荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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自身の名に込められた家族の願いを知った彼女。
彼女はこれからも飛び続ける。彼らの込めた、
託してくれた願いと共に。

最終話になります。


最終話 みんなの込めた願いと共に

 ナガヤの一角に設けられた、亡くなった者たちの眠る墓地。

 70年以上前、ここはかつてユーハングの人々が多くいて、工場や飛行場がつくられた。

 そのとき向こうの文化も一部が伝わり、現在まで残っている。

 お墓を作ることも、その1つ。

 ユーハングでは、死者の遺体を火葬し、骨を壺に入れ、墓石の中に収め、供養する。

 その風習に習って作られた墓地の一角に、ハルカは歩いていく。

「ごめん、くるのが遅くなって」

 昨日も訪れた、彼女の家族の眠る場所。

 もっとも、父と姉と兄はリノウチ空戦で撃墜。母と弟、妹はウミワシ通商によって殺され、祖父は行方不明。

 骨壺に遺骨が納められているのは、祖母のものだけ。他は全て、空の骨壺に名前の書かれた白い紙1枚だけが収められている。

 ハルカは、手に持ってきた薄紫色の小さな花の束を墓前に供えた。

 その花は、かつてユーハングが伝えた花。その名を、ミヤコワスレという。

 なんでも、ミヤコという場所を忘れてしまうほど美しい花だったという意味らしいが、彼女はその意味がよくわからなかった。

 でも、この花は祖父に祖母、母が好きだった。

 なんでも、花言葉というものがあって、花に込められた意味があるらしい。

 この花の言葉は、しばしの憩い、しばしの別れ。

 ハルカが向こう側にいくまでの、しばしの家族との別れ。

 

「ごめんね。空賊行為にまで加担して。それでも、お母さんたちのこと、守れなくて……」

 

 彼女の口から出たのは、謝罪の言葉。

 

「でも、謝るのは、これで最後にしようと思う」

 

 彼女は墓石に、もってきたジュラルミン製の水筒の口をあけ、水をかける。

「いつまでも謝ってばかりじゃ、みんな、安心して眠れないもんね」

 水を注ぎ終わると、彼女は手を合わせる。

 

「それに、これ以上あやまるような、胸をはれない歩き方をするのは、この名前をくれたみんなに、申し訳ないから」

 

 彼女は手を合わせるのを止め、物言わぬ墓石を見つめる。

 

―――みんながいない先を想像するのは、難しいし、正直怖い。

 

 彼女の望みは、家族で平穏にくらすことだった。

 彼女の望みの根本には、常に家族の誰かがいた。

 

―――でも、もうみんなはこっち側にはいない。それは、受け入れないといけない。

―――今を歩くことは、今を生きる私にしか、できないから。

―――死んだ者は、過去。でも、覚えている人の過去の一部になって、確かに、そこに生きている。

 

 彼女は両目を閉じる。

 

―――こうして目を閉じれば、まぶたの裏に、みんながいる。

―――私の記憶の、過去の一部になって、確かにそこにいる。こうすれば、いつでも会うことができる。

 

 両目をあけ、彼女は墓石に向き合う。

 

―――みんなはもういない。今まで注いでくれた愛情に報いることは、もうできない。

―――でも、皆が込めてくれた願いに、そうあれると信じてくれた想いに、応え続けることはできる。

 

「彼方を目指し、自身で道を切り開き、何かを求めて歩き続ける、旅人のような子で、あってほしい、か……」

 

 自分達ができなかった、どこまでも続く広い空をかけ、皆が見たことのない景色を、自分達にかわって見に行ってくれる。伝えてくれる。

 そのために、自身で道を切り開いていってくれる子であってほしい。

 

 彼女の、ハルカという名に込められた、みんなの願い。

 

「正直、私は何がしたいのか、何のために生きるのか、わからない」

 確かにあったはずなのに、それはもう無くしてしまった。

「みんなの生きた証明を伝えるためっていうのは、どうも私にはまだわからない。でも、私の名前に込めてくれた、自分達の知らない世界、風景を伝えてくれるって願いはわかるよ」

 ホナミ議員から聞いて、知らなかった部分もあった、自分の名前の意味。

「じゃあ、それをこうやって伝えにくるよ」

 彼女は、少し顔を上げ、青空を見上げる。

「どんな風景を伝えたいのか、はっきりとはわからない。でも、私が歩き続ける、飛び続ける理由は、まずはそれでいいと思う」

 彼女は墓石に向かっていった。

「だって、約束したもんね。連れていくって」

 

『私を、忘れないでいてくれるか?一緒に連れて行ってくれるか?』

『うん!絶対覚えているよ!いつかレイに乗って、色んな空を一緒に見に行くんだ!』

 

 彼女は、かつて祖父に言った約束を思い出す。

 自分の、空を飛びたいと思った、始まりの言葉を。

 

 ハルカの過去に、記憶の中に生きる彼らは、いつも彼女とともにある。

 行きつく果てには、だれもいない。

 待っている人はいない。

 でも、家族は彼女の中に、彼女が覚え続けている限り、歩き続ける限り、共にいてくれる。彼らを、連れていくことができる。

 

「一人になった。そう思ったけど、多分、もう大丈夫だよ」

 家族の、みんなのもとへ行きたくて、色々無茶や無理、自暴自棄なことをした。

 

―――でも、こんな私でも、必要としてくれる人がいる。

 

―――こんな私でいいと、受け入れてくれる人がいる。

 

―――肩を並べて、共に飛んでくれる人がいる。

 

―――ともに生きてと、望んでくれる人がいる。

 

―――私の帰りを、ずっと待っていてくれる人がいる。

 

―――お爺ちゃんが託してくれた、大事な相棒がいる。

 

「いっしょにいてくれる、歩んでくれる人ができた。だから、きっと大丈夫」

 彼女は最後にもう一度、手を合わせた。

「また、くるからね」

 彼女の見た景色を、歩んだ軌跡を、伝えるために。

 彼女は墓石に背を向け、墓地の出口へと歩いていった。

 

 

 

 

「ハ~ルカ~」

 元気よく手をふる、コトブキ飛行隊のキリエの姿が見える。

 隣には、隊長のレオナもいる。

「もう、いいのか?」

 心配そうな顔をするレオナに、ハルカは屈託のない笑みで応えた。

「ええ、もう大丈夫です」

 すると、キリエとレオナは目を丸くする。

「……あの、どうかしました?」

「いや~……」

 気まずそうに、キリエは言う。

「ハルカも、そんな顔で笑うんだなって……」

「そんなに珍しい顔してましたか、わたし?」

「そうだな……」

 レオナは口元に手をあて、何か言葉を探している。

「何か吹っ切れたような、憑き物が落ちたような顔、とでもいえばいいのか。まあ、何にしても」

 レオナは彼女の頭に右手をのせ、ぐしゃぐしゃと撫でる。

「君がこうして生きていて、よかったということだ」

「……そうですね」

「そういえば、あのときのキリエの顔も初めてみたな。血の気の引いた真っ青な顔で、やめろおおおおおって叫んだの」

「ちょ!レオナ!」

「いいじゃないか?みんな知っていることだし」

「そういうレオナだって顔真っ青だったじゃん。ザラにお酒おごらされて、お金が足りなくてどうしようって時みたいな!」

「どんな例えだ?いや、あり得ないと否定できないのが、怖いな」

 すると、ハルカは頭を下げた。

「申し訳、ありませんでした。……今までのこと」

 一瞬レオナは険しい表情になった。だが、すぐ表情を緩めた。

「もういい、とは言えないな。君の危なっかしい行動のおかげで、私たちがどれだけ心配していたと思っている?」

 彼女は、返す言葉がなかった。

「でもまあ、気持ちはわかる。私も似たような経験があるからな」

「そうなんですか?」

「言っておくが、君ほど危ないことはやってないぞ?」

「アレシマでの一心不乱ぶりはハルカといい勝負だったんじゃない?」

「キリエ!」

「へ~い」

 わざとらしく咳払いをすると、レオナは向きなおった。

「……そういうなら、今後はもう無謀な行動はとらないことだ。次やったら……、本気で怒るからな」

「……はい」

「じゃあ、行こうか」

 3人はその場を後にした。

 

 

 

 3人は墓地をあとにすると、ナガヤの滑走路のそば、ナガヤ飛行機製作所の工場へとやってきた。

「おう嬢ちゃん、もういいのか?」

 工場長のナオトは、ハルカの姿を見ると笑みを浮かべて迎える。

「ええ、おかげさまで」

「そうか、そりゃあよかった」

「それで、ナオトさん……」

 彼は顔を向けた。

「ばっちり直してあるぞ。早速、試験飛行に行ってくるか?」

 彼の視線の先には、彼女の愛機が駐機されている。

「レイ……」

 今回、散々被弾した挙句不時着した彼女の愛機の損傷はひどかった。

「修理は大変だったが、爺さんと父さんとの、替えられない大事な思い出だもんな」

 ハルカは、愛おしそうに愛機のカウリングを撫でる。

 損傷がひどかった彼女の零戦だったが、ナガヤ飛行機製作所が彼女の大事な形見だからと、大変でも修理したのだ。

「ありがとう、ございます」

 屈託のない笑みを浮かべると、ナオトは少し照れ臭そうにする。

「全く……。あぶなっかしい行動はもうやめてくれ。……みんな、心配してたんだぞ」

「そうなんですか?」

「あたりめえだ。みんな、やっと嬢ちゃんに恩を返せるって思ったのに、いきなり死なれちゃ、みんな泣くぞ。爺さんに合わせる顔もねえし」

「……申し訳ありません」

「悲しそうな顔するな。爺さんに知れたら、どんな大目玉くらうか。ミタカさんに、あの世で怒られちまうだろうしな」

「そうだよ」

 社長のカガミさんは、後ろからハルカを腕の中に抱いた。

「ミタカさんや、アスカさんたちがいなくなったのは、悲しかったと思う。でも、私たちはいつだって、離れていたって、あなたの無事を祈っている」

「それだけは、忘れないでくれよ」

「……はい」

 彼女は、故郷にまだ自分のことを思ってくれる人がいるということが、うれしかった。

「それから、あなたは人を頼らない癖があるから、気を付けなさい」

「俺たちだって、もう嬢ちゃんに守られてばかりじゃねえ。これまでの恩だってあるんだ。これからは、遠慮なくたよってくれ」

「2人の言う通り、君はもう少し周囲を頼るべきだ」

「レオナさんまで……」

 皆に言われてしまうと、流石の彼女も言い返せなった。

「それで、ナオト、さん……」

 彼女はナオトやカガミへと、自身が空賊であったことを告げる。

「……知っていた」

 彼女は目を見開き、顔を上げる。

「大体、嬢ちゃんの機体の塗装をしたのはうちだし、腕前だってわかっている。蒼い翼の零戦、悪魔のようさ強さ。すぐ嬢ちゃんに違いないってわかった。市長のクラマも、自警団長のカサイも、この町の誰もがすぐ察したよ」

 彼女は表情を曇らせる。

 そんな彼女の頭に、ナオトは右手をやさしく乗せた。

「悪かったな。俺たちが貧しいばかりに、嬢ちゃんにろくな給料払えなくて。……空賊になるしかない。そんな所まで追い込んじまって」

「いえ、それは……」

「だから、昔嬢ちゃんを頼りすぎただけ、これからは遠慮なく頼ってほしい。機体が壊れたら何をしても直すし、寂しかったらかえってこればいい」

 彼は、ハルカの頭をくしゃくしゃと撫でる。

「君の故郷は、こうしてある。待っている人々だっている。それを、わすれないでくれ」

 元空賊という過去があっても、彼らはこうして彼女を昔と変わらず受け入れてくれる。

 それが、彼女には嬉しかった。

「さて、それじゃあ相棒の試験飛行に行くか?」

「……はい!」

 ハルカは愛機の発進準備を終え、修理を終えた滑走路から飛び立っていった。

 

 

 

 上空に上がったハルカと相棒は、ナガヤの上空を周回したり、旋回やロール、上昇に下降を繰り返す。

「なんだか、いつもに比べて身軽そうだね」

 そんな彼女の様子を、滑走路そばからキリエたちは眺めている。

「実際、身軽になったんだろう。いろんな意味で」

「ちげえねえや」

「本当にね」

 声のした方向を見れば、ナガヤの市長が立って空を見上げていた。

「いいのか、市長がこんなところにいて」

「いいんだよ。それより、ハルカ君が無事だったことの方が重要だ」

 市長は、青空を舞う蒼い翼の零戦を眺める。

「本当に、タカヒトさんやミタカに飛び方が似ているね」

「そりゃあそうだ。嬢ちゃんは、タカヒトさんが自身の全てを教えた、唯一の子だ」

「それもそうだね」

 

 

 ハルカの零戦を見上げながら、市長のクラマは思う。

 この町のために尽力してくれた、帰ってこない親友や、彼女の家族のこと。

 

―――ミタカ、どうかあの子を、これからも見守っていて欲しい。

―――この、青い空の彼方から……。

 

 市長がそう祈る一方、ナオトは、タカヒトさんの言葉を思い出す。

 

 彼が、イケスカへ行く数日前のことだった。

『もし、あの機体の性能がハルカの足かせになるときがきたら』

『手を、貸してやってほしい』

 そういって彼は、ナオトに十数枚の紙を渡してきた。

 描かれていたのは、ハルカの52型丙の改修案。

 その設計図には、仮称零戦53型と書かれていた。

 

―――爺さん、嬢ちゃんが、ようやく帰ってきてくれた。

―――どこにいるか知らねえが、安心してくれ。

―――約束は、必ず守る。

 

 

「もう飛んで大丈夫なの、彼女」

「ああ、ホナミさん。お久しぶりです」

 ナガヤ市長は、やってきたホナミ議員に手を差し出した。

「お久しぶりです、クラマ市長」

「ナガヤを訪れるのは久しぶりですな。ご両親は元気ですか?」

「ええ、すごく元気よ。ハルカに早く会いたいって、父さんが日々うるさくて」

「ハハハ……。まあ、気持ちはわからなくはないですが」

「今となっちゃ、嬢ちゃんが唯一の孫だもんな」

「それに、9年近く会ってないんでしたっけ?」

「リノウチ空戦でミタカさんたちが亡くなって、ハルカは悲しみに暮れる間もなく、用心棒や運び屋を始めなくちゃいけなくなった。……結果、私の記憶は埋もれてしまったみたいだけど」

 偶然ラハマで再会したときでさえ、ハルカはホナミのことを覚えている素振りがなかった。

 昨日、墓石の前でのやり取りでようやく思い出したようだが、内心ホナミは結構なショックを受けていた。

 それは彼女の両親も同様で、ハルカはおそらく祖父母にあたるホナミ議員の両親のことを覚えていないと言ったら、父親のカスガは愕然としていた。

 ホナミにとっては、姉の面影を色濃く受け継いだハルカとラハマで再会したとき、衝撃を受けた。

 姉が、最も美しかったときの姿が、そこにあったのだから。

「でも、あの子だけでも、生きていてくれてよかった」

 空を舞う零戦を見ながら、ホナミ議員はつぶやいた。

 

「もう、離さない。絶対に」

 

 これからは、姉の変わりに、いや。姉の分まで、彼女のことを守っていく。

 彼女は、墓前で姉や彼らに、そう誓った。

「そうですか。なら、首に縄でもつけておきますか?」

「そうね。首輪でもつけておこうかしら」

「やめとけ、無駄だ」

 ナオトは片手を振って否定するそぶりを見せる。

「嬢ちゃんの名前に込められた願い、あんたも知っているだろ?なら、首輪をはめようが鳥かごに閉じ込めようが、それらを全部壊して、嬢ちゃんは飛んで行っちまうぞ」

 色んな空を、遠くにある見果てぬ景色を、自身の手で進み、見に行く。

 そう願いを込められた彼女は、おとなしくしている方では間違いなくないだろう。

 ようやく、帰ってくる場所はここにある。そう告げることができたのに、遠くない先、やはり自分のもとを去って行ってしまうのだろうか。

 そう考えると、ホナミは少し寂しさを感じた。

 

「ですけど、心配することはないでしょう」

 

 彼女は市長を見つめる。

「ハルカくんは、あのタカヒトさんが全てを教え込んだんです。そして、どれだけ過酷な状況に陥ろうとも、生き残ってきた。このナガヤに再び来てくれた」

 市長は、いつくしむような視線で、空を見上げる。

 

「彼女の家族、ミタカや、アスカさんたちは、このナガヤに帰ってくることはもうありません。でも、彼女は帰ってきてくれた。……だからきっと、大丈夫ですよ」

 

「……そうですね」

 ホナミは視線を上空に戻す。

 

「それにしても、タカヒトさんはあの子に別の願いも託していったようですね」

 

「別の願い?」

「……彼女の愛機、タカヒトさんと同じ52型丙。そして、ミタカとよく似た、その翼の塗装を見ると、ねえ」

 ハルカの零戦の、暗い青色に塗られた主翼。その中に描かれた、空色の丸。縁取っているのは、白色の円。

 ハルカ曰く、イジツとユーハングは確かにつながっていたんだという意味の模様。

 でもその真意を、この3人は知っている。

 

「タカヒトさんは、ユーハングの遺産が、イジツに幸福をもたらしてくれると信じていました。そしてその願いを息子のミタカ、孫のハルカくんへと託した」

「でも、ユーハングの遺産の奪い合いや、遺産を使って悪さをする人々の存在で、実際は逆のような状況にありますね」

「だから、彼女に自身の知る全てを教え、願いを託した」

 市長は、ホナミとナオトにだけ聞こえるような小声で言った。

 

 

イジツの民であり(・・・・・・・・)ユーハングの遺産(・・・・・・・・)でもある彼女だからこそ、タカヒトさんは彼女の機体に、ミタカの機体によく似た模様を描いたのかもしれませんね」

 

 

「ユーハングの遺産というのは、周りを振り回してばかりですね」

「その通りです」

「ちげえねえ」

「……でもまあ」

 ホナミは笑みを浮かべながら言った。

「あんな可愛い遺産なら、振り回されてあげても、良いと思うわ」

 市長とナオトは、ハハハと楽し気に笑う。

「まあ、悪い気はしませんね」

「全くだ」

 3人は視線を再び上空に戻す。

 ハルカの零戦は速度を上げ、空を駆け上がっていった。

 

 

 

 

 

 

「またしても失敗とは、あの悪魔、ことごとく私の邪魔を……」

 イケスカからほど近い位置にある山の洞窟の奥で、元エリート興業の人事部長、元自由博愛連合の頭脳のヒデアキは苦々しい表情をしていた。

 ナガヤを空賊に何度も襲撃させ、生産能力を一時的にでも低下させる。

 そうすることでイケスカが立ち直るまでの時間を捻出しようとしたが、そのナガヤにオウニ商会、ユーリア護衛隊までもがやってきた。

 その中には、あの悪魔も含まれていた。

「もう少しで、あと一歩であの悪魔を排除できたというのに……」

 折角の機会だからと、かれらをつぶそうと富嶽まで投入したというのに、ハリマがしゃしゃり出てきて、結果ナガヤに手傷を負わせるという目標は達成できたが、こちらの被害も大きかった。

「なんでこう、私の目論見通りにいかないのか……」

 ふと、室内に設置された黒電話がなった。

 彼は、その電話を不機嫌そうな顔でとった。

「……もしもし」

 

『……ヒデアキ』

 

 電話の向こうの声が、今の主だと悟った彼は、無意識のうちに背筋を伸ばした。

「は、はい!私がヒデアキでございます!何の御用でしょう!?」

『ヒデアキ、彼女は放っておけと言ったはずだが……』

 今回の件が早速彼に伝わっていることに、ヒデアキは背筋が震える。

「いえ、今回の目的であるナガヤの生産能力を一時的に低下させるという作戦の過程で、どうしてもあの悪魔が邪魔になりまして……」

『彼らが到着した時点で目的は達成できていた。その時点でやめておけば、こちらの被害も少なくて済んだ。……なぜ続けた?』

「オウニ商会にユーリア議員。このものたちを排除しておかねば、必ずや自由博愛連合にとって、邪魔になると考えたからです!」

『その結果が利用した空賊やイケスカから派遣した応援の全滅。そして富嶽1機の損失か?』

 怒っているわけではないが、その淡々とした口調に、彼の額には冷や汗がにじむ。

『戦力の損失は極力避けたいといったはずだ』

「で、ですが……」

『まあ、お前の懸念もわかる。だが、彼らを片付けるには、しかるべき準備が必要になる。それまでは、周囲を我々になびかせることに注力してほしい』

「は、はい!わかりました!」

 それを言うと、電話が切れた。

 彼は大きく息を吐き出し、受話器を置いた。

「まあ確かに、あのお方の言う通りかもしれません」

 今までの空賊を利用しての消耗戦では、結局返り討ちにあってしまう。

 なら戦力を立て直し、一撃をもって崩すほうが、まだましと言えるかもしれない。

「これは私の得意な頭脳労働。なら、今から上申にでも行くとしますか」

 彼は眼鏡の位置を直し、椅子から立ち上がって部屋のドアを開ける。

「しばらくは静かかもしれませんが、必ず首をもらいに伺います。それまで精々生き延びてくださいね。皆さん」

 彼はムフッと笑いながら、ランプのみの明かりしかない暗い穴倉の中を、進んでいった。

 

 




ここまで読んで下さった方々、ありがとうございました。

少し話数が少ないですが、4章最終話となります。

話の流れをどうしようか悩む日々ですが、また投稿しましたら
よろしくお願い致します。
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