以前投降した「居眠り用心棒とイタズラ議員」の第2弾のような内容になります。
羽衣丸副操舵士のマリアにせがまれ、少し変態な話題を話始める彼女。それは最近あった出来事。とある日にユーリア議員がとった、意外な行動の話だった。
ラハマを拠点に活動するオウニ商会が所有する輸送船、羽衣丸の中には、簡単な遊戯に興じることができる部屋があり、日頃は船員同士のおしゃべりの場になっている。
「ねえ、ハルカさん」
その部屋の一角に置かれたテーブルをはさんで向かい合うように座る、青い髪の気の弱そうな女性。羽衣丸副操舵士のマリアは、向かいに座る肩の下あたりまで黒い髪をのばした女性、ハルカに詰め寄る。
「……聞かせて」
彼女は両手を握り合いながらいう。
「あなたが知る、変態な話を!」
自身の口にしている言葉について何か感じないのかはさておき、期待に目を輝かせるマリア。そんな彼女を目の前にしては、ダメということははばかられる。
だが、あえてハルカは聞く。
「あの……、話さないという選択肢は?」
「無理」
笑顔で一蹴されてしまった。
そんなやり取りを見て苦笑するのは、羽衣丸主操舵士のアンナ、羽衣丸の用心棒コトブキ飛行隊隊長のレオナ、羽衣丸のオーナーであるオウニ商会社長マダム・ルゥルゥ。
事の始まりは少し前。ハルカがラハマへユーリア議員のお使いで来てみれば、道中マリアにつかまってしまい、以前話したような変態な(?)話をまた聞かせて欲しいとせがまれてしまった。
しかも彼女はこの手の話題に飢えているのか、先ほどから握られたままの両手を放そうとする気配がまるでない。
話をするまで逃がさない、暗にそう言っているとハルカには感じられる。
「わかりましたから、座ってもらえませんか?」
いうとマリアはソファーに丁寧に腰かける。
ちなみに、彼女の隣には前回と同じく顔を赤くするアンナがおり、隣のソファーには苦笑するマダム・ルゥルゥ、そしてハルカの隣には今回はレオナがいる。
「アンナさん、恥ずかしいなら……」
「興味あるの。いいでしょ」
前回同様、マリアが暴走した場合の保険なのだろう。実際、彼女に止めてもらわなければ際限なく話を要求されそうではある。
「マダムは?」
「私も興味あるの。いいでしょ?」
「はあ……。それで、レオナさんは?」
今回初参加のレオナに彼女は視線を向ける。
「仲間のことだからな。こういう何気ない話をするのは大事だし、私の知らない君に興味がある」
興味があるなら止める理由はないが、できればこういう話をするときは聞かないで欲しかったと彼女は思う。
「えっと……。では、まず話を始める前に1つ、約束してほしいことがあるんですけど」
水を差されたようで、またもむすっと頬を膨らませるマリアの刺すような視線に耐えつつ、大事なことは言う。
「前回同様、これから話すことは、他言無用でお願いしますね」
一応念を押しておく。何せ、ユーリア議員の昼休みにハルカが枕役になっていることをレオナは知っていた。
彼女にそういった類の話をしていないはずなのに知っていた以上、情報漏れがあったとみるべきだ。
どこから漏れたのかは察しが付くか、ここでは追求しないでおこう。
それにユーリア議員の名誉のためにも、釘は刺しておかねばならない。
皆が頷くのを確認すると、彼女は呼吸を整えるように大きく息を吐き出す。
今回の話題は、ある意味前回以上に話したくない内容だが、これもオウニ商会の人々と人間関係を円滑にするうえで必要なこと。そう自身に言い聞かせる。
「あれは、つい最近の出来事でした……」
ハルカはゆっくり話始める。
マダムがユーリア議員のことを変態と評したのは、文字通りではないかと感じた、あの日のことを……。
窓から入るまぶしい日差しと、温かい陽気。
ふとすれば居眠りでもしてしまいそうな天候であるが、それは気持ちいい環境の証拠でもある。
「はあ~」
そんな環境にも関わらず、書類と向き合っていた黒髪を肩の下あたりまで伸ばした女性、ハルカは仕事机に突っ伏してため息を吐き出した。
「どうかしたのか、ハルカ君」
心配そうに話しかけるのは、同じガドール評議会護衛隊の中の1つ、ユーリア護衛隊の隊長さん。
だが心配の言葉とは裏腹に、その顔には笑みが浮かんでいる。
隊長さんは、彼女がため息を吐き出す理由をしっている。
「だって、もうすぐユーリア議員が評議会から戻ってくるでしょう?」
「そうだな」
「それはつまり……、ねえ」
「まあ、そうなるな」
直後、部屋のドアが勢いよく開かれ彼らの雇い主たる緑の衣服に身を包んだ細い目の女性、ユーリア議員が入ってきた。
「ただいま、2人とも」
「おかえりなさいませ、ユーリア議員」
彼女も椅子から立ち上がり、議員に振り向く。
「お帰りなさい、ユーリアぎ」
彼女が言い終わる前に、ユーリアは距離を詰めてきた。
背中に腕が回され、あっという間に彼女はユーリア議員の腕の中に抱きしめられる格好になった。
「ただいま、ハルカ」
そうやって密着するほど抱きしめられることしばらく、ユーリア議員は離れない……。
「あの、議員……。そろそろ」
「嫌よ」
言いたいことを察したユーリアは拒絶した。
そんな風景を、護衛隊隊長と弟さんは微笑ましい笑顔で眺めている。
ふと、彼女はユーリアの右腕をつかんだ。
「こら、変なとこ触ろうとしないでください」
「スキンシップよ。いいじゃない、少しくらい」
「ダメです」
彼女はユーリアの右手が背中からお尻の方へ少しずつ移動しているのを察し、とっさに右腕をつかんでとめた。
傍目に微笑ましい風景でも、もし窓から誰かに見られていようものならスキャンダル必死の光景である。
なぜユーリアがここまでスキンシップをするようになったのか。
それは、ハルカのこれまでの行いに原因があった。
先日、ハルカの故郷ナガヤでの一件。富嶽を撃墜するために単機で富嶽とその護衛機に挑んだ彼女は目標を撃墜するも、護衛機に囲まれ撃墜され地面に不時着。
その後、護衛機から機銃掃射を受け、危うく殺されそうになった。
これだけでも十分ユーリアや皆を心配させる出来事なのだが、先日訪れたイヅルマに謎の敵勢勢力が襲来。
新兵器桜花を迎え撃った際、周りを頼らず単機で一式陸攻や桜花の迎撃に向かった彼女は爆発に巻き込まれた。
幸い無事だったのでこうして今もいるが、これらの出来事はユーリアを含め、雇い主たちを心配させるのに十分すぎた。
こうした出来事により、彼女がまた死に場所を探しているのではないか、すぐまたいなくなってしまうのではないかと不安にかられたユーリアは、日々彼女がいることを確認するようになった。
以前は昼休みの仮眠の際に太ももを貸すくらいだったものが、帰ってくるたびに抱きつかれるようになり、夜は同じベッドの中で抱き枕にされ、日中は単独でどこかへ行かないよう隊長さん、または弟さんによる監視が行われることになった。
こうして監視の目とスキンシップが激しさを増していく。
彼女は日々のスキンシップに言いたいことがあったものの、その原因が自分にある手前何も言えなかった。
「ありがとう」
ようやくユーリア議員が離れた。
その後昼食を済ませた彼らは、各々の昼休みを過ごすことになった。
「はあ~」
お手洗いに行ったついでに自室に来たハルカは、大きなため息を吐きだしていた。
いかに自分に原因があるとはいえ、日々のスキンシップがこれでは息が詰まるし身が持たない。
こうして、すっかり荷物置き場とかしていた自室にいるわずかなときだけが、彼女がほっとできる時間となった。
だが、昼食後の昼休みはユーリア議員の仮眠の時間なので枕役として戻らなければならない。
「ふあ~」
お腹が膨れたことも手伝って、彼女は眠気に襲われる。おまけに、今日のほどよいぽかぽか陽気はなお眠気をさそう。
結局彼女は眠気に負け、ベッドに倒れこんだ。
「まったく、もう……」
肩を怒らせながら廊下を速足で歩くのは、すっかりお冠になったユーリア議員。
理由は、待ってもハルカが帰ってこないことだ。
この時間は、いつも仮眠をとるのに彼女の膝を借りているのだが、その彼女がいつまで待っても来ない。
「まったく、こっちの気も知らないで……」
昨今、ユーリアは内心不安を抱えていた。
用心棒であるハルカが、どこかに消えてしまうのではないか、ということに。
大げさに聞こえるかもしれないが、大げさとも言い切れない。
彼女は残されていた家族を失い、お金を稼ぐ、飛ぶ理由を一時失いかけたときがあった。
その時期は、コトブキ飛行隊の空賊嫌いに自分を撃たせたり、大人数の空賊に一人向かっていったり、依頼の最中に行方不明になったり、ナガヤ防衛戦では単身で富嶽と護衛隊に挑み、富嶽を撃墜するも彼女も撃墜され、地上への機銃掃射で殺されかけた。
おまけに先日のイヅルマ訪問の際には、やってきた敵勢勢力が使用してきた桜花や母機の一式陸攻の迎撃に単身向かい、爆発に巻き込まれた。
用心棒である以上、仕事に危険が伴うのは理解できる。
しかし、彼女の場合は常に死が隣にあった。
そのことが原因で、彼女が次の瞬間にいなくなってしまうのではないか、幻ではないか等不安に思うようになり、結局スキンシップで確認することにしたのだった。
ユーリアにとって、彼女は頼れる可愛い用心棒であると同時に、自身の目指す横のつながりの実現した世界を見てみたいと期待を込めて言ってくれた身近な理解者だ。
だからこそ、彼女にはその世界が実現するのを、ユーリアのそばという特等席で見ていて欲しい。
なのに、彼女はいつも危なっかしい行動をとる。
そりゃあ、かつては死んだ家族に引きずられ、死に場所を探していたから当然だが、ナガヤでホナミ議員から色んなことを告げられ、生きると思いなおしてくれたのだから変わってほしいものだ。
それでも不安は尽きない。
彼女はハルカの自室へとやってきた。
ノックをするが反応はない。ドアノブを回すと、鍵がかかっていなかった。
「……入るわよ」
一応断ってから、ユーリアはハルカの自室の部屋のドアを開けた。
「あら、まあ……」
目の前に広がる光景を見て、ユーリアはため息を吐きだした。
探していた彼女は確かに見つかった。自室のベッドでうつ伏せの状態で、静かな寝息を立てながら。要するに寝ている。
「まったく……」
ユーリアはドアの鍵をかけ、彼女が眠るベッドに近寄る。
間近で見ると、ハルカは口を少し開けた状態でヨダレを垂らしながら、規則正しい寝息をたてている。
きっと疲れていたのだろうか、それとも今日の陽気のせいだろうか、起きる気配はない。
「ふふ……」
するとユーリアは口端を吊り上げ、何かを企んでいるような笑みを浮かべる。
ここまで無防備な彼女を前にしたユーリアは、心の中にイタズラ心がわいてくるのを感じる。
すかさず、ユーリアは持っていたカメラを構え、ハルカの寝姿を色んな角度から撮影していく。
安らかな寝顔、少しあいた口の周り、胸やお尻に太ももなど、色んな場所の様子をフィルムに焼き付けていく。
あとで整備班に売りつければ、高値で取引されること間違いなしである。
因みに、これは犯罪ではない。時間になっても役目をこなさなかった、部下に対する制裁である。
彼女は自身にそう言い聞かせる。
「ふあ~……」
そろそろ眠気が増してきた彼女は目をこする。
「さてと……」
いい加減少し眠りたい。
どこで仮眠を取ろうか、彼女は部屋を見渡しながら思案する。
ハルカの部屋は殺風景で、調度品の類が少ないので、妙に寒い気がする。
あるのは姿見を備えた簡易の机と椅子、収容棚にベッド。
ソファーがなく、眠れそうな場所は目の前のベッドだけ。
でも、そのベッドには部屋主がすでにいるし、枕も1つしかない。
ふと、ユーリアは口端を上げた。
いや、あるではないか。
目の前にちょうど良さそうな枕が、あるではないか。
「そうね……、試すにはちょうどいい機会ね」
ユーリアは、部屋に1つしかないベッドの端に静かに腰かけ、ゆっくりと後ろへ体を倒し、寝っ転がった。
頭を、ハルカの白色のスカートに包まれた、肉付きの豊かなお尻へと乗せながら。
丁度上から見ると、2人は丁の字のように重なる。
以前より、太ももの感触はいいのは何度も経験してわかっているので、ならその延長線上にあるお尻はどうなのかとユーリアは気になっていた。
だが確かめたくても、正直に頼んでもハルカはきっと恥ずかしいから嫌だと拒否するだろうとわかっていた。
なので、彼女が眠っている今はまさに絶好の機会。
「……ああ」
後頭部に感じる感触やぬくもりに、彼女は感想を漏らす。
「悪くないわね」
程よい柔らかさだが、鍛えられた彼女の肉体故に弾力があるし、温かみもある。
寝心地はなかなかだった。
「くぅ~」
間もなくユーリアも、寝息を立て始めた。
このとき、ハルカは自分の体にかかる圧力の変化を感じ取り、目を覚ましていた。
だがユーリアの安眠を妨げるのも気が引けたため、恥ずかしさを我慢しながらユーリアが目を覚ますまでの1時間近くの間、寝返りさえ打つことができず、じっとしているほかなかったという。
「ということが、ありまして……」
話を聞き終えた皆の反応は様々だった。
話をせがんだマリアは満足しているのか目を輝かせており、隣に座るアンナは恥ずかしさで顔を真っ赤にしていて、マダムとレオナは引きつった苦笑をうかべている。
「おお~、凄い!そんな発想が生まれるなんて!」
マリアは少し興奮気味だ。
「変、態……」
アンナは絶句している。
「ハルカさん、あなた、身の安全は大丈夫?」
マダムは身を案じている。
「まあ、これくらいなら、なんとか……」
あの出来事はハルカにとっても想定外で、まさかあんな場所を枕にしようなどと思いもしなかった。
その後、時折ユーリアからの視線を感じることがあるが、彼女は気にしないことにしている。
もっとも、これ以上のことがあるなら、本気でユーリアのもとから逃げることを考えなければならない。ハリマあたりがいいだろうか……。
「そう、ならいいけど……」
「議員の用心棒も大変だな……」
苦笑しながらレオナは言う。
「用心棒を枕にする議員っているのかしら?」
いないだろう。多分……。
「あはは……、まあ元をただせば原因は私にあるわけですから……」
「それでも限度があるわよ。ハルカさん、本当に身の危険を感じたら逃げてきなさいね」
「……はい」
ふと、マリアが身を乗り出してきた。
「ほ、他にはないんですか!?」
「はいはい、また今度ね」
次を要求したマリアを、アンナが制止した。
「また今度にしますね」
「ぶ~」
マリアは不満そうに頬を膨らませるが、気にしないでおこう。
ハルカの話を聞き終えたレオナは唖然としていた。
議員の用心棒として雇われていて、そんなことまで要求されるのかと。
コトブキ飛行隊は羽衣丸の用心棒なので、飛行船を空賊から守ることが仕事になる。
マダムにスキンシップまで要求されることは無論ないし、マダムは去る者追わずの方針だから、そういう意味ではユーリア議員よりドライなのかもしれない。
いや、これが普通なのだろう。
もっとも、元をただせばユーリア議員に心配をかけまくったハルカにも原因はあるが。
「さて、話も終わったことですし、ガドールへ帰りますね」
「夜間飛行は危険だから、今日はいつもの部屋に泊まっていきなさい」
外を見れば、もう日が沈もうとしている。
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
「そうしなさい」
部屋へ移動しようと、ソファーからハルカが立ち上がったときだった。
ふと、レオナは彼女のスカートの裾から何かが見えた気がした。
それは、本来そこにはあるはずのないものだった。
「なんだ、これ?」
気になったレオナは、迷うことなく彼女のスカートの裾を少しめくりあげていた。
「ひゃあ!」
思わず、彼女は可愛い悲鳴を上げていた。
その様子を見たマリアは目を輝かせ、アンナとマダムは口を少しあけてポカンと呆けている。
「な、何するんですか!?」
スカートを押さえながら抗議するハルカに、レオナは頭が一気に冷え込んだ。
女性同士とはいえ。はたから見れば、先ほどの行動がどうであったか。
「あ、いや!これは、違うんだ!」
「何が違うっていうんですか?」
「いや、その……。何か、赤い唇のような模様が、見えて」
「赤い唇?」
「ああ、これかしら」
いつの間にか、アンナが少し姿勢を低くしてスカートの中を覗き込んでいた。
彼女の指のさす先、左足の付け根の少し下のあたりに、確かに赤い唇の模様があった。
「入れ墨とかいれた?」
「口紅じゃないかしら、これ?」
すると、ハルカは何やら怒りの炎を背後でメラメラと燃やしているかのように、顔には憤怒の感情が滲んでいた。
「あの……、変態議員!」
拳を握り締めてそういう彼女の言葉で、皆が察した。
きっとこの唇の模様は、ユーリア議員が隙を見てつけたものなのだろうと。
「とりあえず、落として来たら?」
「……そうします」
彼女は、荷物が置いてある部屋へむかって駆け足で向かっていった。
「議員の用心棒って、大変ですね……」
「あれは特殊な例ね」
皆が一様に頷いたのは、言うまでもない。
静かな廊下を、レオナは自室に向かって歩く。
今日は仕事はないので、自室でのんびりしようと考えた。
ザラは飲みに出ているし、キリエや他のメンバーも町へ繰り出している。
自室には、先ほど口紅を落としに向かったハルカがいるだけだろう。
自室はザラと共用だが、彼女が来た際には空いているベッドを貸している。
キリエたちの部屋はもう満室だし、彼女を部屋で一人にするのも心配だったので、目の届く位置にとレオナが提案したためだった。
「そういえば、謝らないといけないな……」
先ほどの行為、いくら唇の模様が気になったとはいえ、人のスカートをめくるとは失礼な行為に他ならない。
だから、タイミングを見て謝ろうと彼女は思っていた。
そしてたどり着いた自室。彼女は念のためノックをする。
だが、内部からの返答はない。
もう一度ノックする。
「ハルカ、いないのか?」
レオナはノブを回しドアを開ける。
室内を見渡し、すぐにその理由を察した。
ハルカが、ベッドで寝息を立てていた。
ガドールからの飛行で疲れていたのだろう、着の身着のまま、ベッドでうつ伏せの状態で眠っていた。
そばには口紅を落としたのだろう、赤くなったふきんが置かれていた。
レオナは彼女に近づくと、しゃがんでその寝顔を観察した。
ヨダレを垂らしながら可愛い寝顔を無防備にさらしているのは、まだ子供だなと思う。
「ふふ……」
そんな彼女を見て、レオナは微笑む。同時に少し安心した。
彼女と仕事を始めた当初、言葉は悪いが彼女は何かにとりつかれているような部分があった。
戦場だけが自身の居場所だと言わんばかりに敵を執拗においかけ、相手の殲滅に拘り、時には戦闘中に薄気味悪い笑い声が聞こえてきた。
今にして思えば、それが家族を亡くした彼女にとって、唯一の存在理由だったのだろう。
悪魔と呼ばれた零戦のパイロット。
相手を落とすことだけが、彼女が生きる、飛ぶ理由だった。
だが、最近は折り合いをつけて鳴りを潜めてきたようで、こうやって安らかな寝顔を見ると、彼女も年相応なのだと、変な意味だが安心する。
レオナはベッドの端に腰かけ、彼女の頭をやさしくなでた。
きっと、ユーリア議員は多少荒療治とわかっているが、彼女に心配している人は周りにいるんだぞ、ということを教え込むために少し強めのスキンシップをしているのかもしれない。
まあ、先ほどの口紅の跡を見るに、やり方は少しあれだが……。
視線を下げると、彼女が枕にされた場所、白いスカートに包まれたお尻が目に入る。
ユーリア議員は、なんでここを枕にしようなどと考えたのか。
先日、寝不足の責任をとってという理由でハルカに膝枕をしてもらったときの感触は確かによかったのを思い出す。
その話をしたとき、なぜかザラは少し怒ったような顔をしていたが。
ザラの膝枕もよかったが、鍛えながらも綺麗な線を描くハルカの太ももの感触はそれよりよかった。
そのとき、レオナの頭に疑問が浮かぶ。
なら、お尻はどうだろうか。
そう考えたとき、彼女は顔を左右にふった。
「いや、流石にそれはダメだろう……」
それをやっては、先ほどハルカが言った通り変態だろう。
でも、一度浮かんだ疑問はなかなか消えてくれないし、一度してもらった膝枕のいい寝心地が忘れられず、興味が消えない。
「少しだけ、なら……」
きっと彼女なら、笑って許してくれるだろう。多分……。
それに、これはハルカがレオナに散々心配をかけて気苦労で寝不足になったから、それに対して責任をとってもらっているだけだ、と言い訳を作り自身に言い聞かせる。
直後、レオナはポニーテールにまとめていた髪の毛をほどく。
ハラリと、縛られていた髪が静かに宙を舞い、一転してレオナは活発そうな女性から長髪の美人へと変貌する。
そして静かに、ハルカのお尻へ頭を置いた。
2人は丁の字のように重なり合う。
レオナの頭が、彼女のお尻に沈み込む。
「ああ……」
後頭部に感じる感触に、彼女は感想を漏らした。
「悪くないな、これ」
肉付きな豊かなお尻から来る柔らかさと、鍛えられた肉体からくる弾力が合わさり、未知の感触を生み出す。
だが不快なものではなく、むしろいい物であり、なおかつ普通の枕と違いぬくもりが温かい。
ユーリア議員がしてみようと思ったのも納得、……していいのだろうか?
ふとハルカの足の方にレオナは体を90度回した。
綺麗な彼女の足の裏側が目に入り、スカートの生地が頬に触れる。頬に触れる柔らかい感触に、彼女は頬擦りをしてみる。
感触を確かめたのち、再び90度体を回し真上を向く。そして目を閉じたレオナは間もなく寝息を立て初め、眠りの世界へと意識を沈めていったのだった。
レオナが寝息を立て始めた少し後、枕にされているハルカは目を開けた。
そして心の中で、思わず叫んだ。
―――なんで……、なんでこうなるの!?
ユーリア議員といい、レオナといい、人を枕としか思っていないのだろうか。
しかも頬ずりして感触を確かめたあたり、感触が気に入ったのかもしれない。
それとも、こういった人を枕にすることが最近のはやりなのだろうか。
「……どうしよう」
彼女には、大きな懸念があった。
―――この状態を、ザラさんにもし見られたら……。
そう、レオナの長年の相方のザラ。
レオナと近づきすぎたために、警告の名で行われたおぞましい行為を思い出し、彼女は震える。
そんな彼女に、今の状態を目撃されたら、確実にアウトだ。
警告ではなく、間違いなく今度こそ撃墜される。
というより、レオナもレオナだ。ハルカの寝込みを狙わなくても、ザラに頼めば何でもいつでもいくらでもしてくれそうなものなのに。
それはひとえに、彼女がレオナにとって、相棒だからだろうか。
ユーハングでは親しき中にも礼儀ありというが、頼むならせめて親しい相方が適切だろうに。
それはともかく、この状況は非常にまずい。
気持ちよく寝ている所申し訳ないが、今すぐにでも起きてもらうしかない。
「とにかく、ザラさんに見られる前に……」
「私がどうかしたかしら?」
聞こえた声に、ハルカは顔を引きつらせる。
そしてゆっくりと声のした方向に顔を向けると、そこにはにこやかな笑みで禍々しい殺気を必死に隠しているコトブキ飛行隊副隊長、レオナの相方のザラがいた。
すでに、手遅れだ。
今の状況を察し、ハルカの顔は蒼白に染まった。
「あ、その……」
「ハルカさん……」
ザラがゆっくりとした足取りで近づいてくる。
それがハルカには、鎌を持った死神が近づいてくる姿に見えた。
「これは、どういう状況なのかしら?」
首を傾げながら、母性を感じさせる微笑みを浮かべながら問いかけてくる。
その仮面の下には、禍々しい殺気を秘めているのがわかる。
「こ、これは、その……」
もはや言い逃れはできない。
「これは?」
「これは、ち、違うんです!」
「何が違うというのかしら?」
思わず頓珍漢な答えを返すハルカ。彼女が嘘やごまかしが苦手なのが、こういう時に大きく響いてしまう。
ザラは歩いて近づき、ハルカを枕に眠るレオナを見下ろす。
「もう、レオナってこういう枕も好きなのね。言ってくれれば、いつでもしてあげるのに」
じゃあ今すぐこの役を交代してくれと彼女は心の中で叫ぶが、交代したところで事態は好転しない。
「まあ、今はいいわ」
ザラは部屋の入口に向かって歩いていく。
「レオナ最近睡眠不足みたいだし、しばらく寝かせてあげて。あなたに原因があるなら、なおの事よ」
「……わかりました」
とりあえず危機が去ったことに、ハルカは安堵する。
「あ、でも……」
禍々しい、どす黒いオーラを全身から解き放ちつつ、ザラは振り返った。
「ハルカさん……」
彼女は小刻みに震える。
「あとで、ゆっくりお話ししましょうね」
そういって彼女は部屋から去っていった。
「はああ~」
結局こうなってしまうのかと、ハルカは頭を抱えながらベッドに顔を埋める。
一方、そんな事態があったというのに、彼女を枕に眠るレオナの寝息に変わりはなかった。
「良く寝れますね……、まったく」
彼女も枕に顔をうずめる。
レオナの寝不足の原因の一端が自分にあるのなら、この状況は受け入れるしかない。
どうせ、いつレオナが目を覚ますかはわからないし、その間は動くことも寝返りさえできない。
なら、自分も寝てしまえと、彼女も目を閉じる。
ガドールからの連続飛行で疲れていたのか、瞬く間に彼女も眠りの世界へと誘われていった。
「……うん」
どれくらい眠っていたのだろう。
ハルカは、睡眠で重たくなったまぶたを上げる。
いつの間にか、お尻にかかっていた重量感がなくなっていた。
寝ている間に、レオナが起きたのだろう。
室内は暗いままだが、彼女の姿はないから、きっと部屋からでたのだろう。
「はあ、よかった」
これでとりあえず動ける。そう思った彼女は両腕で体を起こそうと思った。
そのとき、彼女は違和感を抱いた。
両腕は背中にあるが、なぜか動かせない。
なら足を動かそうと思っても、両足も動かせない。
なぜか両腕、両足が縛られている。
一体だれが。そんな疑問が頭に浮かぶ。
「あら、起きた?」
首をひねって声の方向を向くと、そこには笑顔で見下ろすザラの姿があった。
いつの間にか、ハルカはザラの膝の上にうつ伏せにされていた。
「よほど疲れていたのね、ぐっすり眠っていたわ」
「……レオナさんは?」
「さっき眠気をさっぱりさせてくるって、シャワーを浴びにいったわ」
「そうですか……」
わずかな間、2人の間に静寂が満ちる。
「あ、あの……」
「まず、ごめんなさいね」
「何がですか?」
「暴れられると面倒だから、縛らせてもらったの」
これをやったのは彼女らしい。というか、清々しい顔でとんでもないことを言わないで欲しい。いや、暴れられると面倒とはどういう……。
「ハルカさん、警告はしたわよね?」
「で、でも、今回は寝ていたらレオナさんが勝手に……」
今回は、あくまでレオナが勝手にハルカを枕にしただけだ。
「まあ、今回は、そうよねえ」
わかってくれたのだろうか、彼女は安堵しかける。
ふと、ザラは右手をスカートに包まれた彼女のお尻の上に置いた。
「悪いのはあなたじゃなくて、レオナを誘惑したこのお尻よね~?」
「……え?」
ハルカの顔がこわばる。
「それじゃあ、警告したのに、レオナを誘惑するなんていけな~いことをしたこのお尻に、ちょ~っと痛い目にあってもらおうかしらね~」
「あ、あの……」
「ハルカさん」
ザラの右手が、高く振り上げられる。
―――こ、これって……。
これから何をされるのか、彼女は察するも両手足が縛られていてはなにもできない。
ふとザラの表情が見えた。
捕まえた獲物をじっくり調理する。その様を見るのが楽しくて仕方がない。そんな表情をしていた。
「……覚悟してね」
「い、いやああああああああ!」
その後、ハルカはザラにお尻を数十回にわたってバシバシ叩かれることになったのは、言うまでもない。
「居眠り用心棒とイタズラ議員」の第2弾でした。
レオナがドードー船長が苦手な理由のように、
アニメで明かされなかった部分は色々ありますが、
アニメや小説でマリアが変態な話題に過敏に反応
していたのはなぜなのか……。
たまにははっちゃけた話を挟んでみようと思い、書いた話でした。