荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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謎の襲撃からかろうじてラハマへ帰還したコトブキ飛行隊や
整備班たち。彼らは、襲撃犯たちを探るべくラハマから再び
飛び立つ。その先で彼らが遭遇したものは……。


おまけ中編 第3話:襲撃者からの逃亡劇

 再びラハマを離陸するのは、隼が3機と、零戦が1機。

 隼は、レオナ、キリエ、ケイトの3機。

 そして、零戦は主翼が蒼く塗られた、ハルカの機体。

『意外だったね、町長がすぐに調査に向かってくれって』

『正確には調査と対象の確認。及び破壊。正体は不明だが、あれだけの威力のものを連射できる。ましてそれがラハマのそばにあるというなら、それは大きな脅威だ。今すぐ対処しなければ、ラハマが危ない』

『でも、敵の正体は不明』

「その調査も兼ねての、威力偵察ですか」

 隼はいつもの身軽な姿だが、零戦には主翼下に3発、合計6発のロケット弾を吊り下げている。

 レオナの指示で、もし相手が多数だった場合や、地上目標であった場合の備えだ。

『ハルカ、君は何だと思う?』

「いえ、逃げるのに必死でしたから、何も見えなくて……」

 風防越しでも視線を感じる。

 いつの間にか左横にケイトの隼がいて、こちらをじっと見つめてきている。

 その視線は暗に、おおよそ見当がついているのではないか、と疑っている様子だ。

「ですが、対空砲や爆撃の類でないことは確かだと思われます」

 飛んでいる飛行機相手に爆撃はできないし、対空砲にしては爆発の威力が大きかった。

 だが、だからこそわからなかった。

 自分達を襲ってきたものが、何であるか。

 

 いや、正確には可能性は絞り込めている。

 

『そもそもさ、なんで私たちが襲われたわけ?』

『私たち、というより、あの施設の破壊が目的だったのかもしれない』

『でも、その後も攻撃が続いていた。施設を破壊し、ついでに私たちも、という魂胆であったと思われる』

 ケイトの言っていることは恐らく当たっている。

 ならば、自分達を狙ってきた相手もおのずとわかる。

「……見えた」

 さきほど逃げ帰った施設が見える。

 周囲は爆撃の影響か、タミルが爆破で開けた入口は崩落した岩で埋まってしまっていた。

『ひどい有様だな』

『何か見られたくないものでもあったのかな?』

 今となっては確かめる術はないが。

「……ん?」

 ハルカは視線を上げる。その先には、一式陸攻が10機近くと護衛戦闘機がいる。

 その中央には、なぜか大きな飛行船が1隻。

『あいつらか』

『さっきのお返ししてやる!』

『数が多い。ラハマから離れているので、ここは引き返すべき』

 たしかに、一式陸攻だけならいいが、護衛戦闘機だけでも30機近くはいる。

 それに、彼らが実行犯だったとしても機首をラハマとは反対に向け遠ざかっているのだから、無理に攻撃する必要もない。

 お互い争いごとは望まないはず。そう彼女は思った。

 

 瞬間、飛行船で動きがあった。

 

 船体後ろ下部が開くと、巨大な砲台のようなものがせり出し、砲身をこちらに向けるのが見える。

 

―――あれは、対空砲!?

 

 それが何であるか悟ったハルカは、無線に叫んだ。

「総員、回避行動!」

『え、回避?なんで』

「いいから早く!」

 編隊をとき、全員が違う方向へ飛ぶ。

 直後、飛行船の後部の砲台が火を噴いた。

 長大な砲身から撃ちだされた砲弾は彼らに向かっていき、少し前にいた場所にくると爆発を起こし、内包した機関銃弾を一斉に周囲に飛散させる。

『うおおっ!』

 キリエが驚きの声を漏らす。

 降り注ぐ銃弾の雨が彼らの機体の周囲に降り注ぎ、爆風が機体を揺さぶる。

 操縦桿やフットペダルを使い、彼らは銃弾の雨を回避し、揺れる機体を立て直した。

『な、何今の!?』

『……ラハマに戻るぞ!』

 とりあえず疑問は脇に置き、これ以上の追跡は危険と判断したレオナの指示で全機が反転。調査を中止し、ラハマへの帰還進路をとる。

 そんな彼らの背後へ、また砲弾が連続で撃ちだされる。

「来ます!」

『回避!』

 全員が編隊をといてよける。

 直後、またそれは大きな爆発をおこし、爆風が彼らを襲った。

『おおっ!』

 機体が激しく振動し、墜落しないよう機体を彼らは操作する。

 ハルカは背後を振り返る。

 対空砲なら、ある程度離れれば射程距離圏外に出る。

 飛行機の速度ならそう時間はかからない。

 だが、先ほどの対空砲は確かに強力だったが、あれが遺跡を攻撃したものとは思えない。

 なら、彼らはまだ別の手を持っているということだ。

 ふと、飛行船から何かが飛び立った。

 

 それは機体後部から炎を噴き出しながら、高速で迫ってくる。

 

「また来ます!」

『全機、渓谷へ逃げるぞ!』

 急いで高度を下げ、彼らは渓谷に飛び込む。

 渓谷内は決して広くなく、彼らの動きが制限されるが、渓谷内部は道がくねっていて時折岩も飛び出している。

 対空砲がいくら強力でも、砲弾は真っすぐにしか飛ばない。

 曲がりくねった渓谷で、高速で飛ぶ飛行機に命中させるのは至難の業だ。

 ハルカたちは地形を見ながら機体を操作し、渓谷に沿って飛ぶ。

 飛行船を飛び立ったそれは、直進したまま渓谷に激突。大きな爆発を起こし、爆音を渓谷内に響かせ、衝撃が岩を砕いた。

『な、なにあれ!?』

『わからない。見たことない』

『今はとにかく逃げることを考えるんだ!』

 ハルカは視界の端でとらえた。

 先ほどのものは対空砲の砲弾ではない。

 イヅルマで使われた飛翔する爆弾。無人に改造された桜花だ。

 飛行船に複数搭載し、こちらに向けて飛ばしたのだろう。

 直後、渓谷の上で大きな爆発が起こった。

『うおおおお!』

 爆風にあおられる機体を操り、渓谷へぶつかるのをさける。

「……はあ」

 衝突を回避したことに安堵するのもつかの間。ハルカは視界の良い零戦の風防から後方を見やる。

 彼女は目を見開いた。

「来ます!」

『うそ!』

 後方には、ロケットであろう推進機関から炎を噴き出しながら高速で接近してくる物体が見えた。

『今は渓谷に沿って直進するしかない。どうすればいい!』

『上昇してやり過ごすのは!?』

『それだとこれは回避できても次がない!』

 あの白い物体が桜花であれば、少なくとも速度ではこちらを上回る。

 あの飛行船に何発搭載されているかはわからないが、上昇して渓谷から出て回避しても、次が飛来したり対空砲で狙われたら隠れられる場所がない。

 かとって高度を下げて回避したら、爆風で地面にたたきつけられるかもしれない。

 上の方がマシではあっても次がない。

 かといって曲がり角のような場所もない。

 そうこうしている間に、物体がどんどん距離を詰めてくる。

 

「……皆さん、左へ寄って!」

 

『左へ?』

「いいですから、早く!」

 ハルカの指示に従い、レオナたちは渓谷の左側による。そして、彼女は機首を右斜め前へ向ける。

 直後、主翼下の6発のロケットを発射。

 ロケットは少し飛翔すると、渓谷に激突し爆発。砕かれた岩が雨のように降りそそいだ。

 レオナたちは速度を上げ岩の雨をよけ、ハルカは崩れる岩の下を潜り抜ける。

 そして崩れた岩に白い物体は衝突。その場で爆発をおこした。

 背後を振り返り、とっさの作戦が成功したことに、彼女は胸をなでおろす。

『……はあ』

『助かった……』

『無事でよかった』

 レオナ、キリエ、ケイトは安堵する。

 彼女も安堵した。だが、背後を振り返って目を疑った。

 また白い物体が、砕けた岩でできた砂塵の中を突き抜け、こちらに迫ってくる。

「また来ます!」

『また!』

『勘弁して!』

 たまらずキリエは泣き言をいう。

 気持ちはわかるが、それで脅威が去るわけではない。

『ハルカ、ロケットは!?』

「さっきので全部です!」

『どうするのさ!?』

「しかも……」

 彼女は後方を観察する。

「2発迫っています……」

 次は1発ではない。2発が時間差で迫っている。しかも2発目は少しずつではあるが高度を上げている。こちらが上昇したときに、爆発に巻き込めるように。

 ロケットは撃ち尽くし、先ほどの手は使えない。

 でもあれが2発も爆発すれば、高度を下げれば地面にたたきつけられる。

 かといって上昇しても、1発の爆発からは逃れられても、2発目が確実に彼らを飲み込む。

『ケイト、何か手は!?』

『……無理。速度と高度を上げて、祈るしかない』

『そんな!?』

『全機、高度を上げるんだ!』

 レオナの隼が機首を上げて渓谷からでるルートをいく。

 3人もそれに続く。

 だが、ハルカの零戦だけは高い上昇角で登っていく。

「全員そのまま上昇を続けて!」

『何をする気だ!』

 彼女は背後を見やる。

 背後に迫っていた1発目は、高度を上げて回避。渓谷に激突して爆発。

 下から吹き上げる爆風に、機体が揺さぶられる。

 そして高度を上げつつあった2発目が、彼らの背後に迫っていた。

 間もなく爆発し、彼ら4人を爆炎が飲み込むだろう。

 爆風にあおられ操作にてこずっていた彼らに、高度を下げて回避する時間はない。

 瞬間、先に高度をとっていたハルカは機体を180度ロールさせ、スロットルレバーを引き、エンジンを絞り、フットペダルを蹴り込んだ。

 失速した零戦の機首が下を向く。

 彼女の視線の先には、あの白い物体があった。

 彼女はその物体に照準器のサークルがあった瞬間、操縦桿の引き金を引き絞った。

 機首の13.2mm機銃、主翼の20mm機銃が一斉に咆哮を上げ、迫る物体に弾を撃ち込む。

 直後、物体は大きな爆発を起こし、生じた爆風が彼らを襲った。

 

 

 

 

 

 爆風で機体の姿勢が安定しない中、地面と仲間にぶつからないことを祈りつつ、彼らは爆風が収まるのを待った。

 少しすると視界が開け、青空が確認できた。

「全員無事か!?」

 レオナは仲間の安否を確認する。

 彼女の背後には、キリエとケイトの隼が確認できた。ほっと胸をなでおろす。

 直後、大きな不安が彼女の背筋を駆け上がっていく。

 ハルカの零戦の姿がない。

「……まさか」

 彼女は無線のスイッチを入れた。

「ハルカ、聞こえるか?……聞こえたら返事をしてくれ」

 応答がない。

「ハルカ!聞こえたら」

 

『……聞こえ……ます』

 

 ノイズ交じりの声がレオナの耳に入る。

「無事なのか!?どこにいる!?」

『少し上です……』

 彼女は上を見上げる。

 レオナたちの後ろ、斜め上あたりに蒼い翼の零戦がいた。

 おそらく、爆風にあおられて押し上げられたのだろう。

 機体の至る所が煤で汚れている。

『なんとか無事です』

「……そうか」

 無事を聞いて安堵する。一方、腹の底から違う感情が湧き上がってくる。

 それは抑えることができず、喉を通り、かみしめていた奥歯を離し、あらん限りの声で解き放たれた。

 

「この……、ばかもおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!」

 

『ひぃ!』

 エンジンの爆音を越える音量で放たれたレオナの怒声が、風防を振動させる。

「一体何を考えている!爆発物を機銃で迎え撃つなんて!死ぬ気か!?」

『だ、だってそうするしか……』

「それで君に万一のことがあったらどうする気なんだ!?どれだけ自殺願望みたいな行動をとれば気が済む!?」

『べ、別にそういうつもりは……』

 

「こちらがどれだけ肝を冷やしたと思っている!?」

 

『そうだね、ハルカは自分のことを考えてないね』

『キリエさん!?』

 

『情状酌量の余地なし。レオナに絞られるといい』

『ケイトさんまで!?というか、危機をなんとかしたのにこの仕打ちってあり!?』

 

 操縦席で震えるハルカ。ここに彼女を弁護するものはいなかった。

 

「……ようやく襲撃も止んだようだから羽衣丸に帰還するぞ。戻ったらゆっくり話をしような、ハルカ」

 

『ひゃ、ひゃい……』

 無線の声だけで、レオナが今どれだけ怒っているか、皆が悟った。

 

 

 その後、彼女は羽衣丸に帰還するなり格納庫の床で正座の上、レオナから説教の嵐を浴びることになった。

 加えて、煤まみれな上に破片が突き刺さった彼女の零戦を見たナツオ班長に事情を説明した結果、激怒したナツオ班長にもしこたま叱られたのは、言うまでもない。

 

 

 

 

 

 ラハマを去る巨大な飛行船の船橋で、オカッパ頭に丸眼鏡をかけた男性、ヒデアキは苦々しい顔をしていた。

「やれやれ、なんていう悪運の強い連中でしょう。五式高射砲の砲弾から逃れた上に、高速で迫る桜花を機銃で迎え撃つなど……」

 彼がここにやってきたのは、かつての後始末のためだ。

 昔、ユーハングが使っていたという施設。

 そこは後に、自由博愛連合の隠れた施設となった。

 富嶽や震電の設計図の一部は、ここで書かれたものだ。

 戦力を拡充するため、ユーハングの遺産を探して戦力化する一方で、反発する勢力に遺産を渡すわけにはいかない。

 施設を放棄した際に残したものがあっては困ると、彼らは後始末にやってきた。

 そして、イヅルマでも使った桜花で施設を離れた位置から攻撃し破壊しようとした。

 そんな彼らに、想像だにしない情報が舞い込んだ。

 その施設の調査に、コトブキ飛行隊が同伴しているというのだ。

 かつてイサオ氏の野望を邪魔してくれたお礼参りの、この上ない機会だった。

 だから飛行船に搭載していた対空砲、五式十五糎高射砲や積載していた無人の桜花を使った。

 これだけの最新装備があれば、彼らを始末するのは簡単なはずだった。

 なのに、彼の思惑はまた叶わなかった。

 彼らはそれらの猛攻をかいくぐり、ラハマへ帰還した。

「なんて忌々しい連中でしょう。もはや悪霊が取りついているレベルの悪運の強さでしょう」

「あの、ヒデアキ様?」

 心配そうに見つめる部下に気付き、彼は眼鏡のブリッジを持ち上げた。

「いえ、何でもありません。とにかくイケスカに帰還しましょう」

 生き残ったということは、また邪魔をされるということだ。

 イヅルマでの桜花、ヤマセでの橘花、そして今度は五式十五糎高射砲に桜花も通用しなかった。

 対抗策を考えられるほど、彼らは情報を持っていないはず。

 そのことに疑問は残るも、彼は次の目的のために帰還を優先する。

「まあ、このお礼はまたいずれ。……ムフッ」

 彼はいつもの、不敵な笑みを浮かべた。

 

 

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