荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

59 / 116
ある日、コトブキ飛行隊のキリエは大好きなパンケーキを
前にため息を吐いていた。
彼女がため息を吐いていた理由とは……。


今回はギャグ要素が大部分を占めておりますので、
気楽に読んで頂ければと思います。



おまけ短編:口は災いの……

 どこまでも広がる青い空、流れる白い雲、頬を撫でるそよ風。

 それらを感じながら、照り付ける灼熱の太陽に焼かれる荒野に寝っ転がる赤いコートを着た短い黒髪の女性、コトブキ飛行隊の隊員の1人、キリエは空を見上げる。

「ああ……」

 ようやく発したのは、言葉になっていないうめき声。

 彼女は頭を憂鬱そうに動かし、左右を見る。

 彼女の周囲に転がっているのは何かの残骸と、同じコトブキ飛行隊の隊員、チカだ。

 奇妙なのは、キリエもチカもなぜか服が所々破れていたり、焦げていたりする点。

 そして周囲に転がる残骸は、角ばった骨組みや4つのタイヤから自動車であった可能性がある。

「ああ、なんでこんなことに、なっちゃったのかな……」

 彼女はつぶやく。なんでこんな状況になっているのか。彼女はその理由や原因をしっている。

 

 あの時あんなこと(・・・・・)さえ口にしなければ、そう後悔しても遅い。

 

 後悔が先に立つことはない。

 なぜキリエとチカがこんなことになっているのか、ことの始まりは数十分ほど前にさかのぼる。

 

 

 

 

 

 

「……はぁ~」

 羽衣丸の一角にある食事処、ジョニーズ・サルーンでキリエは大好きなパンケーキを前にしてため息を吐いていた。

「どうしたの?」

 ジョニーズ・サルーンのウエイトレス、リリコが訝し気な視線を送る。

 するとキリエはリリコを見て、自分のある部分を見ると再びため息を吐きだした。

「……人を見てため息を吐かないでくれる?」

「あたし、思ったんだ」

「……何を?」

 

 

「……私が食べたパンケーキは、どこの栄養になっているのかなって」

 

 

「……は?」

 リリコは僅かに首を傾げる。

「だって、パンケーキってカロリー高いでしょ?」

「そうね……」

 パンケーキ(キリエ仕様)は約850キロものカロリーがある。

 女性が1日に必要とする摂取カロリーが約2000キロと言われているため、単純にパンケーキ1皿(キリエ仕様)で1日に必要なカロリーの半分近くを摂取できてしまう。

 こんなものを1日に何皿も食べるキリエが太らないのはなぜだろうとリリコや周囲は時として疑問に思うことがある。

 いくらカロリー消費が多いパイロットとはいえ。

「でもさ、いくら食べても……その」

 キリエは、自身の胸のあたりに両手を当てながら言う。

「ああ……」

 リリコはそれで察した。

 

 

「要するに、胸が大きくならないから食べたパンケーキはどこの栄養になっているんだろうってこと?」

 

 

「リリコさん口に出して言わないで~!」

 リリコは本日何度目かのため息を吐き出す。

「別にいいじゃない、着やせするんでしょう?」

「そうだけど……、でもなんか悔しくて」

「悔しい?」

「だって、空賊のアジトに潜入したときとか、あの空賊どもはザラのスタイルには目の色変えるのに、私には特に興味示さないし……」

 以前アナモグラ団のアジトに潜入した際には、ザラは勿論、一緒に潜入したハルカゼ飛行隊のベルという子にまで空賊どもは色目を使ったというのに、キリエには興味を示さなかった。

 そのことが気に入らなくて、その場で同じく興味を示されなかったハルカゼ飛行隊のアカリと口論を繰り広げることになった。

 それで空賊の注意を引くことには成功したが、キリエは納得いかなかった。

「仕方ないじゃない?ザラの方が年上だし、大人の色香ってあるもの」

「わかってはいるけど、でもなんか悔しい!」

「その体格がわかりにくくなるコートが原因なんじゃないの?服装変えてみたら?」

「でもザラみたいな格好は、ちょっと……」

 キリエには、ザラの服装を真似ることには抵抗があるらしい。

「まだ成長が完全に止まったわけじゃないでしょ?これからに期待したら?」

「これからか~……」

 彼女はため息を吐き出す。

 

 

「心配ないって」

 

 

 ふと、聞きなれた声がキリエの耳に届く。

 振り返ると、そこにはいつもの元気そうな笑みを浮かべる少女。

 背中には、少し不気味な生物のぬいぐるみを背負っている。

「バカチ?」

「いきなりバカチってなに?人が折角励ましているのに!?」

 そこにいたのは、同じくコトブキ飛行隊の隊員、最年少のチカだった。

 2人が一緒の空間にいると、馬が合うときもあれば口論や喧嘩に発展することも珍しくなく、そのたびにレオナに説教をされる羽目になる。

 キリエは気だるそうにチカに先を促した。

「……で、何が心配ないの?」

「キリエは心配しなくても、色々大きくなるって」

「なんでわかるの?」

「だってさ」

 チカは一瞬視線をキリエのある場所へ向け、言い放った。

 

 

「キリエ、最近お尻が大きくなってきたじゃんか!」

 

 

 キリエは咄嗟に両手でお尻を押さえた。

「な、なんでそのことを……」

「だってお風呂とかシャワーのとき見えるし」

「見てたの!?」

「そうでなくても、服の上からだってわかるよ。第一、パンケーキを毎日沢山食べているし」

「なるほど、食べたパンケーキは胸ではなくお尻に行っていた、と」

「む~」

 少し涙目になってキリエはチカをにらむ。

「まあ、チカにはこの悩みはわからないよね~。まだ子供だし、何より小さいしね~」

 チカはかっとなり、薄い胸を精一杯はる。

「何をいうか!キリエと違って、私の胸にはまだ可能性があるんだからね!」

「人の胸を夢も希望もないみたいにいうな!」

 いつもの有様に、リリコは黙ってことの成り行きを眺めている。

「ふふん、私はまだ成長途中だもんね。いつか、ザラやレオナみたいに」

「あ~はいはい。それはないから、ないって」

「ムカっ!ないとはなんだ!」

「だって、あの2人はコトブキの中じゃ規格外じゃん?」

「まあ、それは……」

 ふと、チカも自分の胸のあたりを眺め、ため息を吐きだした。

「ついでにいうと、マダムはもっと」

「キリエやめよう、悲しくなる……」

 上を見ればきりがない。2人はそう思ったことだろう。

「マダムはともかく、なんであの2人はあんなにスタイルいんだろう?」

「ザラは間違いなくね。でも、レオナは胸はあってもザラと違って色気ないよね」

「まあ筋トレが趣味だもん、そのようになるよ」

 鍛え上げられた筋肉質な肉体美。それはそれで需要が存在するのだろうが、キリエとチカはどうも魅力を感じないようだ。

「ふ~ん」

 ふと、キリエは考え事をする。

「エンマはさ、人並にあるよね?」

「まあ、人並くらいにはあるんじゃない?それよか、没落しても貴族らしく気品さがあるよね」

 もはや何をさしているのか、2人は聞かなかった。

「ケイトはそれより少し劣る、かな」

「服に隠れている部分が多いよね。それに、ケイトはそういったことに興味なさそうだよね」

 キリエとチカは仲間のスタイルについて分析していく。

 そういえば、身近にスタイルのいい人物がザラ以外にいた。

「ハルカはどうだろう?」

 思い浮かんだのは、時折一緒に仕事をすることがある蒼い翼の零戦のパイロット。

 なんでも、ガドール評議会護衛隊唯一の女性パイロットということもあり、見た目のよさも相まって注目を浴びているらしい。

 キリエは一緒に仕事をしたり、入浴をしたときの彼女の体型を思い出す。

「ハルカも、人並にはあるよね~」

 防寒用のジャケットに隠れているが、彼女の胸の大きさは人並か少し大きめくらいだったはず。

 だが、彼女の場合注目すべき場所はそこではない。

「ハルカはどちらかというとお尻や太ももじゃない?」

 彼女の場合は胸ではなく、むしろ肉付きのいいお尻や、短めのスカートから伸びる綺麗なラインを描く太ももが注目すべき場所である。

 その太ももの良さは評判らしく、なんでも議員の枕役を昼休みのたびにしていると聞いたし、心労がたまって睡眠不足になったレオナに膝枕をした際、彼女曰く今までで一番よかったと感想を述べていた。

 その話を聞いた際、なぜかザラの額には青筋がたっていたが。

 他にも、スカートの上からでもお尻の肉が豊かなことをキリエは彼女を見て知っている。

 本人にそれを指摘したら、「言わないでくださいよ、気にしているんですから!」とか抗議してきたのを覚えている。

「く~、ハルカめ。胸が人並以上あるのにお尻までとは贅沢な奴め~。少し分けてくれ~」

 ここにいない彼女に、キリエは少し悔しがる。

「あとは……、タミルとか?」

「タミルは疑いの余地なく大きいでしょう?」

 2人の頭に浮かんだのは、エンマの学友で古生物を研究しているタミルのこと。

 警備の仕事で一緒になることも多い彼女だが、格好は無頓着で胸元が良く見えるシャツに半ズボン。

 なので彼女のスタイルがよくわかるが、本人に気にした様子はない。

 こういうのをユーハングでは、はしたないというのだろうか。

「ザラもレオナもタミルも胸は大きい。おまけにザラはスタイルがいい!」

「羨ましいよね~」

 2人とも大きくため息を吐き出しながらカウンターに突っ伏した。

「私たちも、いつかあんなふうに……」

「なりたいよね~」

「せめて、リリコさんやマダムほどは望まなくても、もう少し……」

「これからの成長に期待するしかないっしょ?」

 またも2人はため息を吐いた。

 そんなキリエとチカにリリコは言った。

 

「これからの成長に期待できるだけマシでしょう?もう成長がとまっている人もいるもの」

 

 すると2人は顔を上げ、笑みを浮かべる。

「そうだよね~。私たちにはこれからがあるもんね」

「そうそう。これからがあるよ」

 2人はうんうんと頷く。

 そんな2人に、ある人物の顔が浮かぶ。

 

 

「成長が止まっているといえば、ナツオ班長だよね!」

 

 

「そうそう。あの外見で幼く見られがちだけど、もう大人で成長止まっているもんね」

「そうそう、あの絶壁でね」

「レオナに色気ないとかいっていたけど、班長も色気ないよね」

 2人は極力下を見ることで自分達を励まそうとした。

 そんな話題で盛り上がる2人をよそに、リリコはカウンターの奥へ引っ込んだ。

 そしてユーハングにはこんなことわざがある。

 

 噂をすれば影、と。

 

 

「へえ~、誰が絶壁だって?」

 

 

 キリエとチカは一瞬、体が凍ったように動かなかった。

 そして恐る恐る、さびた旋回機銃のようにぎこちない動きで声の方向を振り返る。

 2人は、顔面が蒼白になった。

 

 

「誰が成長が止まっているって~」

 

 

 その人物は手に愛用のイナーシャハンドルをパンパンたたきつけながら、場違いなほどの笑みを浮かべながら2人を見る。

 

 

「誰が色気がないって~」

 

 

 その人物こそ先ほどネタにしていた人物。羽衣丸の整備クルーをまとめる見た目は幼女、中身はおやじと整備クルーに噂される人物。ナツオ整備班長。

 先ほどまでの会話を、最も聞かれてはいけない人物だ。

 

「何やら楽しそうな声が聞こえると思って聞き耳を立ててみれば、あたしのことネタにしてくれやがって~」

 班長の額に青筋がたっている。間違いなく怒っている。ものすんごく怒っている。

 

「2人とも、世の中には話題にしてはいけないことがあるって、知っているか?」

 

「あ、あの班長……」

「これは、班長を悪くいったわけじゃ……」

「2人とも……」

 班長は両目とかっと見開き言った。

 

「2人とも!ケツをこっちに向けやがれ!」

 

「な、なんで!?」

 

 

「私をネタにする奴は!ケツにイナーシャハンドルぶっさしてかき回してやる!」

 

 

「「ひぃ!!」

 咄嗟にお尻を押さえる2人。

 そんな2人に、班長はにじり寄ってくる。しかも班長の背後には整備クルーが数人いて、彼らは横並びになって次第に包囲の輪を狭めてくる。

 本気だ。本気で班長は……。

 2人は状況を整理する。

 背後にはカウンターと壁。正面には班長と整備クルーたち。

 逃げ場はなかった。

「さあ、おとなしく」

「捕まってたまるか!」

 キリエは立ち上がると、カウンターに上り、上に向かって飛び上がった。

「な!」

 キリエは飛び上がった先にある手すりをつかむと体を持ち上げ、キャットウォークによじ登った。

 第2羽衣丸も、羽衣丸同様ジョニーズ・サルーンの上にはキャットウォークが存在する。かつて、羽衣丸に空賊が押し入った際、キリエはレオナと共に潜入しジョニーズ・サルーンに閉じ込められた船員たちを解放、空賊を撃退した。

 そのときの逆のことを行い、脱出経路に活用したのだ。

 高所に上ると、赤いコートの中が見えるが、チカと違いキリエはインナーを着ているため問題はない。

「じゃあね~」

 キリエは爽快に逃げていった。

「ちょ!キリエ待て~!」

 

 

 チカを見捨てて……。

 

 

「こうなったら……」

 

 班長の視線は、残されたチカに向けられる。

 チカは逃走経路を探す。彼女は小柄で、スカートの中は下着のため、先ほどのキリエの使った手は使えない。

 どうすればいい。その間にも、班長たちは迫ってくる。

「さあ、観念して」

 チカが動いた。

 彼女は小柄な体を咄嗟にかがめ、班長の股の間を潜り抜ける。そして背後にいる整備クルーの額に頭突きを食らわせてひるませると、クルーを抱え上げ飛行機投げで班長に向かって投げつけた。

「ぐえっ!」

 体格が上回るクルーを投げつけられ、班長は押しつぶされ身動きが取れなくなった。

「今のうち!」

 チカも班長から逃げるべく駆け出した。

「逃がすな!」

 班長の声に、整備クルーたちは2人を捕獲すべく駆け出した。

 

 

 

 

 

「……よし」

 進路上に班長や整備クルーがいないことを確認し、キリエは駆け出す。

 そして曲がり角で人をぶつかり、額の前に星が舞った。

「いた~」

 おでこを押さえつつまぶたを上げると、そこには見慣れた姿が。

「チカ?」

「あ、キリエ!」

 チカはキリエを見つけるなり、鼻先が触れそうなほど顔を近づけてきた。

「よくも私を見捨てて逃げたな!」

「ふん、鈍いチカが悪いんじゃん」

「なんだと!」

 口論に発展しそうな空気が、2人の間に満ちる。

 

「てめえら!まだ遠くへは行ってない。船内を探せ!」

「「「うっす!」」」

 

 ナツオ班長と整備クルーたちの声をきき、彼女たちは同じ方向を向いた。

「やば!もう追ってきた!」

「どうすんのさ!!」

「とにかく逃げる!」

 2人は同時に地面を蹴って駆け出す。

 狭い羽衣丸内部の通路を船員たちとぶつかりそうになりながら、彼女たちは逃げる。

 そしてやってきたのは。

「あ、格納庫に出た」

 そこには、いつも彼らが乗っている隼1型6機が駐機されている。

「ねえ、いっそ隼で逃げるっていうのは?」

「無理だよ。ハッチ閉まっているし、エンジン始動まで時間かかるし」

 逃走手段としては理想だが、なにぶん時間がかかる。

「お前たち見つけたぞ!そこになおれ!」

 班長たちがイナーシャハンドル片手に鬼の形相を浮かべながら走ってくる。

「ひぃ!もう来た!」

 2人は羽衣丸の昇降口へと走る。

「逃がすか!」

 班長はツナギから取り出したスパナを投げつけた。

「ひぃ!」

 2人はすんでのところで姿勢を低くして回避。頭上を過ぎ去ったスパナは壁に激突し、大きなへこみを作った。

 そんな威力の投擲に呆然とする暇もなく、2人は階段を急ぎ足で降りていく。

「ど、どうする?」

 あたりを見渡すキリエ。彼女の視界に、あるものが飛び込んできた。

「これに乗って!」

 2人が乗ったのは、ラハマ自警団の備品である小型の自動車だった。

「でも、キリエ運転したことは?」

「大丈夫、隼より簡単だから」

 キリエはキーを回してエンジンをかけると、即座にアクセルを踏み込んだ。

 タイヤが地面と勢いよくこすれる甲高い音を立てながら、車が急発進した。

 周りの風景が、後ろへと勢いよく過ぎ去っていく。

「よし!これなら班長も追いつけないでしょう!?」

「あたいから逃げられると思ってんのか!?」

 2人は振り返った。

 背後には、整備クルーにハンドルを握らせ、迫りくる班長の姿があった。

「ど、どうすんのさ!」

 キリエはハンドルをきった。

 車体が傾き、落ちそうになるのをチカは必死に耐える。

 進路上には、町があった。

「町にいって振り切るよ!」

「え!でもそんなことしたら!?」

「今は班長から逃げるのが先決!イナーシャハンドル突っ込まれたいの!?」

「……嫌だ」

「じゃあ、いっくよー!」

 キリエはアクセルを踏み込み、車を加速させた。

 

 

 

 

「はあ~、お酒がおいしいわね」

「昼間からよく飲めるな」

 ラハマの町のとある道に面した酒場で、コトブキ飛行隊の副隊長ザラは昼間から酒を飲み、隊長のレオナは彼女に付き合っていた。

「いいじゃない?今日は休みなんだし」

「それはそうだが……」

 ふと、レオナは騒音が迫るのを聞きつけた。

「なんだ?」

 彼女が振り返ると、そこには道端にある木箱をなぎ倒し、家の壁に車体をこすりつけながらも爆走する車があった。

「キリエ、真っすぐ走ってって!」

「仕方ないじゃん!普段乗らないんだから!」

 言いながら、車はレオナとザラの前を過ぎ去っていった。

 運転手と助手席の人物には見覚えがあった

「今のは……」

「あら、今のってキリエとチカじゃない?」

「……まさか。いくら2人が向こう見ずでも、街中を車で爆走するわけ……」

「待ちやがれ!キリエ!チカ!」

 その2人のそばを、整備クルーが運転する車が過ぎ去っていく。

「今のって、ナツオ班長よね?それにキリエにチカって……」

 レオナは右手で額を押さえ、テーブルに肘をついた。

「……何が起こっているんだ、一体」

 決してろくなことではない。それだけは、彼女は確信していた。

 

 

 

 

 街中を逃げるキリエとチカ。しかしナツオ班長たちの車両と距離が一向に離れない。

 2台の車両は街中を抜け、滑走路のそばへやってきた。

「まだついてくるよ!?」

「こうなったら……」

 キリエはポケットから何かを取り出し、それを後ろを走る班長たちへ放り投げた。

「な!キリエなんてことを!」

 間もなく、その上を通りかかった班長たちの車両のタイヤから破裂する音がし、車体が傾き、班長たちを放り出して横転した。

「よっし!」

「何やったのさ?」

「格納庫にあったネジとか金属部品をくすねておいたの」

「お~、よく頭がまわったね」

「やるときはやるのがあたし!」

 即興のトラップで班長たちをまいたキリエとチカは滑走路に沿って進み、ラハマを離れていく。

「それで、これからどうするの?」

 とっさのことで班長から逃げたものの、これからどうしようかチカは疑問を抱く。

「とりあえず、班長の頭が落ち着いてほとぼりがさめるまでラハマから少し離れようか」

 今のナツオ班長に遭遇すれば、間違いなくケツにイナーシャハンドルをさし込まれるのは目に見えている。

 それでも班長も成人している大人なのだから、落ち着けば話が通じるはず。そのときに謝ればいいとキリエは考える。

「そうだね」

 チカも同意し、助手席に腰かける。

 

 少なくとも、キリエの考えは間違ってはいない。

 

 誤算があるとすれば、ナツオ班長の追撃が止むと思っていたことだろう。

 

 

「待てええええええ!」

 

 

「……へ?」

 キリエは思わず声の方向へ振り返った。

 その方向には1機の隼1型が確認できた。

 迷彩が施されていないので、コトブキ飛行隊の予備機だろう。

 

 

「逃がすかあああああ!?」

 

 

「ナツオ……班長?」

 

 そんな隼からナツオ班長の声がしてくる。キリエは誤解していた。

 ナツオ班長が、あの程度のトラップであきらめるはずがなかったのだ。

 

「どこへ逃げようとも、私の胸をネタにした落とし前はきっちりつけさせてやるからな!?」

 班長の乗る隼の12.7mm機銃が咆哮を上げる。放たれた機銃弾はキリエたちの乗る車両のそばに着弾。弾丸が地面に着弾し地面がえぐれ、砂埃がいくつもたつ。

 やる気だ、班長はやる気だ。このままではケツにイナーシャハンドルをさされるどころか、自分達の身が危ない。

 2人は叫んだ。

「ちょ、班長ちょっとまって!」

「そうだよ班長、落ち着いて!」

「そうそう、班長。落ち着いて話せばきっと分かり合えるから」

 そう2人は言う。ナツオは鬼の形相を浮かべながら言い放った。

 

 

「問答……無用だ!」

 

 

 班長はロケットの発射スイッチを押した。

 主翼下に吊り下げた6発のロケットが放たれ、間もなく小弾がばらまかれる。それは、キリエたちの乗る車両の周囲に降り注いだ。

 

「「ぎゃあああああああああああああああ!!」」

 

 逃げ場などなく、キリエたちは爆発に巻き込まれた。

「よっし!仕留めてやったぞ!」

 目的を達成した班長の乗る隼はラハマへと戻っていく。

 そんな班長の隼を見送りながら、服の所々が破れ焼け焦げた状態で地面に横たわっているキリエとチカは、二度と班長の前で胸の話題を口にしてはいけない。

 そう誓ったという。

 

 

 

 

「うう~、結構遠かった」

「やっとついた~」

 ボロボロの姿になりながらキリエとチカは羽衣丸まで歩いて帰還した。

 キリエが意外と速度を出してラハマから離れたため、2人が羽衣丸にたどり着いたころにはすっかり日が落ちていた。

 ふらつきながらも羽衣丸に帰還した2人は階段を上り搭乗口へとたどり着く。

 同時に、床板を踏みぬかんばかりの大きな音が響き渡った。

 

 

「おかえり2人とも。まっていたぞ。キリエ、チカ」

 

 

 その声を聴いて、2人は顔面が蒼白に染まる。

 顔を上げた先にいたのは、場違いなほど満面な笑みを浮かべる彼らコトブキ飛行隊の隊長、レオナだった。

 そして、その背後にはあきれ顔のマダム・ルゥルゥ。

 正座させられているナツオ班長や整備クルーたち。

 

「ことの経緯はナツオ班長たちから聞いたぞ。自警団の車両を無断で使用した挙句街中を爆走し、物を壊すとは何を考えている?」

「いや、これはその……」

「だって、本気でナツオ班長がイナーシャハンドルをさすっていうから!」

「本人がいないからって、気にしている話題で盛り上がったからだろう?失礼だとは思わないのか?」

「だからって整備クルーつかって私たちを包囲してきたり、車で追いかけてくるわ、隼で攻撃してくるのはやりすぎじゃない!?」

「すまねえ、どうしても許せなくて……」

 ナツオ班長はいつもの元気はどこへやら、しおれた花のように項垂れている。

「とにかくだ。今回の件は、ここにいる全員でしっかり弁償しておくように。ラハマから請求書も届いているしな」

 そしてマダムが、請求額が書かれた紙を広げる。

 中には、壊した自警団の車両の修理費用に町で壊した建物の修理費用、ダメにした製品の弁償代等々が記載されている。

 その額を見て、全員が唖然とした。それは、用心棒の仕事を数回しただけでは払えない額だった。

「ええええ!そんな額払えないって!」

「無理だって!」

「無理じゃない!自業自得だ!」

「残念だけど、しばらくただ働きね」

「マダム助けてええ!」

「残念だけど、自分達の不始末は自分達の手でなんとかしなさい」

 マダムは残酷な事実を告げると、請求書を残して去っていった。

 愕然とするキリエやチカをよそに、レオナは彼らの前に仁王立ちする。

「さて2人とも、コトブキ飛行隊の名を貶めるような真似はするな。そう言っているよな?」

「あの~、レオナ」

「そもそも、今回の件は班長が」

「何か言ったか?」

「「いえ、何も……」」

「では2人とも、私から説教といこうか?まずは正座してくれ、今すぐ!」

 2人はナツオ班長たちのそばに正座する。

 その後、彼らは数時間にわたって説教の嵐を浴びることになったのは、いうまでもない。

 この一件によって、触れてはいけない話題の存在、口は災いのもとなど、キリエとチカは身をもって学んだのだった。

 




読んでいただき、ありがとうございました。


次の章の執筆に時間がかかりつなぎに書いた短編です。
ギャグ要素を書くのは難しいですね……。


不定期更新になりますので、気長に待っていただけると幸いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。