荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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技術者から襲撃者たちが使っていると思われる拠点の位置を
聞き出したユーリア護衛隊は、拠点を爆撃するべく準備を始める。
しかし、彼らはこれまでの襲撃を振り返って何か気になることが
あるようで……。


第8話 敵拠点攻撃

「地下牢の技術者から情報が得られました。桜花を搭載してきた陸攻がいると思われる場所です」

 アコは机の上に地図を広げ、場所をさす。その場所は、イヅルマから離れた場所にある空の駅で、この町に寄港するほとんどが飛行船になった今では使われていない。

 周囲を切り立った崖が囲っているものの、間は陸攻が数機離着陸するのは十分な広さがあった。

 

「流石お姉さま!あの堅物そうな老人の口を割らせるなんて、どんな手を使ったんですか?」

 団員のミントは、アコに憧れや尊敬を込めた純粋な視線を送る。

 

「別に……、ただ聞き続けただけで」

 

「そうなの?今後、どうしても口を割らない人がいたら、今度は私に頼ってね、アコ」

 得意分野がいかせず、少し残念そうなエル。

 

「ともかく、情報が得られたのは大きいわね。それで、どうするのが一番有効なの?」

「あの人が言うには、桜花そのものを撃ち落すのは難しいから、吊り下げている陸攻を落とすのが一番だと」

 

「おお、紫電にはおあつらえ向きのお仕事じゃないですか!ガンポッドがうずきますよ!」

 戦闘機大好きのリッタは期待を込めた視線を送る。

 

 カナリア自警団の駆る紫電は、火力や上昇力を優先した局地戦闘機。

 搭載されている20mm機銃に撃たれれば、一式陸攻はひとたまりもない。

 そんな団員たちに対し、アコは少し後ろめたさを感じていた。

 これらの情報は、すべてユーリア議員の用心棒のハルカが聞き出したものだ。

 なぜか彼女は、この情報を聞き出したのは全てアコだということにしてほしいと頼んできた。

 当初は彼女が聞きだしたのだからと拒んだアコだったが、あまりに頑なに譲らないハルカに根負けし、彼女はやむなくその要求を受け入れることにした。

 だが、アコはなぜ彼女が自分が聞き出したと言わないのか疑問が残る。

 それはやはり、あの話していた言語によるものかもしれない。

「それで、これからどう動くの?」

 拠点がわかればすることは1つ。

 イヅルマが襲われる前に叩くことだ。

 飛行機が最も弱い時。それは地上にいるとき。

 その状態では、どんなに強い戦闘機や頑丈な爆撃機でも上空からの攻撃には耐えられない。

「なら、イヅルマに到着する前に叩くか、出発前に地上で破壊できればいうことはないわね」

 ユーリアは早速行動を起こす提案をする。

「ですが、カナリア自警団はイヅルマに被害がない限りは動けないんです……」

 それが自警団というものの在り方だから仕方がない。

「なら、うちでやるわ」

「どのみち、イヅルマを留守にするわけにはいきません。カナリア自警団には待機してもらって、私たちは空の駅を爆撃しますか」

 隊長の提案にユーリア議員は頷く。しかし、問題がある。

「でも、誰が爆撃をやるの?」

「……あ」

 イジツでは空戦は日常的に起こっているが、爆撃は日常ではない。

 まして、ユーリア護衛隊は議員を迫りくる空賊や敵対勢力から守ることが仕事。

 爆撃の経験のあるパイロットなどいない。

 

「なら、私がやります」

 

 ふと、ハルカが手を上げた。

「空賊時代に経験があります。私はできます」

 そういえば、彼女はかつてロケット弾を装備し、ラハマを攻撃したことがあった。

「でも、1人じゃ……」

 彼女ができるとはいっても、相手の陸攻が1機だけとは限らない。

 手数は多いほうがいい。

「飛行船に、彗星は何機のっているの?」

「2機です」

「なら、彼女の零戦と彗星2機は爆装させて。残りは護衛よ」

 幸い、ガドール評議会護衛隊には彗星が少数ながら配備されている。

 もっとも、殆どはその高速を生かした偵察や対空戦闘が主で、爆撃機なのにほとんどは爆撃機として使われることはないが。

「了解。早速準備にかかります」

 その後作戦が話し合われ、明日の襲撃の日の早朝。夜明けと同時に空の駅へ向かうことが決まり、ユーリア護衛隊は準備に追われることになった。

 

 

 

 

 深夜、カナリア自警団の団長アコは格納庫を訪れていた。

 格納庫の中には、紫電6機が整然と並んでいた。

 カナリア自警団の服装を模した白と黒を基調とした塗装は、この荒野の広がるイジツでは相当に目立つ。

 それは元々、カナリア自警団自体が自警団のイメージ向上を目指して作られたお飾り自警団と揶揄されたことに由来している。

 彼らは認識されることが重要で、戦うことを当初は想定してなかったためだ。

 その中の1機、アコの紫電のそばで作業をしている眼鏡をかけた老人に、彼女は声をかけた。

「ジノリさん」

 カナリア自警団の整備班長、ジノリに声をかける。

「なんじゃアコか?明日は襲撃が来る日じゃろう?早く寝たらどうだ」

「なんだか、眠れなくて……」

「体を休めるのもパイロットの仕事のうちだ。紫電ならもう万全じゃから、心配するでない」

 紫電のそばには必死になって整備してくれた整備員たちや見習いの少年ハヤト、そしてジノリさんの弟子を自称するリッタが工具片手に眠りこけていた。

「それは心配していません。それに、明日はおそらく私たちの出る幕はありません」

「そうなのか?」

「ユーリア議員の護衛隊が、夜明けと同時に出撃して地上で敵を叩くそうです」

「そうか。だが、物事に絶対はない。もし彼らが失敗した場合、おまえたちが対応しなくちゃならん」

「今動けるのは、カナリアの6機だけですか?」

「ああ。悪いがシラサギの機体までは手が回らなかった」

「十分です。それに、万一を考えて応援を頼んでありますから」

「応援?」

 アコはジノリさんに笑みを向けた。

「またあいつらを引っ張り出したのか?」

「子の心配をしない親はいないそうです」

「まあ、間違ってはおらんからなあ」

 ジノリさんは工具を置き、立ち上がるとアコに向きなおった。

「今回の件、市長は積極的におまえたちを使う気はないようじゃな」

 今回の襲撃で、もしイヅルマに甚大な被害を出した場合、市長はユーリア議員を襲撃者たちに引き渡すつもりでいる。

 

「市長が客人を引き渡すことを排除しないなど、信じられん。恐らく、市長や自警団の上層部、それに古い権力者たちの間で、何か忖度があったのかもしれん。ユーリア議員を渡してでも、守りたい何かのために」

 

「それは、このイヅルマという町や住民では?」

 

「それを守るためなら、なぜ自警団を使うという選択肢をとらん?自警団を使わず他の都市の護衛隊に町の防衛を任せるなど、長たちにとっては最も避けたい事態のはず。他の都市の護衛隊をけしかけたのはなぜか。勝手な推測じゃが、市長たちはあの襲撃者たちと取引をしているかもしれん」

 

 地下牢でのことはジノリさんには話していないが、流石年の功。

 その推測は外れてはいない。

 だが、穴からの落とし物がどんなものであれ、住民や客人よりも優先するべきものなのか、アコは疑問を抱く。

 襲撃者たちにイヅルマを襲わせ、町に被害を出させて護衛隊の面子をつぶし、議員を渡すしかない状況を作り出すほどの価値があるのか。

「このイヅルマのあらゆるものの被害を最小限に抑えるために、な……」

 だからユーリア護衛隊は、イヅルマに彼らが到達する前に倒すことに躍起になっている。

 一方、市長からは特に何も命令が来ていない。

「1つ聞くが、アコ。そんなものたちのために、お前たちは戦えるのか?」

「そんなもの?」

 

「自分たちの利益を守るためなら、住民を危険にさらし客人をも取引に使う連中。もっと言えば、トキオの存在を闇に葬ろうとしたような連中を、な」

 

 アコは表情を曇らせた。

 

 トキオ。

 

 彼女の父親で、このイヅルマの伝説の自警団と呼ばれたイカルガ自警団の団長だった、空の英雄。

 

 事故で亡くなったと彼女は聞かされていたが、実際は違った。

 父親は、空で偶然開いた穴に飛び込んだのだと。

 その瞬間を、元パロット社社長のウタカ氏は自警団時代に目撃していた。

 イヅルマは、そのことを隠していた。

「それでも……」

 アコは言った。

 

「それでも私は、このイヅルマを守る、カナリア自警団の団長ですから」

 

 そんな彼女を見て、ジノリさんはため息を吐き出した。

「全く、トキオと同じで仕事に真っすぐになりすぎる奴じゃ」

「アハハ……」

「確認じゃが、もし町が本当に襲撃された場合はどうするんじゃ?」

「アルバート部長が、町の防衛のために出撃しろって」

「あの弱気な部長が?市長の命令なしに動けば、ただじゃすまんぞ?」

「でも、そのために私たちは存在していますから」

「そうか……。なら、やることは決まっているな。そこに毛布があるから、紫電のそばでもいいから少し寝るように」

「はい」

 アコは自分の紫電の着陸脚にもたれかかり、毛布をかぶって目を閉じた。

 

 

 

 

 地平線の彼方から、日が昇り始める。

 朝日が目に染みる中、あくびをかみ殺している黒髪の女性、ハルカはいつもに比べて荷物を多くぶら下げている愛機を眺める。

「250kg爆弾に、主翼下にはロケットが3発ずつ」

「いつもに比べて重くなっているからな、気を付けてな嬢ちゃん」

「わかりました、班長」

 整備班長は他の機体の確認に向かっていった。

「いつもに比べて重そうだな」

 近寄ってきた隊長と弟さんに彼女は振り向く。

「ええ、今回は爆撃が仕事ですから」

 イヅルマの地下牢に収容されている技術者がいうには、このイヅルマから少し離れた位置にある、今は使われていない空の駅に桜花を使ってきた集団の根城がある可能性が高いという。

 ユーリア議員を引き渡すという市長の行動が起こされる前に襲撃者を殲滅し、この事態を収拾させる。

 間もなく出発し、襲撃者が地上にいる段階で破壊できればよし。そうでなくとも、イヅルマに到着する前に殲滅する。それが目的だ。

「彗星の準備もできている。間もなく出発だ」

 ふと、ハルカは気になっていることを口にした。

「……隊長、弟さん」

 2人が彼女に視線を向ける。

 

「今回の件、あの襲撃者たちは、この町にユーリア議員がいることを知っていたのでしょうか?」

 

「……君も、思うか?」

 隊長に弟さんが表情を引き締めた。

「情報が洩れているね、お兄ちゃん」

 考えてみれば、おかしな話だ。

 このイヅルマへ到着するまでの道中に、3回も襲撃にあっている。

 その上、イヅルマ市長とユーリア議員との対談の日を知っていたかのように、一式陸攻が襲撃にやってきた。

 イヅルマにユーリア議員が訪れることを知っているのは、このイヅルマの市長や自警団の関係者、そしてガドール評議会の人間だけだ。

 町をいきなり襲ってきた襲撃者たちが知るすべはない。

 なら、どこからか情報が漏れていた、と考えるのが自然だろう。

「あの市長はないでしょう。書類の存在さえ知らなかったんですから……」

 この町を訪れた際、ハルカは問答無用でカナリア自警団に襲われた。

 つまり、市長は誰が来るかをよく知らなかった可能性が高い。

 市長がわかっていないなら、自警団も把握していないだろう。

「そもそも、襲撃者たちの目的がこのイヅルマが隠し持つ穴からの落としものとすれば、ユーリア議員を引き渡したくらいで襲撃は終わらない」

「なら、連中の目的はあくまで穴からの落とし物。ユーリア議員に関しては、ついでくらいだろう。誰に頼まれたのやら……」

「ユーリア議員をうっとうしく感じている人々であり、なおかつ行き先を知っている。そして空賊やそういった人々とのつながりがある人々、となると……」

 3人は眉をひそめた。

 

「……ガドール評議会か」

 

 隊長は苦々しい表情で言い放った。

 ユーリア議員を邪魔に感じており、かつて反逆者という烙印を押して排除しようとしたガドール評議会。

 彼らならユーリア議員の行き先を知ることは容易だ。

 そして、評議会の中には汚職がはびこり、空賊やマフィアと繋がりがある人間もいる。

 桜花を使ってきた点からして、恐らくイケスカの、旧自由博愛連合の関係者が襲撃者であるという可能性が高い。

 かつて自由博愛連合に加盟することが決まっていたガドール評議会なら、今もつながりを維持している人間がいるはず。

「厄介だな……」

 だが、同時に身内に敵が紛れ込んでいるというのは厄介この上ない。

 情報は筒ぬけで隠れようがない。

 何より、今は証拠が何もない。議会でこのことを話しても、流されるが関の山だ。

「……気になることはあるが、とりあえず今は目の前のことに集中しよう」

「わかったよ、お兄ちゃん」

「わかりました」

「時間だ、行こう」

 護衛隊は機体のエンジンを始動させ、空へと飛び立っていった。

 

 

 

 

 イヅルマを飛び立った護衛隊は、中心にハルカの零戦、その後ろに彗星2機が並んで飛ぶ。

 そしてその周囲を、鍾馗が取り囲むように飛ぶ。

 ハルカは、いつもに比べて重さを増して動きが鈍くなった愛機の操縦桿を握る。

 爆撃をやるのは久方ぶりだが、難しくはない。

 祖父に教わった技術は、全て体が覚えている。

『総員、前方に目的の場所が見えてきた』

 進路上には、大きな陸攻が4機と陸攻を隠すための大きな格納庫が2つほど見える。表に出ている4機の陸攻は、まさにエンジンを始動させ、離陸準備に入っているのが目に入る。

『護衛戦闘機は周囲に見えない。今の内だ!』

「了解」

 ハルカはスロットルレバーを開き増速する。彗星2機もそのあとにつづく。

「こちらハルカ。これより、爆撃準備に入ります」

『了解』

 彼女は操縦桿を少し前に倒し、緩降下に入る。彗星も胴体下の爆弾倉を解放しつつ、高度を下げる。

 目標の一式陸攻が近づいてくる。彼女は照準器を覗き、目標をとらえる。

「ロケット……、発射!」

 主翼下に装備されたロケット弾が一斉に放たれる。

 放たれたロケットは少しの間飛翔すると弾頭がわかれ、小弾が放たれ地上に降り注いだ。

 陸攻に向けて放たれた小弾が降り注ぎ爆発が起きている中、彼女は一度上空を通過し左へ旋回。再び拠点の上空へ差しかかる。

「安全装置解除。投下……、今!」

 少し高度を下げ、胴体下の爆弾を切り離した。

 重力に引かれて落下していく250kg爆弾は、格納庫の入り口から内部へ侵入。

爆発が格納庫内の陸攻を吹き飛ばした。

 ついで、彗星が爆弾を投下。破裂した爆弾の炎が周囲のドラム缶内の燃料に引火したのか、爆発の規模は大きさを増し、陸攻を吹き飛ばした。

『よし、爆撃成功だ!』

 一時的に歓声に沸く評議会護衛隊。

『陸攻を全て破壊。目標達成だ』

 だが、ハルカは違和感を抱いていた。

 彼女は高度を下げる。

『ハルカ君、どうした?』

 彼女は陸攻のあった場所や周囲をくまなく観察する。

 

「……誰もいない」

 

 彼女は、ロケットを放ったときから違和感をいだいていた。

 地上に小弾が降り注いだというのに、人っ子一人逃げ惑う様子がなかった。

『誰もいない?』

 おまけに、離陸準備をしていたと思われる陸攻からはあの白い物体、桜花と思われる残骸が見当たらない。

 ふと、機上電話から雑音がした。

『こちら、イヅルマ管制塔。イヅルマに接近中の大型の機影4つと小型の機影を確認。評議会護衛隊、至急帰還してください!』

『やられた!』

 敵はこちらの動きを察知していたのか、もうここを発っていた。

 イヅルマに向かっている陸攻には、恐らく桜花が積まれているはずだ。

『情報が漏れていたのか!』

「わかりません。急いでイヅルマへ戻りましょう!」

 護衛隊は舵を切って速度を上げ、イヅルマへ向かった。

 

 

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