荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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毎度おなじみのナツオ班長による簡単な解説。
今回は作中に登場した橘花になります。


おまけ短編:ナツオ整備班長の戦闘機解説「特殊攻撃機橘花」

 照明の落とされた羽衣丸の船内を、コトブキ飛行隊のキリエ、チカは静かに歩き、目的地である格納庫へと足を踏み入れる。

 そのとき、格納庫内の明かりが一斉に点灯し、一角を明るく照らした。

 そこにいたのは……。

 

「おう、てめえら!さぼらずよく来たな!」

 

 この場に2人を呼び出した張本人、ナツオ整備班長はそばに置いた黒板を拳で殴りながら言い放った。

 

「それじゃあ、ナツオ整備班長の戦闘機解説講座、開講だああああ!」

 

 ナツオ整備班長の戦闘機解説講座。その名の通り、ナツオ整備班長が戦闘機、もとい飛行機について懇切丁寧に解説してくれる講座である。

 

「じゃあ、飛行機乗りのくせに、飛行機のことをなんにも知らないお前たちのために、この私が特別に教育してやる!ありがたく思え!」

 

「「は~い」」

「って班長、今回は嬉しそうだね」

 前回に比べ、声が弾んでいるナツオにキリエは問う。

「そりゃあそうだ。前回の桜花と違って、今回はまともな飛行機の解説だからな」

「前回最後に、こんな解説を頼んだ作者を血祭にあげるとかいって退場したもんね」

「そうそう」

 そしてやむなく、キリエとチカが幕引きをしたのだった。

 ナツオはわざとらしく咳払いをすると、黒板に飛行機の写真を張り付ける。

 

「じゃあ、今回のお題は特殊攻撃機橘花な」

 

「作中に登場した、プロペラのない奇妙な飛行機だよね」

「ああ、イジツでは馴染みがない、ジェットエンジンで飛翔する飛行機だからな。それでプロペラがないんだ。因みに、ユーハングが実用化できた、唯一のジェット機でもある」

「というか、橘花って特殊攻撃機なの?戦闘機じゃないの?」

「ああ、実は橘花は戦闘機ではなく、特殊攻撃機として作られたものだ」

「特殊攻撃機って、何をするの?」

「というかさ、なんでジェットエンジンっていうエンジンが必要になったわけ?別に今のエンジンでいいじゃん?」

「そう思うか。では、なんでジェットエンジンが必要になったのか。そこから解説するか」

「長くなりそう」

 キリエが遠い目をする。

「まあ、長くなるから、大分端折るぞ」

 ナツオが咳払いする。

「ユーハングがある世界のとある国で、ジェットエンジンが作られた。当時は他国の技術吸収に躍起になっていたユーハングも、遅れるものかと研究を始めた」

「まあどこかがやっていたら」

「自分達もするよね」

「そういうことだ。そして各機関で研究が行われるんだが、飛行機に積むには大きすぎたり、複雑だったり、突然爆発する危険性があったり、まあなかなか安定したまともなものができなかったんだ」

「何それ怖い……」

「というか。ジェットエンジンって、ハルカが作中で簡単な構造だって言っていたよね?」

「ああ。彼女が言うように、構造自体は単純だ。ジェットエンジンは、エンジン前面にある圧縮機を高速で回して空気を吸い込み、燃焼室で燃料と混合して燃やして、それによって推力を得ているってしろものだ。だが、シンプルである分、高い技術力が求められる」

「ユーハングは苦戦したの?」

「ああ。その当時の技術水準では、各部品を正確に作るのは難しかったし、何よりこのジェットエンジンには高い耐熱性を持つ金属が必須だったんだが、ユーハングの治金技術ではなかなかいいものが作れなくてな。多くを他国に劣る代用品に頼るしかなかった」

「じゃあ、いいものできるわけないね」

「ああ。もっともいい物が作れないからって、状況が許してくれなかった」

「状況?」

 キリエとチカが首をかしげる。

「ユーハングは、当時高度1万メートルという高高度を飛んで飛来する敵爆撃機に苦しんでいた。おまけに、爆撃で燃料の貯蔵施設もやられたりして、質のいい燃料を望むことも難しくなった。これを何とかしようにも、排気タービンが実用化できず、そんな高高度まで上がれる戦闘機もなかった」

「それで、ジェットエンジン搭載機を作ろうって?」

「そうなったわけだ。それまでのエンジンより構造は簡単で速度が出るし、オクタン価の低い質の悪い燃料でも性能を発揮するジェットエンジンは、まさに当時のユーハングにうってつけだったわけだ」

「それで橘花を作ることになったの?」

「ただ、ユーハングのジェットエンジンは、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるの考えで作っていたものの、まともに飛行機につめるものが依然としてなかったんだ」

「じゃあどうしたの?」

「当時、ユーハングと同盟関係にあった国が、そのジェット機の実用化に成功してな。ユーハングの技術提供の見返りに、エンジンやそれを積む機体、そして資料を提供してもらうことになった」

「おお、これでユーハングも!」

「だが、運ぶ途中で敵に遭遇したりして、現物や資料が失われたんだ」

「え!」

「じゃあ、どうするの!」

「安心しろ。失われたものもあったが、色んなルートで運んだ結果、残った無事な資料がちゃんと届いたんだ。それを見た開発陣は、ユーハングとは大きな技術の開きがあることを実感した。それで、このもたらされた情報をもとにやり直そうって話になり、それまで開発されていた進捗の悪いエンジンの研究は全てキャンセルされることになった」

「思い切ったね」

「リソースには限りがあるからな。その後の開発でエンジンの実用化にめどが立ったところで、制式に実用的なジェットエンジンを乗せた機体を開発しようってなった。これがのちの特殊攻撃機、橘花になるわけだ」

「やっと話が戻ってきた~」

「なんとかエンジンの実用化には目途が立ったんだが、橘花に搭載されるエンジン、ネ20というエンジンは、動作が安定している方ではあったんだが、出力が低いという難点があってな。それで戦闘機には向かないということで、爆弾を搭載して海から来る敵さんの船を攻撃する攻撃機となったわけだ」

「ああ、それで戦闘機じゃなかったんだ」

「それと、出力不足故に、機体全体を他国より小さくすることで、出力不足を補ったんだ」

「それで、ハルカは機体の大きさを聞いていたんだね」

「おそらくな。それと、ユーハングは当時爆撃機に襲われることが多くてな。橘花は防空壕の中に隠せるよう、翼の折り畳み機構がついていたんだ」

「色々考えたんだね」

「主脚は零戦のものを流用し、胴体は空力特性よりも生産性を優先した曲面を極力さけた設計になっている。元になった他国の機体は三角形なんだが。あと、アルミなどの不足で、素材はブリキとか代替材料が使われている」

「ところでさ、この時点だと武装は爆弾だけなの?」

「ああ、その後30mm機銃を搭載する予定はあったらしい」

「でも作中では20mmだったよね?」

「イジツ仕様だ」

「あ~、そっか……」

「ただまあ、なんとか形にはなったものの、いくつもの難点を抱えていてな」

「……どんな?」

「まず、エンジンの寿命が短い。精々、15時間ほどだったと言われている」

「15時間!?」

「寿命短すぎじゃない!?」

「まあ、これはエンジンに使用されていた耐熱素材が、いいものが作れなくてな。ユーハングの技術では、それが限界だったんだ……」

「他には?」

「ジェット機は、エンジン後方から高温の熱を噴き出すし、圧縮機で空気を吸い込む必要があるから、舗装された立派な飛行場でないと運用できない。変なもの吸い込んだら、エンジンが壊れるからな」

「ああ、作中ハルカはその弱点を突いたんだね」

「そういうこと。それに、レシプロエンジンにくらべ、このときのジェットエンジンは応答が遅く、何かあっても即座に対応することが難しかったり、空力特性のせいで着陸が難しかったり、橘花の航続距離は1000kmもなく短かった。それに、全備重量で飛び立つにはエンジン出力が足らなくて、その際には離陸用のロケットが必要になった」

「ハルカが使ったRATOってやつ?」

「ああ。そんな状況でも、まともな動作が望めるのはこのエンジンしかなかったんだ」

「なんというか、ダメな子臭がしてきた」

「それを知ってか、ユーハングもこの橘花の使い方を考えた。そして、特殊攻撃機ではなく、特別攻撃機として使うことにした」

「特別……」

「攻撃機」

 2人の顔が蒼白になった。

「ああ、エンジンの寿命が短い、航続距離が短い、着陸も難しい、でもコストは安い。そんな橘花は、桜花と同じ帰還を考えない特別攻撃機としての役割にうってつけだったわけだ」

「なんか、このときのユーハングって……」

「狂っていたのかな……」

「まあ、私らには考えにくいことだわな……」

「なんか班長の話を聞いていると、橘花って作中ほど強くないんじゃないの?」

「まあ、そうだろうな。橘花は、世界トップを目指したものじゃなく、限られた時間内になんとか形にして実戦に送り出そうって作った、いわば妥協し続けた結果だ。もっとも、橘花が実戦で使われる前に、ユーハングが降伏したから、実戦には参加しなかったがな」

「まあ、それでよかったんじゃないの?」

「特別攻撃機として使われるよりわね」

「そうだよな~」

「ところで、一つ疑問なんだけどさ」

「なんだ?」

「ケイトもナツオ班長も知らない、こんな機体やエンジンの情報をさ、ハルカはどこで知ったわけ?」

「ケイトもそこを疑っているみたいだし」

「二人とも、この講座は戦闘機講座であって、ネタバレを含む解説ではないんだ」

「けど、気になるじゃん!?」

「まあ、そう遠くない先に明かされるだろう。それまで待つこった」

「「は~い……」」

「ようし、今日はここまでにしてやる!またな~。歯みがけよ~」

 




班長の解説にあるように、本当は戦闘機として使えるほどの
出力を有していなかったのではないかと言われる橘花。
作中では一応戦闘機だったらこんな感じなのでは、と妄想して
描きました。

戦闘機型が計画されてはいたものの、ネ20ですでに技術的限界が
見えていたらしく、作中の橘花は完全にいい大人の見た夢です!

ここまで読んで下さった方々、ありがとうございました。
また不定期更新になりますが、次の章もお付き合い頂けたら幸いです。
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