荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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空賊に撃たれ、地面に不時着した彼女は、待ち望んだ結末が
遂に訪れることを察すると、静かに目を閉じる。
悪夢にうなされ、埋められなかった寂しさを感じ続けた彼女
は、このときを待っていたのだが……。




第7話 彼女が望んだ結末

「うう……」

 ハルカは、割れた風防から外を見る。

 不時着時に衝撃はあったが、まだ生きているようだ。

 視界はハッキリしているし、手足も動くが、ケガをしているのか動くと鋭い痛みが走った。

 敵の撃った機銃によって損傷した部品が操縦席内を跳ね回り、彼女の左腕に突き刺さっていた。

 空を見上げると、こちらへ向かって進入してくる五式戦が目に入る。

 きっと、直接自分を殺すつもりだろうと、彼女は冷静に察した。

 

 

―――ここまでか。

 

 

 でも、不思議と彼女の心は落ち着いていた。

 

 これで、もう寂しい思いをしなくて済む。

 

 悪夢からも、逃れることができる。

 

 自分も向こう側へ行けば、みんな待っていてくれるだろうか。

 

 自分を置いていったことに、文句の1つでもいってやろうか。そんなことを考える。

 

 

 彼女は、この瞬間を待っていたのだ。

 

 

 ユーリア議員たちに雇われることを選んだが、あれは結局不安や寂しさから逃れたかっただけ。

 その後も、失ったものの変わりなんてなくて、心の隙間は埋められなかった。

 自身の犯した罪の重さに押しつぶされそうになり、眠るたびに悪夢を何度も見た。

 エンマに自身を撃つようにいったのも、自分で死ぬ勇気がなかったから。

 

 結局、ただ死に場所を探してさまよっていただけ。

 

 だから、かつて自身が生まれた、全てが始まったこの場所で、故郷を守って終わる。

 これなら幕引きとしてはいいと、彼女は思った。

 

 彼女の望んだ結末が、訪れようとしていた。

 

 彼女は、場違いな笑みを浮かべる。

 ふと、必死の形相でこちらにかけてくる、キリエやレオナたちの姿が見えた。

 

 

―――みんな……。

―――ごめん。

―――ありがとう。

 

 

 彼女は、静かに目を閉じた。

 

 機銃の弾が飛来し、機体と彼女を撃ち抜く。その未来が、間もなく訪れる。

 機銃が連続して銃弾を打ち出す、火薬の破裂音が空に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 ガドール評議会護衛隊の隊長に弟さん、そして整備班長は弾切れで役に立たない対空機銃から、ハルカの零戦のもとへ駆け出した。

 班長がそばにあった車のエンジンを始動させ、隊長と弟さんは飛び乗った。

 早く彼女を救助しなければ。

 彼らは、その一心だった。

 でも、車のアクセルを踏み込んでも、飛行機の速度には追いつけない。

 彼らの頭上を、五式戦が追い越していく。

 隊長たちの顔に、焦りの色が浮かぶ。

 間もなく、五式が機首の機銃で地上を撃ち始めた。

 直後、斜め後ろから飛来した機銃弾を回避しようと、五式戦は銃撃をやめて機首を上げ急上昇。

 その瞬間、再び飛来した機銃弾が、五式戦の胴体や主翼、エンジンを撃ち抜いた。

「な!」

 あっけにとられる隊長たち。滑走路の修復は、まだ終わっていなかったはず。

 ハチの巣にされた機体は、そのまま地面に向かって落ちていった。

「あれは、鍾馗じゃねえか?」

 五式を落とした機体が、隊長たちの上空を駆けぬけていく。上面が緑色、下面が灰色に塗られた、二式単戦鍾馗。

 ただガドール評議会のものと違い、光像式照準器を装備し、機銃が全て12.7mm機銃に乗せ換えられた、鍾馗2型丙。

 その緑色の翼には、黄色で所属を示すマークが描かれていた。

「お兄ちゃん、あれ!」

 隊長は目を見開いた。ユーリア議員と一緒に各都市を回っている中で、彼はそのマークを見たことがあった。

 

 緑の豊富な大地を示す緑色と、人々に恵をもたらす黄金色の稲穂をあしらった黄色のマークの組み合わせ。

 イジツ最大の食料生産都市の展望を決める評議会と議員たちを守る、凄腕揃いの飛行隊。

 

「ハリマ評議会、護衛隊……」

 

 ユーリア議員の理解者、ホナミ議員のいるハリマ評議会護衛隊の機体だった。

 

 

 

 突如現れた鍾馗に味方が落とされたことを知った空賊たちは混乱するも、たった1機だと悟った彼らは、とりあえずその鍾馗の後ろに集結する。

 その側面から銃弾が飛来し、五式戦が3機ほど落とされる。

 銃弾の飛来した方向には、同じハリマ評議会護衛隊所属を示すマークが描かれた鍾馗2型丙5機、隼2型6機の計11機が向かってきていた。

 

『ナガヤ管制塔。こちらハリマ評議会護衛隊。ホナミ議員の命を受け、応援に来た』

 

『こちらナガヤ管制塔。応援に感謝します!』

『上空の空賊はこちらで片付ける!不時着した零戦のパイロットの収容を急いで下さい!』

「了解した!」

 護衛隊の隊長が無線で応える。

 間もなく、不時着したハルカの零戦のところまでようやく到着した。

 すでに到着していたコトブキ飛行隊を手伝って風防を開けると、レオナがベルトを外し、腕や額から血を流しているハルカを操縦席から抱え上げる。

 彼女を抱え上げてその場から走り、乗ってきた車の荷台に全員が飛び込んだ。

「班長!」

「おうよ!」

 整備班長はアクセルを踏み込み、車を急発進させる。

 彼らは急いでその場をあとにした。

 

 

 

 ナガヤ上空では、新たな空戦が繰り広げられていた。

「くそ、こんな話、聞いてねえぞ」

 トビウオ団団長は、あの眼鏡をかけたいけ好かない依頼人に文句の一つも言いたい気分だったが、それは脇に置く。

『団長!どうすれば!?』

『こいつら、良い腕してやがりますぜ!』

「慌てるな!とにかく逃げる。だがその前に、邪魔な敵だけ落とす!」

 空賊の五式戦闘機13機は、まず護衛隊の隼2型6機の後方につく。機首の機銃を撃とうとした瞬間、背後をとった鍾馗に撃たれ、2機が被弾して落ちていく。

 すぐに舵をきって五式戦は旋回する。彼らを追って隼2型も旋回する。

 旋回性能の良さをいかし、五式戦の背後に回り込み、2機撃墜。

 それを見た五式戦は旋回を止めて速度を上げ、隼を振り切ろうとする。

 すると、今度は速度を上げた鍾馗が後ろについた。鍾馗の機銃弾を受け、五式戦がまた2機落とされる。

 右へ旋回するも、すかさず隼が食いついてくる。

 スピードで振り切ろうにも鍾馗に追いつかれ、旋回戦で対処するにも隼に追いつかれてしまう。

 異なる2機種は連携し、どちらに転んでも相手を逃がさない。

「くそ、なんて連携がとれた連中だ。……どうすれば」

『団長おおお!』

 近くと飛んでいた団員の機体が、煙を吹きながら落ちていくのが目に入った。

 空賊トビウオ団の団長は、焦りを感じ始めていた。

『おい!誰か残っている奴はいないのか!?』

 無線は、誰もこたえなかった。彼の額を、冷や汗が流れる。

 富嶽は落とされたものの、それによって悪魔の零戦を一時は始末できるチャンスが来たというのに、突如どこぞの飛行隊が現れ、気が付けば仲間の数はついに敵を割り、自分だけになっていた。

「こんなところで、落とされてたまるか!」

 彼は逃げ出すべくスロットルレバーを押し込んで速度を上げ、町の外へ進路を向ける。

 目的を察した鍾馗が、すかさず後ろに陣取った。

『逃げるのか!そうはいくか!?』

 機首と主翼に装備された、4丁の12.7mm機銃が一斉に放たれ銃弾が五式戦を撃ち抜く。

 団長の機体もまた、火を噴きながら地面へと落ちていった。

 

 

 

 

『こちら護衛隊隊長、ナガヤ上空の敵勢戦力の排除を完了』

「了解」

 飛行船の船橋で灰色のスーツを着た、短い茶髪の女性、ホナミ議員は銀縁の眼鏡の奥に秘めた殺気をひっこめ、護衛隊の隊長に指示を出す。

「隼は、引き続きナガヤ上空での哨戒飛行を実施。鍾馗は帰還して補給を行って。補給終了後、隼と交代を」

『了解!』

 指示を出すと、ホナミ議員は無線のチャンネルを切り替える。

「ナガヤ市長」

『久しぶりですね、ホナミ議員』

「お久しぶりです。ナガヤの被害状況は?」

『滑走路や周辺施設、自警団の機体が被害を受けている。あとは、ハルカ君と彼女の愛機だね』

「わかりました……。評議会護衛隊は、このまま哨戒飛行を継続します。消火救護活動、滑走路の修復を急いでください」

『助かります』

「……ところで、彼女は?」

 

『病院へ直行よ』

 

 突如、ナガヤ市長のクラマ氏ではなく、聞き覚えのある女性の声に変わった。

 

「あら、あなたがいたとは意外ね。ユーリア」

 

『彼女がいた時点で察してほしいものね。それと、到着が遅すぎよ。危うく彼女が殺されるところだったのよ!』

「それは申し訳なかったわね。輸送の依頼で急遽やってきて、まさかこんなことになっているとはね」

 ホナミ議員がやってきたのは、全くの偶然だった。

 ナガヤは、ハリマと関係を持っている都市の1つで、交易が日常的に行われている。ナガヤが飛行機や部品を、ハリマは農作物を取引につかっている。

 ナガヤへ輸送に行くと聞いたとき、ホナミ議員は久しぶりに市長に会いに行こうと思い、護衛隊を連れてハリマを出発。

 そしてナガヤが近づいたとき、上空で戦闘が行われていることを偵察に行かせた護衛隊の隊長の鍾馗が確認。

 まして上空で戦っているのは、ハルカの零戦1機だとしると、彼女は護衛隊全機に出撃命令を出し、応援に向かわせたのだ。

『まあ、間一髪彼女が無事だったから、今回はあなたに助けられたわね』

「それはどうも」

 間に合ったからよかったものの、ハルカが殺されるところだったということを聞くと、背筋が震える思いだった。

 

―――そろそろ、かしらね。

―――場所もいいし。

 

 ナガヤへ向かう飛行船の船橋で彼女は1人、頭の中で何かを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「う、ん……」

 目を開けると、視界に写りこんだのは白色の天井に壁。

 また病室かと思いながら、ハルカは鉛のように重い体を起こす。

 腕とわき腹をケガしているようで、走った痛みに顔をしかめる。

 上半身を起こすと、彼女は包帯の巻かれている左腕や右わき腹を見る。

 痛みを感じるあたり、ここはあの世ではないようだ。

 

―――結局、また……。

 

 生き残ってしまった。つくづく死神に嫌われていると、彼女は思う。

 ふと、お腹のあたりに重さを感じ、顔をあげる。

 そこに居たのは、赤いコートを着た、短いふわりとした黒髪の人物。

「キリエ、さん……」

「う~ん、パン、ケーキを……」

 寝言でもパンケーキから離れない彼女に、ハルカはうっすらと笑みを浮かべる。

 でも、間もなく彼女の表情が曇った。

「……結局、未練がましく……、また生き残って」

 故郷を守って終わる。

 そうして、向こう側へ行った彼らのもとへと、自分も。

 そう考えていたのに、結局、またこうして生き残った。

「……いつまで、こんなこと」

 

 いつまで、遺される寂しさを感じればいいのか。

 

 いつまで、悪夢にうなされ続ければいいのか。

 

 彼女は頭が重くなった。

 

 

「まるで、助かりたくなかった。みたいな顔しているな」

 

 

 突如聞こえた声に、彼女は顔を跳ね上げる。

 視線の先には、両腕を組んで険しい表情で仁王立ちしているレオナの姿があった。

 彼女はハルカをにらみつけたまま、向かって歩いてくる。

 レオナには、今の彼女の顔に見覚えがあった。

 彼女がラハマの病院で目を覚ました時の、自暴自棄になっていたときの表情だ。

「あのまま、空賊に打ち殺されていればよかった、とでもいうのか?」

「そ、そんなこと……」

 そこから先が言えなかった。

 

「そんなこと、なんだ?」

 

 明確に否定しなかったためか、レオナの両目が吊り上がる。

 彼女はハルカの胸倉をつかみ上げた。

 

「君が一人で戦っていた間、みんながどれだけ心配していたか!君が撃たれたとき、みんなどれだけ血の気の引く思いだったか!こうして目を覚ますまでの間、キリエやみんながどれだけ心配していたと思っている!?折角助かった命を、何だと思っている!?」

 

 レオナが右手を握り締め、殴り掛かろうとしたとき、誰かが後ろから羽交い絞めにしてきた。

「レオナだめだよ!」

 いつの間にかキリエが目を覚まし、レオナと止めようとしていた。

「キリエ離せ!私は今、彼女が許せないんだ!」

「ダメだよ!ハルカはハルカで、思うところがあるんだよ」

「それでも、折角命が助かったのに、生き残ったことを後悔するなんてこと、私は許せない!コトブキや羽衣丸、護衛隊やナガヤの皆が、どれだけ悲しい思いをしたか!」

 

「ちょっといいかしら?」

 

 背後から聞こえた声に、皆が振り返った。

 そこには花束をもった、ハリマ評議会のホナミ議員が立っていた。

 レオナとキリエは慌てて離れて背筋を伸ばした。

「ハルカさん……」

 彼女は、静かにいった。

 

「ちょっと行きたいところがあるから、護衛として来てくれるかしら?」

 

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