荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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ある日、コトブキ飛行隊のキリエとチカは、ナツオ整備班長に
格納庫へ呼び出される。班長が2人を呼んだ理由とは……。

「蒼翼の軌跡」に登場する零戦52型丙の簡単な解説になります。
あまり面白みはないかもしれませんが、かいてみました。


おまけ短編:ナツオ整備班長の戦闘機解説「零戦52型丙」

 照明の落とされた羽衣丸の船内を、コトブキ飛行隊のキリエ、チカは静かに歩き、目的地である格納庫へと足を踏み入れる。

「えっと、ここだよね?」

 キリエは暗い中、あたりを見回す。

「ナツオ班長が来いっていったのに、姿見えないね」

 この場に彼らを呼び出した張本人、ナツオ整備班長を探して彼らはあたりを見渡す。

 そのとき、格納庫内の明かりが一斉に点灯し、一角を明るく照らした。

 そこにいたのは……。

 

 

「おう、てめえら!さぼらずよく来たな!」

 

 

 呼び出した張本人、ナツオ整備班長はそばに置いた黒板を拳で殴りながら言い放った。

 

「いい心がけだ!」

 

「だって逃げたら……」

「あとが怖いもんね……」

「ケツにイナーシャハンドル……」

「本当に突っ込まれるかもしれないもんね」

「やかましい!人を鬼みたいにいうんじゃない!」

 イナーシャハンドルを振り回しつつ、ナツオ班長は抗議するも、説得力は皆無である。

 そしてわざとらしく咳払いをすると、2人にむきなおる。

 

「じゃあ、飛行機乗りのくせに、飛行機のことをなんにも知らないお前たちのために、この私が特別に教育してやる!ありがたく思え!」

 

「「は~い」」

 気だるそうな返事を返すキリエとチカ。

 

 

「じゃあ、ナツオ整備班長の戦闘機解説講座、開講だああああ!」

 

 

 ナツオ整備班長の戦闘機解説講座。その名の通り、ナツオ整備班長が戦闘機、もとい飛行機について懇切丁寧に解説してくれる講座である。

 現在、受講者はキリエとチカの2人のみとなっている。他のコトブキのメンバーがなぜいないか、それは彼ら自身に理由がある。

 

 飛行機乗りは、いくつかの種類がいる。

 例えば……。

 

 その1 裏打ちされた経験で飛ぶタイプ。

 レオナにザラ、エンマはこのタイプ。

 

 その2 理論を頭の中で組み立てながら飛ばしているタイプ。

 おもにケイトがこのタイプ。

 

 そしてその3 感覚で飛ばしているタイプ。

 キリエとチカがこのタイプ。

 

 感覚でも飛行機は飛ばせるので問題はない。だが、敵がどんな機体で、どんな長所と短所があるか。また、自身の機体はどうか。

 敵機をどうやって自身の得意な土俵に引きずり込めばいいか。

 敵を知り、己を知れば百戦危うからず、とユーハングではいうという。

 

 

「つまり、自分のことと、遭遇する敵の事をしれば、負けない。機体が傷まない。それはつまるところ、整備班の負担軽減につながるんだあああああああ!」

 

 

 結構切実な問題を叫ぶ班長に、2人は苦笑する。

 

「班長って、結構……」

「うん、悩んでいたんだね」

 

 そんな2人へ、班長はイナーシャハンドルを突きつける。

 

「うるせえ!コトブキの中で一番機体を壊すわ痛めつけるてめえらに、いつも整備班は頭抱えてんだよ!てめえらが帰ってくるたび、機体の心配をしなけりゃならん、整備班の気持ちがわかるかああああ!」

 

「「ごめんなさ~い!」」

 

「謝れっつってんじゃねえ!改善しろっていってんだよ!申し訳ない気持ちが、オイル1滴分でもあるなら、謝るんじゃなく行動で示してみろ!」

 

「「はい!」」

 手を上げて2人は応える。

「よし!じゃあ前置きが長くなったが、今回も解説していくぞ!」

 楽しそうに準備を始める班長を見て、キリエは遠い目をする。

「あのさあ、班長」

「なんだ、キリエ?」

「本筋で散々解説したのに、まだしたりないの?」

「あたりめえだ!あれで終わりだと、誰が言った!あと、本筋とかいうな!まあ、今回の講座が続くかどうかは、しのぎや筆者のやる気次第だがな」

「うわあ、言っちゃいけない言葉が出たよ」

「聞くんじゃなかった」

 班長は気にした様子もなく、黒板にある飛行機の写真を張り付けた。

 その飛行機は、全体が白めの灰色で塗られている一方、翼は半分近くが暗い青色で塗装され、主翼には白色を縁取った水色の丸が描かれている。

 

「じゃあ、今回はこの物語の中心的な存在、蒼い翼の零戦こと、零戦52型丙について解説する」

 

「ハルカが乗っている零戦だよね」

「確か、彼女はレイって呼んでいるよね」

 作中では、ハルカは愛機のことをしばし愛称で呼んでいる。

「ああ、レイっていうのは彼女が勝手につけた愛称だ。それだけ、長年ともにある愛機なんだろうな。愛着がわいて、愛称つけて呼ぶなんて、かわいい所あるじゃねえか」

「なんでレイなんだろう?」

「彼女の祖父がこの機体のことを、レイセンって呼んでいたからだそうだ。略して、レイ」

「でもさ、みんなはこの機体のこと、ゼロ戦って呼ぶよね」

「ゼロ戦の正式名称は、零式艦上戦闘機。略して零戦(レイセン)だから、間違ってないぞ」

「レイ?ゼロ?」

「ユーハングの世界では、零のことを、レイ。又はゼロって発音するらしいから、レイセンでもゼロセンでも正解なんだ」

「なんかややこしい……」

「というか、また零戦だよ~。本筋で何回やったんだか……」

「うるせえ、山ほど派生があるんだし、それにこの物語で初めて登場したんだから、やらないわけにはいかないだろう!それとメタい発言は禁止だ!」

 うんざりするキリエとチカを横目に、班長は解説を続ける。

「まず52型丙なんだが、52型の派生の1つで、最後の52型になる」

「派生っていうと、甲、乙、丙の武装バリエーション?」

「お、チカはちゃんと覚えていたな」

 班長は嬉しそうに笑みを浮かべる。

「零戦の総生産数の半数を占めるのは、52型だ。だがその52型も、武装は21型や32型、22型と変わらず、7.7mm機銃2丁に、20mm機銃2丁のままだった。弾数は増えたけどな」

「変わらないままで大丈夫だったの?」

「大丈夫なわけないだろう?敵さんは防弾装備が充実して、7.7mm機銃をいくら撃ちこんでも簡単には落ちなくなったし、零戦相手に次第に格闘戦をしなくなり、急降下で引き離す戦法に切り替えた。一方、零戦は少し弾を受ければ撃墜。敵さんを落とそうにも、20mm機銃は当てにくいし、弾数も少ない。それに制限速度のせいで、急降下に入られたら追いつけなかった」

「新型機はできなかったの?」

 班長はため息をはく。

「残念ながら、後継機の十七試艦戦、後の烈風は、迷走の末間に合わなかった」

「紫電改とかは?」

「紫電改が登場したのは、もう戦局がどうしようもない時期。それに生産機数が少なかった。配備されない新型機より、その場にあって使える兵器のほうが、役に立つだろう?」

「まあ、そうだよね~」

 どれだけ高性能でも、配備されなければ意味がない。

「雷電じゃだめなの?」

「雷電は、爆撃機の迎撃を目的とした機体。戦闘機相手もできるが、航続距離が短いし、機体特性が違う。だから結局、零戦をいじくるしかなかったんだよ」

「なるほど」

「で、まず作られたのが52型甲。それまでドラム弾倉だった20mm機銃の給弾方式を、ベルト給弾式に改めた。おかげで弾数がわずかに増えた。それに外板を厚くして、弱点だった急降下速度が少し上がった」

「でもそれだけなんだね……」

「まあ、敵さんが新型機どんどん作っている中、マイナーチェンジに近い内容だが、仕方がない」

「で、次は?」

 チカが先を促す。

「次は乙型。機首の7.7mm機銃2丁の片方を13.2mm機銃に換装して火力を上げた。さらに風防前面に防弾ガラス、操縦席後部に防弾鋼板が装備された」

「やっと防弾装備が登場だね」

「まあ遅ればせながら、ようやくな。で、最後になるのが、今回のメイン、丙型だ」

「やっと話が戻ってきたよ~」

 キリエは少し遠い目をする。

「機首は乙型では7.7mmと13.2mmだったんだが、弾道特性が異なって当てにくいから13.2mm機銃1丁のみにした。さらに主翼の20mm機銃の隣に13.2mm機銃を左右の主翼に1丁ずつ追加。武装は13.2mm機銃3丁に20mm機銃2丁の計5丁だ!」

「機銃5丁!凄い重武装!」

「隼なんて2丁しかないのにね~」

 チカはため息をはく。

「さらに、操縦席後部には頭部保護用の防弾ガラスが追加。そして主翼下部にはロケットを装備できるレールが常設されることになった」

「そういえば、羽衣丸にロケット撃ちこんでたよね」

「さしずめ、制空戦闘機というより、戦闘爆撃機の性格が少し強くなったな」

「ほえ~、強そうな見た目だね~」

 機銃を5丁も装備し、主翼から機銃の長い銃身が突き出ている様は、勇ましさを感じさせる。

「ところが、その勇ましい見た目に反して、いいことばかりでもなかったんだよ。元はその軽さで軽快な運動性を誇っていた零戦だが、丙型は装備が色々増えたせいで、全備重量は21型に比べ500kg近く増えた」

「500kg!太ったね~」

「おまけに、エンジンは32型と同じ、栄21型のまま。主翼が少し短くなったせいで、翼面荷重が増加。追加装備の重さも相まって、52型の中では急降下速度はいいんだが、運動性や旋回性は最も悪く、速度も遅い。最高時速は540km前後だ」

「……それでも隼より速いじゃん」

「火力の上では敵さんと渡り合えるようになったが、飛行性能や速度はどうしようもなくてな。防弾装備だって、疾風や紫電改に比べると劣る。隼のような防漏タンクも装備していない。まあ、もともと芸術品のような絶妙なバランスで成り立っていた零戦の設計では、それが限界だったんだ」

 本来なら、後継機にバトンタッチしていなければならない零戦を、いじくりまわした果てが丙型なのだ。

「ラハマ上空の空戦で、レオナの隼に主翼撃たれて、燃料漏れが止まらなかったんだっけ?」

「その後、ウミワシ通商社長の乗る紫電改に撃たれたときも燃料漏れが止まらず、供給ルートを切り替えて少しでも使おうとするあたり、苦心しているねえ」

 うんうんと頷く班長に。キリエはふと浮かんだ疑問をぶつけてみる。

 

「そういえばさ、ハルカの52型丙って、機銃3丁しかないよね?」

 

「主翼の13.2mm機銃が外されているんだっけ?」

「ああ、彼女の機体を調べて分かったんだ」

「なんでないの?」

 

 

「ハルカに聞いてこ~い!」

 

 

「「ええ~……」」

 キリエとチカは、答えを丸投げする班長に唖然とする。

「なんでかわからないんだよ。レオナ曰く、ハルカの52型丙は、彼女の祖父と父親が作った形見らしいから、機銃が2丁ないのも、2人の考えが反映されているのかもな。まあ、作者がいうには、それが物語にかかわっているらしいが」

「メタい発言禁止じゃなかったの?」

「大人の事情だ」

「わあ、聞くんじゃなかった~」

 大人はなんでもありである。

「まあ、いつか2人の疑問は明かされるときがくるだろう」

「そこまで作者が書いてくれればいいんだけど」

「そこは、気長に待つしかないだろ。よし、今日の所はここまでにしてやる」

 班長は満面の笑みを浮かべる。

 

「次回があったらよろしくな」

 

「「うえ~い」」

 

 キリエとチカは、気だるそうに返事を返したのだった。

 

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