あまり面白みはないと思いますが、続きました。
照明の落とされた羽衣丸の船内を、コトブキ飛行隊のキリエ、チカは静かに歩き、目的地である格納庫へと足を踏み入れる。
そのとき、格納庫内の明かりが一斉に点灯し、一角を明るく照らした。
そこにいたのは……。
「おう、てめえら!さぼらずよく来たな!」
この場に2人を呼び出した張本人、ナツオ整備班長はそばに置いた黒板を拳で殴りながら言い放った。
「それじゃあ、ナツオ整備班長の戦闘機解説講座、開講だああああ!」
ナツオ整備班長の戦闘機解説講座。その名の通り、ナツオ整備班長が戦闘機、もとい飛行機について懇切丁寧に解説してくれる講座である。
「じゃあ、飛行機乗りのくせに、飛行機のことをなんにも知らないお前たちのために、この私が特別に教育してやる!ありがたく思え!」
「「へ~い」」
「なんだあ、その気の抜けた返事は?」
「だってねえ……」
「今回私たち、本編で殆ど空戦できなかったじゃん?」
キリエとチカは、明らかに不満そうだった。
「仕方ねえだろう?話の流れから、そうならざるをえないこともある!」
「出番は殆どレオナやキリエにナツオ班長だし!」
チカは尚の事不満そうに言う。
「まあ、出番が増えるよう、作者に祈るこった」
「祈ってなんとかなるのかな……」
「ウオホン」
ナツオ班長はわざとらしく咳払いする。
「今回解説するのは、ナガヤを爆撃しにきた機体、一式陸上攻撃機だ」
「あの葉巻みたいに、太い胴体の機体だよね」
「というか、これって飛龍や富嶽と同じ爆撃機じゃないの?」
「これは一式、陸上、攻撃機、であって爆、撃、機、じゃない」
「見た目飛龍とかとそっくりじゃん~」
チカはどうも腑に落ちないらしい。
「以前彗星の解説を本筋でしたとき、ユーハング海軍の船で使う飛行機で、攻撃機と爆撃機の違いは何だった?」
「確か、攻撃機は魚雷っていう装備が使える機体、って班長言っていたような……」
ナツオはチカの答えに微笑む。
「おおう、チカはちゃんと覚えていたな。偉いぞ」
「えっへん」
薄い胸をはるチカ。そんな彼女を見て、キリエは口を尖らせる。
「攻撃機っていうのは、水の中を進んで、船の横っ腹に大穴あける魚雷を使える機体だ。そして爆撃機は、爆弾を運用し、急降下爆撃ができる機体。一式陸攻は、見た目は爆撃機だが、魚雷を抱えて敵の船を沈めることを主目的に開発された。だから、攻撃機なんだ」
「何それ紛らわしい……」
ふと、キリエが右手をあげた。
「班長、ハルカの乗っている零戦や、エリート興業の彗星とか、艦上っていうのは船の上で使うから艦上なんだよね」
「ああ、その通りだ。まあ、ハルカの52型丙は艦上機と名はついているが、実際は艦上での使用はあまり考慮されていない」
「そうなの?まあ、海軍っていうからには、海が戦う場所なんだよね?」
「ああ。海軍の戦場は海で、主な仕事は大砲をのっけた船で敵の船と撃ち合うことが、一番連想しやすいだろうな」
「なのにさ、なんで一式、陸上、攻撃機なんて陸上基地の、まして双発機が必要だったわけ?」
「それは、当時のユーハングの海軍の作戦が関係しているんだ」
「「作戦?」」
「当時の海軍の作戦は、漸減邀撃作戦を実施することを想定して、戦力を整えていたんだ」
「漸減……」
「邀撃、作戦……?」
「簡単に言うと、敵さんの船が沢山やってきたら、潜水艦や陸上基地の航空機でまず攻撃して数を減らし、そして最終決戦で海軍の主力の船をぶつける、という作戦だ」
「なんでそんな面倒なことするわけ?敵さんと同じ数の船をぶつければいいじゃん?」
「それができれば苦労はしねえ。当時は戦争が終わって、世界が軍備拡張競争に走らないよう、持っていい船の数を世界で話し合って決めたんだ。その結果、ユーハングは想定する敵さんより、少ない船しか持てないことが決められた」
「何それ!それならみんな同じ数にすればいいじゃん!?」
「国同士の力関係っていうのもあるんだ。まあ何はともあれ、こんな不平等な約束のせいで、ユーハングは敵さんと同じような数の船はもてなくなった。でも戦争になればなんとか勝つための手を考えなければならない。その苦肉の策として考え出されたのが、漸減邀撃作戦。船の持てる数が制限されたから、足りない戦力を飛行機や潜水艦などで補おうとした。そのために海軍は、魚雷を運用でき、長い航続距離と、敵戦闘機を振り切れる早い速度をもった飛行機が必要になった。それが、陸上攻撃機誕生の理由だ」
「ほう~」
「そんでいくつか試作機や失敗を経てつくられたのが、一式陸攻の前任、九六式陸上攻撃機だ」
ナツオ班長は黒板に写真をはりつける。
「なんか丸くてかわいいね」
「尾翼が変わった形しているね」
「双垂直尾翼っていうんだ。見た目は少し丸っこいが、九六式は優秀だった。長い航続距離に早い速度。実際、当時行われた防空演習で、ユーハング戦闘機が追いつけなかったほどだ」
「え!こんな大きい攻撃機なのに!」
「まあ、三菱の技師が頑張ったかいあって、なんとか海軍の要求をクリアできたわけだ。この結果を受けた海軍は、この九六式があれば、護衛戦闘機も防御装備も必要ない、という認識が広まり、戦闘機なんていらない、という考えまで出る始末だった」
「えええ!」
「戦闘機乗りの人々、失職しちゃったの!?」
「失職はしなかったが、人数が減らされた。そして九六式陸攻は、ユーハングから海を渡り、約1800km先の敵さんを爆撃する任務が初陣だった」
「それで活躍したの!?」
目を輝かせるチカにキリエ。
だがナツオ班長は言った。
「残念ながら、海軍の期待を背負って出撃したんだが、初陣で大損害をだした」
「なんで!?」
「どうして!?」
「理由は簡単だ。自国の戦闘機は振り切れても、それを超える速度を出せる敵さんの戦闘機相手に、護衛をろくにつけなかった。結果、追いつかれてハチの巣にされた。それに、防弾装備や防御火器が少なかったことが災いし、空中で敵機を追い払うことができず、撃たれて火災が多発した」
「なんか零戦でも聞いたような……」
「期待とは裏腹に大損害を出した九六式。これにショックを受けた海軍は、すぐさま後継機の開発を命じたんだ。これが、後の一式陸攻だ」
「やっと話が戻ってきた!」
キリエは大きく息を吐き出す。
「要求は、さきの九六式をこえる速度と航続距離、そして防御の強化が主軸だった」
「まあ、そうなるよね」
「無理難題じゃなくて、順当な要求じゃないの?」
「ただし、ある1つの要求が大きな難題だった」
「どんな……」
キリエとチカは班長の言葉を待つ。
「九六式と同じ、金星エンジンを使用することだった」
「それがそんなに問題なの?」
キリエは首を傾げる。
「あたりまえだ!飛行機の性能は、エンジンで決まるといっていい。いくら機体を改造しようが、エンジンが変わっていないんじゃ性能の向上は見込めない。九六式より欲張った性能を求めておきながら、エンジンが変わっていないんじゃ速度を上げることはほぼ無理といっていい」
「なんでこんな要求したの?」
「一刻も早く、九六式の欠陥を改善した機体を配備するためだ。まあ、新しいエンジンが存在していなかった、というやむを得ない事情もあるんだけどな……」
「でもさ、これじゃあ九六式と同じ機体しか作れないんじゃないの?」
「三菱もこれに対し、エンジンを4つにして機体を大型化するなどの提案をしたが、当時の海軍の意見は絶対だった。後にエンジンは、出力が向上した火星が間に合ってくれたから、速度はなんとかなりそうだったが、それでも要求をクリアするのは並大抵じゃなかった」
「どうやったの?」
「九六式では機外に吊るしていた魚雷や爆弾を、彗星みたいに胴体下に設けた爆弾倉に収納できるようにした。この方が空力的に有利なんだ」
「うんうん」
「次に、重量がかさむ防弾装備を削った」
「……ん?」
キリエたちは頭に疑問符を浮かべる。
「ちょっと待って!」
「なんだ?」
「九六式って、防弾装備の不備が欠陥だったんだよね?」
「そうだぞ」
「その後継機で、なんでまた防弾を削るの!?」
「それには、ちょっと事情があってな。まず、火星の実用化にめどがつくまでは、エンジンの出力向上が望めない。なら、何かを犠牲にするしかない。速度と航続距離を優先する以上、他を削るしかなかった。なけなしの防弾を施すより、機銃を尾部や機首につけるなど、この当時は速度や機銃などの防御火器の充実の方が有効と考えられたんだ」
「そりゃあ機銃が沢山あったら……」
「近づけないよね」
「そういうこと。だがそれらをクリアできても、もう一つ問題があった」
「何?」
「航続距離だ。なんせ、一式陸攻には、400km/hをこえる速度、4800kmもの航続距離が求められた」
「4800km!そんなに!」
「お尻が死んじゃう!」
「まあ、陸攻には副操縦士がいるから、交代ができる。でもこの航続距離は、本来は小型の双発ではなく、他の国ではエンジン4つの機体に求められる距離だった。長い距離と飛ぶために必要な燃料は膨大で、前任の九六式陸攻では、3700リットルもの燃料を搭載していた。実にドラム缶18本分にもなる」
「そんなに!」
「それを上回ることを求められた一式陸攻では、なお増える。だが、胴体は操縦席やら機銃やら、下部は爆弾倉があって、燃料を搭載できるスペースが小さい」
「じゃあ、どこに収めたの?」
「主翼の中だ」
「……そんなに入るの」
「九六式から使われていたインテグラルタンクで、この課題を解消したんだ」
「インテグラル?」
「タンク?」
「お前たちの乗っている隼の場合、燃料タンクは主翼の中に別途作ったタンクを入れているだろう?」
「うん」
「そうだね」
「インテグラルタンクっていうのは、主翼自体が燃料タンクだと思えばいい。主翼のスペースを有効活用できるし、外板を強く作るから主翼の強度もあがる」
「おお、いいじゃん!」
「こうやって三菱の技師が苦労して、なんとか一式陸攻は完成したんだが、大きな弱点も抱えちまった」
「……どんな?」
「さっき言ったインテグラルタンクなんだが、実は被弾に弱くてな。7.7mm機銃の弾を数発食らっただけで火災が起こるほどだった。一応防弾ゴムが側面に施されたが、効果は薄かった。後に主翼に防弾ゴムをはるということも行われているが、重量はかさむは、空気抵抗が増して速度が落ちるわ、被弾に弱いわ、散々だ」
「それは……」
「散々だね」
「緒戦では、魚雷で敵艦を沈めることができたが、敵さんの機体の性能向上が目覚ましくてな。自慢の速度で敵機を振り切ったり、機銃で敵機を追い払うという構想も、敵さんの方が戦闘機が多かったり、速度が上だったりしたせいで、陸攻は出撃のたびに損害が大きいことが珍しくなかった」
「うわ~」
「かといって、変わりの機体も用意できなかった。海軍はエンジンを4発搭載した大型機を発注していたが、いずれも失敗続き。結局、一式や九六式を使い続けるしかなかった。一式陸攻は後に二二型に改造され、インテグラルタンクへの防弾も初期の一一型よりマシになったが、それでもタンクの上面下面には防弾ができなかった。後に下面は、一応主翼に防弾ゴムを貼った。あとは消火装置も装備された」
「なんか、涙ぐましいね」
「そして、航続距離が求められなくなってきた三四型では、インテグラルタンクを廃止して、防弾タンクへ変わっている」
「結局やめたんだね……」
「まあ、無茶な要求を苦労の末クリアできたことは凄いが、敵さんの性能向上に追い抜かれ、機銃で敵を寄せ付けないという当初の目論見が破綻し、防弾をどうするかごたついている間に損害は膨らむばかり。いい機体ではあったんだがな……」
「そういえばさ、作中でハルカは上方から攻撃をしかけていたよね?」
「ああ、インテグラルタンクはさっきもいったように、上面にまでは防弾が施されなかったんだ。だから、上方から狙ったんだろうな」
「彼女さ、なんでそんなこと知っているの?」
「ハルカは、祖父が全てを教え込んだ子らしいからな。きっと、爺さんから教わったんじゃないか?」
「ハルカのお爺さんて、何者?」
「ま、後に明かされるだろう」
「教えてくれないの?」
「キリエ、これは飛行機を解説する講座であって、ネタバレを含む解説ではないんだ。ようし、今日はここまでにしてやる!またな~。歯みがけよ~」
「「へ~い」」
アニメで登場した爆撃機といえば、彗星、飛龍、富嶽ですね。
できれば連山とかも見たかった……。
イジツは海がない荒野が広がる世界。そう考えると、本来魚雷で敵を沈めるのが主目的の陸上攻撃機の登場は厳しかったのかもしれません。
ここまで読んで下さった方々、ありがとうございました。
また不定期更新になりますが、次の章もお付き合い頂けたら幸いです。