荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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放棄されたユーハングが使っていたという施設を調べる中で、
彼女はあるものを見つけ、そこに書かれていた名に戦慄する。
そのとき、施設を大きな振動が襲った。


おまけ中編 第2話:残された遺産と襲撃

 地面を揺らす大きな地響きと爆発音、舞い上がる砂埃や吹き付ける爆風から身を守りつつ収まるのを待つ。

「成功ですわ」

 笑顔で砂埃の中を進んでいくタミルに続き、コトブキのメンバーも後を追う。

「何が始まるかと思えば、いきなり爆薬で爆破とは驚きましたわ」

 砂埃を払いながら、エンマは歩く。

「入口が見つからなかったので、作るしかなかったのですわ」

「それで、重要な遺産が木端微塵になったらどうするんだ?」

「大丈夫ですわ。経験上、重要なものをこんな入口に置いておくことはありませんわ」

 気にした様子もなく進むタミルに、レオナたちはついていく。

 放棄された施設らしい場所は、渓谷の間に隠れるようにあった。

 入口が時間の経過ですっかり岩に覆われていたため、もってきた爆薬で吹っ飛ばした。

 おしとやかそうに見えて、結構やることは派手だと、ハルカはタミルの認識をする。

 持ってきた携帯ランプに火をともし、暗い遺跡に足をふみいれる。

 中は物音ひとつせず、静かな空気が満ちていた。

「なんかお化けでもでそうだね……」

「なんだ、キリエ怖いの?」

「んなわけないじゃん!?」

「2人とも……」

 喧嘩を始めようとした2人を、レオナが抑える。

 真っすぐ伸びる廊下の左右には、いくつかの部屋が見られた。

「手分けして探しましょう」

 タミルの指示に従い、手分けして部屋を捜索する。

 だが、どの部屋にも古びた空の本棚や古い机、椅子があるくらいで、これといったものはなかった。

「何もみつからないね」

「ここは、本当に秘密の施設だったのか?」

「下や上につながる道もなかったものね」

 全ての部屋を捜索し終えたものの、成果は何もない。

「おかしいですわね。こんなところに作った施設なのに、一階しかないなんて……」

 おかしいのは、平地ならともかく、渓谷の一部を掘削して作った施設にも関わらず、下や上につながる階段の類が一切なかったことだ。

 上下への移動は必要なかったということだろうか。

 それにしても移動に使う飛行機の格納庫さえないというのは不自然ではなかろうか。

「まさか、これで終了?」

 キリエは明らかに不満そうだった。

「かもしれませんわね」

 タミルも戸惑いを隠せない。

 ハルカは、何気なく部屋の中を歩いてみる。

 こんな渓谷の間に隠れるように作った施設が、何もないはずはない。

 きっと、何かを見落としている。

 

「……あれ」

 

 ふと、彼女は違和感を抱いた。

 部屋の隅にある本棚の横のホコリのたまり具合が、周囲と異なっている。

 それは、何かを引きずったように線を引いたような模様が描かれていた。

 軽くホコリをどかすと、現れたのは金属のレール。それは、本棚の下へ続いている。

 彼女は本棚をつかむと、横へと引っ張る。

「ふん!」

 力を籠め、本棚を引っぱる。レオナとキリエも加わり、3人で動かす。

 すると、本棚の下から、人一人が通れるくらいの穴が現れた。

「これは……」

「隠し通路……」

 ハルカはランプで穴の中を照らす。

 梯子が壁についており、高さは約8mくらいだろうか。

「……先に降りてみます」

「気を付けてな」

 彼女はランプを片手に梯子をつかむ。

「ハルカ~」

 彼女はキリエの方を見る。

「上見たらだめだよ」

「……なぜ?」

「だって、あなたも履いているでしょ?」

 イタズラ心を悟らせるキリエの表情に彼女は理解した。

 直後、チカとエンマがスカートの裾を押さえた。ザラに気にした様子はない。

「……みませんよ」

 彼女はゆっくりと梯子を下りていく。

 梯子のある空間は、人一人分ほどの幅の通路が一本あるだけ。その通路も、長い年月が経過しているのか土埃がたまっていて、歩くたびに足跡がつく。

 通路の先には、1枚の扉が見える。

 慎重に開けた先には、また奥へ続く廊下と扉が左右に見える。

 ここに至るのは、本棚に隠された秘密の入口。

 ここから先は、恐らく知られたくない、知られてはいけないものがあるのかもしれない。

 皆が下りるのを待って、彼女は扉の1つを開ける。

 中にあるのは、先ほどと同じ空の本棚や木製の机に椅子。

 念のため、机の引き出しを開けて中を確認する。

 といっても、施設を放棄する際に重要なものは全て持っていくのが常識だろう。

 引き出しの中には何もない。

「あれ?」

 すると引き出しの中に、青い紙にいくつもの線が描かれたものを見つけた。

 時間経過によって劣化し色褪せたりしているものの、これは飛行機の設計図の一枚であると彼女はすぐわかった。

 書かれている文字は、イジツの文字とは少し違う。

 彼女はその場で解読し、書かれている機体の名前を知った。

「これは、富嶽の……」

 直後、彼女はこの設計図を描いた人物の名を知り、戦慄した。

 ふと、部屋のドアノブをひねる金属音がし、彼女は設計図を小さく折りたたんで防寒用ジャケットの内ポケットにしまう。

 直後、ケイトが部屋に入ってきた。

「何かあったのか?」

「……いいえ」

 彼女は首を横に振った。

「そもそも、ここが秘密の施設とすれば、施設を放棄した際に重要なものは全て持ち出されている可能性が高い。何もないとはいいませんが、可能性は低いかと」

「……そうか」

 ケイトは興味なさげにそう言い放つとドアを閉め、鍵をかけた。

「……え?」

 鍵が回る音が、やけに大きく聞こえた気がした。

 

「……やっと、2人になれた」

 

「あの、それは、どういう……」

 彼女はいつもの表情で歩み寄ってくる。

「これで、邪魔は入らない」

 ハルカは本能が危険を察知し、とっさに距離を取ろうとするも、地下の狭い部屋の中だ。

 すぐに壁に突き当たった。

 目の前にまで迫ったケイトは、彼女の顔の左右に両手をつき、足の間に膝をつき逃げ場をたった。

 ケイトはハルカを身長差で見下ろしながら、鼻先が触れそうなほど顔を近づける。

「もう一度聞く」

 彼女は、何度も聞いた質問を、もう一度投げかけた。

 

「ハルカは、ユーハングの関係者なのか?」

 

「だから、違うと何度も」

「なら、あなたの機体のマークは?橘花の情報はどこで知った?ユーハングの資料を読めたということは、ユーハングの言葉を理解できるということ。どこで覚えた?」

 ケイトが矢継ぎ早に質問を投げかける。

 それらの質問に、ハルカは視線をそらした。

 

「……関係者でないというなら、なぜ橘花のことを知っていた?なぜユーハングの資料を読むことができた?」

 

 これがケイトの切り口だった。

 ユーハングの言葉を話せた件は、ユーリア議員に口止めされているため使えない。

 なら、先日の件が丁度使えると思い、ケイトは彼女を問い詰める。

 

「……知ってどうするんですか?」

 

 ハルカは質問を逆に返す。違うと言っても、ある程度はケイトを納得させなければこの先も追求される。

 彼女の何に応えればいいのか、聞き出す必要がある。

「質問に質問で返さないでほしい」

「応えないなら、私も応えません」

 しばし2人の間を沈黙が満ちる。

「……あなたがもし、まだ私たちが知りえない遺産を知っているなら、過激派に対抗するために協力してほしい」

「過激派?」

「イケスカ動乱で倒した自由博愛連合の残党の1つ。先日、ウミワシ通商の残党に橘花を渡したヒデアキという人物は、その過激派の1人と思われる。彼らは、ケイトたちも知らない未知の遺産を解析し、戦力化している。対抗するには、ユーハングの遺産の知識がいる」

「私だって全てを知っているわけじゃありませんよ?」

「でも、ケイトたちより詳しいのは事実。現に、ヤマセの件では、あなたが知識から橘花の対処法を考えなければ、恐らく今も解決できていない」

「そんな大袈裟な……」

「あなたは自分のしたことの重大さがわかっていない」

 橘花の件は、少々危険かつ成功するかは賭けじみた方法であったものの、結果として撃墜に成功している。

 レオナ、キリエ、ケイトの3人でかかっても手を焼いた相手をだ。

「要するに、敵に対抗するために協力してほしいと?」

「そういうこと」

「……嫌だと言ったら?」

「なぜ嫌がる?」

 

「……ユーハングの遺産が繁栄をもたらした一方で、火種になったこと。ケイトさんも知らないわけじゃないでしょ」

 

 ハルカの顔が曇る。

 ユーハングの遺産は、イジツに繫栄をもたらした一方で、リノウチ空戦などの争いの火種にもなった。

 特に、その空戦で身内を亡くしているハルカにとっては、心中穏やかではないだろう。

「だから口を開きたくない、と?」

 彼女は頷いた。

「でも、敵は手加減してくれない。あなたが口を開かなくても、過激派はどんどん遺産を戦力化していく。あなたがしていることは、むしろ利敵行為になりかねない」

 彼女は視線をそらした。

 

「ケイトは、ただ自分の仲間、コトブキ飛行隊のみんなや、故郷のラハマを守りたいだけ。敵が戦力の再編をしている以上、いつか戦うことは避けられない。そのときに、あなたの知っていることが必要になる。力を貸して欲しい」

 

「……その言い方は、卑怯じゃありませんか?」

 彼女はため息を吐きだした。

 大事なものを守りたい。そのために協力してほしい。

 そういわれてしまっては、断ることは難しい。

「……あまり周囲に言いふらさないでくださいよ」

「勿論。ところで、ケイトはあなたの質問に答えた。今度は、あなたの番」

「なんですか?」

「ユーハングの文字の読み方や橘花のこと。どこで知った?」

「……教わったんです」

「誰に?」

「……私の、祖父からです」

「ナガヤの救世主と言われている技術者の?」

「ええ。私は祖父から、技術の知識や飛行機の操縦、整備、銃の撃ち方や格闘術など、色んなことを教わりました」

「今はどこに?」

「私が幼い頃、イケスカに行ったきり、行方不明です」

「そうか」

 

 突如、部屋を大きな振動がゆすった。

 

「何だ?」

「地震?いや、むしろ何かが爆発したような……」

 部屋のドアが激しくたたかれる。

「ケイト、ハルカ。いるのか!?」

 レオナの声だ。

 ハルカはケイトにどいてもらい、ドアの鍵をあけた。

「2人とも無事か!?」

「はい」

 また振動が走った。

 激しい振動が間をおいて襲ってくる。

「これ、何かが爆発している振動ですよ!」

 レオナは無線を手にとった。

「班長!聞こえますか!?」

『お、レオナ!なんだ今の爆発は』

「調査は中止!急いで離脱します。エンジンの始動を!」

『わかった!急いで来いよ!』

「引き上げだ!急げ!」

 レオナは無線をかけていた鞄に突っ込むと、出口を目指して走り出し、ケイトたちもあとを追う。

 細い通路を翔け、梯子を上り、上の階に出ると扉を開け放ち、タミルが爆破した穴目掛けて走る。

 その道中でも、何度も地面が振動した。何かの爆発で地面が揺れ、砂埃が舞い上がり、施設の天井や壁が崩れる。

『急げ!』

 ナツオ班長の声のする方向に必死に足を動かす。

「あ!」

 ハルカの後ろで声がした。ケイトが石に脚をとられて倒れた。

 ハルカは直ぐに反転し、ケイトを米俵を担ぐように肩に抱え上げる。

「二人とも急いで!」

 キリエの声に応える間もなく、彼女は地面を蹴って百式輸送機に向かう。

 百式輸送機の搭乗口に駆け込むと、ケイトを床に下ろし、彼女は操縦席に急いで座る。

 レオナたちの隼は、すでに離陸準備を進めている。

 何かが後ろの遺跡に着弾。

 地面を大きく揺らし、舞い上がる砂埃が視界を遮る。

 ハルカは落ち着いて状態を確認する。

 暖気は終わって、いつでも離陸できる。

 シートベルトを締めると、彼女は渓谷の間に向けて輸送機の機首を向ける。

「離陸します、全員シートベルト着用を!」

 ケイトが左の席に座り、ベルトを締めた。

 滑走して飛び上がっていく隼のあとを追うように、彼女もスロットルレバーを開き、エンジンの出力を上げる。

 操縦桿を引き、百式輸送機も地面を離れた。

 そして渓谷から出ようと高度を上げようとした瞬間、真横から強風にあおられる。

 ハルカは操縦桿を操作し、なんとか渓谷への衝突を避ける。

 また渓谷の上の地面で爆発が起こる。

『全員、高度を下げろ!渓谷の中へ!』

 レオナの指示で全員が渓谷の中へ逃げる。

 だが、ハルカは内心気が気ではなかった。

 レオナたちの隼と違い、彼女が乗るのは大きな輸送機だ。

 狭い渓谷の中を通るのは、かなり危険だ。

 彼女の心中など関係なく、渓谷には相変わらず爆発音が木霊する。

「一体なんだこりゃあ!」

「上空に爆撃機の姿は見えなかった。爆撃とは考えにくい」

 不思議なのは、さきほどから連続している爆発音だ。

 遺跡を襲ったのは、遺産を奪われたくない者たちによる爆撃かと思ったが、それにしては爆撃機の姿が見えないし、何より飛び立った相手を爆撃など不可能だ。

 なら、この爆発は何に由来しているのか。

 気になるが疑問は脇に置く。

 そのとき、進路上に何かが飛んできた。

 それは渓谷の上の方にぶつかると大きな爆発を引き起こし、岩を砕いて堅い雨を降らせた。

「ハルカ、高度を上げて」

「了解」

 ケイトの指示に従い、渓谷から抜けて岩の雨を回避する。

 だがまたそばで大きな爆発が起こり、輸送機が強風で流されそうになる。

「くそ、渓谷に戻れ!」

 高度を下げて再び渓谷に戻る。

 これを繰り返して攻撃から逃げようとするも、攻撃が止む様子がない。

「ラハマまでもう少しだ!」

 出発したラハマまでもう少し。だが攻撃が止まない。

 ふと、相手の放った物体が渓谷の上に着弾。また砕けた岩の雨がふる。

「ハルカ、上昇しろ!」

「ダメ、攻撃される」

 ナツオ班長とケイトで意見がわかれる。

 その直後、背後で大きな爆発がおこった。機体が後ろからの追い風で揺さぶられる。

「ナツオ班長、ごめんなさい」

「待て!なぜ謝る!」

「……エンジン、壊すかもしれません。あと、ケガするかもしれません」

 レオナたちの隼との距離が開いている。戦闘機より足が遅い輸送機では当然だ。

 真後ろに着弾した今、次は当たるかもしれない。

 でも高度は上げられない。

 なら、速度を上げて渓谷の中をつっきり、ラハマへ向かうしかない。

「全員ベルトの着用を!……いきますよ」

 彼女はスロットルレバーに手をかけ、レバーを開いた。

「緊急出力!」

 緊急出力、要するにエンジンの最大出力を発揮させることだ。

 だが、その間は高い過給圧をかけることになるため、使えるのは1分だけ。それ以上続ければエンジンを壊すことになる。

 百式輸送機は速度を増し、渓谷の中をかけていく。

 相手の攻撃の爆発との距離が開いていく。

 そして、狭い箇所に差し掛かった。

「つかまって!」

 彼女は操縦桿を回し、機体を90度ロールさせる。

「全員つかまれ!」

 輸送機はほぼ垂直状態で、狭い渓谷の間を抜けた。

 渓谷の間から爆風が吹き抜けてくるが、それ以降はあきらめたように静まった。

「……逃げ切った」

 ハルカは急いでスロットルレバーを閉じ、輸送機を水平飛行に戻す。

「さっきのは、一体なんだ?」

「……わかりません」

 飛行機相手に爆撃など意味をなさない。

 だが、ハルカは視界に一瞬だけその姿を見た。

 爆弾に翼がついたような、その姿を。

「とにかく、調査するにせよなんにせよ、一度ラハマへ戻りましょう」

「了解」

 彼らは、帰還を急いだ。

 

 

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