荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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武装集団に促され、ホテル屋上に誘導されたユーリア議員たち。
そこで待っていたものたちは……。
一方、飛行場へ走る彼女。しかし、空港の様子がどうもおかしい。
人目を避けるように、彼女は愛機のもとへと急ぐ。


第9話 引かない意志と鉄の脅迫

 階段を上らされ、到着したのはアレシマの街並みが一望できるオーシャン・サンフィッシュホテルの屋上。

 そこには、先ほどまで対談をしていた2人の男性が居た。

 

「やあやあ、お待ちしておりました」

「ユーリア議員、ホナミ議員」

 

 その顔を見て、2人は苦々しい顔をした。

 

「私は、全く待ってませんが」

「ぬけぬけと、よくそんなことが言えるものね」

 

 先ほど対談した、ナハタ市長、アレシマ市長がそこに居た。

「それで、どこまでも続く長い階段を散々上らせて、何の用かしら?」

 アレシマ市長が空を見上げた。

「何者かはわかりませんが、あなたを排除したい者たちがいるようですな」

 それが嘘であると誰もが察した。

 街中に攻撃されていながら、自警団も市立飛行警備隊も飛んでくる様子がない。

 ここまであからさまな行動をとられて気づかないほど、彼らは鈍くない。

「自由博愛連合。イサオ様の、我々の夢を打ち砕いたあなたが、ノコノコやってくるからですな」

「何が言いたいのかしら?」

 2人の市長は振り返った。

「私たちは自由博愛連合に加盟することで、あの方の夢を応援していた。あの方の夢が叶えば、必ずやイジツに安泰が訪れると」

「そして私たちの生活も保障してくれていた。この先も、ずっと」

「ですが、あなたはその夢を打ち砕いてくれた」

 ユーリアは不機嫌そうに、2人を見つめ返す。

「都合よく、あなたを襲撃したいものたちが来たようなので、今日はかつてのお返しをさせていただきます」

「私たちの幸福を壊してくれたことの、ね」

 ユーリアはため息を吐き出した。

「幸福を壊したですって?あなたたちも、ガドール評議会のクソ野郎どもと同じね。響きの良い言葉に乗せられ、全て檻にぶち込むつもりだったイサオの思惑に気付けていない」

「あの方はそんなことを考えてはいない!」

 激昂するアレシマ市長に、ユーリアは淡々と返す。

「焼野原にされたポロッカやショウトに同じことが言える?まあ、檻の中でも、何も考えなくていいというぬるま湯につかっていられるのは、ある意味幸福かもしれないわね」

「そ、そうでしょう!」

「でも、それは為政者には許されない!住民のために政策を考え、実現していくのが長や政治家の役割。その役割を放棄しているあなたたちに、今の地位にいる資格はないわ!」

 アレシマ市長が片手を上げた。すると、上空を旋回していた屠龍が、機首の37mm砲を撃った。

 砲弾はホテル後ろの山の中腹に着弾した。

「さてユーリア議員。本題に入りましょう」

「……なによ」

「ホナミ議員を説得してください。ハリマが、ナハタに無償支援を行うように」

「お断りよ!」

「いつまでそんなことが言えますかな?」

 アレシマ市長が不気味な笑みを浮かべる。断り続ければどうなるか、暗にいうように。

 できないなら、いつ屠龍の37mm砲が向けられるかわからない。

 

 

「1つ、聞かせてもらってもよろしいですか?」

 

 

 ホナミ議員はユーリアより一歩前に出て、市長たちに向き合った。

「ナハタ市長、なぜそこまで無償にこだわるのですか?」

「何度も申し上げているでしょう?返済の見通しが立たないと」

「私が聞いているのは、本音の話です」

 ホナミ議員は眼鏡の奥に秘めた鋭い眼光で、彼らを見つめる。

 

「応えられませんか?大方、そうでなければ、利益が減ってしまうからなのでしょうけど」

 

「どういうこと?」

 ユーリアが首をかしげる一方、市長たちは笑みを浮かべる。

「そうですとも」

 ホナミは確信した。推測が、間違っていないことを。

 

 

「ハリマからの無償の支援物資を売りさばき、利益を出すため、ですね?」

 

 

 ナハタ市長は何も応えない。ホナミ議員はそれを肯定と受け取った。

「ナハタは、ハリマから紅茶の市場の大部分を自由博愛連合の手を借りて奪い取った。それによって得た独占市場は、ナハタに莫大な富をもたらした。人々の暮らしは安定し、裕福になった家も多かった」

 ホナミは横目でユーリアを一瞬見る。

「でも、長くは続かなかった。反イケスカ連合によって自由博愛連合は瓦解。各地が復興を急ぐ中、高級品種の紅茶の売れ行きは伸び悩み、収入は減って町は困窮。このままでは民衆が飢えてしまう。いえ。それ以上に、潤っていた時期が忘れられない。税収で予算も潤沢にあった。1度味わったそのときのことが忘れられない。でも特産品では利益が出せない。かつての裕福な暮らしを取り戻すには、手っ取り早く収入を得るには、誰もが欲しがるものを無償で手に入れ、売りさばくのが一番早い」

「それが、ハリマの農産物っていうこと?」

「そういうこと」

 市長たちは否定しない。

「ユーリアを呼び出したのは、私を説得させるためと、それを口実に呼び出して自博連を瓦解させた復讐。ユーリア派の排除、といったところですか?」

「ええ、そうですとも」

 あっさりとアレシマ市長は認める。

「あの屠龍が空賊かは知りませんが、あなた方の息のかかった者ですね。ユーリアに私を説得させようと考えたものの、それは難しいと判断。なら復讐だけでも果たそう。そう思ったのですか?」

「……空を飛んでいる鳥が見えませんか?」

 彼らの上空を、屠龍が飛び続けている。選択の余地など、最初からないのだ、と。

「アレシマ市長、ナハタ市長。まさかこんな手に出るとは、残念です」

「本当に、イサオにおんぶにだっこされないと生きていけないとはね」

「何とでも仰ればいい。もし要求をのまないなら、あの鳥がどうするかおわかりでしょう?」

 ユーリアは言い放った。

「やっていることや考えが空賊と同じじゃない!」

「お互い譲れないものがあれば、最後は力ではっきりさせる。かつて自由博愛連合と、反イケスカ同盟が戦ったように」

「さあ、ユーリア議員、ホナミ議員。あまり長話の時間はありません。よりよい答えを、期待しております」

 2人は苦々しい顔を浮かべる。

「ところで、護衛隊が来ることを期待しても無駄ですよ?」

「どういうこと?」

「今事故で、空港は閉鎖されております」

 なら、飛行場に向かわせたハルカが来る可能性は低い。

 それでも護衛隊と連絡がとれない以上、彼らは彼女が助けに来てくれることを期待するしかなかった。

 

 

 

 

「……どういうこと?」

 飛行場に走ったハルカは、その様子に戸惑っていた。

 昨日頭に入れたルートを辿ると、銃を持って武装した謎の集団が道を閉鎖していた。

 運び屋らしき人々が通せと言っているものの、通せないの押し問答が繰り返されるのを彼女は建物の影からうかがっている。

 顔を隠し、住民相手に武装して銃口を向けるなど、自警団や警備隊にしては様子がおかしい。

「いそがないと……」

 彼女はルートを変更。頭の中に道順を描きながら町の中を走り抜ける。

 建物の影に隠れると、マンホールに手をかけてあける。アレシマは、水道が街中に張り巡らされており、その水路は空港近くに通じていることを確認している。

 彼女は鼻が曲がりそうな異臭に耐えながら、暗い水路をライターの明かりを頼りに進んでいく。

 そして、空港近くと思われる場所のマンホールにたどり着く。

 マンホールを開けるときというのは、一種の賭けだ。

 上に誰もいないとは限らない。だが下から確かめる術はない。なにより時間がない。

 彼女は、意を決してマンホールをあける。

 少し持ち上げて周囲を伺うと、そこには幸いだれもいなかった。マンホールを横にどけて地上に上がり、再びしめると、彼女は双眼鏡を取り出す。

 飛行場内を見渡すと、飛行船の周囲は銃をもった集団が同じように配置されている。

「計画的ね。ただの空賊じゃない……」

 そのとき、彼女の後ろから土を踏みしめる音がした。

 

 

「おい、ここで何をしている!」

 

 

 顔を覆面で隠したことで曇った声が聞こえた直後、背中に冷たい金属の銃口が押し当てられるのを感じる。

「手をあげろ!」

 体が素早く反応した。

 彼女は咄嗟に右足を軸にして左足を上げ、後ろ回し蹴りを繰り出し、相手が持っている銃を蹴って銃口をそらした。

 ついで、左ワキで銃身を挟みこみ、姿勢を低くし左足で地面を踏みしめ、右足に力をこめ、死なない程度の力で顎を下から蹴り上げた。

「ぐお!」

 男が一瞬ひるんだすきに腕をつかんでねじりあげ、さらに膝裏を蹴りつけて地面に膝をつかせた。

 最後に、左腕を首に回す。

「答えて。あなたたちは何者?何をしようとしているの?」

 だが男は応えない。

「そう……」

 彼女はゆっくり首を締め上げ、男を気絶させた。

 男が大人しくなると、彼女は男性を引きづって建物の影に隠れ、男性の衣服のベルトの類で両手足を手早く縛り上げる。

 身に着けている荷物を調べると、身分証が出てきた。

 

「アレシマ、警備保障……」

 

 レミさんから聞いた、元ブユウ商事の警備部門が前身の組織。ユーリア議員に恨みをもつ集団。

 だが、民間会社が自主的にこのようなことを起こすとは考えにくい。それに、先ほど発砲してきた屠龍がいるにも関わらず、自警団も市立飛行警備隊も離陸する気配がない。

 こんな状況が作れる人物となると、可能性は限られる。

 裏で、市長が関係している可能性が高い。

「とにかく急がないと」

 今は一刻も早く愛機のもとへ向かう必要がある。

 彼女は、縛った男性の衣服をはぎ取り始めた。

 

 

 

 

 

「あ~あ、暇でしゃあねえや」

「しゃべるな!」

「へいへい」

 格納庫の一角、ユーリア護衛隊の整備班たちは武装した謎の集団に囲まれていた。

 とりあえず大人しくしているが、正直暇を持て余しており、あくびさえしている始末だった。

 整備班長も例外ではなく、することはあくびと座って暇を持て余すことだけ。

 こんなことがいつまで続くのか、疑問に思うも彼らはこんなことが起こる理由を察していた。

 でも、非武装の整備員が完全武装の兵士に勝つことは難しい。

 あいにく、スパナもイナーシャハンドルもバールも手元にはない。

 すると、突如扉が開き、謎の集団と同じ格好をしている少し小柄な人物が1人入ってきた。

「どうした?」

 隊長らしき男性が銃口を下げ話しかける。

 

 その瞬間だった。

 

 入ってきた人物は機関銃の銃床で目の前の隊長らしき男性の額を殴りつけて昏倒させ、次いで胸倉をつかんで盾にする。

 発砲するか戸惑っている仲間たちに銃口を向け発砲。放たれた対人制圧用のゴム弾が額に命中し、全員が瞬く間に床に倒れこんだ。

 発砲した人物は銃口を構えたまま近づき、床で伸びている者たちが気絶していることを確認する。

 

「今だ!」

 

 班長の号令で、整備員たちは武装集団の装備を拾い上げ、味方に発砲した人物に一斉に銃口を向ける。

 

「ちょ!ちょっと待って!待って!」

 

 するとその人物は両手を前にかざし、女性のような高めの声で呼びかけた。

 班長たちは、その声に聞き覚えがあった。

「その声……」

「私、私です!」

 相手は急いで覆面を外す。下から現れた顔を見て、皆が驚く。

「嬢ちゃんじゃねえか!」

 現れたのが同じ護衛隊の一員、ハルカだとわかり全員が銃口を下げた。

「すいません、潜入するのに装備を拝借して」

 言いながらハルカは気絶させた人物から拝借した上着やらズボンやらを脱ぎ棄て、いつもの恰好に戻る。その様子を、整備班たちは食い入るように見ていた。

 緊急時とあってか、彼女は警戒心をどこかに置き忘れたらしい。

「何があったんだ?」

「それが……」

 時間がないからと、彼女はことの経緯をかいつまんで話す。

「なるほど、議員たちが危ないわけか……」

「急いで上空の屠龍を撃ち落さないと……。私を、空に上げてください!」

 班長は考え込んだ。 

「護衛隊の機体は隣の格納庫なんだが……」

 護衛隊は緊急時すぐ出動できるよう、飛行船から全機下ろし、借りたアレシマの格納庫に駐機している。

「中に連中の仲間がいる。当然武装している」

 一方、整備班たちは当然だが非武装。攻め入ったところで、返り討ちにあう可能性が高い。

「だが、もしユーリア議員が殺されたら、我々ユーリア護衛隊の沽券にかかわる。なんとかしてえんだが……」

 ハルカは倉庫内を見渡す。そして彼女の目に、あるものがとまった。

「あの、考えがあるんですが……」

「なんだ?」

 ハルカは整備班たちに考えを話す。

「かーかかか!おもしれぇ!やってやるぞ野郎ども!準備にかかれ!」

 班長は作戦に同意し、すぐに彼らは準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 護衛隊の戦闘機の置かれている格納庫内で、武装集団は手持無沙汰だった。

「もう終わりますかね」

「間もなくのはずだ。どんなに気が強くても人間。37mmには耐えられん」

 彼らの仕事は、護衛隊をユーリアのもとに向かわせないこと。護衛隊の操縦士たちは格納庫の一角に押し込めている。

 整備班たちも隣の格納庫で押し込めているので問題ない。

「もう少しで終わる。そうすれば大金が手に入る」

 すると、格納庫の滑走路とは反対の扉に何かがぶつかるような音が響く。

 全員が一斉に銃を構える。

「念のためだ。いくぞ」

 全員が慎重に扉に近づき、部下の1人に命じて扉を開けさせる。

 格納庫の大きなスライド式のドアが、重い金属音を立てて開いていく。

 すると、そこにあったのは見慣れたもの。燃料を入れたり、風呂の湯舟に使う等多用途な使い方をするそれは……。

 

「……ドラム缶?」

 

 何本ものドラム缶が倒れ、前後に揺れていた。

「なんだ驚かせて……」

 男たちは銃口を下げドラム缶に背を向け格納庫へもどる。その背後で、ドラム缶たちは一斉に起き上がり、底から2本の足がはえた。

 それに気づく様子もない武装集団にむかって、足のはえたドラム缶たちは地面を蹴って走り出した。

 

「「「うおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」

 

 背後から聞こえた雄たけびに彼らは一斉に振り向く。

 

「な、なんだこいつらは!」

 

「ドラム缶が走る、だと!」

 

 ドラム缶が走るという珍妙な光景に戸惑った彼らは、銃を構え引き金を引く。

 だが、彼らが使用しているのはあくまでゴム弾、ドラム缶を貫通することはできない。もし実弾であったとしても、このドラム缶の内側にはユーリア護衛隊整備班が突貫工事で施した防弾板が貼られており機関銃程度では貫通できない防御力を誇る。

 加えて、若干姿勢を前かがみにすることでドラム缶が斜面装甲の役割を果たし、銃弾をそらす。彼らはゴム弾の嵐をものともせず突進していく。

 ドラム缶の集団は武装集団に突撃。何度も体当たりを繰り出し、殴りつけて気絶させる。その様子を、格納庫の2階、キャットウォークにいる仲間たちは見下ろしている。

「な!格納庫に侵入されたぞ!本部に連絡を!」

 言った直後、銃声が鳴り響く。密かに2階によじ登ったハルカは6連発のリボルバー式拳銃を抜き、ゴム弾を武装集団の頭部に見舞い、キャットウォークにいた5人全員を沈黙させる。

「嬢ちゃんいいぞ!」

 下の制圧が完了し、ドラム缶を脱ぎ捨てた班長が叫ぶ。

「了解!」

 ハルカはキャットウォークから飛び降り、愛機のレイに駆け寄ると燃料、弾薬が満載なのを確認。操縦席に滑り込む。

「始動準備!」

 整備班長はカウリング右下にまわりこみ、イナーシャハンドル差し込んで回す。

「点火!」

 合図でエンジンを始動。推力式単排気管が排気を噴き出し、3枚羽のプロペラが回り始める。

 急いで各部のチェックを済ませる。暖気が終わると、彼女は車輪止めを外させ、フットブレーキから足を離して零戦を前進させる。

 整備班たちが格納庫の扉をあける。

「嬢ちゃん、気いつけてな!」

 ハルカはそれに手を振ると滑走路へ零戦を誘導。管制室からのやかましい警告を無視し機体を加速させ、空へと飛び立っていった。

 

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