荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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桜花から発見された自動操縦装置に見覚えが
あると言ったカナリア自警団のアコは、かつて
イヅルマで反乱を起こした元パロット社の社長
ウタカのもとを訪れる。
ウタカは、妙に強気なイヅルマ市長の決断に
違和感を覚えるようで……。


第6話 イヅルマの思惑

 暗い階段を下りた先に広がるのは、いくつもの鉄格子の部屋が並ぶ風景。小さな電球が明滅する暗い廊下を進み、鉄格子が並ぶ中で唯一、厚い鉄扉が設置されている部屋に通される。

 そこは、机と椅子が置かれただけの簡素な部屋だった。

 ここはイヅルマの地下にある、囚人の収容施設。

 アコたちは、机と椅子が置かれた簡素な部屋、面会室に入る。

 アコにシノに続いて、ユーリアが入る。彼女は隊長に副隊長、ハルカを連れて入る。

 間もなく面会室の扉が開き、目的の人物が看守に連れられてきた。

「久しぶりだね、カナリア自警団のアコ君、シノ君」

「お久しぶりです、ウタカさん」

 連れられてきたのは、灰色の髪の男性。一見すると地味だが、その視線の奥には油断できない、腹の底が読めない怪しさがあった。

 この人こそ目的の人物。イヅルマを支える飛行船産業の中核企業、パロット社の元社長のウタカである。

「自警団の君が、私に面会に来るとは何かな?現状が知りたい、というわけではなかろう」

 ウタカは、アコや周囲の人間を見渡した。

「見ない顔ぶれもいるね、婦人は、ガドール評議会のユーリア議員だな」

「そうよ。元パロット社の社長、ウタカさん」

「噂はかねがね。ガドールでは何かと暴れていたと。そんな議員がこんな囚人に、何の用かな?」

 ウタカはユーリアのそばの隊長たちを見る。

「護衛にしては随分若いね、お嬢さん」

 ハルカのことだと、ユーリアは察した。

「若くても腕は相当よ。悪魔と呼ばれるほどにはね」

「悪魔……」

 それでウタカは何かを察したようだ。

「そうか。蒼翼の悪魔……。蒼い翼の零戦のパイロットは、君か?」

「……私のことをご存じでしたか?」

「飛行船にかかわっていたものなら、その異名を知らぬものはいない。それに、一応この収容施設に閉じ込められていても、新聞は見られるからね。ユーリア議員と写っている記事を読んだことがある。君には感謝しなければならないね。君が飛行船を沢山落としてくれたおかげで、パロット社には依頼が沢山舞い込み、多大な利益を得ることができた」

 ハルカは表情を曇らせる。

「……嬉しくないです」

「正しい行いのみが、人の利益になるとは限らないさ」

「かつてこのイヅルマの膿を出し、腐敗を一掃しようと計画を進めたあなたがいうと、説得力が違うわね」

 ユーリアが言った。

 ウタカの行ったことは、アコやシノから聞いていた。穴に消えた友人を取り戻すために、その友人の最期を隠蔽したこのイヅルマという町の腐敗を一掃するため、裏で暗躍し、アコたちと敵対したこと。

「ウタカさんに、お聞きしたいことがあってきました」

「何かな?」

 

「パロット社は、自由博愛連合に協力していたんですか?」

 

 アコが、ここに来た本題を切り出した。

「なぜそう思う?」

 アコが、ここに来た理由をウタカにかいつまんで話した。

 

「なるほど、あの市長も思い切ったことを考える」

「このままでは、本当に議員を引き渡さないといけなくなります。次の襲撃での被害を防ぐためにも、敵が使った新兵器の情報が必要なんです」

「なぜ敵が自由博愛連合の残党だとわかった?」

「えっと……、ユーリア議員がイヅルマに来たのを見計らって襲撃に現れたので……」

「それだけでは断定できないのではないか?空賊という可能性も除外できないのではないかな?」

 アコが頭を働かせようと唸る。

 

「空賊とは考えにくいです。一式陸攻数機にそれを守る護衛機数十機、初めて見る兵器。そんなものを空賊が用意できるとは思えませんし、何よりイヅルマは空賊にとってうまみがない町です」

 

 ユーリアの後ろに控えていたハルカが口をはさんだ。

「というと?」

 ウタカが先を促すので彼女は続ける。

 

「イヅルマは、飛行船産業で栄えている町です。飛行船技術を手に入れても、空賊にはうまみはないです。それなら、医薬品や食料の生産都市や輸送船を直接襲ったほうが、利益が大きいです」

 

「流石元空賊。その通りだ」

 

 ユーリアの眉間に皺が寄る。

「このイヅルマを空賊が襲うなど、考えにくい。彼女が言った通り、得るものが少ないからだ。ユーリア議員がいたときを狙っての襲撃、先の理由から、敵は自由博愛連合の残党と考えるのが妥当だろう」

 アコはウタカの考えに頷く。

 彼は並べられた写真の1枚を持ち上げる。

「ところでこの新兵器についてだが、残念だが私はこれが何であるか知らない。なぜ私の所へ?」

「かつて、あなたがイヅルマで反乱を起こしたとき、飛行船をいくつも操るのに使っていた機械、自動操縦装置。あれと思われるものが、その新兵器で発見されたんです」

 アコは桜花の操縦席の写真を見せた。

「なるほど、これは確かにそのようだな。だが、パロット社は自由博愛連合には協力していない。私にとっては、自由博愛連合も反イケスカ連合も興味がなかったからね」

 ウタカにとって大事だったのは、あくまでこのイヅルマの膿を出し切ること。

そして、穴の向こうに消えた友人を取り戻すことだった。

「自動操縦装置は、目的の高度に達した瞬間にエンジンを始動させたり、方位や高度を固定することはできるんですか?」

「ああ、それらのことはできる。事前に設定が必要だがね」

「じゃあ、途中での変更は?」

「できない。自動とはいうが、そこまで器用な真似はできない」

 やはり、桜花には人が乗らなくていいよう改造がされているらしい。

 

「ところでアコ君、市長は本当に議員を引き渡すと言ったのかね?」

 

「ええ……」

 すると、ウタカは何かを考えるような仕草をする。

 

「信じがたいな……」

 

「なぜ、ですか?」

「そのままの意味だ。あの一件から、市長は変わったか?」

「いえ、ウタカさんが社長だった当時とかわっていません」

「あの市長は、我々にとって好都合だった。篭絡させやすかったし、自身で物事を決めることができない、日和見の市長だったからね」

 なんでも、イヅルマの市長や上役は代々世襲で、なりたいという意思を持ってなった人間がいないそうだ。

 そのせいか、カナリア自警団のエルやウタカの部下のカモメに篭絡されて都合よく操られていた時期があったとのこと。

 そんな市長では、裏で画策していたウタカに利用されるのもやむなしと言えるかもしれない。

「そんな市長が、他都市の議員を引き渡す決断を下すなど、違和感しかない。議会の決定にせよ、そんなことをすればガドールとの関係は悪化するし、周辺都市に噂が広まれば、どうなるかは容易に想像がつく」

「ですが、市長は関係が悪化したり、悪評が広まる心配はない、と……」

「そういえば、対談の際も市長は随分強気だったわね」

 ユーリアは、対談の際や先ほど話した時、市長が妙に強気だったのを覚えている。

「考えられるのは、脅されてそう言わなければならない状況に追い込まれている、ということだ」

「市長を追い込める人間が、どこにいるっていうのよ」

 シノが疑問を口にする。通常なら、都市の長である市長を脅したり追い詰められる存在などいないはずだ。

 

「町の古い権力者や資産家たちから、脅されている可能性がある」

 

「古い権力者たちが市長を脅すの?」

「通常なら考えられないだろう。だが、イヅルマではそれがあり得る。だからこそ、私はこのイヅルマを正すべく、事を起こした」

「……イヅルマの古い権力者や資産家たちは、どうやって市長を脅しているの?」

「アコ君、襲撃者たちの目的は何だと思う?」

 彼女は悩む。

「ユーリア議員の殺害、でしょうか?」

「それだけなら、引き渡しを求める必要はないし、猶予を与える意味もない。何か他に別の目的もあると考えるべきだろう」

 そこまで聞いて、アコたちは何かを察した。

 他都市の議員を引き渡してでも守らなければならない、イヅルマの宝と言えるもの。

「もしかして……」

 

「ああ。恐らく、穴からの落とし物だろう」

 

「穴……」

 皆が表情を険しくした。

 かつてこのイジツに大きな発展をもたらし、争いの火種にもなったユーハングの遺産。

 それは、このイジツに突如開いた穴を通ってきたものだ。

「このイヅルマは、かつては資源も何もない小さな町だった。だが、偶然開いた穴からの落し物によって発展した。落し物を手にしたものたちは、古い権力者や資産家だ。彼らは市長や議会、自警団の上層部につながり、落し物のことを秘匿し、莫大な富を得た。パロット社の飛行船技術の最重要の部分も、未だ秘匿されたままだ」

「もしかして、市長が議員を引き渡しても信頼を損ねることがない自信を持っていたのは」

「落とし物の存在のためだろうな。あれを餌にされれば、どこも食いついてくる」

 どこでも欲しがる穴からの落とし物。それをぶら下げられれば、恩恵があるなら、どの都市も必要以上に関係を悪化させることは避けたいはずだ。

 同時に、それはイヅルマの生命線。やすやすと引き渡しに応じることはないだろう。

「それを、今回の襲撃者たちは狙ってきた可能性がある、と?」

「おそらくは。先の襲撃も、イヅルマやユーリア議員を狙ってきたというより、落とし物を隠し持つ者たちに対する脅しかもしれないな」

 だから桜花という新兵器を、試験も兼ねて使ったのだろう。

 実際、あれはあらゆる意味で衝撃的であったし、脅しには十分な効果を持つだろう。

「それほどに彼らが欲しがる穴からの落とし物とは、なんでしょうか?」

「流石にそれはわからない。もっともどんな落とし物であれ、それを解釈して再現できるものがいなければガラクタ同然だ」

 確かに、どんな凄いものであろうとも、その価値を理解し、利用できる術を知るものがいなければ意味がない。

「だが、襲撃者たちは我々も知らないものを使ってきた。つまり、我々の先を行っている可能性が高い。解釈でき価値を知るものがいるということだろう」

「資産家や権力者たちはそれらを奪われたくないから、市長を脅してユーリア議員を引き渡し、幕を引こうと?」

「そう考えられる。遺産より議員1人引き渡すほうが、イヅルマにとっては損害が少ない」

「なんか複雑ね……」

 いくら穴からの落とし物の価値が凄いとはいえ、比較対象にされているユーリアにとっていい気はしない。

「いずれにしても、はっきりしていることは、今日の襲撃者たちが、また来るということ。襲撃を防げなければ、市長は議員を引き渡すつもりがあるということ。それだけだ」

「ところで、ウタカさん」

 ハルカが口をはさんだ。

「何かね?」

「……イヅルマは、穴からの落とし物で発展した。それは飛行船産業の中核、パロット社もそうなんですよね?」

「ああ」

 

「なら、パロット社にも遺産の解釈ができる人間が、いたということですよね?」

 

「その通りだ。自動操縦装置の技術も、権力者たちが隠していたものを引き取り、解析し、実用化したものだ」

「その自動操縦装置の実用化に関わった人物は、今どこに?」

 

 桜花を使ってきた勢力が自由博愛連合の残党なら、自動操縦装置がイヅルマに開いた穴からの落とし物であるなら、桜花にそれが使われているというなら、何らかの形でイケスカにその技術が流入する機会があったはず。

 

「アコ君、パロット社はどうなっている?」

「えっと、産業の保護を目的として、パロット社はイヅルマの市営企業になっています」

 前社長が失脚した際、パロット社をつぶそうという声も一部あったらしいが、あの会社を失うことはイヅルマの産業がなくなるということを意味する。

 それはイヅルマが少しずつ自滅の道を歩むことを意味するため、市が保有する企業として存続させることになったのだった。

 

 

「そうか。その遺産の解釈ができた人物は、この地下牢にかつてはいた」

 

 

 皆が目を見開いた。

「この、地下牢に?」

「彼は元々、イケスカから来た技術者でね。ユーハングの残した資料や、遺産の現物の解析ができた。一時期イケスカに帰ったが、その後何があったのかは知らないが、彼は再び協力する代わりに保護を求めてきた。そんな彼が希望した仕事場が、この地下牢だった。彼なら、もしかしたら何か知っているかもしれない」

「今もいるんですか?」

「ここから出されていなければね」

 アコは看守に確認をとる。

「幸いまだいるようです」

 看守がウタカの後ろに立った。

「そろそろ、戻ろうか」

「ウタカさん、ありがとうございました」

 アコは頭を下げて礼をする。

「何、大したことはしていない。それより、アコ君」

 彼女は顔を上げる。

「連中の狙いが落とし物なら、君たちが戦うことは、権力者や資産家を守ることを意味する。かつて、空の英雄と言われた君の父の最期を隠蔽した連中だ。それでも、君は戦うか?」

「はい。勿論です」

 間髪入れず、アコは答えた。

「私は自警団です。この町を守ることが、私の仕事です。……それに」

「それに?」

「お父さんも、きっとそうすると思いますから」

 アコは苦笑しながら言った。

「……そうか」

 ウタカは笑みを浮かべながら、看守に付き添われ鉄格子の向こうへと消えていった。

 

 

 

 

 アコたちに案内され、たどり着いたのは鉄格子の部屋。

 中には、老人という年齢の白髪の男性が静かに、片隅に置かれたベッドに寝っ転がっていた。

「あの、カナリア自警団のアコというものです。イケスカから来た、パロット社の技術者の方ですね」

 男性は何も応えず、体を起こすと値踏みするような視線でアコを見つめる。

「あの、あなたに聞きたいことがあるんです」

 アコは、桜花が写った写真を鉄格子へ向かってかざす。

「すみません、これに見覚えはありませんか?」

 男性は写真に目を向けるも、黙ったまま何も言葉を発さない。

「あの、何かご存じありませんか?」

 だが、男性は口を開かない。

「あなた、イケスカから来た技術者なんでしょう!?イヅルマが、今新しい兵器に襲われているの。何か知らない!?」

 シノが叫ぶように問いかけるも、男性は何も応えない。

「……urusai」

 ようやく口を開いたかと思えば、その言葉は聞きなれたイジツの言葉とは少し違っていた。

「あの、なんと言ったんですか?」

 男性はまた黙り込んでしまった。

「なんていったのよ!答えなさい!」

 2人やユーリアたちが必死に問いかえるも、男性が口を開くことはなく、やむなく一度引き上げることになった。

 

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