疑問に思っていたことを問いただす。
そのころ、羽衣丸に帰ったキリエたちは搭乗口で何やら神妙な顔をして
待っていたエンマに戸惑う。
エンマは、元空賊の彼女に何やら話があると2人になるが……。
第3章最終話になります!
コトブキの3人が去った会議室で、マダムが口を開いた。
「流石政治家、あなたを話術で打ち負かすのは難しいわね」
「あなたが言う?それに、ウソは言ってないでしょう?」
「そうね。彼女が活躍してくれれば、費やしたお金以上の利益が得られると見込んだ。だから彼女を賞金首から外すのに協力した」
「それでも少し財布には痛かったけど、まあ構わないわ」
ハルカが賞金首だったのは事実で、手配書を取り下げるよう働きかけたことも、相手の頬を札束で張り飛ばしたのも本当のことだ。
もっとも、自警団に支払った額は相当なもので、実に羽衣丸が3隻建造できてしまうほどの額になり、流石の政治家や有名な商会の社長でも財布に響くものだった。
「ルゥルゥ。本当は雇い主から外れて欲しいところだけど、私じゃコトブキのような環境は用意できない。だからって、胡坐をかかないでちょうだいよ」
「勿論。こちとら商人よ。報酬の分は働いてもらうけど、働いてくれた分はしっかり払うし、環境だって用意するわ」
「それより今回は、できれば、もっと早くに空賊嫌いを止めて欲しかったわ」
「それについては申し開きのしようがないわ。あそこまで頑なだなんて、私も思わなかったもの」
「そう。まあ、そういうことにしておいてあげるわ」
ユーリアはそれ以上追求しなかった。
「ところで、1つ聞いてもいいかしら?」
ユーリアはルゥルゥを見つめる。
「あなたは空賊離脱者支援法の有用性を証明するための手段、私は賠償金の請求がしたい。これはわかっているわね?」
彼女は黙ってうなずく。
「それじゃあ、ホナミ議員の真意は何かしら?」
「……なぜ?」
「だって、ハルカさんを雇いたいって真っ先に名乗りを上げたのは彼女だった。そこに続いたのが、あなたと私。それに、ただの強い用心棒が欲しいにしては高額な費用の支払いにも応じたし」
ルゥルゥは少し怪訝な視線で、ユーリアを見つめる。
「ただ自警団より強い用心棒が欲しいにしては、見ず知らずのお尋ね者だった彼女を雇うっていうし、行動が過剰に見えるのよ。それに、ホナミ議員はあなたと協力関係にある。敵になる心配がない以上、彼女の行動には少し疑問が残るのよ」
「……妙なところで疑り深いんだから」
「この荒野で商売をするには、これくらいでないとやっていけないの」
微笑みながら返答を期待して待つルゥルゥに、ユーリアはため息を吐き出した。
「……他言無用で頼むわよ」
「ええ、勿論」
そしてユーリアは、ホナミ議員の真意と、彼女とハルカの関係、最近分かったことをルゥルゥに話した。
「なるほど、それはそれは」
相変わらず笑みを浮かべるルゥルゥ。
「まさか、ハルカさんがホナミ議員の血縁者だったとはね」
「ハルカの母親が、ホナミの姉だった。姉が残した最後の遺産。守りたくもなるわよ」
「それに加えて、ホナミさんの父親、ハリマ評議会の現議長、カスガ氏の孫」
「ついでにいうと、彼女の母親、現職のハリマ市長、シズネ氏にとってもね」
ホナミ議員の家は政治家の一家。彼女は評議会の議員、父親は評議会の議長、母親は現職の市長をつとめている。
「随分な身内がいたものね」
ハルカがいた父方の家系は、もう誰も残っていない。しかし、母方はまだ存命な方がいて、それがホナミ議員であり、カスガ議長、シズネ市長になる。
「最近、カスガ議長から手紙が来たの」
「なんて?」
「あの子に、ハルカに会いたい。会わせて欲しいって。アレシマの件が新聞にのって、ハリマで孫の生存を知ったのでしょうね」
「彼女は元とはいえ、空賊よ」
「……そんなこと関係ない。彼女がそうなってしまったのは、大変だった時期に手を差し伸べられなかった私たちの責任。生きていてくれただけで嬉しい。ホナミから説明をしてもらったけど、そういったそうよ」
「でも、彼女はホナミ議員を知っているような素振りはなかったように見えたけど……」
「……覚えていないのでしょうね。色々ありすぎて」
彼女が幼かったのもあるかもしれないが、小さい頃から空戦の日々で、余分なものをそぎ落とさなければ生き残れなかったせいもあるだろう。
「……随分な子を拾ったのもね、ユーリア」
「何が?」
「だって、ハルカさんを味方につけている間は、少なくともハリマはあなたの敵になれないもの」
彼らは少なくとも、孫を、姉の遺産を敵にしたくはないだろう。
「そういうあなたは、ルゥルゥ」
マダムは表情を引きしめる。
「これから、ハリマとの交易を行いたいあなたにとって、彼女が味方にいるというのは交渉の上で大きな材料になるんじゃないかしら?」
「……今更ね。商人は、使えるものは何でも使うものなの」
「政治家も同じよ」
「そうね。それにしても、あの子が無理な条件で戦わされているのを知ってすぐ飛んでくるなんて、随分入れ込んでいるみたいね」
「……仕方がないじゃない。可愛いんだから」
ルゥルゥは笑い出した。
「な、何がおかしいのよ!?」
「あなたの口から、可愛いなんて言葉を聞くとは、長生きはするものね」
「そんなに年老いたつもりはないけど」
笑いこけるルゥルゥを放置して、ユーリアは表情を引き締める。
「ルゥルゥ、わかっているわね。もしこれ以上」
「ええ、勿論。もうエンマの無理難題はさせないから、安心して頂戴」
「できればもう少し早くそういってほしかったわよ」
「悪かったわ。でも、もう心配ないと思うわ」
「……そうだといいけど」
町で時間を過ごしたキリエたちが、格納庫への階段を上っていく。
「あ……」
登り切った搭乗口で、皆固まった。
そこには、神妙な顔をしたエンマが立っていた。
「え、エンマ、あのさ……」
「ハルカさん……」
キリエたちを無視し、彼女は話しかける。
「少し、お時間をいただけないかしら?」
キリエたちが目配せする中、彼女は頷いた。
「ええ、いいですよ」
2人が向かった先は、格納庫後部ハッチのそば。
「それで、なんですか?」
すると、エンマは振り返った。
「ごめんなさい!」
彼女は勢いよく頭を下げた。
「その、あなたのことを疑って、無理な要求を何度もさせて……。あなたに向かって、発砲して……。私の働いた無礼の数々、本当に、申し訳ございません!」
エンマは身を固くした。
ユーリア議員に言われて、今更ながらに気付いた。
嫌いなものと同じになる。それは、もっともあってはいけないこと。
かつて自分の家にされたことを、彼女に形はどうあれ、エンマはしてしまった。
例えゴロツキ飛行隊と言われようとも、彼女は自身の数少ない居場所を守りたかった。
そこに、自分の嫌いなものが来ることがいやだった。
思い返せば、ハルカは自分が知っている悪党や空賊とは少し違っていた。
でも空賊だと、自分が見てきたものと同じだと。そうレッテルと貼って彼女を見ようとしていなくて。
そうしなければ、空で空賊と対峙したとき、機銃の引き金を引くのをためらってしまう。
でもその結果、自分が嫌いな、社会のダニといってはばからない空賊と、同じ手口を使っていた。ひどい言葉もなげかけた。
遂には、実弾を彼女に撃ちこもうとした。
散々な目に会わせておいて、謝って済む問題ではない。
どんな言葉が来るか、沈黙が重く背中にのしかかる。
「なんで、謝るんですか?」
「……は?」
罵倒されると思っていたのに、出てきたのは意外な言葉で。
「私は、あなたに謝られる理由はありません」
笑みを浮かべるハルカに、エンマは呆然とする。
「な、なんで謝るのか?謝られる理由が、思い当たる節がないというのかしら!?」
「ええ」
エンマは、別の意味で驚きを隠せなかった。
思わず、彼女の胸倉をつかみ、格納庫の壁に押し付けた。
「なんでですの!私があなたに何をしたのか!あなたはわかっているでしょう!」
「ええ、まあ……」
「ええ?まあ?なんで恨み言の1つも言わないのですの?なんで私を罵ろうとしないのですか?」
「なんでって、罵る趣味なんて、ありませんから……」
「そんな趣味あるとは思っておりませんわ!なんで……」
エンマは俯き、震える。
「なんで!あの時私を撃たなかったのですの!?」
味方にむけて発砲する。それは、もっともしてはいけない行為。あれだけのことをすれば、普通は逆に落とされるか、最低でも罵倒は避けられない。
「あれだけのことをされて、なんで恨み言の1つも言わないのですの!なんで謝る事実がないのですの!なんで……」
「……私は、言いましたよね」
少し低めの声に、エンマは顔をあげる。
「私はあなたを落とした。だから、1度だけなら報復してもいい、と。これで恨みっこなし。そこで私があなたを罵倒したり、まして落としたりしたら、この仕返し合戦はどこでおわるんですか?」
いわれてみればそうだが、だからといって心は納得してくれない。
「……でも」
「それに、エンマさんの反応が普通なわけですし、自分を落とした相手を受け入れにくいのも事実。なので、恨みなんて初めからありませんよ」
エンマは口をつぐんだ。
自分のしたことを簡単に許してもらえるとは思わなかったが、まさか謝る事実がないなどといわれるなど、誰が予想できたか。
「でも、あくまで私は仕事で来ているんです。私と仲良くしてなんて言いませんが、仕事に支障が出るほどの拒絶はしないでもらえると、助かります」
苦笑しながら、彼女は言った。
「はあ……」
エンマはため息を吐き出した。
「わかりましたわ」
「ありがとうございまず」
エンマはため息を吐き出した。これまで彼女が見てきた、どの空賊とも一致しない彼女の様子に。
「……調子狂いますわね」
「何か?」
「なんでもありませんわ」
「そうですか……」
「ええ。お時間をとらせて申し訳ありません。話はこれで終わりですわ」
直後、格納庫の床を壊さんばかりの力で踏みしめる音がした。
「なら……、今度は私からだ」
聞き覚えのある声に、2人は一斉に振り返り、青ざめた。
「あれだけのことをして、何もなく終わると思ったか?」
額に青筋を浮かべ、背後に炎が幻覚で見えるほどの怒りをあらわにしたレオナだった。
「今回の件で悪いのはエンマだが、それを受け入れ続けたハルカにも問題はある。それに」
レオナに視線を向けられ、ハルカは身を縮こまらせる。
「君はさきほど、責めるなら私に、そう言ったな?」
「は、はい……」
「自分が口にしたことの責任は、きっちり取ってもらう。2人とも、これから私から説教だ!」
「「ひぃ!」」
「残念だけど、今回は私も怒っているからね~」
隣には、柔らかな口調とは裏腹に怒りの表情を浮かべるザラがいた。
「じゃあ、まずは2人とも正座して頂戴。今すぐ!」
即座に2人は格納庫の床に正座した。
その後2人は、レオナとザラに数時間以上にわたって説教の嵐を浴びたのは、言うまでもない。
かつて世界の中心と言われたイジツ最大の都市、イケスカ。
その中央にそびえたつのは、ユーハングの文化の産物らしきものを歪に組み合わせた建築物、イサオタワー。
その頂上にある城の主の過ごす部屋で、一人の男性が電話で誰かと話をしている。
「そうか。ショウト攻略戦は失敗。またしても件の零戦か。いや、ヒデアキ、君のせいじゃない。それに目的は完遂した。次の命令まで待機していてくれ」
男性は電話を切った。
そして広々とした机に置いた、1つの写真立てを見つめる。
「まさか、君がユーリアやコトブキ飛行隊の側につくとは、残念だ」
男性はため息を吐き出す。
ショウトの攻略を、彼はヒデアキに命じた。
自警団の飛燕の稼働機数が減った今なら、落とすことはたやすいと。
おまけに、ガドール評議会の内通者によって排除対象のユーリア議員がショウトに向かったという情報がもたらされた上に、ヒデアキが空賊からコトブキ飛行に羽衣丸までいるという情報を持ってきた。
非常の都合のいい状況。このときを、逃す手はないと。
だが、フタを開ければ攻略は失敗。
その原因は、先のイケスカ動乱でイサオ様の野望を邪魔したコトブキ飛行隊と、悪魔と呼ばれる零戦。
ただでさえ厄介なものが組み合わさった。
「これほど面倒なこともないな」
ただ、男性の興味は別の所にあった。ショウトを襲撃する前に、彼はヒデアキに空賊にある機体を提供し、それで羽衣丸を襲うよう頼んだ。
機体上面を暗い青色で、下面を白色、そして赤い稲妻を描いた零戦22型で。
その機体を見て、あの蒼い翼の零戦のパイロットは反応し、加減して撃墜したり、追いかけたりした。
「どうやら、覚えてくれていたようだな」
写真立てを見つめながら、男性は満足げに笑う。
「だが、敵になるなら君は脅威なだけだ。味方になってくれるなら喜んで迎え入れるが、どうしてもたてつくというなら……」
男性は目を鋭く細める。
「そのときは、私が君を始末する。もっとも、たてつこうなどという気を、起こさせるつもりはないがな……」
静かに、彼は言った。
「俺の理想を、大義を知ればな。せいぜい、それまで生き延びるんだな」
口角を上げ、写真を見ながら。
「なあ……、ハルカ」
1人しかいない部屋で、彼のつぶやきを聞いたものは、誰もいなかった。
ここまで読んでくださった方々、ありがとうございました!
第3章「元空賊と空賊嫌い」はここまでとなります。
第3章は、エンマのファンの方々には嫌な内容となってしまい
申し訳ございません。
私はエンマが嫌いではありません。が、元空賊を主人公に据えて
いるので、エンマと同じ空間にいたらこうなることは避けられ
ないだろうと思い、3章は書きました。
後日短編を投稿する予定です。
4章開始までまたしばらく間が空くと思いますが、お付き合い
頂けたら幸いです。