中なにかあっては困るから、ホナミを飛行船まで送って行ってくれる?」

「はい、わかりました」

 ハルカは椅子から立ち上がり、ホナミの隣に並んだ。

「お願いね、ハルカさん」

 そして2人は飛行船の搭乗口へ向かった。

 

 

 

 

 乗ってきたハリマ船籍の飛行船まで、ホナミは来た道を、ハルカは周囲を警戒しながら歩く。

 同じ飛行場内のことであっても、アレシマは物流の活発な町。多くの飛行船や輸送機が常時行き来するため、飛行場はかなり広い。人の足の速さでは、目的地までそこそこ時間がかかる。

「悪いわね、急にお願いしちゃって」

「いいえ、雇い主(・・・)の意向には従います」

「雇い主、ね……」

 ホナミは、ふと寂しそうな表情を浮かべる。

 ハルカはその意味が分からず、首をかしげる。

「どうか、されましたか?」

「いいえ、なんでもないわ」

 ホナミは笑みを作る。

 ハルカが幼い頃、ホナミは何度か会った記憶がある。だが、何度顔を突き合わせても、彼女は思い出す素振りがない。

 やはり、忘れてしまったのだろうか。

「ユーリアの印象は、どう?」

「そうですね……。議会に行くときと私たちの前での態度の違いに、少々驚きましたけど、物言いが率直で、引くことを知らない人だと思います」

「ガドール評議会は、色んな議員がいるから、彼女の機嫌は少なくともよくはないわね。一度、反乱分子として追い出されたわけだし。うちのハリマ評議会も、他都市のこといえないけど……」

「議会は、どこも似たようなものなのですか?」

 彼女は肩をすくめて言い放った。

 

「金と権力と欲望。それが集まる場所はろくなことにならないわ」

 

「……現役の議員がそんなこと言っていいんですか?」

「事実だもの、今更よ」

 微笑みながら、ホナミ議員はさらっととんでもないことをいう。

「ガドール評議会は、ユーリア議員の思想の理解者もいなくはないですが……」

「まだ自博連派が生き残っている?」

「……はい。それに、私の扱いも」

 彼女は、あくまで経過観察ということになっている。場合によっては、どんな処分が下されるかまだ分からない。

「大丈夫よ。あなたが実績を積み重ねれば、誰も何も言えなくなるわ」

「でも、それでユーリア議員は周囲から色々と……」

 元空賊を雇ったということで、ユーリアは周囲の議員から嫌味を言われることが多くなった。その原因が自分にあるのを、彼女は平気な顔してみていられない。

「あなたは気にしなくていいの。それを承知で彼女を含め、私たちはあなたを雇ったのだし、どうせユーリアは虫の鳴き声くらいにしか思ってないわ」

「そう、ですか」

「そうよ。だから、私の元で仕事するときも、胸を張ってね」

 ホナミが微笑みかけると、ハルカは僅かに頷いた。

「まあ、ハリマもガドールに劣らず、問題は山積みだけど」

「ハリマも、ユーリア派と自博連派に分かれているんですか?」

「……いえ」

 ホナミは眉間にしわをよせている。

 

「ハリマは、交易推進派と孤立派でもめているの」

 

 どういうことか、ハルカは首をかしげる。

「要するに、周辺の都市との交易を積極的に進め、町を潤し、関係構築を進めていこう、っていうのが交易推進派。孤立派っていうのは、自給自足で最低限の都市との関係しか持たず、ハリマだけで生き抜こうっていう考え」

 緑の大地、ハリマは何を置いても、生きるのに必要な食料と水を他都市に頼らなくていいのが最大の強みである。

 この2つの供給に不安がないなら、極端な話他都市と交流を持つ必要はない。

 他都市と交流を持ち交易を行えば、自身の都市にないものが入ってきたり、移り住む人々だっているだろう。

 一方、不利益もある。さきのイケスカ動乱のきっかけにもなった自由博愛連合。そこに加盟するなら味方とみなし、加盟しないなら敵として爆撃された。

 加盟するかどうかは都市の決定次第であったものの、イケスカと関係が深かった都市の多くは加盟。そして内政干渉めいた要求が来て、それを突っぱねると敵とみなされた。

 他都市と関係を持つということは、相手の意向も尊重しなければならない。

「今のハリマ評議会は、議長が積極的に他都市と交易の機会を持つべきって考えだから、私もこうして色んな都市へ出張しているのだけれど」

「ホナミ議員は、議長の考えの理解者なんですね」

 

「そうね。父でもあるし」

 

 ハルカは首を回して彼女を見た。

「父親が、議長をしているんですか?」

「ええ」

 こともなげにホナミは言う。

「親子そろって政治家。幸い政策で対立することはなかったから、親子の仲は良好よ」

 対立したら仲は悪くなるのだろうか、と素朴に思う。

「まだ議会には孤立派が一定数いてね。それに手を焼いているの」

「孤立してもやっていける都市なら、それも1つの道なのでは?」

「私も一時はそう思った。でも、孤立は本質的に無理なの」

 ハルカは首をかしげる。

「自給自足できるのは大きいけど、それでは農家にお金は入らない。趣味ならいいけど、産業としての農業を続けていくのは、やっぱりそれなりの収入がいる。収入を得るには、交易をする必要がある。運ぶには輸送船がいるし、道中空賊が現れるから飛行隊もいる。それだけのものを、ハリマだけで全て賄うことはできない」

「そう、ですか」

「どことも関係を持たないということは、他都市の都合に巻き込まれないということでもあるけど、同時に全て自分達の手でやらなければならないという意味でもある。都市の防衛だけとっても、空賊程度なら自警団だけでなんとかできても、自由博愛連合のような大規模なものになると、流石に無理ね。自分の町は自分たちで守るという心意気は大事だけど、対応できないなら手を借りることも、当然考えないといけない」

「孤立って難しいんですね」

「そういうこと。でも孤立派はそれをわかってくれない。だから困りものなの」

 どこの議会でも一枚岩ではないのだなと、素朴に思う。

 そうこう話している間に、ホナミ議員の乗ってきたハリマ船籍の飛行船にたどり着いた。

 搭乗口から機内に入り、そこで彼女は足を止めた。

「ここまでありがとう。明日からお願いね」

「承知しました」

 ハルカは一礼して、飛行船に戻ろうとする。

 

「……ハルカ(・・・)

 

 呼ばれた気がして、彼女は振り返った。

「何か……」

 そこから先が言えなかった。

「……へ」

 彼女が感じたのは、体を包み込むぬくもり。

 いつの間にか、彼女はホナミ議員の腕の中にいた。

「……議員?」

 顔を見ようにも、議員の顔はすぐ左側の肩越しにあるので、その表情を伺うことはできない。

「あの、どうかしたんですか……」

 彼女は何も答えず、ただハルカの背中に回した腕に力を込めた。

 そのまましばらくされるがまま、時間が過ぎる。

 幸い、誰にも見られることなく、腕の中から解放された。

「ごめんなさい……。私は、その、可愛い子が好きで、つい……」

 何やら顔を赤くし、気まずそうに議員は言う。

「そう、なんですか?」

 なんと答えていいものかわからず、沈黙が場を支配する。

「……では、私はこれで」

 一礼をし、彼女はその場をあとにした。

 

 

 

「ふう……」

 飛行船内の自室に戻ったホナミは椅子に深く腰掛け、背もたれにもたれかかる。

 

 

「……あああああああああああああああ!」

 

 

 そして今度は頭を抱え、机の上でもだえる。

 その理由は無論、先ほどの行為を思い出してのこと。

「やっちゃった……」

 顔を上げ、彼女は机の上に置いた2つの写真立てを見る。

 1つは、8人近くの男女が並ぶ写真。もう1枚は、自身の姉と、その子供3人が並ぶ。

 その中には、先ほど思わず抱きしめてしまった彼女の姿もある。

「ハルカ……」

 ホナミは、姉が送ってくれた手紙と写真を今でも大事に残している。

 この2枚の写真は、特に大事なもの。自身の姉、アスカが嫁いだ先の家族がまだ全員そろっていた、リノウチ空戦前の写真。

 そしてもう1枚は、姉が写っている最後のもの。

 こうしてみると、ハルカはつくづく母親、姉の血を色濃く受け継いだのだとわかる。でも全く同じというわけではなく、目元はどこか母親の夫、父親を連想させた。

 姉曰く、姉後肌の長女、そんな姉と日々張り合いをした負けず嫌いな長男に比べ、次女のハルカは皆から可愛がられ、真っすぐ育ってくれたと。

 彼女と一緒にいた道中、ホナミは幼い頃の姉と一緒にいるような妙な錯覚にとらわれた。自分が傷つくことより、周りを気にするその様子が、姉と同じだった。

 何気ない仕草や言葉遣いも。

 でも彼女は姉じゃない。似ていても、当然別人なのだ。

 そして去り際、姉が大事にしていたもの、残してくれた遺産に触れたくなった。

 結果あんな行動に及んだわけだが……。

「咄嗟にああいったけど、変な風に思われてないかな~。もう少しまともな言い訳があったでしょうに~。嫌われたりしたらどうしよう~!生きていけない!」

 でも不思議と後悔はない。

「大きくなったのね……。あったかかったし、柔らかかった。でも鍛えているのでそれも……」

 彼女はおでこを机に打ち付けた。

 

―――これじゃ変態じゃないのおおおおおおおおおお!

 

 彼女は心の中で叫んだ。

 しかも場所は飛行船の搭乗口近くの通路。誰かに見られていたら、危うくスキャンダル必死の内容だ。

「……今後は室内だけにするべきね」

 そういう問題でない気もするが、彼女は心に誓う。だが、気がかりなこともある。

 この写真に写っている8人近くの男女は、もうこの世にいない。

 残っているのは、ハルカただ1人。

 のこされた家族も、先日空賊によって処分されたことを聞かされた。

 ハルカがなついていた祖父も、行方知れず。

 彼女が家族の死をある程度受け入れ処理できるようになるまで、混乱させないようにと思っていたが、本当は直ぐにでも、自分はあなたの血縁の人間なのだと打ち明けたかった。

 そうすれば彼女を抱きしめても問題はな、おっと違う。彼女にはまだ、帰る所があるのだと、安心させることができる。

 でも、何度も顔を突き合わせても、ハルカはホナミを覚えている素振りはなかった。

 そんな人物からいきなりそんなことを言われても困るだけだ。

 だから、もう少し関係を進めてから、せめて、普通に世間話ができるようになるまでは待とう、と彼女はこらえる。

 だが、いつまでも悠長に待っていることはできない。

 ハルカの心は今、とても不安定だ。なにせ、空を翔ける理由、お金を稼ぐ理由。もっといえば、生きる理由の根本を失ったのだ。

 先日、ラハマでウミワシ通商からみかじめ料をとられた人々に、私費を投じてお金を返したという報告をオウニ商会のマダム・ルゥルゥから聞いた。

 姉と同じで優しい子だなと思う一方、不安もあった。

 その行動が、もう使い道がないから、いついなくなってもいいように、そんな風に聞こえた。

 彼女を見守るために、雇い主の1人になってよかったと思う。

 ハルカは、亡くなった家族に、死者に引きずられている。

 ホナミは机の上の写真に向かって、静かに言った。

 

「姉さん、お願い。まだあの子を、ハルカをそっち側に連れて行かないで……」

 

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