荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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捕まえた彼女からラハマ襲撃の目的を聞き出したレオナたち。
羽衣丸が健在である以上、ウミワシ通商が再び襲撃にくること
が予想される中、捕まえた空賊少女をどうするか、色んな声
があがる。


第8話 任務終了するも目標未達成

「襲撃は成功した。さあ、約束の報酬を払ってもらおうか?」

 

 ウミワシ通商社長のナカイは、根城の奥の部屋で、丸眼鏡をかけ不適に笑う男性に依頼を完遂した報酬を請求していた。

「ムフ、勿論ですよ」

 男性が指で合図すると、背後に控えていた部下が金属製のケースを4つもってきて、ナカイの前であけた。

 中にはポンドの札束が隙間なく敷き詰められていて、その場にいる者たちは息をのんだ。

 だが、男性はその4つの内の2つのフタをとじさせた。

「……どういうつもりだ?」

 ナカイは一変、表情を険しくした。半額しか渡すつもりはない、そういう意味だ。

「まだ依頼は完遂していませんよ?今のままでは、半額しかお支払いできません」

「ラハマは襲撃したし、標的の羽衣丸にはロケットを当てた。依頼通りだ」

「……私は羽衣丸を、破壊してほしい(・・・・・・・)、と依頼したのですよ?」

「ロケットを当てたんだ。硬式飛行船でも、今頃燃えている」

「確認なされたのですか?」

 ナカイは黙った。羽衣丸周辺にいたのはハルカ1人で、ナカイやその部下たちは、その周辺には近づいていないからだ。

 

「依頼は続行。今度は、必ず破壊してくださいよ?」

 

「……わかった」

 ナカイは背後に控えている部下を見やる。

「明日、もう一度襲撃を行う。彗星に250kg爆弾を搭載。それと、俺の機体の準備を」

 命令を受けた部下は部屋を出ていった。

「ところで、ラハマ自警団につかまったあなたの部下、どうするおつもりですか?」

「……気にすることはない。自力で帰ってこればよし。帰ってこないなら捕まったまま。放っておけばいい」

 男性は少しばかり驚いた表情になるが、すぐに元の笑みを浮かべる。

「よろしいのですか?あれほどの凄腕を手放すと?」

「十分組織に貢献してくれた。ラハマが彼女を処分してくれることを願いたいね」

 空賊に対して譲らない。そういう姿勢のラハマなら、住民たちが彼女をただで済ますはずない。彼はそう考えていた。

「なぜ処分されることをお望みなのですか?」

「……事情を知れば、あいつは間違いなく反旗を翻す。我々にとって脅威になる前に、もっと言えば、他の組織にわたる前に処分してくれた方が、何かと都合がいいんだ」

 ナカイはケースを2つ受け取り、準備のため部屋を出ていった。

「……やれやれ、部下の使い方に問題があるようですね」

 ナカイの去った部屋で男性は一人、つぶやいた。

 

 

 

 

 

「班長、何かわかりましたか?」

 詰め所を出たレオナや議員たちは、飛行場へ向かった。

「お、レオナか?それにお歴々も雁首そろえて」

 向かった格納庫の内部に収められた1機の飛行機の操縦席から、少女にしか見えない整った顔に帽子のツバを後ろにしてかぶり、整備員の使うツナギを着た整備班長のナツオが顔を出した。

 ナツオは、見た目は幼いがしっかり成人している大人で、羽衣丸やコトブキ飛行隊の隼を整備する整備班の長を務めており、口は悪いが面倒見はいい。

 ただし、機体をあまり損壊させたり、無茶をしたり、その見た目をからかうと拳やイナーシャハンドルやスパナが飛んでくる。

 ナツオは、ハルカが乗っていた零戦から下り、レオナたちの方を向く。

「まず、羽衣丸の損傷は大したことはない。放たれたロケット4発のうち、幸い3発が不発、起爆した1発も、羽衣丸から離れた位置に着弾。むしろ大変だったのは後始末だ」

 空賊の使う機銃の弾や爆弾は粗悪なものが多く、爆弾なのに爆発しなかった、なんて場合も多い。

 銃弾も何度も再装填したジャンク品が多く、安いが命中精度に難があったりする。

 だが今回羽衣丸は、それに助けられた形になる。

「それはよかった。それで……」

「ああ、こいつか」

 ナツオは背後の、蒼い翼の零戦に視線を向ける。

 全体が灰色で塗装されているため一見すると21型に見えるが、エンジンカウリングから延びた推力式単排気管を見るに、これは52型だとわかる。

 主翼の半分近くが暗い青色で塗られ、真ん中より翼端側には白色を縁取った水色の丸が描かれている。

 水平尾翼も半分近くが暗い青に塗られ、垂直尾翼は青色を背景に、白色で模様が描かれている。

 その模様は、空を貫く、斜めに走る稲妻のように見える。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「こいつは確かに52型だ」

「でも急降下に対応できていたわよ。零戦は隼同様、急降下には速度制限があったはずじゃないの?」

「……それに、零戦の機首の機銃は2丁。この機体は1丁しかない」

「ああ、普通の(・・・)52型ならそうだ」

 班長の言葉に引っ掛かりを覚えたレオナとケイト、ザラは首をかしげる。

「こいつは52型だが、その最終生産型。52型丙って呼ばれる型だ」

「……52型、丙?」

「零戦はその機体強度の脆弱さから、急降下に速度制限があることは、知っての通りだ」

 皆は黙って、班長の話を聞く。

「だがユーハングの敵は次第に、零戦や隼相手に格闘戦をしない、後ろにつかれたら急降下で引き離せって戦法が用いられたらしい」

「……彼女が使っていた、一撃離脱戦法」

「その通り。だが、急降下速度制限のせいで敵機に追いつくことができない。ユーハングもこの状況を放置するわけにはいかない。そのために、隼は3型、零戦は52型から対策が行われた」

「どんな対策を?」

「機体の強度の見直し、外板を厚くして、急降下速度を上げた。零戦は52型から、甲型、乙型、そしてこの丙型へと改修が行われ、急降下速度が向上。特にこの丙型は、防弾装備や火力の向上が行われたんだな」

「どおりで急降下時、エンマが追いつけなかったわけだ……」

「だが、悪い面もある。装備が色々増えたことで重量が増し、52型の中では運動性が悪い。だから零戦乗りに好まれるのは21型や通常の52型で、52型丙に乗る奴はめったにいない」

「そんなに運動性が悪いようには見えなかったけどねえ~」

 運動性が悪いという割には、ハルカの52型の動きに鈍さはなかった。

「それは彼女の腕だろうな。だが、丙型にしてはおかしな箇所もある」

「どういうこと?」

 ナツオは主翼に取り付けられた20mm機銃の隣を指さした。

「金属板でふさがれてはいるが、丙型には本来、ここに13.2mm機銃が左右1丁ずつあるはずなんだ。だが、この機体では取り外されている。だから武装は機首の13.2mm1丁と、主翼に20mmが2丁だ」

「意図的に外したのか?」

「おそらくな。なんでかは知らないが」

 レオナは、さきほどの詰め所での彼女の話を思い出す。

「そいえば、彼女はこの零戦は、祖父と父の形見、だと」

「なら、その2人の考えが反映されているのかもしれないな」

 今となっては、うかがい知ることもできないが。

 

 

「……それで、あの子はどうなさるおつもりですの?」

 

 

 飛行場の格納庫に、先ほどの空戦で撃墜された3人、エンマとキリエにチカがやってきた。

「もし処刑されるおつもりなら、喜んで協力いたしますわ」

 貴族らしい上品な笑顔を浮かべるエンマの額には、その表情に似つかわしくない青筋がたっていた。

「……エンマ、物騒なことを言うんじゃない。まだ取り調べ中だ」

「何をいっても罰則は変わりませんわ!空賊は許すまじ!ダニは全てぶちのめす!」

 撃墜されたことで彼女の怒りが増したのか、空賊憎し、のエンマは通常運転だった。

 

 

 

「……こういうことになるから、法整備はやっぱり必要ね」

「違いないわ。でもユーリア、あなたの進める空賊離脱者支援法が、未だ議会を通らない理由でもあるわ」

 コトブキのメンバーが言い合う光景を、少し離れた位置から見つめるユーリア議員とホナミ議員はつぶやく。

「空賊や悪党に色んなものを奪われ、被害者は生きていくのに必死。なのに加害者たる空賊には、足を洗えば生活と仕事の面倒を見る。被害者にとっては、不公平以外なにものでもない。そう見えても無理ないわ」

 ユーリアは、都市と都市の横のつながりを強化して全員で生き抜くための活動を以前から行っている。

 空賊離脱者支援法も、彼女が提案したものである。議会の理解が得られず、可決には至っていない。

「そうね。でも、生活の保障がないから、空賊は増える一方。あのハルカって子も、経済的困窮が理由だった」

「奪われるものには、選択肢がない……」

 弱者には選べる選択肢がなく、奪えるくらいの強者や無法者たちは自由にできる。空賊行為は容認できないが、彼女が言ったことは間違ってはいない。

「なら、まずは生活の保障があれば、足を洗ってくれる可能性があるわ。銃弾も燃料も消費せず、お金は少しかかるけど、安全に敵を減らせる。そして元空賊だったという点で情報は得られるし、彼女ほど腕がたつなら、用心棒に良さそうね」

 ホナミは目を細めた。

 ユーリアの属するガドール評議会は、裏では賄賂や汚職がはびこっている。中には空賊とつながり、見逃す代わりに袖の下を要求する議員もいるとささやかれている。

「あなた、彼女を使いたいの?」

「あの強さは魅力的じゃないかしら?それに政治家という生き物は?」

「……使えるものは何でも使う」

「たとえそれが、元空賊であってもね」

「……言っていることはわかるわ。でも、被害者や普通の人々は、やはり嫌悪感を抱く」

「でしょうね。でも、心情ばかりに配慮していては、結局何も決められない。100人いれば、100通りの考えがあるわ。こうしている間にも、小さな町からは人がいなくなり、空賊たちの拠点になる。私たちは、選り好みできる状況ではない」

 イケスカ動乱以降、また治安は悪化し、空賊は増加。輸送船はそれに対応するため、用心棒の飛行隊を独自に設けたり、対応に追われている。

 限られた資源の獲得競争が起こり、裏ではマフィアが暗躍しているともいう。

「できるのは、いい面も悪い面も飲み込み、協力し合うこと。そこに心情を挟んでいい顔していたら、結局何も決められない。全員共倒れの未来しかないわ」

 

「全員があなたみたいになれるわけじゃない」

 

「でしょうね。だからこそ、あなたみたいに理解者を少しずつでも増やす努力をしていくしかないの」

 ユーリアは、隣の女性議員ホナミを見やった。

「ハリマ評議会の様子はどう?」

「……年寄り連中に苦労しているわ」

 彼女は、ハリマというラハマから飛行機で十数時間とんだ先にある都市の議員で、開けた土地、貴重な湧き水、ユーハングの人々が持ち込んだ木々を植えたことで、イジツでは珍しい緑の豊かな場所。

 そして開拓した土地では作物の栽培や家畜の放牧がおこなわれ、あらゆる都市への一大食料供給都市として栄えている。

 以前より空賊からは標的にされやすく、自警団は対応に苦慮している。

「ハリマの人口だけでは、イジツ中の都市の人々の腹を満たすことはできない。労働力が欲しいけど、空賊がよく襲撃にくるから、外から来たいって人は及び腰になってしまう」

「先日も空賊が、畑を機銃掃射していったらしいわね」

「ええ。いうことを聞かないとこうなるぞ、ってね。いざとなれば自給できるから孤立してもやっていけるけど、ハリマの自警団だけで全ての空賊に対処はできないし、作物を売らなければ農家にお金は入らない。売るには輸送船がいるし、用心棒だっている」

 

「ユーハングではこういうんですっけ。猫の手も借りたい、と?」

 

「そうね。年寄りたちはハリマだけでやればいい、といっているけど、自警団の機体や部品は他都市から買ったものだし、燃料だって他都市のもの。畑にまく肥料も同様。完全自立なんてできないの。だったら、あなたの言うようにみんなで役割分担をして、全員で一つの国家みたいになる。それが一番でしょ?」

 

「でも、あくまで住民たちの自由意志は大事にしたい?」

 

「……イサオみたいに人々を支配できれば、確かに平和でしょうね。誰かが全てを取り仕切る。簡単で、楽で、確実な方法。でも、人を支配なんて本質的にはできない。人々を抑圧し従わないものたちを排除し続ければ、いずれ大きな反発が生じる。それが爆発したときは、先のイケスカ動乱の再来でしょうね。自分達で決めるというのは確かに難しいし責任も伴うけど、そのために私たち議員がいる」

 

「さすが、政治家先生たちの考えることは違うわね」

 

 背後を振り返れば、そこには真紅のドレスに身を包んだルゥルゥがキセル片手に立っていた。

「暇つぶしに聞いていたんだけど、よくわからなかったわ」

「……わかっているくせに」

 ユーリアの眉間に少し皺がよった。

「……それで、あの子はどうなるの?」

 歩み寄ってくるルゥルゥにユーリアは問いかける。

「それは自警団次第ね。空賊行為を働いたのだから、軽い罪じゃないことは確か」

 ホナミが、なぜか表情を曇らせた。

 

「今すぐ処刑すべきですわ!空賊は許さない!当たり前ですわ!」

 

「そうだそうだ!」

 

「……でも、あれだけのパイロットをみすみす手放すとは考えにくい。彼女を閉じ込めておけば、襲撃は免れるかも」

 

「みんな色々いいすぎよ~」

 

 鼻息が荒いエンマとチカ、利用価値を考えるケイトをザラはなだめる。

「マダム、なぜここへ?」

 ルゥルゥの存在に気付いたレオナが振り向く。

「次に備えなくちゃいけないでしょ?今回の襲撃で、羽衣丸の損害は幸い軽微。完成が数日遅れるだけよ」

「ですが、彼女は羽衣丸の破壊が目的だったと、言っていました」

 ルゥルゥは表情を引き締める。

「なら、羽衣丸が健在である以上、また襲撃にくる可能性があるわね」

「……でも、仲間が捕まっている。巻き込む可能性がある以上、慎重になるはず」

「空賊に仲間意識があれば、ですけど」

「レオナ、彼女は誰に依頼されてきたか、白状した?」

「名前は知らない男だと。ですが、胸に赤と白の、花びらの徽章をつけていたと」

 皆が表情を険しくした。

 

「……自由博愛連合の残党、過激派と呼ばれる連中ね」

 

「間違いありません。彼女の言葉を信じるならば、ですが」

 自由博愛連合の残党。イケスカから追い出され、空賊となったものが多いというが、かつてのイサオの意志を受け継ぐのは自分達だと、派閥抗争のようなものが起きているという噂がある。

「なら、放置するのは危険ね。確実にくるわ」

「……ですが」

 レオナは俯いた。さきの戦闘で、自警団は15機の内7機を失い、コトブキも半数の3機を失った。ウミワシ通商の戦力は約30機。

 エリート興業の力を借りても、今の状況で来られたら、今度は追い返すこともできない。

「……そういえば、キリエはどこかしら?」

「あら?一体どこにいったのかしら?」

「あいつ……。探してくる。場所は察しがつく」

 レオナは詰め所に向かって、ザラを伴って走って行った。

 

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