荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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行方不明になっていた彼女と合流し、目的地ショウトへと
たどり着いたオウニ商会のメンバーたち。
出迎えにまっていたのは市長に自警団長。そしてもう一人
意外な人物の姿が……。


第9話 目的地到着、意外な待ち人

 予定の航路を順調に進んでいく羽衣丸。

「レーダーに機影なし」

「了解」

「ハルカさん、どこまで行ったんでしょうね?」

 レーダーに機影がないのは空賊の接近がないことなのでいいが、同時にハルカがまだ近づいてきていないという意味でもある。

「まさか、彼女はもう……」

「副船」

 ルゥルゥは、サネアツの言葉を遮った。

「これくらいでやられる軟な人物じゃないわ」

「そ、そうですよね~」

 そういって、サネアツは副船長業務に戻る。

 そのとき、船内にサイレンが鳴り響いた。

「レーダーに機影、数7。高速で接近中。ハルカさんからの情報のあった空賊かもしれません」

「彼女の情報では10だったはずだけど」

「確かに。ですが、会敵予定場所はあいます」

「そう。副船長」

「ハッ!」

 サネアツは船内放送のマイクをとる。

「戦闘機隊の出撃許可する。総員戦闘配置!」

 直後、船体に振動が走った。

「な、なに!なんなの!?」

 副船が慌てる中、上方から降下していく隼1型が3機船橋の窓から見えた。

「シンディ!状況は?」

「船体、及び上部機密バルブに被弾。ヘリウムが少しずつ流出しています」

「この状況でショウトまでは?」

「いけますが、これ以上被害が増えると、無理です」

「レーダーに機影3増えました。全部で10機です」

「コトブキに急いで出撃を」

 直後、羽衣丸を横切っていく隼が火を噴きながら落ちていった。

 まだコトブキは出撃していないはず。

 そして、船橋に向かってきた2機も途中で機銃弾を受け落ちていく。

 直後、船橋を横切るようにして、蒼い翼の零戦が戦闘速度で横切っていく。

「ハルカさん!」

 彼女の零戦は速度を上げ、残り7機の空賊に襲い掛かっていく。

 彼女は速度をなるべく殺さないよう大きな旋回半径を描きながら、速度を生かして戦い3、4、5機目と落としていく。

 残り2機になったところで、空賊は撤退していった。

 彼女は、今回は大人しく逃げていく空賊を見送った。

 きっと、燃料に弾薬が残り少なかったのだろう。

『こちら、ハルカ。帰還が遅くなり、申し訳ございません』

「こちらルゥルゥよ、お帰りなさい」

「後部ハッチを解放します。着船してください」

『了解』

 彼女の零戦は後部ハッチへと向かい、無事に帰還した。

 

 

 

「このアホンダラが!」

「いたあ!」

 愛機レイの風防を開けた彼女を出迎えたのは、またもナツオ班長の拳骨だった。

 再び引きずり降ろされるように機体から下りた彼女は、前回同様正座を命じられる。

「てめえ!一体あたしたちがどれだけ心配したと思ってんだ!レオナがいいっつってんのに、また敵を追いかけやがって!」

「……申し訳、ございません」

 やけにしおらしい彼女に怒りをそがれてしまったのか、ナツオ班長は怒りの表情をひっこめた。

「まあ、無事でよかったけどよ」

「……でもな」

 ハルカは、また肩を掴まれる感触を感じ、錆びた旋回機銃のようにゆっくり振り返る。

 

「私の命令を、またも無視してくれたことは見過ごせないな~」

 

「レ、レオナさん……」

 レオナは彼女に顔を近づける。

「叱責は帰ったら受けるって、君はいったな?」

 彼女は無言でうなずく。

「じゃあ、行こうか」

 彼女はハルカの手首をつかんで引きずっていく。

 その道中、レオナはエンマを見やった。

「エンマ、マダムが言ったが、もうおまえの無茶な要求は彼女にはさせない。いいな?」

「……ふん」

 エンマはその場を去っていった。

「じゃあ、行こうか?」

 レオナは満面の笑みで彼女を引きずっていく。

「い、いやあああ、誰か助けて~」

 後に、ハルカはレオナとマダム、ザラの前で正座の上、説教の嵐を浴び、そして心配をかけた罰として頬やお尻を抓られるなど、少し痛い思いをすることになった。

 その際、もうエンマの要求に従う必要はないが、レオナとザラの指示には従うことなどを約束させられたのだった。

 

 

 

 見えてきたのは、荒野の中に整然と並んだ建物とガレキの山。

 昼過ぎ頃、羽衣丸は目的地の復興途中の町の1つ、ショウトへとたどり着いた。

「やったー、町へ出られる~」

「パンケーキ何があるかな~」

 うきうき気分のチカとキリエは搭乗口から下り、町へ繰り出そうとする。

「まて2人とも。ショウトから出迎えの人が来ているそうだから、先に降りるのはマダムだ」

 マダムは服装を整え、搭乗口からゆっくりとした足取りで下りていく。

 階段の先には3人の人影が見えた。

 

「初めまして、マダム・ルゥルゥ」

 

 白髪が目立つが、誠実そうな初老の男性、ショウト市長が手を差し出した。

「初めまして、ショウト市長」

 マダムは、市長の手をとった。

「今回の依頼を引き受けて下さり、ありがとうございます」

「いえいえ、ショウトのご指名とあらば、お断りする理由はありませんわ」

 2人は握手をしつついくつか言葉を交わすと、市長は庁舎の方へと車で向かっていった。

 マダムに続いて、後ろからはレオナを先頭にキリエたちが下りてくる。

「みなさ~ん、お久しぶりです~」

 出迎えたのは金髪の、胸のあたりの露出の多い、艶めかしい体の女性。

「あ、カミラさんじゃん!」

 かつて、イケスカ動乱の際ともに戦ったショウト自警団の団長。

「ご無事で何よりです~」

 いつものごとく、彼女は腕を伸ばし左右にゆらゆらとゆらしている。

「あはははは、まあ、ねえ……」

 道中の戦闘には殆ど参加せず、1人だけに押し付けていたことを思い出し、キリエたちはうしろめたさを感じつつ、苦笑いを浮かべる。

 そして3人目は……。

 

「あれ、ユーリア議員?」

 

 地面に足を下ろしたハルカが見たのは、険しい表情をしているユーリア議員だった。

「どうしたんですか、こんなところで?ショウトに外遊の予定は、なかったはずですけど」

 彼女の疑問を無視し、ユーリア議員は彼女の右手首をつかむと、強引に引きずっていこうとする。

「ちょ、ちょっと議員!?」

 ユーリアの手をはがそうとするも、その細腕のどこにそんな力があるのかびくともしない。

「ど、どうしたんですか、いきなり。って、どこに行くんですか!?」

 その様子を見て、慌ててレオナがハルカの後ろから抱き着くようにしがみついて引き留めた。

「コトブキの隊長さん、放してくれないかしら?」

「彼女をどこへ連れていくつもりですか!?」

「決まっているでしょ?ガドールへよ。彼女は連れて帰らせてもらうわ」

「まだ依頼は終わっていません!」

 ユーリアは、レオナを、皆をねめつけるように見る。

 

「これ以上、彼女はあなたたちに預けておけないわ!」

 

「なら、今すぐ連れて帰って下さると、嬉しいですわ」

 

 ユーリアは鋭い視線で声の主を見つめる。

「こうしなければならない原因が、あなたにあることはわかっているのかしら?空賊嫌い」

 名前では呼ばなかった。

「そういうユーリア議員こそ、元とはいえ空賊を雇うなど、どうかされたんじゃありませんこと?」

 2人の間に、見えない火花が散る。

「どうかしているのは、あなたの方じゃないかしら?彼女に無理難題を課していたこと、全部隊長さんから聞いたわよ」

 ユーリアは、様々な感情を押し込めた鉄面を顔に張り付ける。

 このときのユーリアは、相手を人間としてみていないことを、ハルカは知っている。

「少し前まで本当に敵だったのですもの。彼女が本当に空賊と繋がりがないか、私たちをハメようとしているのではないか、警戒するのは当然のこと。そのための試験と解釈してください」

「それを何度もさせたのはなぜ?ルゥルゥや、私が雇い主なのよ」

「そうやって議員たちの威光を笠に着て、もう自分は反省した善人ですという顔をして、信用を勝ち取ろうという努力をしていない彼女の事など、どう信用しろというのかしら?」

「あなたの要求を完遂したのでしょう?」

「元空賊でも、やり直したエリート興業のように、自分自身の足で歩こうとしていない人間など、議員たちの庇護のもとにいて罪を問われない人間など、信じるに値しませんわ」

 エンマはものおじせず、議員に向かって言い返す。

「改心したといっても、本当にした悪党や空賊がどれだけいましたの?悪党に改心を期待するなど、天地がひっくりかえることぐらい無理なこと。そうやって、わたくしの家は財産を持っていかれましたのよ」

 彼女はユーリア議員の手前数メートルで足を止める。

 

 

「そんな人間を雇ってそばに置いているなど、あなたこそどうかされたのではなくて?彼女の力に屈した政治家さん」

 

 

 相手が評議員だというのに、エンマの物言いは遠慮がなかった。

 レオナは、内心冷や汗をかき、心臓が破裂せんばかりに脈打っていた。

「……自分の足で歩くと言えば聞こえはいいけど、あなた、彼女にそれができると思っているの?」

「できなければ、信じるにたる人間ではありませんわ」

 一方、ユーリアはため息をはき、ルゥルゥに視線を向けた。

 

 

「ルゥルゥ、あなた、彼らに何も伝えてないの?」

 

 

 コトブキのメンバーはマダムを見つめる。

「……その必要がないと思ったからよ。彼女以外は、皆ハルカさんを受け入れているから」

「その1人が受け入れていないせいで、こうなっているんじゃないかしら?」

 2人の間に沈黙が満ちる。

「あの~、ユーリア議員」

 ユーリアは手をつかんだままのハルカに視線を移す。

「とにかく、一度受けた仕事を投げ出したくはないです。だから、続けさせてください」

 ユーリアは黙る。

「私からも、お願いします!」

 後ろからレオナが言った。

「……隊長さん。あの空賊嫌いのことは」

「私と副隊長が何とかしますから!」

 ユーリアは、レオナとザラを交互に見る。

「……次はないわよ」

 ハルカから手を離し、ユーリアは護衛隊隊長と副隊長を伴って去っていった。

 

 

 

 

「レオナさん、よかったんですか?」

「まだ依頼の最中だ。連れていかれてはこまる」

「でも、エンマさんの件は……」

「もう気にする必要はない」

 羽衣丸の後部ハッチから荷下ろしがされている様を見ながら、レオナは言う。

「思えば、もっと早くに止めるべきだったんだ。こんなこと……」

「……申し訳、ありませんでした」

「……そうだ」

 レオナは右手人差し指を伸ばすと、彼女のおでこに突きつけた。

「君が受け入れ続けるから、エンマの要求は止まらなかった。君にも、責任の一端はあるんだぞ」

「……返す言葉もありません」

 しおらしい彼女に、レオナは表情を緩める。

「まあ、言い分も聞かずに無理に押さえつけるのを好まず、隊長としてエンマを説得しなかった私にも責任はあるけどな」

 もっとも、レオナが言い聞かせたところで、エンマが折れるわけもないが。

「ところで、町へ繰り出さなくてよかったのか?」

 荷下ろしをするということで、パイロットたちには休暇が言い渡されたのだが、ハルカは羽衣丸を離れることはなかった。

「いいんです。……どうせ、したいこともないですから」

 レオナは表情を曇らせる。

「本当に、何もないのか?キリエみたいに、パンケーキが食べたいとか。チカみたいにぬいぐるみを買いたい、とか。ケイトみたいに本が買いたい、とか。ザラだったら、飲みたい、だな」

 隊員たちの行動を把握しているあたり、隊長らしいな、と彼女は苦笑する。

「レオナさんは?」

「私か?孤児院の子供たちへのお土産を買ったり、ザラの酒に付き合ったり、あと筋トレだな。おへやではしるくん。あれが実に良くてな~」

 名前はあれだが、部屋においてあった筋トレグッズだと思い出す。

 ザラは呆れていたが、レオナは大事な宝物を自慢するように楽しそうに話していたのを思い出す。

 そのおへやではしるくんを売ったのが、アレシマの露店、レオナの情報からしてゲキテツ一家のレミだと察したが、つながりを話す必要はないと黙っている。

「……いいですね。皆さんはしたいことがあって」

 彼女は少しうつむきながら言う。

「私は、そんな少ししたいことでさえ、何も浮かんでこなくて。それは結局、何も望むものがないから……」

 家族がいたころは、溢れんばかりにしたいことがあった。

 

 家族で綺麗な風景が見たい。

 

 一緒に空を飛びたい。

 

 一緒においしいものが食べたい。

 

 これから先も、一緒に居たい。

 

 そんなありふれた願いであったが、以前は確かにあった。

 でも、そんな簡単な願いさえ、今の彼女には浮かんでこなかった。

 

「でも、それでも……」

 

「なんか、ハルカが色々考えているのはわかるんだけど……」

 

 ふと、2人の背後から声がいて、同時に振り向いた。

 

「考え込んでこまったときは、お腹を一杯にすればいいんだよ!」

 

 そこにいたのは、赤いコートに身を包んだ女性。

「……キリエさん?」

「もう!さんはいらないよ!よそよそしくてや!」

 いきなり現れたキリエは、ハルカの右手をとる。

「パンケーキ好きの同志なんだから、呼び捨てでいいよ!」

 目の前にあるのは、かつてラハマで敵対する前、好きなパンケーキについて波長があったとき浮かべていた、まばゆい笑顔。

「キリエ……、さん」

「もう!さん付けしなくていいって!」

 すると、彼女は頬をかいた。

「なんだか、照れくさくて」

 家族を守るためにひたすら空を翔けた彼女にとって、友達と呼べる存在はいない。

 接してきたのは、皆年上の大人ばかり。

 ハルカにとっては、さん付けしないでなれなれしく呼ぶことは経験が殆どなかった。

「むぅ~。まあいいや」

 すると、キリエは彼女の右手を握る手に力をこめる。

「一人で色々考えたって、どうせ答えはでないんだからさ!」

 すると、キリエは彼女の手を引いて歩き出す。

「サルーンに、リリコさんのパンケーキ食べに行こう!」

「でも、お昼はさっき」

「甘いパンケーキは別腹!甘い物たべれば、まともな考えが浮かぶって」

 そうやってハルカを引きずっていくキリエを見て、レオナは苦笑する。

「そうかもな」

 レオナも彼女たちを追って歩き出した。

「一人でくよくよ考えても、良くない方向の考えしかでない」

「そうそう」

「それより、おいしいものを食べて、ささやかな幸せを感じながらの方が、よほどいい考えがでそうじゃないか?」

「めずらしい。レオナと意見が合うなんて」

 レオナはクスクスと笑う。

「そうかもな」

「というより、レオナってあまり私たちを頼ろうとしないよね?レオナの考えとか、殆どきいたことないし」

「そうだな。隊長としてしっかりしなければ、そんなことばかり考えているせいだな。ザラに何度も注意されたよ」

 ふと、レオナは思う。

 マダムが、ハルカを直接雇うことにしたのは、彼女のためでもあると。

 彼女を引きずっていくキリエを見て思う。

 一人で色々考えていても、ろくな考えは浮かばない。

 それなら、甘い物に舌鼓をうったり、あるいは親しい人と時間を過ごすほうが、有意義だし、人と話すことで人は何かしらのヒントを得るものだ。

 かつてレオナも、理想に手が届かず彷徨った。

 その末にザラと出会い、彼女を頼り、頼られながら今に至っている。

 きっと、ハルカを一人にしないために、同い年のキリエたちや、少し年長者のレオナやザラたちと接点をつくり、悪い方向へ彼女を向かわせないために、支え合える人間のいる場を作るために、このような形をとったのかもしれない。

「なら、私もサルーンへ行こうかな」

「レオナも?」

「ああ。キリエの愛してやまないパンケーキが、食べたくなったんだ」

「おお!じゃあ、サルーンへ向けて急げ~!」

 そんな掛け合いを見て、ハルカは少し頬を緩めた。

 この場にいるときだけは、心が、胸が、少し暖かくなった。

 

 その後、3人でサルーンへ行き、そろってパンケーキを食べた。

 ただし、ホイップクリームを暴力的なまでに盛ったキリエ専用パンケーキを注文してしまったため、レオナだけは少々胃もたれに苦しむことになったという。

 

 

 

 おやつの時刻に荷下ろしの作業が完了。

 各々、明日の出航に備えることになった。

 自室のベッドで寝転がるレオナは、胃もたれでスッキリしない腹部を押さえながら、考えを巡らせる。

 依然、エンマとハルカの不仲は解決しないままだ。

 とはいえ、その原因はエンマの側にある。

 現状、彼女以外はハルカを受け入れてくれているが、エンマに折れる気配はない。このまま不仲を引きずり続けるのは、間違いなく良くない。

「とはいえ……」

 だからといって、解決策が思い浮かばない。

 今は仕事だから、マダムがやとったから、という理由で強引に押さえつけているだけで、根本的な解決はできていない。

 せめて拒絶さえなければ、いいのだが。

「どうしたものか……」

 だからといって、エンマの無理難題をまたこなすことはできない。エンマが折れるより先に、ハルカがすりつぶされる可能性が高い。

 無論、ハルカの提案も駄目だ。背後から撃たれれば、間違いなく撃墜される。そんなことはさせられない。

「手詰まりだな……」

 あとは、時間が解決してくれることを期待するしかないのか。

 

 そう思った時だった。

 

 町全体に、警報が鳴り響いた。

 レオナはベッドから飛び起きた。

「襲撃!?」

 彼女はブーツを急いではいて、船橋へ走った。

 

 

 

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