されるレオナたち。ユーリア議員を通じて市長と自警団から依頼を
受け、急いで羽衣丸を飛び立つ。
町へ迫っていたのは、イケスカしか使っていない五式戦闘機と、空賊
は持たない爆撃機。旧自由博愛連合の残党と思しき者たちだった。
船橋に到着すると、マダムやキリエたちがすでにいた。
「レオナ、来たのね」
「襲撃ですか?」
「そのようね」
滑走路脇の格納庫から、茶色、緑、砂色の3色の迷彩模様に塗られたショウト自警団の飛燕が姿を表す。
機数は、合計12機。
「やけに数が少ないな」
「カミラさんも飛ぶのかな」
レオナとキリエは窓から様子を眺める。
イジツの都市の中では大きな規模を誇る都市、ショウト。
予算も潤沢な方であるため、液冷エンジンを搭載している飛燕が自警団には配備されている。
だが、イケスカ動乱直前に穴が開く場所の有力候補であったため、イケスカから難癖をつけられて爆撃された。
今は復興に取り組んでいるものの、まだ志半ば。
限られる予算から復興費用を捻出しており、自警団に回せる予算は以前ほど多くはない。
おまけに、イケスカ動乱後の混乱で空賊が増加し、飛行機需要が高まったことで機体や部品の価格が高騰。
復興に多大な予算を割かなければならない現在、かつての規模の飛燕を維持することは難しく、これが限度なのだろう。
迷彩模様に塗られたショウト自警団所属の飛燕が、滑走路から飛び立っていく。
「ショウト自警団より入電。町に迫る所属不明の機影あり。数は約30」
「30だって!」
サネアツ副船長が驚きの声をあげる。
「追加情報。大型の機影が3機含まれるそうです」
「大型の機影?」
「おそらく、爆撃機です」
ハルカが船橋に来た。
「……ただの空賊じゃありませんね」
空賊は略奪行為が目的であり、経済的にも厳しい場合が多いため、維持費がかさむ上に護衛がなければ的にしかならない爆撃機はまず持たない。
「そんなものが維持できて、このショウトに使う理由がある連中といえば……」
レオナは目を細めた。
「旧自由博愛連合の連中か」
「おまけに、今ショウトにはイケスカを失墜させたオウニ商会の羽衣丸にコトブキ飛行隊、ユーリア議員もいます」
どこでその情報をつかんだのかは気になるが、そう考えれば彼らが報復としてこの機会を逃す手はないように見える。
「マダム、どうします?」
「私たちの仕事は、あくまで物資の輸送よ」
マダムはキセルの煙を吐き出す。
「ショウトを防衛しろって依頼がない以上、動く必要はないわ」
「でも!」
「キリエ」
抗弁しようとしたキリエを、レオナが制する。
たった12機の飛燕で、爆撃機を含むとはいえ、30機の敵に挑めばどうなるか、それは目に見えている。
かつてともに戦った戦友たちを見捨てるようで心苦しいか、これは仕方がない。
コトブキ飛行隊は羽衣丸を守ることが仕事。依頼があれば別だが、それがないうちは動くことはできない。
飛ぶかどうかを決めるのは、あくまで雇い主であるマダムだ。
ふと、船橋内に呼び出し音が鳴り、ベティが出る。
「ハルカさん、ユーリア議員からです」
「議員から?」
通信用のマイクを受け取り、応える。
「はい、ハルカです」
『状況はわかっているわね』
聞きなれた、ユーリア議員の声だった。
『自警団だけでは苦戦しそうだから、今すぐ飛びなさい』
「ですけど、今は……」
今はオウニ商会のもとにいる、と言おうとすると。
『出航は明日でしょ?それまでには返すから、一時的に私の命令で動きなさい。報酬はショウト市長と自警団が払うように話をつけたから』
相変わらず決めたら行動が早いユーリアである。
『それに、あなたは護衛隊の一員。このまま私が黙って爆撃されるのを、見過ごすの?』
「それはできません」
『でしょ』
「それで、議員の避難は?」
『空賊相手に、逃げろっていうの?』
平常運転のユーリアだった。
「わかりました」
『お願いね。それから、ルゥルゥに変わってちょうだい』
彼女はマイクをマダムに渡す。
マダムは少し会話を交わした後、口端に笑みを浮かべた。
「ありがと、ユーリア」
話が終わったらしく、マダムはマイクを返した。
「レオナ、ユーリアを通じて、ショウト市長と自警団長から依頼よ。ショウトに向かってくる敵爆撃機の迎撃。すぐに出て」
「はい!」
「ザラたちは直ぐに呼び戻すから、3人で急いで向かってちょうだい」
「わかりました。2人とも、行くぞ!」
レオナはキリエとハルカを率いて、すぐ羽衣丸から飛び立っていった。
レオナの隼を先頭に、右後方にキリエの隼、左後方にハルカの零戦が続き、三角形の編隊を組んで飛ぶ。
「そろそろ、ショウト自警団の情報では接敵するはすだが」
進路上を見つめると、蒼い空に火花が散っていくのが見えた。
「あれは」
進路上には、巨大な機体の爆撃機3機に、護衛戦闘機の五式戦闘機27機が、ショウト自警団の飛燕と交戦しているのが目に入る。
「こちら、コトブキ飛行隊隊長レオナ。依頼を受け、応援に来た」
『レオナさん!ありがとうございます~。って……』
突如、カミラの声が途切れ、沈黙が訪れる。
『レオナさん、その零戦……』
きっと、ショウト船籍の輸送船が襲撃を受けたことがあるのだろう。レオナは即座に言った。
「コトブキの7人目です」
『7人目、ですか?』
「はい。それで」
『……爆撃機は飛龍が3機。でも、護衛に阻まれて』
「わかりました。2人とも、まず護衛の数を減らす。キリエは私の援護。ハルカは独自に動いてくれ」
『『了解』』
五式戦闘機を使っているということは、かつてイケスカにいたイケスカ航空隊か、自由博愛連合のものたちだったのだろう。
自分達のいたイケスカの権威を失墜させた、ショウトへ報復する理由のある連中。
もうイサオはいない。イケスカ動乱は終わった。
それを彼らにわからせるためにも、ここで止めなければならない。
「よし、いくぞ!」
レオナは増速し、五式戦闘機の群れへと向かっていく。
飛龍の周囲に展開する五式戦闘機の1機へ狙いを定め、すれ違い様にレオナは機銃を撃つ。
主翼付け根に機銃弾は命中。護衛の五式戦が落ちていく。すると、落とした機体の数の何倍もの機体がレオナに向かってくる。
舵を切って旋回。その後ろに追随してくる。
追ってきた5機の内の1機が落ちていく。キリエが、レオナに迫る五式を落としてく。
『もう!数多すぎだって!』
キリエの背後に、3機の五式戦が迫る。
「キリエ!後ろだ!」
『え?わきゃ!』
キリエは、背後についた五式の機銃を慌てて回避する。
相手は五式戦闘機27機。こちらはショウト自警団にコトブキの計15機。数の上では最初から劣勢だ。
それに、レオナたちは五式を落としているものの、同時に自警団の飛燕も落とされており、戦力差がなかなか縮まらない。
別の方向から機銃の銃撃音が響く。
ハルカの零戦が、五式戦を次々落としていく。
彼女の後ろに五式戦が4機つく。機銃の弾を回避すべく、彼女は旋回やロールを繰り返す。今のままでは、爆撃機に取りつくことができない。
「流石に好きにはさせてくれないか……」
敵爆撃機は確実にショウトに近づいている。だが、レオナたちは一向に爆撃機に迫ることができない。
『レオナ、このままじゃ』
「……カミラ、なんとか爆撃機にせまれないか?」
『頑張ってますけど、無理です~。もう5機も落とされちゃって~』
泣きそうな声でショウト自警団長はいう。
「とにかく、護衛を減らさないと」
機銃の発射スイッチを押し、目の前の五式を1機落とす。
すると、背後に降下してきた五式が割り込む。即座にキリエが撃ち落す。
それでもまだ五式戦闘機の護衛はいなくならない。
『こちらショウト管制塔。敵爆撃機が上空にくるまで、残り10分!』
「時間がない!こうなったら……」
無理をしてでも爆撃機に迫るしかない。
『レオナ後ろ!回避!』
後ろに五式が3機ついていた。
急いで機体を横滑りさせ、機銃を回避する。
その3機が、上空から飛来した機銃弾に落とされた。
『レオナ、無事!?』
無線で聞きなれた声が聞こえた。聞き間違えるはずのない。
ザラを先頭に、残り4人のコトブキ飛行隊の隼が参戦した。
『……レオナ、状況は?』
「敵は飛龍が3機、護衛の五式が残り20機前後。ショウト上空まで、残り9分ほどだ」
ショウト到達までに、飛龍を止めなければならない。
「私たち6人で、護衛の五式戦を引き離す。その隙にハルカは、飛龍を撃ち落せ!」
『『『了解!!!』』』
「よし。コトブキ飛行隊、一機入魂!」
『『『はい!』』』
6機の隼は戦闘速度へ加速し、手近な飛龍へ向かっていった。
レオナたち6機の隼が2機ずつの編隊を組み、手近な飛龍へと迫る。
槍の切っ先のように先頭を進むチカと援護のケイトが、機銃を撃ちながら護衛を突き破り飛龍に迫るが、離脱。他の4機も飛龍を離れていく。
彼らを追って、護衛の五式戦闘機が離れた。
『今だ!』
「了解!」
ハルカはスロットルレバーを開いて増速。飛龍の正面に躍り出る。
飛龍の機首の機銃が火をふく。それを回避しつつ、彼女は高度をとる。そして飛龍の上空で宙返りすると、機首を下に向け降下する。
「……ぐっ」
かかるGに耐えながら、彼女は照準器の中心に飛龍の左主翼の付け根をとらえる。
スロットルレバーにつけられた機銃の引き金を引いた。
機首の13.2mm機銃と主翼の20mm機銃が一斉に咆哮を上げ、銃弾を飛龍に叩き込む。
衝突を回避するためコースを変え飛龍と交差。
直後、何発もの銃弾が撃ち込まれ、主翼に開いた穴から炎があがった。
炎は大きさを増し、瞬く間に機体を飲み込み、1機の飛龍が落ちていった。
「まず1機」
次の機体に向かおうとすると、前方から五式戦闘機が機銃を撃ちながら向かってくる。それを回避すると、今度は後ろに2機ついてきた。
「必死なのね、彼らも」
後ろについた五式に機銃弾が飛来し、彼らはその場を離れた。
『護衛機はまかせろ!君は残り2機へ!』
「はい!」
レオナに促され、彼女は速度が落ちないよう大きく旋回半径をとり、2機目の飛龍の正面に回り込んだ。
機首から機銃が放たれるが、回避。
そして彼女は、飛龍の片側のエンジンに向けて機銃を3丁一斉に撃ちこむ。
お互いが向かい合って進むために、正面からの攻撃可能時間は短いが、エンジンの正面は防弾が施せない。13.2mmと20mm機銃を一斉に撃ちこめば、短時間で落とせるはず。
機首をあげ、飛龍と交差する。片側のエンジンから、火と燃料を噴きながら落ちていく機体を確認した。
「もう1機は……」
最後の1機を見つけたとき、彼女は凍り付いた。
最後の飛龍は高度を下げつつ、ショウトに迫っていた。
『敵爆撃機接近中!爆弾倉を開けた!ショウト上空まで、残り5分!』
彼女は操縦桿を前に押し、機首を下げ降下に入る。
そしてスロットルレバーを開き、降下も加えて加速しつつ飛龍を追う。
通常の52型なら660km前後が制限速度だが、丙型なら700kmを越えても耐えられる。
彼女はある程度降下すると、操縦桿を引いて機首を上げる。
低速での旋回性能を重視している零戦は、その速度域では操縦桿が軽いが、600kmを越える高速では操縦桿が突如重くなる。
「くっ!」
スロットルレバーから手を離し、両手で操縦桿を力一杯引いて機首を上げる。
進路上には、飛龍の機体がある。
もう上昇して、上や正面に回り込んでいる時間はない。
―――だったら、下から!
照準器を覗いて狙いを定め、左手でスロットルレバーを握りなおし、引きがねを引いた。
機首の機銃弾は胴体下に命中し、左右の主翼の20mm機銃は飛龍の左右のエンジンに命中する。
ある程度撃ちこむと、左右のエンジンから炎があがった。
直後。
『ハルカ!回避して!』
キリエの声だ。視界には、飛龍の機体が間近に迫っていた。
急いでスロットルレバーを絞る。フラップを下げ、機体を180度ロールさせる。
それでも衝突コースは変わらない。
『ぶつかるぞ!』
レオナの焦る声が無線から響く。
操縦桿を手前に目一杯引く。
彼女曰く、このときは流石に危なかったと、後に回想する。
天地が反転した零戦と、高度を下げつつある飛龍は、機体下面同士の距離を縮めることなく、零戦が追い越し地上に向かって降下していく。
衝突は、免れた。
「……はあ~」
機体を水平に戻した彼女は、大きく息を吐き出す。後ろを振り返れば、最後の飛龍が荒野へと落ちていくのが確認できた。
あたりを見回せば、護衛の五式戦闘機たちが撤退を始めている。
「危なかった……」
今になって、両手が震えていることに気づく。
『ハルカ、無事!?』
キリエの声だ。
「はい。無事です。……少し危なかったですけど」
『肝を冷やしたぞ、こっちは』
少し怒り気味のレオナの声。
『爆撃機を3機とも落としたことは大きい。だが、引き換えに君を失っては洒落にもならない。以後、気を付けること』
「……はい」
『コトブキのみなさ~ん』
カミラさんの嬉しそうな声が操縦席内に響く。
『ショウトを守って下さって、ありがとうございます~!』
『別に、我々は依頼をこなしただけだ』
『それに、ラハマ防衛戦やイケスカ動乱でも一緒に戦った仲じゃん』
『それでも、お礼を言わずにはいられないのです~。報酬、楽しみにしていてくださいね~』
『え、期待していいの!』
『マロちゃんもう1匹買えるかな』
『……全員、着陸するまでが任務なんだぞ』
浮足立つキリエやチカを、レオナ隊長がなだめる。
皆、ショウト自警団と並び、空港の滑走路を目指した。
ショウト自警団の飛燕が全機着陸した後、コトブキ飛行隊もレオナから順に着陸していく。
残りが、エンマ、ハルカになったときだった。
エンマの隼が突如進路を変え、空港から離れていく。
「エンマ、どこに行くんだ?」
『何か光るものが見えましたの。敵影だったら大変ですから、確認してきますわ』
「敵影?」
だが、コトブキはエンマを除く全員がすでに着陸し、エンジンを停止させている。
「ハルカ、万一の用心だ。エンマを追ってくれるか」
『了解』
ハルカの零戦がエンマの方向へと向かっていく。
「どうかしたの?」
ザラにレオナは応える。
「何か光るものを見つけた。敵影だったら困るから、確認してくると」
すると、ザラは怪訝な顔をする。
「敵影が近づけば、ショウトのレーダーに引っかかるんじゃない?」
いくら復興途中とはいえ、空賊が増えている現在、監視体制をおろそかにすることはない。まして、ショウトほどの大都市なら、なおのこと。
「じゃあ、なんでだ?」
「他に何か思い当たること、ない?」
ザラに指摘され、ゆっくり思い出す。
敵影が嘘だとすれば、彼女は一人になる必要があったのか。
いや、ハルカを向かわせた時点で、それは達成できない。
なら、ショウトから少し離れる必要があったのだろうか。
なぜ?
誰かに見られたくない秘密の用事……。
でも、ハルカももう追いついているころだろう。なのに、帰ってくる気配がない。
彼女がついていっても問題ない、レオナたちに見られなくない用事……。
そのとき、レオナはあのことを思い出し、緊張が走った。
「まさか……」
「どうしたの?何かわかった?」
ザラの優しい笑みを無視し、レオナは隼の操縦席に滑り込んだ。
今にして思えば、ハルカを共にいかせたのは失敗だったと思い返す。
「班長!イナーシャを頼みます!」
「どうしたんだ?帰ったばかりじゃ」
「エンマを追います!急がないと」
「敵影を見に行ったんじゃないの?」
キリエの疑問に、レオナは叫ぶように言った。
「急がないと!ハルカが危ない!」
「「「……へ?」」」
焦るレオナをよそに、他のコトブキのメンバーは、首をかしげるのだった。