荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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彼には、とてもかわいがっていた女の子がいた。
自身の全てを教え込んだ、たった一人の孫。
そんな大事な彼女を置いて、なぜ彼はイケスカに
行ってしまったのか。


*「雲に消えた軌跡」の続きになります。
*この物語はフィクションです。


おまけ短編:蒼い翼に込められたもの

 そろそろハルカが護衛から帰ってくるころだろうと、タカヒトは滑走路脇を歩く。

 視線の先に、一人の見慣れた姿をとらえる。

「ナオト君じゃないか」

「あ、爺さん。嬢ちゃんの出迎えか?」

 整備員がきていることの多い作業服を着た、少し強面の男性。彼女が働いている仕事先の1つ、ナガヤ飛行機製作所のナオト工場長。

 今もタカヒトが技術指導に行っていて、彼の弟子のひとりともいえる。

「ああ。そろそろ、ハルカと百式輸送機が帰ってくる頃だろうと思ってな」

 ふと、空から大馬力のエンジンの聞きなれた音が聞こえてくる。

「噂をすれば、だな」

 2人は空を見上げる。

 すると、彼らは怪訝な顔になる。

「ん?百式輸送機1機に、紫電が3機?」

「嬢ちゃんの九七戦はどこだ?」

 二人は双眼鏡を取り出し、あたりを見回す。だが、彼女の乗った九七戦が見当たらない。

 彼らの頭の中を、最悪のケースがよぎる。

 着陸した輸送機と紫電のもとへ、彼らは走った。

「おい!嬢ちゃんはどうした!?」

 ナオト工場長は輸送機のパイロットに駆け寄る。

 すると、彼らは表情を曇らせる。

「嬢ちゃんは、ここに来る道中、空賊に会って……」

「まさか、嬢ちゃん一人に任せて、てめえらは逃げてきたのか!?」

 怒りを顔ににじませるナオト工場長を、タカヒトは制した。

「ナオト、落ち着け」

「けどよ!?」

「彼女は並みの空賊にやられる子ではない」

「……そうだったな」

 ふと、また聞きなれたエンジン音が木霊する。

 空を見上げると、そこにはかえりを待っていた飛行機、ハルカの乗った九七戦の姿があった。

 だが、主翼から開いた穴から燃料が霧状に漏れて尾を引き、翼端がちぎれていて、動翼の調子が悪いのか少しふらついている。

「被弾しているのか!」

「消防団待機!被弾した機体が下りてくるぞ!」

 ナオト工場長の掛け声で消防団が滑走路横に待機。

 間もなく、彼女の九七戦が滑走路に進入を始める。

 みんなが見守る中、彼女の九七戦の着陸脚が滑走路をつかむ。

 幸い、九七戦は固定脚を採用しているため、被弾して脚が出ないという心配がない。

 あとは減速した瞬間に消火を行えば心配いらない。皆はそう思った。

 突如、大きな音を立てて九七戦が機体を傾けた。

「なっ!」

 九七戦の右の固定脚が、被弾していたのだろう、機体の重量に耐えきれず破断。機首と主翼を滑走路にたたきつけ、プロペラの羽がちぎれ飛び、増した摩擦で火花を散らしながら甲高い音をたて、停止した。

「ハルカ!」

「嬢ちゃん!」

 彼らはハルカのもとへ駆け出した。

 間もなく、風防をこじ開けて操縦席から彼女が身を乗り出し、はい出てきた。

 タカヒトは老いた体に似合わない足の速さで駆け寄ると、ハルカを抱きかかえ、急いで九七戦から離れる。

 間もなく、漏れていた燃料に着陸の際に機体がこすれたことで生じた火花が引火。爆発こそしなかったものの、機体を炎が包んだ。

「はあ……」

「危なかったな、嬢ちゃん」

 タカヒトの腕の中に抱えられたハルカが無事だったことに、二人は胸をなでおろす。

「お爺ちゃん……」

 命が助かったというのに、ハルカは浮かない顔をしている。

「ごめんなさい。お父さんの九七戦、壊しちゃって……」

 悲しそうな顔で彼女はいう。

 それを聞いたタカヒトは、腕に力を込めて彼女を抱き寄せた。

「苦しいよ……」

「そんなことは気にしなくていい。君が、無事なら、それでいいんだ」

 彼女の苦しいという声を無視し、彼は孫を力いっぱい抱きしめる。

「そうだぞ、嬢ちゃん。それに、戦闘機の1機くらい何とかしてやるから」

「いいんですか?」

「あたりめえだ。嬢ちゃんにはそれ以上世話になっている。気にすんな」

 その後、消防団によって火災は消し止められ、ハルカはタカヒトに連れられ、病院へ直行したのだった。

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、次はこの問題をといてごらん」

 タカヒトの出した問題を、ハルカはすらすらといていく。

 昨日の一件は大事ではあったが、ハルカは幸いかすり傷程度で済んだ。

 だが、輸送機の用心棒は機体がなければできない。

 今ナガヤ飛行機製作所の工場長が、新しい機体を手配してくれているらしい。

 新しい飛行機が用意できるまで、ハルカはタカヒトお爺ちゃんと勉強や、ナガヤ飛行機製作所の手伝いをしていた。

 用心棒をやるために学校をやめた彼女だが、タカヒトは少しでも彼女が生き残れる確率が高くなるならと今でも座学を教えている。

 ふと玄関の呼び鈴がなった。

「出てくるね」

 彼女は玄関へと向かっていった。

 しばらくすると、廊下をパタパタと小走りで帰ってくる彼女の足音が耳に入った。

 

 

「お爺ちゃん、お爺ちゃんにお客さんだよ」

 

 

「私に?」

 彼は怪訝な顔をする。

 ハルカに呼ばれ玄関にいくと、そこに立っていたのはイジツでは珍しい執事風の服装を身にまとった白髪交じりの男性だった。

「タカヒト様でございますね」

 執事風の男性は、老人に近い年だが、丁寧な所作でお辞儀をする。

 彼を見て、タカヒトの視線が鋭くなる。

 

 

「ブユウ商事のものです。お話があってきました」

 

 

「……ハルカ」

 タカヒトは彼女に振り向く。

「奥へ行ってなさい」

「……うん」

 彼女はいつもと違う祖父に何かを悟ったのか、家の奥へと消えていった。

「可愛いですな。娘さんですか?それとも、お孫さんですか?」

「……外へ出よう」

 問いには答えず、タカヒトは家から出た。

 そして格納庫の裏あたりまでくると、彼は立ち止まる。

「……何の用だ」

 少しばかり敵意を含んだ声色で、彼は言う。

「要件については、すでに手紙にて承知と思われますが」

「あの手紙の差出人はあなたか」

 最近、彼はブユウ商事から手紙を受け取っていた。

 その内容は、技術者としてブユウ商事に来て欲しいというものだった。

「返答を頂けていないので直接出向きました。報酬や待遇にご不満でも?」

 彼は、執事をじっと見つめながら言う。

 

「……何が目的だ」

 

「あなたの技術者としての腕を貸して欲しいのです」

「そうじゃない。私が手を貸したとして、その先にあるものはなんだ?」

 執事の顔が一瞬引き締められる。

 

 

「このイジツを平定する。それが、我々の目的です」

 

 

「……何のためだ」

「皆さまの、平和な空のためであります」

 それが文字通りでないことは彼には即座にわかった。

 

「……断らせてもらう」

 

「なぜでしょう?」

「……平定する、平和な空のため。聞こえはいいが、それは結局、全てを自分達の手中に収めるという意味にほかならない。まして私の手を借りたいというなら、どんな手段を用いるかは知れたことだ」

「何か問題でも?」

「……遺産は、このイジツを荒らすためのものじゃない。これまでイジツがどれほど荒れたか、知らぬわけではあるまいに」

「だからこそ、我々が平定する必要があるのです」

「なぜだ?」

「あなたがおっしゃったように、遺産を巡ってイジツは何度も、今も荒れている。だからこそ、誰かが管理する必要がある。遺産も、町も、人々も。全てを統制し、利益を平等に分配し、導くものが今のイジツには必要なのです」

「それが貴様らとでもいうのか?」

「正確には、私がお仕えする主人です」

「傲慢なことだ。全てを平定するために武力で反発するものたちを排除し、遺産を独占して分け与えるかを貴様の主人が考えるだと?」

 

「共通の利益であります」

 

「聞こえはいいが、それでは家畜と変わらん。聞こえや威勢のいい言葉で人々の目を曇らせ、本質に目を向けさせない手法。まさに奇術師といったところか」

 タカヒトは視線を細めた。

 

「貴様らもユーハングと変わらん。そうやって言葉遊びで本質をごまかし、人々を利用し、最終的には命までも差し出させられ、使い捨てられるだけだ」

 

「安心してほしい、相応の礼はする」

「断る。貴様らの野望の片棒を担ぐのはごめんだ」

「このイジツを平定することは、あなたにとっても悪い話ではないでしょう?」

 執事が話し始める。

 

 

「数年前におこった、リノウチ大空戦。それであなたは自身の息子と、その子供2人を亡くしている。イジツが平定できれば、こういった空戦で犠牲になる人々をなくせる。平穏はあなただって望んでいるでしょう?おまけにわれわれに協力すれば報酬は払う。お孫さんを学校に通わせることもできる」

 

 

「貴様らに隷属する人間しか生きることを許されん社会など、願い下げだ」

「……そうか」

 執事は背を向けると、歩き出した。

「また来る。気が変わったら連絡をくれ」

「もう来ないでくれ」

 ふと、執事が足を止めた。

 

「そういえば、先ほどの女の子。お孫さんですかな。あの年で、なかなかいい腕をしておられる」

 

 タカヒトは執事に視線を向ける。

 

「九七式戦闘機1機で、五式戦闘機3機を返り討ちにするとは、大した腕だ。将来が楽しみですな。……もっとも」

 

 執事はゆっくり振り返った。

 

「この先も、生き残ることができれば、の話ですがな」

 

 タカヒトは、冷や汗が流れるのを感じた。

「まさか、彼女を襲った空賊というのは……」

 執事は何も応えない。代わりに、不敵な笑みを浮かべた。

「いい返事を期待している」

 それだけ言い残し、執事は去っていった。

 

 

 

 

 

 

 日が落ちた頃。タカヒトは自室で考えていた。

 あの執事の口ぶりから察するに、先日ハルカを襲ったのは空賊などではなく、彼の配下の人間である可能性が高い。

 輸送機のパイロットたちが、五式戦は彼女に向かっていって輸送機には興味を示さなかったという。

 五式戦闘機を使っている点からして、ただの空賊ではないと思っていたが、大企業であるブユウ商事の配下なら不可能ではない。

 

「話を受けなければ、孫が死ぬ……か」

 

 それ以外考えられない。これはもはや脅しだ。

「……お爺ちゃん」

 声の方向を見れば、部屋のドアの隙間からハルカが室内の様子を伺っていた。

 その表情は、心配そうな色をにじませていた。

「どうした?」

「お爺ちゃん……、すごく深刻そうな顔しているよ?」

 知らず知らず顔に出てしまっていたらしい。

 彼は、彼女を手招きした。

 ハルカはタカヒトの前にやってくる。すると彼は彼女の背中に腕を回し、抱き寄せた。

「大丈夫だ、心配しなくていい」

「本当に?」

「ああ」

 腕の中にいる可愛い孫の頭を撫でながら、彼は思った。

 この子には、タカヒトは自身の知る全てを教えた。

 この子だけは、自身の血だけでなく、技能や知識も、全て受け継いでくれた。

 簡単にやられる子ではない。彼はそう信じる。

「あたたかいな、ハルカ」

「お爺ちゃんもだよ」

 彼女もタカヒトに身をよせ、頬ずりをする。

 孫に甘えられる時間が、彼は好きだ。

「そういえば、ナオト君が新しい戦闘機を手配してくれたよ。明日ナガヤ飛行機へ行きなさい」

「何だろう?」

「隼1型だそうだよ」

「ほんと、よかった」

 彼女は嬉しそうに笑う。

 きっと大丈夫だ。この子の腕と、それにあう機体があれば負けない。

 彼は、そう信じた。

 

 

 

 

 

 

 それからも、護衛依頼の中で空賊のような集団による襲撃は続いた。

 隼1型に乗り換えた彼女は奮闘したが、彼女の僚機はまだ中堅ともいえないナガヤ自警団。相手は手練れの五式戦や飛燕、零戦52型。時には疾風や紫電改が混ざることもあった。

 そのどれをも彼女は退けたが、依頼に出る度彼女の機体はどこかに必ず損傷が出るようになった。

 彼女は父親や姉兄ほど腕が良くないと自分を責めたが、彼はそうじゃないと言い続けた。

 彼は、タカヒトは次第に考え込むようになった。

 

 自身の全てを教え込んだ彼女だから、大丈夫だとおもった。

 

 でも、相手は容赦がない。このままでは、彼女はいつか落とされる。

 

 思い返せば、それは可能性としていつもそこにある。

 

 どんなに技量があっても、圧倒的な物量の前に意味をなさないことは、彼は故郷の件で痛感していたはずだった。

 

 息子が生まれ、可愛い孫ができる年まで生きたことで忘れてしまっていたが。

 

 ここは故郷じゃなくてイジツだ。でも、飛行機があり、空戦がある以上その理から外れることはない。

 

 彼は頭を抱えた。

 

 このままでは、自身の全てを受け継いでくれたハルカを、間もなく失うことになりかねない。

 

 それだけは、彼は耐えられない。

 

 もし彼女を失うことになれば、母親のアスカさんは立ち直れなくなる。

 先が見えている彼では、残された者たちを養うことはできない。

 まだ幼い、彼女の弟や妹たちはどうなる。

 彼は、底知れぬ不安に駆られるようになっていった。

 

 

 

 ある日、彼はある場所へ電話をかけた。

『……はい』

「……例の件だが」

『受けてくれる気になりましたか?』

「……ああ」

 白々しかったが、ここで言い合いをする気にもなれなかった。

『感謝する。約束通り、それ相応の礼はしよう』

「……イケスカに行くまでに少し時間をもらえないか。やり残したことがある」

『ああ、構わない』

 それだけかわして、彼は電話を切った。

 彼は自室に戻ると、写真を手に取る。

 孫のハルカと、彼が写っている写真。

 年を重ねるごとに、母親に似て、綺麗になってきている。でも、目元には彼の若い頃、息子の面影を感じる。

 そして、彼の知る全てを受け継いでくれた、たった一人の孫。

 この先の成長を中々見られなくなるのは残念だが、元々この命は二十歳すぎで捨てていたはずだった。 

それがこの年まで生き、息子が生まれ、慕ってくれる可愛い孫ができた。

 あの時は考えられなかったことだ。

 ふと彼は思う。

 

 ハルカの誕生日が、自分が死ぬはずだった日、4月11日というのも、何かの運命だろうか。

 

 あの日に一度捨てたはずだった命。今度は故郷のためではない。自身の大事なもののために使おう。

 

 彼はそう決心した。

 彼女のそばにいられないのは残念だし、彼女もきっと悲しむだろう。

 彼は、家に隣接している格納庫へと脚を踏み入れる。

 格納庫の中には、2機の飛行機が駐機されていた。

 1機は機体上面が濃緑色に、翼端が白く塗られ、かつて属していた飛行隊の面影を残す彼の愛機、零戦52型丙。

 もう一機は、ジュラルミンの肌がむき出しの、塗装の施されてない52型丙。

 かつて息子と一緒に作った3機の52型丙。いずれも主翼の13.2mm機銃は外されている。

 1機は息子とともにリノウチ大空戦で撃墜されてしまった。

 残りは1機。

 

 

――――私はそばにいられないが、その代わりに……。

――――私の相棒の、分身を置いていこう。

 

 

 タカヒトは数枚の紙の束を手に、ナガヤ飛行機製作所を訪れた。

「お、爺さん」

「ナオト君、急にすまない。頼みたいことがある」

 彼は紙の束を渡す。

 それを広げ、ナオト工場長は目を通す。

「これは、あの52型丙の塗装図か?」

「ああ、最後の1機のな」

「嬢ちゃんに渡すのか?」

「そうだ。それから……」

 彼は紙の束をめくっていく。塗装図の中に、少し違う図面。

 零戦が描かれた図面が現れる。

 

「もし、あの機体の性能が彼女の足かせになるときが来たら、手を貸してやってほしい」

 

 書かれているのは、零戦の改良案だ。タカヒトさんによるものだろう。

「わかった。約束する」

「ありがとう」

「早速準備にかかるが、急にどうしたんだ?」

 彼は表情を曇らせる。

「……イケスカに行くことになってな」

「イケスカ?最近ブユウ商事が技術者を集めているとは聞いたが」

「わしにも声がかかった。報酬がよくてな、ハルカの負担を少しでも減らせるなら」

「そうか……。だが、時々は帰ってきて、嬢ちゃんに顔見せてやれよ」

「ああ……、もちろんだ」

 

 

 

 

 

 

「お爺ちゃん、まだ~?」

「もう少しだよ」

 タカヒトは両手でハルカの目隠しをしつつ、格納庫へ彼女を連れてきた。

「さあ、目をあけてごらん」

 両手を外すと、彼女は目をあけて目の前の光景を眺める。

「あ……」

 彼女の前に現れたのは、彼女の祖父タカヒトと、亡くなった父親の愛機と同じ、零戦52型丙。

 タカヒトと息子のミタカが作った3機の内の、最後の1機。

「レイ……、お化粧したんだね!」

「ああ」

 機体全体は灰色を基調としているが、特に目を引くのは尾翼や主翼の半分近くが暗い青色で塗られていること。

 主翼には白色が縁取られた水色の丸が描かれ、垂直尾翼には二本の横線を斜めに貫くような、斜めにはしる雷のような模様が描かれている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 その塗装パターンは、彼女の父親のものと似ている。

 タカヒトは零戦の主翼の前縁をやさしくなでる。

「この模様は、イジツとユーハングは、確かにつながっていた。そう願いを込めた模様だ」

「イジツと、ユーハングが?」

 彼は頷く。

 実際は、それだけの意味ではない。

 暗い青色で塗られた主翼の中に描かれた、白色に縁取られた水色の丸。

 これは彼や、彼女のルーツ(・・・)を、彼の願いを描いたものだった。

 でも、今は話すことはできない。

 彼は、喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。

 彼は孫のハルカに振り返り、笑みを浮かべる。

「ハルカ、今日からレイは、君の相棒だよ」

「ホント!?ありがとう、お爺ちゃん!」

 嬉しそうに彼女は祖父に抱き着いた。

 そんな彼女を、彼は抱きしめ、やさしく頭を撫でる。

「ところで、ハルカ……」

 彼はできるだけ笑顔を浮かべたまま、彼女に告げた。

 

「お爺ちゃんは、お仕事でイケスカに行くことになってな」

 

「……え」

 彼女の表情から笑みが消えた。

 戸惑い、驚き、寂しさ。色んな感情が彼女の顔ににじむ。

「ごめんな、お給料のいい仕事なんだが、イケスカに行かないといけないんだ」

「もう、帰って、こないの?」

 彼女が縋りつくように彼の両手を握る。

「いや、時々は帰ってくる。だから……」

 彼は彼女を安心させるように、意志を込めていった。

「待っていて欲しい。必ず、帰ってくる」

「ほんと?」

「お爺ちゃんのいうことが、信じられないか?」

 彼女は首を左右に何度も振った。

 彼は両手を上げ、彼女の頬をやさしく包み込むように触れる。

「これまでのように一緒にはいられないが、時々は必ず帰ってくる。お爺ちゃんがいない間、みんなのことを頼むぞ」

「……うん!」

 彼女は精一杯頷いた。

 そして彼は小指を伸ばして差し出す。彼女も小指を差し出し、からませる。

 指切りをし、約束を交わした。

 それがハルカを安心させることができる、タカヒトの精一杯のことだった。

 

 

 数日後、ハルカや家族に見送られ、タカヒトは愛機と共にナガヤを離れ、イケスカへと飛び立っていった。

 




短編として、幼少期の主人公と彼女の祖父の物語を書きました。

彼女の祖父はどこから来たのか、なぜイケスカに行ってしまったのか。

その一部を書きました。

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