荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

60 / 116
ある日、対談と飛行船の武装強化のためにイヅルマを訪れることに
なったユーリア議員たち。
空賊を追い払うため出撃していた彼女は、イヅルマから自警団の
紫電が上がってくるのを見る。
だがその進路は、真っすぐ用心棒である彼女へ向かってきて……。


第5章 イヅルマにサクラは舞う
第1話 お尋ね者ではあったけど……


 前方を右へ左へ飛ぶ零戦21型を追いつつ、目の前の光像式照準器のサークルに目標をとらえる。

 タイミングを見計らい、彼女は引き金を引いた。

 機首の13.2mm機銃が咆哮をあげ、連続で機銃の弾を吐き出す。機銃の火線が21型に吸い込まれていく。

 主翼の付け根に命中し瞬く間に出火。炎に包まれながら、空賊の21型は荒野へと落ちていった。

「こちらハルカ。空賊の機体を撃墜。周囲に機影なし」

『了解。残りの空賊の離脱を確認した』

 隊長からの通信の通り、残りの21型は別の方向へと逃げていった。

『みんなご苦労様。帰還して頂戴』

 飛行船から無線を通じて聞こえたユーリア議員の声に応えるように、飛行船の後部ハッチが開いていく。

 ユーリア護衛隊の鍾馗が飛行船へ帰還していく中、1人零戦に乗る女性パイロット、ハルカは進路上を見渡す。

 眼下に広がるのは、どこまでも広がる土色の荒野。そしてその中に点在するオアシスの都市。

 進路上には、比較的大きな都市が見える。その町の一角には、何隻もの飛行船が係留されているのが確認できる。

「あれが今回の目的地か」

 

『ええ。対談相手のいる場所、イヅルマよ」

 

 ガドール評議会のユーリア議員、ラハマのオウニ商会のマダム・ルゥルゥ、ハリマ評議会のホナミ議員。この3人に共有という形で雇われている、蒼い翼の零戦に乗る女性。

 名をハルカという。

 先日の工業都市ナガヤ防空戦で撃墜され不時着。危うく殺されそうになるも、こうして今も用心棒を続けている。

 オウニ商会のマダム・ルゥルゥからの依頼が次々入る中、いい加減彼女を返せ、というユーリア議員の苦情が入ったことも手伝ってか、ようやく彼女は生活の拠点を置いているガドールへと帰還できた。

 そして間もなく、ユーリア議員からイヅルマへ向かうことを告げられ、護衛隊の一員として同行することになった。

 目的は、イヅルマ市長との対談と、ユーリア議員の飛行船の武装強化であった。

 イヅルマは飛行船産業で発展した都市で、オウニ商会の羽衣丸を始め、各地で使われている飛行船の建造に深く関係する企業、パロット社を有する。

 昨今、旧自由博愛連合の残党が裏で暗躍する中、それに相対する思想を広めようと外遊を繰り返すユーリア議員の身の安全を考え、飛行船の武装強化が決まった。

 とはいえ、ガドールではそれを行える会社がないため、イヅルマへ向かう必要があった。

 議員はそんなものいらない、といったが万一ということもあるため、護衛隊全員で説得して納得してもらえた。

 現に、ここまでの道中でもどこから情報が漏れたのか、空賊の襲撃にすでに3回あっている。

「ん?」

 ハルカは双眼鏡を取り出し、進路上を見つめる。滑走路から飛び立ってきたのは、機体が白く塗られ、翼に黄色い鳥のようなマークが描かれた、紫電11型が5機。

 個人の専用機なのだろうか、塗装パターンが5機とも少々異なっている。

『進路上にレーダー反応あり。模様からして、イヅルマのカナリア自警団の機体と思われます』

『一時期お飾り自警団なんていわれていた、女性だけで構成されたイメージアップの飛行隊ね。お出迎えかしら』

 空賊による襲撃が増加の一途をたどっている現在、どこの町も自警団の団員を増やすためにイメージアップに余念がない。

 自警団というと、固い、厳しい、きついというイメージもあれば、偉そう、威張り散らす、給料泥棒などいいイメージがないことも多い。

 それらを払拭するために、女性だけで構成した飛行隊というのは、確かに悪くない選択だろう。

「イヅルマは飛行船を上げて客人を出迎えるらしいですが……」

 町によって客人をもてなす方法は異なる。もっとも、議員や大手の商会、資産家に限られた話だが。

 イヅルマの場合は、飛行船で出迎えるのが通例らしい。

『町が目前だけど、護衛してくれるのかしら』

「にしても、なんだか真っすぐこちらにくるような……」

 5機の紫電は、編隊を組んだままこちらに向かってくる。

 彼女は何か漠然とした危険を察知し、急いでフットペダルを蹴りこんで機体を横滑りさせる。

 直後、紫電の主翼とガンポッドに装備された20mm機銃が咆哮を上げた。

 先頭を飛んでいた、プロペラスピナーが赤く塗られた機体の機銃が放った弾が、直前までハルカの零戦のいた場所を駆け抜けた。

 交差した紫電は旋回し、彼女の背後を取ろうとする。

「くそっ!」

 急いで戦闘速度へ加速し、彼女は後方を警戒しながら紫電の機銃を回避する。

 

『こちらカナリア自警団です!蒼い翼の零戦。あなたには、多数の飛行船を撃墜し、積み荷を奪った容疑がかけられています!今すぐ着陸してください!従わない場合は、撃墜します!』

 

「え!いえ、私は議員の用心棒で今は空賊じゃ……」

 

『そんなウソが通じると思いますか!今もこうして、議員の乗る飛行船を襲撃しようとしていたじゃありませんか!イヅルマの間近でやるとは、良い度胸ですね!』

 

 紫電から放たれた機銃弾を、ハルカの零戦は回避する。

 周りを見れば、護衛隊の鍾馗は全機飛行船に帰還しており、飛んでいるのは彼女1人。はたから見れば、飛行船を襲おうとしていたように見えなくはない。

「ですから、私は議員の用心棒で!確認してもらえば」

『確認するまでもありません!空賊のいうことは信用できませんし、あなたが賞金首に指定されていることは調べがついています!大人しくお縄を頂戴してください!』

 イジツでは、情報が古いことは珍しくない。町と町を結ぶ情報が基本的に新聞に頼らざるを得ない上に、飛行機で数日飛ぶほど距離が離れていることも多いため、情報が数週間遅れで伝わることも珍しくない。

 それでも、ハルカが賞金首であり、空賊ウミワシ通商の一員だったのは昔の話で、ユーリア議員たちにより賞金首からは外されているし、ウミワシ通商は崩壊を迎えている。

 いくら何でも情報が古すぎる。

『ハルカ君!』

「隊長、どういうことですか!?」

『とにかく、反撃しないで回避を続けてくれ!』

「了解」

 空賊相手なら反撃すればいい話だが、相手はならず者やルールを破ったもの、町を脅かす相手を捕まえる自警団。

 反撃して撃墜でもしようものなら、自分がお縄につくことになる。

 20mm機銃の放つ爆音から逃れながら、彼女は右へ左へ回避を続けた。

 

 

 

『ユーリア議員!イヅルマはなんと!?』

「今確認中よ。こちらガドール評議会評議員、ユーリア。イヅルマの自警団、イヅルマ市長。今すぐ私の用心棒への攻撃を止めなさい。応じない場合は、こちらにも考えがあるわ」

 無線で呼びかけるも、応答がない。

「繰り返すわ。イヅルマの自警団、並びにイヅルマ市長。いますぐ私の用心棒への攻撃を止めなさい。従わない場合は」

 

『う~ん、エルく~ん。怖いおばさんの声がするよ~』

『大丈夫ですよ。どんな怖いおばさんからでも、私が、守ってあげますからね~』

『う~ん、エルママ、ありがとう~』

『ですから、市長は、ゆ~っくり、お、や、す、み、な、さ、い』

 

 無線が通じたと思えば、聞こえてきたのは甘えた男性の声と甘やかす女性の声。

 瞬間、ユーリアから何かが切れる音がしたのは、気のせいではないだろう。

「通信士……」

「……はい」

 飛行船の通信士は察した。無線を切り、回線をハルカへ切り替える。

「……どうぞ」

 途端、戦闘機のエンジンが高速で回転する音や銃撃の爆音が船室にとどろく。

「ハルカ、聞こえる?」

『ユーリア議員!これはどういうことで、イヅルマはなんと?』

「指示を出すわ、よく聞きなさい」

 議員の放った言葉を聞いて、全員が硬直した。

 

 

「撃墜しなさい」

 

 

『……は?』

 

 全員が耳を疑った。

 

『あの、それって……』

 

「聞こえなかった?イヅルマの自警団を撃墜しなさい、そういったの」

 

『ちょ!待ってください!相手は自警団ですよ!?』

「関係ないわ。後のことは私に任せて、あなたは自分の身を守ることを優先しなさい!」

『……どうなっても知りませんよ!?』

 ハルカは、後方についてくるカナリア自警団の紫電に視線を向けた。

 

 

 

 照準器を覗き、タイミングを見て引き金を引く。

 カナリア自警団団長をつとめる赤い髪の女性、アコは目の前を飛ぶ零戦を狙い撃つ。

「蒼い翼の零戦、繰り返します!今すぐ着陸して、投降してください」

 機銃を撃ちながら、彼女は投降を呼びかけ続ける。零戦のパイロットからの返答はない。

 ふと、機上電話から声がする。

『アコ、本当にいいの?』

 同じカナリア自警団で、僚機のシノの声だ。

『確かに、目の前の零戦が賞金首で空賊なのは事実だけど。もしさっきの話が本当だったら……』

「シノさん、人々が必死に手に入れたものをさらっていく空賊のいうことなんて、信じるに値しません!空賊のいうことに耳を貸していたら、自警団はやっていけません」

『そうだけど、でもせめて本部に照会くらいはしたほうが』

「そんな時間はありません!目の前には、客人の飛行船が飛んでいます!」

 ここまで空賊が飛行船に近づいており、周囲にはカナリア自警団しかいない。

 なら、自分たちがなんとかするしかない。彼女はそう考える。

 その考えは間違っていない。……普通なら。

『わ、わかったわ』

「ではシノさん。援護を」

 アコが言いかけたとき、零戦が動いた。

「な!」

 零戦は突如機首を持ち上げフラップを下げて失速し、アコとシノの紫電との距離が急速に縮まる。

「ぶ、ぶつかる!」

 2人は舵を切って零戦との衝突コースを回避する。

 そして、零戦は2機の背後に来るとフラップを閉じて加速。機首の機銃が咆哮を上げ、前方の紫電2機の主翼付け根付近に銃弾を叩き込んだ。

「「きゃあ!」」

 操縦席付近に炎があがる。自動消火装置がすぐさま作動し、噴き出す炭酸ガスが火災の延焼を消し止めるも、機体のバランスが保てない。

 アコとシノの乗る紫電は煙を吹きながら、地面に向かって降下していった。

 

 

「団長!」

『お姉さま!』

 団長のアコと僚機のシノの紫電が撃墜されたのを見た、同じカナリア自警団のリッタとミント。

 特にアコが落とされるのを見た紫の髪の女性、ミントは奥歯をかみしめ、心の中で闘志を燃え上がらせる。

『空賊無勢がお姉さまを……。許しません!』

 ミントの紫電は加速し、蒼い翼の零戦へと向かっていく。

「ちょ、ちょっとミントさん!1人じゃ危険ですよ!」

 大きめの自警団の帽子をかぶった赤みを帯びた短髪の女性、リッタは慌てて後を追う。

 怒りの炎を燃え上がらせたミントは零戦に迫り、紫電の20mm機銃を放つ。

 それを零戦は簡単に回避し、スナップロールでミント、リッタの紫電を追い越させ、後ろから3丁の機銃を放ち、2機をまとめて落とした。

『お姉さま~』

「師匠~」

 

 

 

「くう……、すう……。ん?」

 操縦席で眠りこけていた緑の髪の、眠そうな顔をしている女性、ヘレンはあくびをかみ殺しながら周囲を見る。

「あれ、みんなは?」

 空賊機がイヅルマを訪問する議員の飛行船を狙っている、というアコや部長の指示で発進したまでは覚えている。のだが……。

「みんな、どこいったのさ~」

 飛んでいるのは、ヘレンの紫電だけ。

 それもそのはず。後の4人は落とされて地面にはいつくばっている。 

 だが、居眠り運転でその瞬間を見ていないヘレンにはわからない。

「まあいいや。あそこに見えるのが空賊機だよね~」

 彼女は零戦の背後についた。

「そおい」

 ヘレンの紫電の20mm機銃が火を噴いた。直後、寸でのところで零戦は機首を下げて急降下に入った。

「まて~」

 ヘレンも後を追う。

 そして、再び零戦をサークル内に収める。

 すると、零戦は機首を上げて機体全体で減速し、ヘレンの紫電を追い越させた。

 背後につかれるのを感じたヘレンは機首をあげて上昇に転じるも、直後零戦の放った機銃弾が機体に命中。

 彼女も地面に向かって降下していった。

「あ~れ~」

 

 

 

 

「……いいのかな、これで」

 落ちていく自警団の紫電を見ながら、今更ながらにハルカは不安を口にする。

 空賊行為を取り締まる、都市の正義たる自警団の機体を撃墜してしまったのだから、普通ならただで済むはずがない。

 ユーリアがまかせろ、というからには期待したいが。

 背後から聞こえた銃撃音に彼女は機体を旋回させる。

 背後には、よく似た塗装を施された紫電が追随してくる。

『……それも自警団機ね。落としなさい』

「……了解」

 不安を抱きながらも、彼女は発砲してくる敵機を全機撃墜していったのだった。

 




お久しぶりです。

お待たせしました。第5章開始です。

最後までお付き合い頂ければ幸いです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。