荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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足を洗ったとはいえ、元空賊で敵だった彼女に敵意や警戒心を
露わにするエンマ。
受け入れてもらうため、エンマの出した要求を完遂しようとする彼女。
マダムは彼女に一人で戦うことを許可するが、コトブキの面々
の反応は様々で……。



第4話 隊長は気苦労が絶えない

 会議室にマダムを呼び、他のコトブキのメンバーも集めたうえで、合議が行われた。

「合議の結果、反対3、賛成が1、保留が2」

「保留がある以上、この合議では決められないが……」

 ハルカの身の潔白を証明するために、彼女を1人で戦わせることに賛成か反対か合議を行った結果、レオナ、ザラ、キリエの3人は反対。

 エンマは無論賛成。

 チカとケイトは、なんでこんなことになっているの、と保留にした。

 コトブキの合議では、賛成か反対を明確にしなければいけないとして、保留がある場合、結論は見送られる。

 だがこの問題は、長引きすぎてもいいことはない。

 レオナは、最終決定をマダムへゆだねるべく彼女へ顔を向ける。

 キセルの煙を吐き出しながら、彼女は言った。

 

「……わかったわ。やりなさい、ハルカさん」

 

「わかりました」

「ただし、コトブキは出動待機。危ないと思ったら、すぐ援護に行かせるわよ」

「はい」

「それじゃあ……、解散」

 会議室のドアを開け、皆が部屋を出る。

 皆が船内の食事処、ジョニーズ・サルーンへ向かう中、ハルカだけが別の方向へと向かっていく。

「あれ、ハルカどこ行くの?」

 キリエが気づいて、問いかける。

「もうそろそろだと思うから、機体の確認をしておきたいの」

「あとじゃダメ?折角、おいしいリリコさんのパンケーキ、一緒に食べようって思ったのに~」

「ごめん、またあとでね」

 静かに、悲しみをにじませた笑みを浮かべてそういうと、彼女は格納庫へ向かっていった。

 頬を膨らませるキリエを残して。

「む~」

 さきほどかなり険悪な空気になっていたのに、キリエのパンケーキ好きは通常運転。

 そのことに、レオナとザラは少しほっとしていた。

 

 

「放っておきなさい、キリエ」

 

 

 キリエは頬を膨らませたまま、エンマに視線を向ける。

「エンマひどい!」

「何がひどいといいますの?」

「だって!ハルカが信用できないから1人で戦って証明しろ、なんて!」

「むしろ、少し前にお互い撃ち合った彼女をすんなり信用するあなたたちの方が、頭がおめでたいのではなくて?」

「頭がおめでたいとは、どういうことか?」

 ケイトは首をかしげる。

「楽観的すぎるというのです。足を洗ったからといって、元空賊を即信用するなど、考えが甘すぎますわ」

 

「そんなこといったら、私はどうなのさ?」

 

 手をあげたのはチカだった。

 コトブキ最年少のチカ。彼女はラハマではなく、今は廃墟になっている町、キマノで育った。

 廃墟になった町は、ハルカが言うように空賊等のアジトになっている場合もあるが、身よりのない子供たちの大事な生活の場にもなっている。

 それでも、生産活動が止まった町で満足な物資が得られるはずもなく、爪に火をともすような生活で、生き抜くために略奪行為、空賊行為に加担することもある。

 チカはキマノで自身と同じストリートチルドレンたちと集まり、皆を束ねるチト兄と一緒に日々を生き抜いた。

 みんなを飢え死にさせないために、放棄されていた鍾馗を使って、空賊行為に及んだ。

 その最中、オウニ商会の、まだ4人だった当時のコトブキ飛行隊に出会い、4人だけでも引かずに挑みかかってきた心意気を気に入り、羽衣丸まで追いかけ、仲間になると宣言。

 以降、一員として行動を共にしている。

 

 もっとも、レオナたちにとっては弾を撃ち尽くした鍾馗など、勝手に離れていくと思ったが、羽衣丸に乗り込んでくるなど想定外で、チカが仲間になりにきたからよかったが、自爆覚悟で来たのなら今頃自分達はどうなっていたことだろうと、思い出すと肝を冷やす経験だったらしい。

 

「あなたと彼女は違いますわ」

 

「何が違うのさ」

「チカは、身よりのないみんなを守るために空賊行為に加担していたのでしょう」

「彼女だって、残された家族を守るために空賊行為に加担した。そこはチカと同じだ」

 

「彼女は空賊にならない道も選べた。選択肢のなかったチカは違いますわ」

 

 チカは廃墟になる寸前だった当時、治安が悪化して住民が日々いなくなっていったキマノで育ったため、他に選べる道がなかった。

 

 一方ハルカは、もともと普通の家庭に育った。

 

 だが、リノウチ空戦で身内がなくなり、彼女が稼がなければ家族を守れなかった。

 とはいえ、10歳前半の子供の用心棒の稼ぎなど知れていて、母親の容態が悪化していくのを見て時間がないことを悟り、やむなく空賊になった。

「彼女は他の道だって選べたのに、自分から空賊に身を落とした。そこは違いますわ」

 空賊で略奪をしても生き残るか、荒野で野垂れ死ぬか。

 

 彼女は選択肢を突きつけられ、前者を選んだ。

 

 それは、生きるか死ぬかの究極の選択だった。

 

「……じゃあ、彼女が黙って野垂れ死にを選べばよかった、とでもいうのか?」

 

「結果としてみれば、そうだったかもしれませんわね」

 

 レオナにザラ、キリエたちは目を見開く。

 確かに彼女が幼い頃に死んでいれば、後に蒼翼の悪魔と呼ばれるほどのパイロットは生まれず、交易に大きな被害も出なかっただろう。

 ただしそれは、あくまで結果。

 彼女は望んで悪魔と呼ばれることになったわけではない。

 

「要するに、エンマってさ……」

 

 キリエが、いつも見せない真剣な顔で言い放った。

 

「意地でも、ハルカのこと受け入れたくない。そうだよね」

 

 エンマが言葉に詰まった。

 

 

「……空賊行為に加担したのに、何の罰も受けず、議員たちの威光をかさに、自分はもう反省した善人です。そんな顔をしている彼女が、気に食わないことは認めますわ」 

 

 

 レオナの表情が鋭さを増す。

「彼女は何の罰も受けていないわけじゃない。マダムを通じて賠償金を払っている」

「過ちを犯したら償いをする、それは当然のことですわ!」

「議員たちの威光をかさにきていないわけじゃないが、それは言い過ぎだ」

「エリート興業のように、一から自分でやり直そうって気があるように見えませんわ」

「もしその過程で、彼女がまた空賊、まして自由博愛連合の手に落ちたらどうする?」

 今ハルカは、オウニ商会のマダム、ガドール評議会のユーリア議員、ハリマ評議会のホナミ議員の3人による共有となっている。

 ラハマ上空で繰り広げられた空戦を見て、彼女たちが、ハルカが有用であると感じたと同時に、敵にしてはいけないと悟り、彼女に首輪をつける意味でこの形をとることになった。

 かつて彼女と戦ったとき、コトブキ飛行隊も少なくない被害を受けている。

 彼女がもし敵になったらなど、想像もしたくない。

 

「要するに彼女を信じているわけではなくて、彼女の力を恐れているだけじゃありませんの」

 

「……エンマ、1度彼女に落とされているとはいえ、いい加減にするべき」

 

 ケイトがいつもの静かな口調で、加減しない内容で言い放った。

「彼女の実力が確かなのは、身を持って理解できるはず。仕事中の今、これ以上彼女と軋轢をうむような発言は慎むべき」

「いいえ、慎みませんわ」

「エンマ、1ついいか……」

 レオナが真剣な口調で問いかける。

 

「どうすれば、彼女を受け入れる」

 

 エンマは、満面の笑みを浮かべ、加減することなく言った。

 

 

「そうですわね。空賊どもを、何回も何回も落とし続ければ、社会のダニから、少しずつ人間に近づいて、受け入れてもいいって思うかもしれませんわね」

 

 

「1回じゃないのか!?」

「私は、1回、など一言も口にしておりませんわ」

 思い返せば、エンマは1度、とか回数制限を設けていない。

 それは、彼女を疑い続ける、と言っているに等しかった。

「まあ、せいぜい、行動で示してもらいますわ」

 彼女はそういいながら去っていった。

 

 

 エンマの背中を見送ると、レオナはため息を吐き出す。

 ハルカの共有者はマダム以外に、ユーリア議員とホナミ議員がいる。2人とも政治家。住民の代表者たる彼らに、やられっぱなしの文字はない。

 やられたら、必ずやり返してくることは想像に難くない。

 もしハルカを万一意味もなく、理不尽な条件で戦わせて失おうものなら、彼らはどんな手を使ってでもオウニ商会をつぶしにかかる可能性が高い。

 特に、問題なのはホナミ議員の方だ。

 彼女は食料生産都市、ハリマの評議員。

 彼女の機嫌を損ねることは、今後ハリマと交易を行いたいラハマにとっても、マダムにとっても望むところではない。

 ハルカの実力なら心配ないと思う一方、万一という不安はぬぐえない。

 だがエンマの条件をクリアしなければ、今後も軋轢は消えない。

 結局、エンマが折れてくれることを期待したいが、実体験がある空賊嫌いがそう簡単に折れるわけもない。

 どうすればいいか、レオナは頭が重くなるのを感じる。

 ふと、額がつつかれる感触に彼女は顔を上げる。

 

「こ~ら、考え事しているでしょ?」

 

 顔を上げれば、付き合いの長い相棒の顔があった。

「ザラ……。そう、だな」

「どうしたの?」

「……隊長は、気苦労が絶えないなって思っただけだ」

「あら、機微に疎い隊長さんも、気苦労があるのね」

「……ああ、そうだ」

「じゃあ、心労を減らすために、一緒に飲みましょう!」

 彼女にとってはただ飲む口実が欲しいだけなのだろうが、そうやって気遣ってくれる、いつも支えてくれるザラの心遣いが、レオナには嬉しかった。

「少しなら、な」

 そういって、皆はジョニーズ・サルーンへ向かっていった。

 

 

 

 静かな格納庫にたどり着くと、ハルカは愛機、レイに歩み寄る。

 身内がなくなった今、彼女と家族をつなぐ唯一の思い出で、幾度となく共に死地を潜り抜け、いつも共にいてくれる相棒。

 彼女はレイの着陸脚に近寄ると、少しうつむく。

「レイ、わかってはいたけど……」

 彼女は、先ほどのレオナやエンマたちのやり取りを全て聞いていた。

 

「エンマさん、私を信じる気は、ないみたい」

 

 だからといって、彼女を責めることはできない。

 ユーリア護衛隊にいたせいで気づかなかったが、彼女のような反応が普通なのだ。

 だから、ユーリア議員の唱える空賊離脱者支援法は、議会をいつまでも通らない。

 一度でも悪行に手を染めた人間は信用できない。

 それが、人間の自然な感情だ。

「でも、少し、きついよ……」

 こんなことになるなら、ラハマで不時着なんかしないで、あの時レイと共に地面に垂直に落下していればよかった。

 そんな考えが頭をよぎるが、さきほどいつもの調子で誘ってくれたキリエを思う。

 ああいう人もいるのだと、信じたくなる。

 

『疑われて当然だ!』

 

「……うるさい」

 

『あれだけのことをしておいて、足は洗ったから許されるなんてこと、あると思うのか!』

 

 彼女は頭を振って、聞こえた幻聴を振り払う。

 

「どうした、1人項垂れて」

 

 振り返ると、そこにはツナギを着た子供のような外観の女性、ナツオ整備班長がいた。

「ナツオ、班長……」

「何かあったのか?便秘が治らず、途方に暮れているみたいな感じだったぞ」

 相変わらずの口ぶりだが、イジツにはデリカシーなどという言葉は入ってきていない。

 それに、エンマとは別の意味の遠慮のなさが、今のハルカにはありがたかった。

 班長は腰に手を当てた状態で、彼女のもとにやってくる。

「聞いたぞ、エンマが無理難題な要求をしてきたんだと?」

「無理難題、というほどじゃありませんけどね……」

「十分な無理難題だ。1人で戦え、なんて」

 狭い飛行船の中だ。噂の広まりは早いらしい。

「……でも、やらないと」

 彼女は表情を曇らせる。

「私のせいで、皆さんとの空間に、変な空気を作りたくないですしね」

 ナツオ班長が目を細め、ジト目で見つめる。

 

「……おまえが、一体何をやったっていうんだ?」

 

 彼女は口ごもる。

 

「何もないだろ?気に入らないやつが、勝手に拒絶して、条件つけてきただけだ。気にすることはない」

 

「……でも」

「だから、エンマがああいっているのはお前のせいじゃない。あいつの個人的な好みの問題だ」

 今こうなった原因は、ハルカは自分にあるように思っているが、彼女は何もしていない。

 彼女の空賊だった、という過去は消せないものであるのは確かで、ほめられた過去ではないが、それをきっかけに受け入れられない、受け入れてほしければ条件を満たせ、という要求を突き付けてきたのはエンマだけだ。

 あくまで、個人的な要求でしかない。

 それに、ラハマでの一件は手打ちしたことになっている。

 それでも……。

 

「それでも、許されない行為を働いたのは、事実ですから……」

 

 ナツオ班長はため息を吐き出す。

 

「かてぇー奴だな」

 

 頭をぼりぼりとかきながら、彼女は言う。

「まあ、てめえがいいっていうなら、やるのは構わん。けどな……」

 ナツオ班長の表情が引き締まる。

 

「ある程度にしておけ。引け目を感じるのは仕方ないにしても、そこにつけ込み続けるのはろくなことじゃないし、おまえが引き続ける必要もない。でないと……」

 

「でないと?」

 

「でないと、いつか自分を殺すぞ」

 

 班長の声が、いつもの威勢のいいものからうってかわり、静かな、でも意志を込めた声だった。

 そのとき、船内に警報が鳴り響いた。

「なんだ!?」

「……来た」

 

 

 

 

 警報が鳴ったことで、船内に緊張がはしる。

「アディ、敵機?」

 船橋内でマダムは索敵担当へ問う。

「2時の方角より、機影が高速で接近中。恐らく戦闘機です」

「数は?」

「計8機です」

「ベティ、現在位置と、彼女からもらった情報を比べて」

「……彼女の予想会敵位置と近いです。機数も同じなので、恐らく空賊かと」

「情報は正確だったわけですか」

「呼びかけを行って」

 不明機とやり取りが行われるが、相手は応じる気配がない。

「相手からの応答、ありません」

 確定した。接近中の機影は空賊だと。

「シンディ、ヤクシまで燃料は?」

「十分ですが、空賊をよける航路に変えた場合、ギリギリになります」

「……そう」

 マダムは、副船長のサネアツへ視線を向ける。

「副船」

「かしこまり!」

 サネアツはマイクを持ち、艦内放送で言った。

 

「総員戦闘配置!戦闘機隊はただちに出撃!」

 

 マダムは副船長からマイクを借り、付け加えた。

「ただし、コトブキ飛行隊は出動待機」

 マイクを切り、副船に返す。

「だ、大丈夫でしょうか、マダム。彼女1人で……。相手は8機ですよ?」

「大丈夫よ」

マダムは船長席に座り、静かにつぶやいた。

 

「さあ、あなたの実力、見せてもらうわよ。ハルカさん」

 

 

 

 

 

「始動準備!」

 エンジンの右下に潜り込んだナツオ班長が、愛用のイナーシャハンドルで始動準備を始める。

「点火!」

 合図でハルカはエンジンを始動させる。

 推力式単排気管が排気を次々吹き出し、3枚羽のプロペラが回りはじめ、勢いを増していく。

 暖気が完了するまでの間に、彼女は補助翼や方向舵、プロペラピッチ等の確認を消化。

 各計器にも異常はない。

 手を振って車輪止めを外させると、彼女は滑走路にレイを誘導する。

 滑走位置で一度止まり、腰のベルトを締める。

 そして、点灯していた緑色のランプが常時点灯に変わったのを確認すると、スロットルレバーを開く。

 徐々に速度を増し、尾輪が浮きかけたのを感じ取ると操縦桿を少し前に倒し、尾部を持ち上げる。

 そして翼が揚力を得た瞬間、羽衣丸から飛び立った。

 何度経験しても慣れない、空に一瞬沈み込む感覚を味わった後、着陸脚と尾輪をしまい、カウルフラップを閉じる。

『こちら羽衣丸。ハルカさん、2時方向から敵機が迫っています。数は8』

「了解しました」

『くれぐれも気を付けてください。無理と思ったら、すぐコトブキを援護に向かわせます』

「彼らの手を煩わせないよう、なんとかします」

『深追いの必要はないわ。彼らを追い払ってくれればいいから』

「そうはいきません。エンマさんとの約束は、あくまで殲滅ですから」

『……気を付けて』

「了解」

 目視で敵が見えてきた。

 機体や羽に、巻き付くように空に浮かぶ雲の模様が、水色の機体に描かれている。

 零戦21型、8機。マキグモ団に間違いない。

 彼女は息を大きく吐き出す。

「……行くよ、レイ」

 彼女はプロペラピッチを低ピッチに固定し、エンジンの出力を上げて戦闘速度へ加速。

 マキグモ団へと、襲い掛かっていった。

 

 

 

「むぅ~」

 羽衣丸の格納庫で1人、キリエは頬を膨らませ足踏みをしている。

「どうした、キリエ?」

「だって!」

 そうこう言っている間も、彼女は足踏みを続ける。

「なんで出動待機なわけ!空賊やってきたら、追い払うのが用心棒の仕事のはずじゃん!」

「わかっているが……」

 レオナはキリエに目配せする。

 その視線の先にいるのは、ハルカに今の状況を要求した本人。

 エンマは自分の隼によりかかり、静かにしている。

「むぅ~。でも、なんでレオナもマダムも承諾しちゃったわけ!?隊長として、彼女を受け入れろっていえばいいじゃん!?」

「そうやって無理やり聞かせても、反発はなくならない。むしろ大きくなるだけだ。なら彼女の言う通り、早めに解消しておく方がいいんだ」

「だからって……」

「折角星が稼げるチャンスなのに!」

 チカも納得できないようで、焦れている。理由は異なるが。

「もう少しの辛抱ですわ」

 いつの間にか、キリエのそばにエンマが来ていた。

「どうせ、手が回らなくなって、救援を求めてきますわ。そしたら、思う存分飛べますわ」

「この状況を要求しておいて、その言い方はないんじゃないか、エンマ」

「彼女も受け入れたことですわ」

 そのとき、船内放送が聞こえた。

 その内容に、彼らは耳を疑った一方、胸をなでおろした。

『空賊の殲滅を確認。繰り返します、空賊の殲滅を確認』

 

 

 

 目の前の状況に、船橋内の乗組員は言葉を失った。

 ハルカの零戦はそばにある雲に隠れたと思ったら、姿を隠して空賊の上方から仕掛け、2機を撃墜。その速度を殺さぬまま背後をとり、21型を1機撃墜。

 残り5機になったところで、マキグモ団が3機と2機に分かれた。

 前方の3機を彼女は追い、1機を撃墜。

 その直後、わかれた2機が彼女の後ろについた。

 発砲しようとした瞬間、彼女は前を飛ぶ零戦と距離をつめ、射線上に味方がくるように位置を変えた。

 発砲できないでいる背後のマキグモ団をしり目に、前を行く1機を落とすとフットペダルを蹴りこみ、操縦桿を引きバレルロール。

 背後に回り込み、3丁の機銃を一斉に放って後ろをとっていたはずの2機を撃墜。

 最後の1機が彼女を引き離そうと機首を下げ降下。

 彼女もあとを追う。

 制限速度に近づき、21型が機首を上げた瞬間、ハルカの零戦は機銃を3丁放ち、最後の1機も荒野へと落ちていった。

 

「ああ……」

 サネアツ含め、皆が言葉を失う中、マダムはキセルの煙を吐き出す。

 

 

―――悪魔の名は、伊達じゃないってことね。

 

 

「アディ」

「え……、は、はい。レーダー上より、空賊の機影の消失を確認」

「副船長、彼女に帰還命令を」

「は、はいただいま!」

 副船長は無線のマイクをとり、帰還の命令を出そうとする。

 

 

『……フフフ』

 

 

 無線から、声が船橋内に聞こえる。

『ハハ……、ハハハ』

 

 そのうすら寒い、どこか楽しそうなのだが、狂気を含んでいるような声に、サネアツは寒そうに両腕で体を抱くようにまわす。

「な、なんでしょう、この声……」

「ハルカさんの、零戦からですが……」

 先ほど出会った彼女からは、おおよそ想像しにくい声に、マダムは表情を引き締める。

「……副船長、彼女に帰還命令を」

 同時に、マダムは席を立った。

「マダム、どちらへ?」

「……格納庫へ行くわ」

 

 

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