荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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さかのぼること、およそ20年前。

イジツでも指折りの工業都市ナガヤ。その町の自警団に、
日々互いの腕を競い合う2人の仲のいいパイロットがいた。
空賊の襲撃にあいながらも、それなりに充実した日々を
送る2人。

だが、ある空戦がきかっけで、この都市は危機的状況に追い
込まれることになる。




第4話 帰らぬ親友、残った約束

 20年ほど前の、ナガヤ上空。

 

 今日の空賊の襲撃を退けた、零戦32型と52型丙が滑走路に進入してくる。

 32型のパイロットは、機体を格納庫の前まで誘導すると、エンジンを切った。

「ふう……」

 操縦席から下りてきたのは、若かった当時の、後のナガヤ市長のクラマ氏。

 彼は地面に足を下ろすと、一緒に着陸した52型丙へ向かっていく。

 風防が開くと、操縦席からは黒い髪を短く切った、優しい顔つきの男性が下りてきた。

「今日も、君の星が多かったな」

 彼は、パイロットの名を呼んだ。

 

「ミタカ」

 

 その男性は、後に悪魔の零戦として名を知られる、ハルカの父親になる男性だった。

「今日は、な。昨日は君の方が多かったから、これでようやく並んだな」

 52型丙のパイロット、ミタカはクラマに微笑みながら返す。

「そうだな。もっとも、町を守る自警団員が、星を競っているってきいたら、住民はどう思うだろうね」

「そうかもな。雇われ飛行隊に比べて安い給料でも文句を言わず、率先して町を守る犠牲になる自警団員が、星を競うのを楽しむとは何事か、って言われるかも」

「ハハハ、そうだね」

 2人は、20年ほど前はナガヤ自警団に所属し、日々切磋琢磨し、常に撃墜数でトップを競い合うほどの腕を誇っていた。

 出会ったのはもっと幼い頃で、同い年でもあったので、子供の頃から二人の付き合いは続いていた。

 

「お~い、ミタカ」

 

 格納庫の奥から声がする。

 声の主は、白髪交じりの年をとった男性。

「あ、タカヒトさん。こんにちは」

「こんにちは、クラマくん。いつも息子が世話になっているな」

「世話だなんて……。もう、長い付き合いですから」

 2人の間柄は、親友ともいえるほど良好だった。

「ハハハ、それもそうか」

 声の主はこの町、ナガヤを救ってくれた救世主、ミタカの父親のタカヒトさん。

 彼が工場の工作機械を直し、技術指導してくれたおかげで今のナガヤがある。

「ところで、今日はどういった用事で?」

「おっといかん。ミタカ」

 タカヒトさんは自身の息子に視線を向ける。

「アスカさんから伝言だ。……生まれたそうだ」

 それを聞いた途端、彼はタカヒトさんにとびかかった。

「と、父さん!本当なのか!?」

 年老いた父親を前後に揺らすという彼らしからぬ行動を、タカヒトさんは冷静に止める。

「嘘ついてどうする?車で来た、病院へ行くぞ」

 後日、親友に3人目の子供が生まれたことを聞かされた。

 

 

 

「3人目だな。おめでとう」

「ありがとう……」

 クラマの祝福を、ミタカは照れ臭そうに顔をそらす。

「それで、写真を肌身離さず持ち歩いているなんて、親ばかだな君も」

「なんで知っているんだ!?」

「格納庫の一角で突然にやついたら、気づきもする。傍目には怪しいおやじにしかみえないけどね」

「子供や妻には黙っていてくれ!恥ずかしくて死にたくなる!」

 両手を合わせて真剣に頼み込む友人に、クラマは少し引いた。

「いいじゃないか、親ばかで?」

「子供や妻には、かっこいい父親でありたいんだ!」

 そこは譲れない一線なのだろうか。

「それで、なんて名前にしたんだ?」

「……笑わないでくれるか?」

 クラマは頷く。

 

「……ハルカ、だ」

 

「はるか……?何か意味でも?」

「父さんがいうには、ユーハングの言葉で、とても遠く、という意味らしい」

「なんで、そんな言葉を名前に?」

 

「……どこまでも続く、この広い空をかけ、私や、皆が見たことのない景色を、私達にかわって見に行ってくれる。伝えてくれる。そのために、自身で道を切り開いていってくれる子であってほしい。そんな願いからだ」

 

「なるほど……。相変わらず、ロマンを忘れないね」

「……悪いか?」

「いや、純粋で、真っすぐでいいと思う」

 そうやって微笑むクラマを、ミタカは笑っていると解釈したようでジト目で返すが、全く効果はなかった。

 

 その後、ハルカが成長するにつれ、愛しの妻に似てきただの、目元は自分に似てくれただの、クラマは惚気話を散々聞かされることになった。

 家族が増えるにつれ、ミタカは自警団の収入では苦しいからと、ナガヤで有志を募って飛行隊を結成し用心棒稼業を始めた。

 ほぼ同時期に、クラマは評議会議員への道を歩み始めることになった。

 

 

 そんな、ある日のことだった。

 

 

「ミタカ、大丈夫なのか?」

 クラマは、飛行場で不安そうな表情を浮かべていた。

「大丈夫だ。私の腕は、君が一番よく知っているはずだ」

「そうだが……」

 彼とミタカは、共に自警団で切磋琢磨してきた間柄。それでも、不安は尽きない。

 

「だが、今回の依頼は断った方がいい」

 

 今回の依頼は、空戦への参戦だった。ミタカと、彼の息子に娘、それに報奨金につられた有志や自警団員たちも出発準備を進めていた。

 

「今回は空賊が襲ってくるとか、そんな問題じゃない!参戦する勢力が勝つか負けるまで終わらない!生きて帰ってこられるか、そんなことさえわからないんだぞ!」

 

「戦闘機に乗ったそのときから、その可能性とはいつも隣り合わせ。今更だ」

「君には愛する奥さんや、まだ幼いハルカ君、生まれて間もない彼女の弟や妹だっている!君が死んだら、彼らはどうなる!」

「娘のアカネ、息子のカズヒラがどうしても参戦するといって聞かなくてな。私は、彼らを無事に家に帰すために行くんだ」

 ミタカの子供で、ハルカの姉と兄にあたる2人は、当時戦闘機にのり、腕もよく血気盛んな年ごろだった。

「だからって……」

 クラマは、なんとかあきらめてほしくて言葉を探す。

 運び屋の用心棒と違い、今回の依頼は空戦。

 生きるか死ぬかの二択しかない。まして、彼には家で待つ家族がいる。

 でも、彼は親友が一度決めたことを簡単にあきらめはしないこともわかっていた。

「ただ、まあ、そうだな……」

 ミタカは、彼に振り返った。

「クラマ、1つ頼まれてくれないか?」

「……何だ?」

 

 

「もし、私たちが帰ってこなかったら、妻やハルカのことを、助けてやって欲しい」

 

 

 彼は目を見開いた。

 だが、間もなく落ち着いた声で返した。

「ああ……、約束する。だから……」

 クラマはミタカの手を握り、彼の目を見つめていった。

 

 

「心置きなく、戦ってこい。そして生きのこって、かならず帰ってこい!」

 

 

「……ああ、約束する!」

 2人は、力を込めて手を握り合った。

 間もなく、参戦すべく彼らはナガヤの飛行場を飛び立った。

 親友の、ミタカの零戦52型丙も共に。

 この空戦こそが、後にリノウチ大空戦と呼ばれる空戦となった。

 ナガヤより参加した者たちは、誰一人かえってくることはなかった。

 ハルカの父親で、クラマの親友だったミタカも空戦の最中、撃墜されたのだった。

 

 

 

 

「……ミタカ」

 親友の名の刻まれた墓石の前で、クラマは手を合わせる。

 空戦が終結してから2週間以上たつが、参戦者は誰一人帰ってこなかった。

 彼の親友も、帰ってこない。

 クラマは墓地をあとにし、帰路についた。

 そのとき、町にサイレンが鳴り響いた。

「空襲警報!空賊か!」

 クラマは手近な対空機銃へと走る。地上で住民たちが戦闘準備を進める一方で、滑走路からは自警団の機体が離陸していく。

 対空機銃の銃座についたクラマは、機銃の残弾や各部の確認を手早く終えると、薬室に初弾を装填し、銃口を上空へ向ける。

 間もなく、上空に全体が黒く塗られた零戦21型が飛来した。

『ナガヤ管制塔より各員。敵は空賊と思われる、21型が12機だ』

 機銃の引き金に指をかけ、発射準備を完了。

 照準器越しに、敵機が近づいてくるのを待つ。

 そして、21型が町の上空にやってきた。

 自警団の紫電と零戦32型が空賊機と交戦する。

 2つの陣営がヘッドオンで交差する。すれ違い様機銃を放った空賊の21型の前に、紫電と32型が4機落ちていく。

 敵は12機、自警団は16機が上がっているが、さっそう戦力が拮抗してしまった。

 自警団の機体の動きは、空賊機に比べぎこちないものだった。

 リノウチ空戦で凄腕や中堅が参戦したために、今残っているパイロットの練度は著しく低い。

 彼らは今、飛んでいるだけでやっとやっとの子供のようなものだ。

 自警団の機体は数を減らしていく。

 彼の対空機銃の上空に、空賊の21型が向かってくる。

 照準器を覗き、予想進路上に銃口を向け、引き金に指をかける。

 

 

 そのときだった。

 

 

 突如、21型1機が主翼付け根から火を噴いて落ちていく。

「え……」

 間もなく、落ちた21型のすぐ前方を飛んでいた2機が撃墜される。

 見れば上空を飛んでいる機体の中に、1機だけ97式戦闘機が混じっている。

 その機体は、灰色に塗られた機体に、主翼には蒼い線が斜めに引かれ、胴体と主翼には白を縁取った水色の丸が描かれていた。

 その機体は、かつて親友のミタカが若い頃に乗っていたものだと、クラマは思い出す。

 その97式戦闘機は旋回性能の良さを生かし、零戦の後方に回り込んでは主翼付け根や操縦席付近を狙いすましたように撃ち抜いていく。

 たった1機ではあるものの、空賊は放っておけないと判断したのか、97戦の後方に集まる。

 一斉に機銃が放たれた瞬間、97戦はスナップロールを繰り出し、零戦の後方に回り込んだ。

 すかさず発砲し、また2機が落とされていく。

 零戦が右へ舵を切った。だが97戦の方はそれがわかっていたように、予想進路上に機銃を放った。

 零戦はよけることもできず被弾して落ちていく。

 残り全機が97戦の後ろに集まった。

 すると97戦は機首を下げて降下、空賊機もあとを追う。

 97戦は地面すれすれまで高度を下げると、機銃を回避しながら飛ぶ。

 そして空賊を対空機銃の設置場所まで誘導すると、旋回して進路上から離れた。

 対空機銃が一斉に放たれた。

 零戦はよける間もなく、瞬く間にハチの巣にされ、地面へと落ちていった。

 

 

 結局、襲来した空賊機は殲滅された。

 だが、クラマは上空を舞う97戦から目が離せなかった。

 戦闘が終わったため、97式戦闘機は緩やかに旋回しつつ滑走路へ進入していく。

 飛ぶ姿は綺麗なのに、先ほどの戦闘では獰猛な猟犬のようで。

 でもその様を、彼は以前目撃していた。

 あの機体の持ち主だった、リノウチ空戦で戦死した親友と、彼の父親のタカヒトさん。

 でも、親友はもういないし、タカヒトさんは52型丙に乗るはず。

「まさか……」

 彼は胸の内に生じた疑念を確認するため、飛行場へ走った。

 

 

 

 飛行場へ到着した彼が見たのは、信じられない光景だった。

 97式戦闘機の風防が開き、操縦席からパイロットが下りてきた。

「よいしょ」

 下りてきたのは、まだ幼い少女だった。

 茶色い防寒用の上着に、裾に青いラインの入った白色のスカートを身に着け、母親と同じ黒色で肩の少し下まで伸ばした髪が風に揺れる。

 そして親友の面影を宿す目元が、振り向いた先にいたクラマを視界にとらえる。

 

「あ、クラマさん」

 

 彼女は笑みを浮かべて彼のもとに駆け寄る。

 

「ハルカ、くん……」

 

 亡き親友の忘れ形見、次女のハルカだった。

 まだ、10歳を過ぎたばかりの、子供。

「何を、しているんだい……」

「自警団の、お手伝いをさせてもらっているんです」

「ハルカ君……、なんで」

 彼女は一瞬表情を曇らせるも、すぐに笑みを浮かべた。

「お父さんたちが帰ってこないから、私とお爺ちゃんが、お母さんたちを、守らないといけないんです」

「だからって……」

 

「クラマくん」

 

 背後から聞こえた声に、彼は振り返った。

 背後にいたのは、白髪にヒゲを生やした老人。

 親友の父親のタカヒトさんだ。

「ハルカ、機体の点検をしてきなさい。いつ襲撃があるかわからない」

「は~い」

 彼女は97式戦闘機の方へ向かっていった。

「クラマ評議員、ここにいては襲撃があった際危険です。車で自宅までお送りいたします」

 タカヒトが、暗に背中でついてくるようにいっていることを悟った彼は後をおった。

 

 

 

 

「どういうことですか?」

 車の座席に座って早々、クラマは問いかけた。

「他に……、手がないんだ」

 タカヒトさんは、少し苦しそうに、言葉を絞り出すように告げた。

「だからって、まだハルカ君は10歳を過ぎたばかりの子供ですよ!彼女にもしものことがあれば、ミタカになんていえばいいんですか!?」

 

「私だって、できればしたくない。もう少し年を取ってから、学校を卒業してからにしてほしかった。でも、ミタカたちが帰らない上、私の収入だけで皆を養うことは難しい。アスカさんは、夫や子供を亡くしたせいで、体調を崩して病院に通わなければならなくなってしまった。働けるのは、私とハルカの2人だけ……」

 

 タカヒトさんの顔は、苦しそうだった。

 彼は、ハルカ君に空を飛ぶことを教えた人物で、孫の彼女を溺愛しているのは知っている。

 まだ10歳を過ぎたばかりの子供が戦いの空を翔けることは、彼も望む所ではなかったのだろう。

「10歳すぎでは用心棒どころか、運び屋でも普通はどこも雇わん。それでも彼女は家を支えたいと聞かないから、市長やナガヤ飛行機に頼んで仕事をもらうことができた。私にできることは、あの子が無事に帰ってくることができて、この先も生きていけるように、私の知る全てを教えることだけだ」

 そういう彼に、クラマは何も返す言葉がなかった。

「タカヒトさん、行き先を変更してください」

「構わんが、どこへ?」

「……市庁舎へ向かってください」

 

 

 

 

「父さん!一体どういうことだ!」

 市庁舎についたクラマは、当時のナガヤ市長、自身の父親のもとへとやってきた。

「何がだ?」

「タカヒトさんのお孫さん、ハルカ君に自警団の手伝いをやらせるなんて、何を考えているんだ!」

「……何か問題でも?」

 市長である父親は淡々と返す。

「問題だ!彼女はまだ10歳を過ぎたばかり!そんな子供を空賊と戦わせるなんて!」

 イジツでは、飛行機は幼い頃から乗り始める人間が多い。

 だがそれは、あくまで赤とんぼなどの練習機に限った話。

 速い速度で飛ぶことを求められ、機銃で敵を撃ち落す戦闘機に乗るのは、どんなに幼くても15歳を過ぎたあたりからというのが普通になっている。

 最低でもその年齢に達してからでなければ、命の奪い合いをする空戦には精神が耐えられないということからである。

「……仕方あるまい。彼女が望んだことだ。家族を支えるために働きたいと」

「だからって!」

 食い下がる息子に、市長は目を細めた。

「確かに、ハルカ君はミタカ君たちが大事にしていた子だ。ミタカ君は自警団に所属して町を守ってくれて、独自に飛行隊を作ってからは、ナガヤの製造した飛行機や部品の輸送の護衛など、大きく貢献してくれた。彼には、返しきれない恩がある」

「わかっているなら、なんでその子供の彼女をわざわざ危険な仕事に!」

 

「勘違いするな。それはあくまで、私人としてだ。今のナガヤの現状をお前は理解しているのか?」

 

「現状だって……」

 

「そうだ。リノウチ空戦に参戦を求められ、ミタカ君たち独自の飛行隊だけでなく、自警団の凄腕パイロットまで参戦し、全員が帰ってこなかった。確かに向こうが提示した報酬は高額だったが、それは生還できたらの話。全員撃墜された以上、ナガヤには損失しかもたらさなかった」

 

 リノウチ空戦には自身の腕試しや、高い報奨金目当てで参戦したものたちが多くいた。

 だが、結局勝敗が決したとはいいがたかった上に、あくまで報酬は勝利者側の生還できたパイロットのみが対象だった。

 生還できなかったパイロットに、この空戦を起こした勢力が報酬など払うはずない。

 おまけにナガヤから参戦したのは、凄腕と言われたパイロットたちばかりに加え、中堅までも。

 

「腕利きは皆リノウチ空戦にとられ、全員死亡。自警団以外に複数あった独自の飛行隊は全滅し、今このナガヤを守れる戦力は、残った自警団のみ。だがその自警団にいるパイロットは中堅ですらない。素人に毛が生えた程度の練度しかない。練成に時間がかかる以上、何か手を打たねば、ナガヤは自身の身を守ることもできない」

 

「だから、ハルカ君を使うのか」

 

「ああ、少なくとも今の自警団員が束になってかかっても、彼女に勝てないことは先日行った演習で私も目にしている」

 クラマも道中それは目にしていた。空賊機相手に引かず、殲滅した彼女の戦いを。

 

「あんな子供に頼らなければならないほど、今のナガヤは落ちぶれているのか!」

 

 

「……ああそうだ!あんな子供、本来なら戦わせるなど、大人として私は避けたかった!情けない大人だと、お前や皆は蔑むだろう。だが、どれだけ情けなくても、私はこの町の住民の安全や生活に責任を持たねばならない市長で、お前は評議員の1人だ!選択肢を選べるほど、今は余裕のある状況ではない!なら使えるものは、何でも使わねばならない!そのために、住民は我々を代表に選んだのだぞ!」

 

 

 親子そろって、今は政治家。

 町の今を守り、未来へつないでいかねばならない。

 そのために、彼らは存在している。

「クラマ。お前も評議員だというのなら、町の今と未来に責任を持たねばならない。理想や夢は大事だが、今を生き延びねば未来はない。夢を捨てろとは言わないが、現実を受け入れて、どうすればいいかを考えろ。タカヒトさんによって救われたこの町を、我々の代で廃墟にしてしまってもいいのか?」

「それは、できない……」

「なら、わかるな」

 クラマは、それ以上何も言えなかった。

 でも、このままでは親友の遺言を果たせない。彼に、顔向けができなくなる。

 

「わかった。でも、1つだけ頼みがある」

 

「……なんだ?」

 

「……僕の議員報酬の一部を、彼女の報酬にまわしてほしい」

 

「わかった。それくらいならいいだろう。だがいいのか?自警団の再編に町の発展を優先するために、議員報酬は減らすことが決定しているのは、知っているだろう?」

「……生活ができる分だけあればいい」

 そうやって、彼は親友の忘れ形見をなんとか守ろうとした。

 

 

 あれから数年がたち、自警団の戦力はある程度まともになったものの、ハルカは自警団の手伝いに、ナガヤ飛行機製作所の製造の手伝いや部品輸送の用心棒にと忙しく、結局彼女に頼り切っているというままだった。

 それでも収入は決していいとは言えず、母親を病院へ入院させることができなかった。

 その後、母親の体調の悪化と収入の増加が見込める仕事先を見つけたことで、タカヒトさんはイケスカへ向かい、ハルカは残った家族と共にナガヤを出て行ってしまった。

 彼女やタカヒトさんと関係のあったクラマ評議員やナガヤ飛行機製作所のナオト工場長にカガミ社長、指導を受けた自警団のカサイ等、ナガヤの多くの人々は彼らの力に、結局はあまりなれなかったことを嘆いた。

 町を救い、守ってくれた多大な恩がありながら、それを返す機会を失ってしまったと、皆が思った。

 

 だから彼らは驚いた。

 

 このナガヤの上空に、再び彼女が戻ってきたことに。

 

 彼らは、やっと彼女に恩が返せると、ほっとしたのだった。

 

 

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