「戦闘機乗りの家族なんてやってられない」というのは本当か
問いかける。
その問いを聞いた隊長のレオナは、適切な人間を思いつき、
彼女にその問いの答えを求めるが……。
「戦闘機乗りの家族なんてやってられないって、本当かな?」
そんなことを突如口にしたのは。赤いコートを着た、短くも豊かな黒髪の女性。
コトブキ飛行隊の隊員の一人で、名をキリエという。
「……藪から棒だな」
突然の疑問にあきれた顔をするのは、彼女の向かいの席に座る赤髪を縛った凛々しい表情の女性。
コトブキ飛行隊の隊長、名をレオナという。
「いやさ、この間シンディたちが言っていたのを聞いたんだって」
「なんて?」
「戦闘機乗りの家族なんてやってられないって」
「……なぜ?」
「調子が良くて身勝手で、スリルが好きでふわふわしていて、命知らずですぐにいなくなってしまう、馬鹿な人たちだからって」
「……」
レオナは沈黙し、右手で額を押さえた。
「まあ、わからないでもないが……」
「え~、レオナわかるの!」
「逆に、キリエはわからないのか?」
「うん!」
自信満々に頷く彼女に、レオナはため息を吐きだす。
「……胸に手を当てて、考えてみたらどうだ?思い当たる所があるかもしれないぞ」
「う~ん」
レオナに言われたとおり、彼女は目をつむって、両手を胸の2つのふくらみにあてて頭をひねる。
「う~ん……、ふ~ん」
その際、両手が当たっているふくらみが微妙に形を変えたり、大げさに頭を振ったり上半身をひねっている。
そのどこか滑稽にも思えるが、背徳的な風景をレオナは眺める。
胸というのはそこではなく、心臓のあたりのことを言ったつもりだったのだが。
「いや、胸に手をあててというのは、そういう意味じゃ……」
そのとき、ふと視線を感じた。
彼女が振り向いた先にいたのは、銀髪を二つにわけた、いつもの見慣れた変わらぬ表情。
コトブキ飛行隊のケイトの姿だった。
「レオナ……」
「なんだ?」
ケイトは、変わらぬ表情で言った。
温かさを感じさせない、絶対零度の視線を向けながら。
「……キリエに変なことでも教えたのか?」
「断じて違う!」
間髪入れず彼女は叫ぶように言う。
「では、目の前のキリエはなんだ?胸に手をあてがって体をくねらせている。キリエのとる行動としては不可解。なので、レオナが何か教えた可能性を考えた」
「だからケイト、これは、違うんだ!」
「何が違うというのか?」
「そうね~」
ケイトの背後から現れた人物に、レオナは顔が引きつった。
「レオナ~、キリエに一体何教えたのかしら?」
「ザ、ザラ……」
スタイル抜群で大人の色香を感じさせ、同時に母性を醸しだすコトブキ飛行隊の副隊長、レオナと一番付き合いの長いザラが入ってきた。
「レオナ~、レオナってそういう仕草を眺めるのが好きなのかしら?」
「そんなわけないだろう!?こ、これはキリエが勘違いして」
「何が勘違いなのかしら?」
妙に圧が込められたザラの言葉に、レオナは背筋が震える。
「あれ?ザラにケイト?」
ようやく二人の存在に気付いたようで、キリエは二人のいる方向をむいた。
「キリエ、何しているのか、説明してもらえるかしら?」
「へ?何って。レオナが胸に手を当てて(考えて)みろっていうから」
「肝心なところを省くんじゃない!」
「レオナ~?」
「……レオナ」
圧が強まるザラの視線、冷たさを増すケイトの視線に耐え兼ね、彼女は叫んだ。
「二人とも頼むから、私の話を聞いてくれえええええええええ!」
その後、レオナは事の成り行きを事細かく説明するはめになった。
「戦闘機乗りの家族なんてやってられない、ねえ」
「そうだ。キリエが藪から棒にそんなことを言ったものでな」
「それで、シンディたちが言った言葉に思うところがないか、キリエに考えさせていた、と?」
「ああ……」
「あの不可解な行動はその産物か?」
「そうだ。断じて私が妙なことを教えたわけじゃない」
ザラとケイトは顔を見合わせる。
「……理解した」
「本当にわかってくれたのか?」
少々不安を感じながらも、とりあえずわかってくれたことにレオナは安堵する。
「でもそうね。キリエの疑問だけど……」
キリエはザラの言葉の続きを待った。
「私にはよくわからないわね。シンディたちが言っていることは何となく理解できるけど」
「ケイトはわかる」
「え、ケイトには?」
彼女は力強く頷く。
「身近に、調子が良くて身勝手で、スリルが好きでふわふわしていて、命知らずですぐにいなくなってしまう、馬鹿な上に甲斐性無しな人物がいる」
「そ、そんな人が?」
珍しく感情をこめて言うケイトに皆が息をのむ。
「ん?ケイト、もしかしてその人物って……」
「何か?」
レオナが苦笑しながら言う。
「……アレン、の、ことか?」
「そうだが」
さも当然だと、ケイトは言う。
「……今は違うが、かつてはそうだった。穴の研究のためによくふらふら出て行ってしまって、誰も近寄らないゼロポイントまで一人でいって、酒瓶片手に自身の興味の赴くままに風来坊のようにいってしまうあの甲斐性無し……」
「あはは……」
「……やってられない。今は静かにしてくれているからいいが」
彼女の言葉に妙に感情がこもっているあたり、きっとそれがケイトのストレスだったのだろう。
キリエたちは苦笑するしかなかった。
だが、それは戦闘機乗りだからというより、アレンだからというのが大きいだろう。
「他にわかりそうな人っているかな?」
「そうだな……」
レオナは悩む。
エンマは家族はいるが、飛行機乗りは彼女だけだし、彼女の場合心配すべきところは別の所であるので望むような答えは聞けないだろう。
チカとレオナは孤児だからそもそも、家族というものがわからない。
「……あ」
「どうしたの?」
レオナはその答えが聞けそうな、うってつけの人物が頭に浮かんだ。
「ハルカなら、わかるんじゃないか?」
「……はあ」
羽衣丸の会議室兼娯楽室に3人の雇い主共有の用心棒、ハルカの姿はあった。
といっても、疲れているのかソファーの肘置きにもたれて眠りこけている。
「くか~」
特にやることもない彼女は、睡魔に身を任せていた。
休めるときに休むことも、パイロットの大事な仕事。
今の彼女の意識は空ではなく、睡魔という大海に沈んでいた。
規則正しい呼吸によって、少し大きめの胸のあたりが膨らみ、縮むを繰り返す。
彼女の長めの黒髪は、重力に引かれて垂れ下がっている。
そんな隙だらけの彼女を見れば、イタズラ心がわいてくる人間もいるというもの。
「ふむふむ、今日も白か……」
ふと、まどろんでいる中、聞きなれた声が耳に入る。
同時に、太もものあたりが妙に涼しいのに気づく。
彼女は意識が次第に覚醒してくる中、太もものあたりをみた。
そこには、スカートの裾をつまんで持ち上げ、中を覗き込んでいるキリエの姿があった。
彼女は目を細めて標的を見据えると、キリエの頭頂部に手刀を勢いよく振り降ろした。
「痛っ!」
「……何やっているんですか?」
「ハルカ、起きていたの?起きているなら起きているっていってよ~」
頭を押さえながらキリエは言う。
「……寝ているときならばれないとでも思ったんですか?」
「だってさ~、ヒラヒラしたものって、めくりたくなるじゃん?」
少しイラっとしたハルカは、お返しと言わんばかりにキリエのコートの裾をつかんでめくりあげた。
しかし、キリエは恥ずかしがるどころか高笑いをあげる。
「ははは、ざ~んねん。私は下にインナーを履いているから平気なのだよ、ハルカ君」
「っち……」
いきなりスカートの中を覗かれるという最悪の目覚めをした彼女は、大きなあくびをするとキリエたちに向きなおった。
「それで、何か用ですか?」
「聞きたいことがあるんだ」
「聞きたいこと?」
「戦闘機乗りの家族なんて、やってられないものなの?」
「……藪から棒ですね」
「シンディたちが言っていたんだ。で、ハルカはどう思う?」
彼女は少し考える様子を見せる。
「……そうですね、やってられませんね」
彼女は言葉を飾ることなく簡潔に答えた。
「お父さんたちが生きていた当時は、いつも心配や不安を抱えていました。……無事に帰ってくるか、いつも気がかりでした」
珍しく口数が多い彼女だが、次第に表情が曇っていく。
「でも、そんな心配をよそに、彼らはいつも私を置いて飛び立っていった。調子が良くて身勝手で、スリルが好きでふわふわしていて、命知らずで、いつの間にかいなくなってしまう」
「……へ、へえ。シンディたちが言ってこと、間違ってなかったんだ」
「……そうですね。彼らが出発する前は、いつも私の頭を撫でてくれました。そして、帰ってきたら抱きしめてくれた」
「優しい人たちだったんだな」
「……ええ。特にお姉ちゃんは血の気が多くて、お兄ちゃんは意地っ張りで。そんな2人のお守にお父さんがいつもついて。みんな、私より余程腕が立つパイロットでした。……そんな彼らが、腕試しといって参加したのが、あのリノウチ空戦でした」
皆が息をのんだ。
「いつもなら、不安があっても、彼らは絶対帰ってくる。そう信じることができました。それだけ頼もしくて、自分もああなりたい。そんな憧れの人々でした。でも、あのときだけは胸騒ぎがして。もう、お父さんたちに会えないんじゃないか。そんな、確信めいたものがありました」
皆が表情を曇らせる。
そして、彼女の胸騒ぎは現実のものとなってしまったのだから。
「本当は、縋りついて行かないでって言いたかった。でも、家族を支えるために仕方がないんだって自分を納得させて、彼らを見送った。その結果、誰一人帰ってきませんでした」
彼女はソファーから立ち上がり、窓から眼下を見下ろす。
「戦闘機乗りの家族なんて、やってられません。自分が傷つくのは勝手ですが、他人に傷を残して幕を引いてしまうんですから……」
「傷?」
「……後悔や寂しさ、悲しみ、喪失感といった傷を残して」
実際彼女は感じたのだろう、彼女の言葉は淡々としていても、どこか感情がこもっていた。
「本当に勝手なものです。遺されたものの気も知らないで。……いえ、恐らくは察しがついていたはず。それをわかっていて、なお自分の在り方を貫くんですから余計に質が悪い。……でも」
彼女は一度言葉を切った。
「……彼らは、家族のために行った。守りたいもののために。その在り方は尊い。そう思います」
「……そうだな」
「……ですけど」
彼女は、つぶやくように言った。
「……できれば、行かないで欲しかった。一緒に居て、欲しかった」
彼女の言葉には、震えが混じっていた。
「とはいっても、結局私も、彼らと同じ生き方を選んだ。そんな私が、彼らを非難することはできません。私は、遂には母や弟、妹に傷を残すどころか、彼らが私に残して先に行った」
彼女は眼下を見つめながら静かに言った。
「本当に、やってられません……」
おそらく、彼女の中で色んな気持ちがごちゃ混ぜになっているのだろう。
彼女は理解を示しながらも、尊いと思いながらも、傷がいえていないのだろう。複雑な表情をしている。
「まあ、私が誰かに傷を残すことがないのが、幸いでしょうかね」
ふと、レオナが動いた。
彼女は背を向けるハルカのそばで立ち止まると、おもむろに右手を伸ばす。
そして……。
「イダダダダダダダダダ!」
彼女の白いスカート越しに、お尻を指でつまむと力いっぱい抓り始めた。
「な、なにすイダダダダダダダダダ!」
感覚が鈍い部位であそこまで痛がるのだから、余程レオナは力を込めているのだろう。
ハルカは彼女の手をはがそうとするが、手が緩む気配はない。
しばらくして、彼女が痛い痛いと叫ぶ中、ようやく手が離れた。
「な、何するんですか!」
抓られた場所を両手でさすりながら、彼女は非難がましい視線を向ける。
すると、今度は彼女の頬を両手でつかむと身長差を利用して上に引っ張り始めた。
「イダダダダダダダダダ!」
今度は頬が伸びる彼女。痛みが続いたせいか、次第に目に涙が浮かんでくる。
すると、レオナは彼女の目を覗き込むように顔を近づけた。
「……痛いか?」
「あ、あひゃりまへふぇす!」
「そうだよな。でも、体の痛みはしばらくすれば収まる」
「……?」
「体の痛みはなおる。でも……」
彼女は右手を離すとハルカの胸、心臓のあたりを人差し指でさす。
「心の傷は、一生直らない。それは、君が一番わかっているだろう?」
「……はひ」
「君は、色んな人に傷を残されてきたんだろう。だが、もし君が、今の自分に家族はいない。だから傷を残す人はいない。そう考えているなら、とんだ勘違いだぞ」
「勘違い?」
レオナは頬から手を離すと、両手で彼女の顔を左右から挟んで固定。顔を近づける。
「今の君には一緒に飛ぶ仲間がいる。もし君に何かあったら、彼らに君は傷を残すことになるんだぞ」
「……そんなこと」
「ないといえるか?君がエンマの要求を受け入れたとき、一人で空賊の大群に向かっていったとき、一人行方不明になったとき、ナガヤで殺されそうになったとき、皆がどんな気持ちだったと思う?」
彼女は応えられなかった。
家族でなくとも、自分も先に逝ったかれらと、同じことをしていたと、ハルカは思う。
「だから……」
レオナは彼女の背中に腕を回し、だきよせた。
レオナの行動に、キリエたちは目を見開く。
「もうわが身を省みない、危険な戦い方はするんじゃない。いいか?」
「……はい」
「本当かな~」
眺めていたキリエの視線が、疑いのまなざしに変わる。
「本当にわかったのかな~、ハルカ君」
「キリエさんに言われたくないですが……。わかっています、本当ですよ」
「だがキリエの言うこともわかる。そういって危険なことを繰り返してきたのは君だろう?」
「そうそう。胸に手を当てて考えてみれば?」
自身のことを棚に上げるキリエはさておき、そういわれてしまうと、返す言葉がない。
「ねえねえ、レオナ。どうすればハルカが危険な行動するのを止められると思う?」
「常に目を光らせておくしかないだろう?」
「でも、それだけじゃ不安だよね~」
キリエはおでこに手を当てて悩む。
「あ、そうだ。いいこと思いついた!」
キリエが何かを閃いたようだ。
そして、何か楽しそうに、明らかに何かを企んでいる怪しい表情を浮かべる。
そんな様子の彼女に、ハルカの直観が身の危険を知らせている。
「レオナ、彼女そのまま捕まえていて」
「ああ、それはいいが」
背中に回されたレオナの腕に力が込められ、ハルカはレオナと密着して身動きが取れなくなる。
そんな2人をよそに、キリエは背後に回り込んだ。
「あ、あの、キリエさん?」
「ハルカ、動かないでね」
そういいつつ、キリエは彼女の両肩に手をおき、顔を近づける。
そして……。
「あむっ」
「痛っ!」
キリエはハルカの首の左側に歯をたてた。
彼女の奇怪な行動に、レオナにザラ、ケイトは呆気にとられる。
「ええっと、キリエ……」
「キリエ、何しているのかしら?」
「ユーハングの書物にあったという、吸血鬼のようだ」
しばらくして、キリエは彼女から離れた。
「これでよし!」
「何するんですか!?」
キリエが口を離した場所には、無論彼女の歯形がばっちり残っていた。
「これで思い出せるでしょう!自分を心配してくれている人が、いるんだってこと!」
「どういう……」
「ハルカはさ、何で居なくなったみんなのことハッキリ覚えているの?」
「そりゃあ、家族ですし」
「それだけじゃないよね?」
皆が首を傾げる。
「きっと、皆がハルカの傷になっているから、痛みになっているから、残っているんだよね?」
「……それは」
キリエの言っていることは、間違っていない。
空戦で亡くなった者、空賊に殺されたもの等いずれも皆、彼女に後悔や喪失感等を残し、先に逝ってしまった。
彼女の中に、傷を残して。
心にできた傷は一生癒えることはない。
それは同時に、一生忘れられないという意味でもある。
「ハルカの死んだ家族が、みんな傷を残していったのはさ、きっと、あなたとのつながりを、無くしたくなかったからだよ」
「……そうだな。きっと、大事な君の中には残りたかったから、忘れて欲しくなかったから、傷にはなってしまうけど、そうやってつながりを死後も残したかったから。きっとそうだろう」
「残りたかった……」
それが、先に逝った彼らの望みだったのだろう。
そしてハルカは悟った。キリエの行動の意味を。
「まさか、私を噛んだのって……」
自慢げに笑みを浮かべるキリエを見て、ハルカは悟った。
「だからさ、痛みで覚えていられるなら、こうやっておけば、無茶しようとしたとき思い出せるでしょう?」
つまり、言葉で彼女が聞かないなら、具体的な痛みと共に覚えさせれば忘れないだろう。
そういう意味なのだろう。
「そうだな、痛みであれば君も覚えるだろうしな」
「でも、レオナの理屈だと、体の傷は消えるから、今キリエがつけた歯形も消える。つまり、いずれは忘れるのでは?」
至極当然のことを言うケイトに、キリエは笑みを浮かべて言い放った。
「大丈夫大丈夫、そのたびに着け直せばいいんだから!」
彼女の言葉に、ハルカは顔が引きつった。
「それって、ずっと噛まれ続けるってことですか!?」
この先のことを想像し、彼女は唖然とする。
「だが一理あるな」
おもむろに、レオナはハルカの首の右側にかみついた。
「痛い!」
「じゃあ私も」
「ケイトも」
「ちょ、ちょっと!」
ケイトが左耳を甘噛みし、ザラは右足太もも、スカートの裾のすぐ下を力を込めて噛んだ。レオナの腕が離れるまで、彼女はただ耐えるしかなかった。
「もう、どうするんですか、これ!」
ようやく解放されたハルカは抗議の声をあげる。彼女の首と耳、太ももには歯形がばっちりついている。
誰かに見られれば、いらぬ誤解を招くのは想像に難くない。
「じゃあ、これで隠せばいい」
ケイトは大き目の絆創膏4枚を取り出し、歯形を隠すように張り付けた。
「これで、思い出せるよね」
キリエが、後ろから腕を回して彼女に抱き着いた。
「私たちが、あなたに無茶してほしくないってこと」
ここまで行動で示されては、彼女も頷くしかなかった。
「……そうですね」
「なら、出撃前にはキリエか誰かにかみついてもらうことにするか」
「本当に続けるんですか?……いつか食べられそうで怖いんですけど」
「お尻にかみついたらおいしいかな?」
「おぞましいこと言わないでくださいよ!」
「なら、すぐにでも死にたがりのような行動はやめることだな。ユーリア議員から聞いたぞ。イヅルマでまた仲間を頼らなくて、挙句爆発に巻き込まれ周りを心配させた、と」
「……あのおしゃべり議員!」
怒りの表情を浮かべるハルカのお腹から、空腹を知らせる音が響いた。
彼女は頬を赤らめ、お腹を両手で押さえるも、音は皆に聞こえていた。
「もうそんな時間か」
「なら、町へ繰り出しましょうか。おいしいお酒が飲みたいわ」
「……程々にな」
「ケイトも行く。早く空腹を満たしたい」
「なら、チカとエンマも誘っていくか」
「「「は~い」」」
「いくよ」
キリエに手を引かれ、ハルカも歩き出した。
「さあ、パンケーキを食べにいくよ!今日はホイップクリーム増し増しでいくよ!」
「キリエ、太る」
「好きなものを、好きなだけ食べるのが正義なんだよケイト君」
「折角のケイトの助言も、馬の耳になんとやら、ね」
「ザラは人のこと言えないぞ。たまには禁酒でもしたらどうだ?」
「え~。それはひどいわ、レオナ~!お酒がないと私死んじゃう~!」
目の前で繰り広げられるやり取りを見ながら、ハルカは首に貼られた絆創膏に手をあてる。
戦闘機乗りの家族なんて、やってられない。
調子が良くて身勝手で、スリルが好きでふわふわしていて、命知らずですぐにいなくなってしまう、馬鹿な人たち。
遺される者の気持ちを知ってなお、自身の在り方を貫く、質の悪い人たち。
そして目の届かない遠くで、ある日突然、いつの間にかくたばってしまう、孤独な人たち。
最後には、遺された人々に、傷を残していなくなってしまう。
―――だから、やってられない。
でも、だからこそ、明日も保証されない彼らは、今あるつながりを大事にしようとする。
彼らが遺して行ったこの傷が、彼らと遺された者とをつなぐ、最後のつながり。
心の傷はいえないけど、受け入れ、共に歩んでいくことはできる。
彼らが残した、最後のつながり。彼らと紡いだ物語と共に。
そして今、自分の手を引いてくれる、体につけられた、新しいつながりと共に。
この先を、歩んでいこう。
彼女は、心の中でそう誓った。
―――全く、質が悪いんだか、愛おしいんだか、わからない人たち……。
心中複雑な感情が渦巻く中、彼女はキリエの手を握り返し、一緒に町へ繰り出していった。
ちなみに、ハルカに貼られた絆創膏の位置を見て、羽衣丸操舵士のアンナは頬を赤らめ、目を輝かせるマリアに問い詰められたのは、羽衣丸に帰ったときの話である。
読んで頂き、ありがとうございました。
アニメ第1話の最後で聞いたセリフをテーマにした話となります。
思いつきと勢いで書いた話なので面白みはあまり
ないかもしれませんが、お付き合い頂けたら幸いです。