荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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羽衣丸を飛び立ったレオナたちは渓谷の上を飛ぶ際中、
見たことのない戦闘機に遭遇する。
それは、彼女が推測した件の空賊の戦闘機であった。



第6話 亡霊は舞い踊る

 羽衣丸を飛び立ったレオナたち3機の隼は、イタミへ至る道中の渓谷の上を飛んでいた。

 周囲を警戒しながらレオナを先頭にキリエ、ケイトが直線に並んで飛ぶ。

「まだ現れないか」

『ねえ、レオナ』

 機上電話から、キリエの声が耳にはいる。

『ハルカ、おいてきてよかったの?』

 彼女が気にかけていたのは、羽衣丸で気絶させたハルカのこと。

「……彼女を連れてくるわけにはいかない。ここに出没する空賊が、もし本当にウミワシ通商の残党なら、彼女は例え自分がどうなろうとも、彼らを排除しようとするのは想像に難くない」

『そりゃあ、そうだけどさ……』

『でも、橘花について詳しいのは彼女だけ。彼女がいない今、ケイトも対処法が思い浮かばない』

「今回は偵察だけだ。戦闘は極力さけてくれ」

『相手が見逃してくれないときは?』

「そのときは、なんとかするしかない」

 偵察だけというが、レオナ自身不安がないわけではないし、見逃してくれると思うほど楽観的でもない。

 もし本当に相手がハルカの言っていた戦闘機、橘花であるならば、速度は紫電改や疾風も上回ると言っていた。

 そんな機体を相手に、隼で逃げ切れる自信はない。

 とはいえ、誰かが行かなければ待機の日々が続き、情報も得られない。

 多少危険を冒してでも、ここは出るしかない。

「周囲を警戒。少しでも変化があれば方向を」

『変化って……。あれ?』

「キリエ、どうかしたか?」

『太陽に、何か黒いものが……』

 ふと、レオナは上方を見上げる。

 太陽の眩い光に目を細めるが、その光の中、鳥のようなシルエットがわずかに見える。

 それはこちらに向かって、高速で迫ってくる。

 

「来たぞ!散開!」

 

 急いで編隊を解除、3人は別の方向へ機首を向ける。

 直後、爆弾のようなものが彼らを追い抜き爆散。

 内部の小弾をばらまき、渓谷内でいくつもの小規模の爆発がおこった。

『何!今の!?』

『ロケット弾。自力である程度推進したのち、内部の小弾をばらまく兵器。ハルカも使っている』

 レオナは後方を見る。先ほどは上方にいたが、その鳥は彼女らの後方にいて、急速に距離を縮めてくる。

 機首から火花が散る。

「くるぞ!」

 機首から放たれた弾がレオナの左側をかすめる。機銃は、大きく重い音を響かせて銃弾を発射。放たれた銃弾はある程度直進したのち、少しずつ下へ向かっていく。

『あの発射音に軌道、20mm機銃。それに主翼の下に円筒状の物体。ハルカの推測が当たっている』

「これが橘花か!」

 橘花は機銃を連射しながら、レオナの隼へ迫る。

 スロットルレバーを開き、できる限り速度を上げるも橘花は何の苦も無く追いすがってくる。

 速度で勝ち目はない。フットペダルを蹴りこみ、操縦桿を手前に引く。

 機首を持ち上げた直後、片翼が失速しロール。

 後方の橘花を追い越させた。

 背後をとった彼女は、機銃の発射ボタンに親指を乗せる。

「……今!」

 照準眼鏡を覗きこみ、中心線に合わさった瞬間を狙い、ボタンを押す。

 機首の機銃から12.7mm弾が放たれる。

 だが、機銃が発射されたとき、橘花の姿はそこには無かった。

「……どこだ!」

 あたりを見回す。

『レオナ後ろ!』

 背後を見やる。上方から、橘花が迫っていた。

「いつの間に!」

 いつの間にか橘花は加速し射線上から離れ、宙返りで背後に回り込もうとしていた。

 右側面からケイトの隼が近づき、機銃を放つ。しかし橘花は機首を下げ、速度を上げて回避。レオナと距離を詰める。

『私を無視するな!』

 キリエが左後方から機銃を撃ちつつ迫る。

 すると、橘花の主翼下のエンジンがふきだす炎が、一瞬大きさを増し加速。そして大きく旋回し、キリエの背後をとった。

『うそぉ!』

 レオナは舵を切って旋回、キリエの救出へ向かう。

 側面から機銃を放つ。数発が操縦席付近に命中。だが気にした様子もなく、橘花は標的をレオナにかえ、機首の機銃を放つ。

 彼女は機銃弾を寸でのところで回避、橘花と交差した。

「なんでだ!きいてないのか!?」

『防弾板で保護されている可能性がある』

「どうすればいい!」

 ふと、ハルカの言葉が脳裏に浮かぶ。

 

―――速度を制限する方法があれば、対抗できなくはないですが

 

「……そうか」

 レオナは操縦桿を前に倒し、高度を下げる。

『レ、レオナどこ行くの!?』

「2人とも、高度を下げて渓谷へ!」

 キリエとケイトは従い、渓谷の中に入る。

『どうするつもり!?』

「ハルカが言っていた。あいつは速度が出る。だからそれを制限する方法があれば、対抗できる」

『でも、渓谷の中じゃ』

「こちらも速度を落とさざるを得ないが、それはあいつも同じだ」

 それに、橘花は旋回する際、かなり大きな旋回半径だったのを見ている。

 渓谷の中なら大きな旋回はできないし、自慢の速度も出せない。

 これが、現状思いつく精一杯の策だった。

 橘花もあとを追って渓谷に入る。その瞬間、速度が落ちた。橘花の機首の機銃が火を噴いた。

「キリエ!」

『了解!』

 高度を下げていたキリエが上昇、狭い半径で宙返りし、橘花の背後に回り込んだ。

『いただき!』

 キリエの隼が機銃を放った。だが、機銃弾が当たる前に橘花は高度を上げてやり過ごす。

 キリエは橘花を追う。速度では劣っていても、隼は機体自体が軽いため、瞬発力や上昇力は悪くない。必死に橘花に食らいつく。

『今度は……』

『キリエ、前!』

 ケイトの声に、キリエは攻撃をやめる。彼女は操縦桿を操作し、突き出ていた岩をよける。

 渓谷の中は曲がりくねった場所が多く、突き出ている岩も多い。

 周囲に気を付けながら敵機を追わなければ、激突する可能性がある。

 そんな中を高速で飛びながら、敵機に弾を当てることは容易ではない。

 橘花は回避が難しいルートに入ると、高度と速度を上げて渓谷からでてやり過ごし、また渓谷に戻って隼を撃つのを繰り返す。

「くそっ!」

 橘花は上昇に下降、宙返りといった縦方向の運動を繰り返し、彼らの背後に陣取った。

 

『やれやれ、渓谷に入れば速度や機動性が縛れるとでも思ったのか?』

 

 機上電話から声がした。

 その声に、彼女は聞き覚えがあった。

 

『まあいい。コトブキを落とせば最大の障害はなくなる。ここでの略奪は安泰だ』

 

「貴様、ウミワシ通商の……」

 

『おや、覚えていてくれたのか?光栄だね』

 

 間違いなかった。この声は、ラハマ上空でハルカと死闘を繰り広げた末、彼女に撃墜された、ウミワシ通商の元社長だ。

 

「貴様、ウミワシ通商の社長だな!なぜ生きている!?」

 

『そうだ!お前はハルカにハチの巣のされたじゃん!?』

 

『あの状況で助かるはずない。なぜ生きている』

 

『命は1つしかないからな。防弾板を増やしておいただけだ。それでも、あいつが容赦なく銃弾撃ちこむから危なかったがな』

 

 橘花の機銃から銃弾が放たれ、キリエの隼をかすめる。

『さて、この機体をもってすれば、コトブキでも私を落とすのは不可能だ。我々の安泰のためにも、ここで落とされてもらう』

『そうはいくか!』

 キリエは機首を上げて宙返りし、橘花の後ろに回り込もうとするも、相手はそれがわかっているようで同じ動作で返し背後を取らせない。速度が出る分、動作の始まりが遅くてもキリエの行動より先に動作を終えてしまう。

「ケイト!」

『了解』

 レオナとケイトは編隊を組みなおし、橘花の後ろをとり、機銃を同時に発射。

 途端、橘花は機首を上げて上昇。

「逃がさない!」

 レオナたちは橘花の後を追って上昇する。直後、今度は高度を下げて再びキリエを追い、レオナたちに狙いをつける時間を与えない。

「くそ!」

 レオナも高度を下げ、橘花の背後をとった。

『レオナ、待て。撃てばキリエに当たる可能性がある』

「じゃあどうすればいい!?」

『わからない。キリエ、とにかく逃げて』

『く~、性に合わないけどしょうがない!』

 機銃の雨にさらされるキリエ、誤射を恐れて撃てないレオナとケイト。

 通常ならまたとない機会のはずなのに、速度が出る橘花では高度を上下にすぐに変え、かわされてしまう。

「……このままじゃ」

 橘花を追いながら、レオナは奥歯をかみしめる。

 今更逃げるという選択肢はないし、逃がしてくれるとも思えない。

 このままでは、いずれキリエは落とされる。

 でも背後から撃てば、射線上にいる彼女を誤射する危険はなくならない。

 かといって、渓谷から出ても勝ち目は薄い。

 速度で橘花が隼を上回る以上、向こうはいくらでもこちらを引き離して攻撃する機会を作ることができる。

 頭の中に策が浮かばないまま、彼女たちは渓谷の奥へ進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 羽衣丸の格納庫内でナツオ班長たち整備員は、ハルカの零戦に指定された装備を取り付け、最終確認を行っている。

 ハルカは確認を終えると、残りは整備員たちに任せ、操縦席に滑り込む。

 ナツオ班長もやってきて操縦席を覗き込んだ。

 

「ご注文の装備は取り付けた。主翼下にロケットを3発ずつ。そして胴体下部に例のものを取り付けた。操作スイッチはここにある。突貫工事だからな」

 

 ナツオ班長の指さす先、計器盤の端にスイッチのボックスが増設されていた。

「だが、速度が速い相手にこんな装備でどうする気だ?」

「……この装備で、真正面から戦っても勝ち目はありません。ですが」

「作戦があるのか?」

「ある場所で使えば、勝てる見込みはあります」

 

「……それは、お前が必ず帰ってこられる方法か?」

 

 ナツオ班長の視線が鋭くなる。

 

「勝てなかったら、最悪、機体を捨てて脱出しろ。パラシュートは積んであるだろ?」

 

 ハルカは首を横に振った。

 

「この機体、レイは、お爺ちゃんがくれた長年の相棒なんです。レイを捨てるくらいなら、私は一緒に落ちる道を選びます」

 

「……てめえ」

 

「だから……」

 彼女は言った。ナツオ班長をしっかり見据えながら。

 

「相棒ともども、必ず帰ってきます」

 

 二人の間にしばし沈黙が満ちる。

 そしてナツオ班長は頭をかきながら言う。

「……わかった。いつも危険なことばかりやるてめえのことだから、またやるんじゃないかと思っていたが」

「……すません、いつも」

「口でなら何とでもいえる。てめえの言葉に偽りがないというなら、行動で示してみろ」

「……はい」

「班長、準備できました」

 整備員がナツオに完了の報告を入れる。

「わかった。てめえら、すぐに出撃準備だ!」

「「「うっす!」」」

 整備員たちが配置につく。

「約束だぞ。相棒ともども、無事に帰ってこい。でないと、レオナの隼の脚に括り付けて、恐怖の空中散歩の刑だからな!」

「は、はい……」

 顔を引きつらせながら、彼女は応える。

 その後、彼女はいつもの手順でエンジンを始動させ、羽衣丸から飛び立っていった。

 彼女の機体が遠ざかっていくのを見送りながら、事の成り行きを見守っていたマダムは静かにつぶやいた。

 

 

「終わらせてきなさい、……全て」

 

 

 

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