荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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隊長たちからの説教からようやく解放された彼女は、
自室で調査した遺跡から持ち帰ったものを確かめる。
そこに書かれていた名前に驚愕する彼女だが、その
瞬間を隊長に目撃され……。


おまけ中編 第4話:隠し事の多い用心棒

「……やっと解放された」

 長時間の正座の上に説教の嵐を浴び、罰として首筋や太ももを噛まれたハルカは疲弊し、羽衣丸で割り当てられている部屋のベッドに倒れこんだ。

 桜花を機銃で迎え撃つなど、ああするしかなかったとはいえ、傍目に見れば彼女のしたことは危険行為以外何ものでもない。

 でも、ああしなければ全員お陀仏になっていた可能性が高いのだから、少しくらい情状酌量の余地があってもいいのに。

 そんな風に、彼女は太ももに着けられた彼らの噛んだ跡、歯形を眺めながら言う。

 今日のことを忘れないようにとつけられたものだ。

 手加減なしに噛まれたので、彼女は格納庫で悲鳴を上げる羽目になった。

「……そういえば」

 彼女は体を起こすと、部屋の奥にある机の電灯をつける。

 そして、上着の内ポケットからあの遺跡から持ち帰ったものを取り出す。

 明かりに照らされたそれは、青い紙にいくつもの線が引かれている。

 そして書かれているのは、イジツで使われているものとは、少し違う文字。

 その文字を、彼女は直ぐに脳内で変換する。

「やっぱり……、富嶽の設計図の一部」

 だが彼女にとって、そんなことはどうでもよかった。

 この図面を書いた人間の名前を見た彼女は、体が硬直した。

「……うそ」

 喜び、悲しみ、失望。色んな感情がまぜこぜになり、彼女の思考能力を奪った。

 なので、人が入ってきたことにも当然気づくはずもない。

「ハルカ?」

 

 

「ぴゃあああああああああああああああああああああ!」

 

 

 突然かけられた声に、彼女は驚く。同時に、その悲鳴に声をかけた者も驚いた。

「レ、レオナさん……」

「そんなに驚くことないだろう?」

 余程声が響いたのか、レオナは片耳を押さえている。

「あ、あははは。すいません、ちょっと考え事を」

 彼女は落ち着いて、先ほど見ていた図面を素早く後ろ手でたたんで隠す。

 だが、機微に疎くても飛行機乗りというのは僅かな変化にも警戒する。

 そんな行動を、機微に疎い隊長でも見逃すはずなかった。

「……ハルカ」

「何でしょう?」

「……今、何を隠した?」

「な、何の事でしょう?」

 明後日の方向を向く彼女に、レオナはため息を吐きだす。

「……誤魔化せるとでも思っているのか?」

「で、ですから、一体何の」

 言っている間にレオナは一瞬で間合いをつめ、彼女の両肩をつかんで床に押さえつける。

 そして、左手で彼女が背中に隠しているものを探る。

「ちょっと!」

「一体何を隠している?」

「そ、そんな大したものじゃないです!」

「じゃあ、見せてくれないか?」

 笑顔を浮かべるレオナ。その笑みが彼女には恐ろしく見えた。

 ハルカも、隠している図面を上着の背中に押し込むとレオナの両腕をつかんでとめる。

「そ、それほどのものじゃないですよ」

「何かやましいことでもあるのか?」

「そんなこと、あるわけないでしょう?」

「ならなぜこんなに抵抗するのかな?」

 力を籠めるレオナだが、相手はあのジョニーやリリコさえも倒してしまう猛獣。

 膠着状態が続き、お互い目的が達成できない。

 そんな状態に終わりがやってきた。

 

「……何をしている?」

 

 聞こえた声に、二人が振り向いた。

 レオナは部屋のドアを閉めることを忘れていたらしく、今の状況を見て、驚きの声をあげる人間が一人。

「ケ、ケイト……」

 部屋の入口には、銀髪の女性、ケイトがいつもの無表情に、少しばかりの疑念を込めた視線で二人を見つめていた。

「ケイトさん、こ、これは……」

 この状況はまずいと悟ったハルカは、とっさに言い訳を探す。

 その隙を、レオナは見逃さなかった。

 左手で彼女の両手首を押さえると、背中に右手を突っ込み、中に隠したものを引っ張り出した。

「あ!」

 気付いた時にはすでに遅く、ブツはレオナの手の中に。

 そして、中身を見た彼女の目は、驚きで見開かれ、直後に細められ冷たい視線で見降ろされる。

「……ハルカ」

 彼女は笑みを浮かべて言い放った。

「少し、話をしようか?」

 いいえ、などという選択肢は、彼女に残されていなかった。

 

 

 

 

 羽衣丸の会議室に連行されたハルカは、またも床に正座を命じられる。

 なぜこうも一日に何度も正座を命じられるのか。

 そう思いつつも従うしかなかった。

 目の前には、仁王立ちでこちらを見下ろすレオナに、マダム・ルゥルゥ、ケイト、ザラ、エンマ、ナツオ班長の姿があった。

 そしてその後ろには、今回の調査の依頼人であったタミル。ケイトの兄のアレンがなぜかいた。

「さて、ハルカ……」

 レオナの声に、彼女は震える。

「……一体これは、何だ?どこで見つけてきた?」

 レオナの手にあるのは、青い紙にいくつもの線が引かれているもの。

「見たところ、飛行機の設計図の1つのようだが?」

 ナツオ班長が言う。彼女にはこれが何であるか、すぐにわかったようだ。

「だが、なんて書いてあるかわからねえな」

 ナツオ班長は文字を読もうとするが、彼女には読めないらしく額を押さえている。

「これは、富嶽って書いてあるね」

 タミルに車いすを押され、アレンが覗き込み解読した。

「次のは、震電ってかいてありますわね」

 タミルが2枚目を解読した。かつて彼らの住むラハマを爆撃しようとした大型爆撃機に、中には撃墜されたものもいたイサオ氏の機体の設計図の一部。

「じゃあ、これは、自由博愛連合の……」

 レオナや皆の、ハルカを見る視線が険しくなる。

 

「なぜこれを隠していた?もしかして、君は自由博愛連合の一員で、あの放棄された施設に残されていたものを回収する使命でも帯びていたのか?」

 

「ち、違います!そんなこと」

「じゃあ、なぜ隠していた!?」

 レオナの言い分は間違っていない。こんなものを隠していれば、そんな疑念がわいてくるのが自然というものだ。

「ハルカさん、あなた、隠し事が多いんじゃない?」

 マダムが疑念に満ち溢れた視線を向けてくる。

「すべてを話せとは言わないし、人には話したくないことがあることも理解している。でも、このことは流石に見過ごせない。場合によっては、あなたを敵とみなして自警団に突き出さなければならないわ」

 こんなものを隠していたら、そうもなる。

 彼女はゆっくり深呼吸し、彼らを見るべく顔を上げる。

「申し訳ありません、ちゃんと話しますから、自警団に突き出すのは勘弁してください」

「じゃあ、質問に答えて頂戴」

 マダムが先を促す。

「この、飛行機の設計図と思われるものですけど、これは今回行った、あの放棄された施設の地下で見つけたものです」

「あの施設から持ち帰ったものですの?」

 タミルの問いに、彼女は頷く。

「これを隠していたのは……」

 彼女はまた深呼吸をしてから、表情を曇らせつつ、ゆっくり話始める。

「その設計図に書かれている設計者の名前が……、信じられなかったからです」

「設計者?」

 タミルはそれらしき場所をさがす。

「えっと……。この設計図を書いた方は、……た」

 

「タカヒト」

 

 よどみなくいうハルカに、皆は驚いた。

「……行方不明になっている、私の祖父の名前です」

 皆が目を見開いた。

「……信じたくなかった。いくつもの町を爆撃し、皆さんを苦しめた飛行機の実用化に、私の、大好きな祖父が、かかわっていたなんて」

 残された家族を養うため、孫の負担を少しでも減らすため、ナガヤからイケスカに向かった彼女の祖父。

 ナガヤを救った英雄が、イジツに戦乱を巻き起こしたイサオ氏の思惑の片棒を担いでいたなど、どれだけショックであったか。

 だが信じたくなくても、この図面が、それが事実であることを物語っている。

「理由はわかった……」

 ふと、レオナが一歩前にでた。

 

「だが、それならそれで、なんで一言くらい言ってくれない?そうすれば、あんな強引な真似はしなかったのに?」

「それは……」

 

「さっきだって、あの未知の兵器を機銃で撃ち落すなんて、どれだけ無茶をしたと思っている!」

「それは、申し訳……」

 

「……橘花のときもそうだ!私たちには何も告げず、自分一人で危険に踏み込んで私たちに心配かけて!」

 

 段々声を荒げていくレオナに、ザラだけでなくほかのメンバーも息をのんだ。

「なんで私たちを頼らない!私たちが君より劣るからか!そんなに頼りないか!信用できないか!」

「ちょっと、レオナ!」

 ザラが止めようとするも、彼女は止まらない。

 

「なんで自分だけで解決しようとする!?自分だけ危険な目に合えばいいと思っているのか!なら、なんのために一緒にいる?何で同じ飛行隊で飛んでいるんだ!?」

 

「レオナ落ち着いて!」

 ザラが縋りつくようにいう。

 そこでようやく頭が冷静になってきたのか、レオナの目が見開かれ、直後それまでのことが嘘であったように沈んだ表情になる。

 消え入りそうな声で、彼女は最後に問いかけた。

 

 

「君にとって、仲間は、コトブキって、何なんだ?」

 

 

 ハルカは何かを言おうとする。でも、その言葉は紡がれることはなく、彼女のつぐんだ口の中にとどまった。

「……みんな」

 マダムは両手をパンと鳴らす。

「もう日が暮れているから、今日は休みなさい。ザラ、レオナと飲みに行ってきなさい」

「は~い」

 笑顔でザラはレオナを引きづっていく。

 

 

 

 

 

 

 部屋から連れ出されたレオナは、そのまま羽衣丸の上層にある展望デッキへと連れていかれる。

 日頃は誰もいないので、2人になるにはいいとザラは判断したのだろう。

 ザラはレオナを座らせると、携帯していたスキットルを取り出した。

「まずは落ち着きましょう」

 レオナはスキットルを受け取ると、フタを開けて中身をあおった。

 強い酒なのか、飲んだ瞬間に体があつくなる。

 構わず、レオナはスキットルの中身を一気に飲み干す。

「ちょっと、レオナ」

「すまない、そういう気分なんだ」

 彼女はスキットルをザラに押し付けるように返す。飲み口から中を見たザラは、中身が空になっていることに肩を落とした。

「らしくないわよ、あんなに怒鳴るなんて」

「……だって」

 レオナは酒で気分を誤魔化したものの、次第に頭がさえてきた。

そして、彼女の頭を後悔が蝕んでくる。

「同じ飛行隊の仲間だ。だから、力になりたい。……でも、彼女は私たちのこと、殆ど頼ってくれなくて……。おまけに、危険なことを平然とやるから、いついなくなるか不安で」

 それは副隊長のザラも感じていたことだ。

 レオナも仲間を頼ろうとしない部分があったが、それは隊長として精一杯背伸びをしていたからだ。

 では、ハルカはどうだろう。

 

 エンマとのいざこざを自身で解決しようとしたが、その結果自分を撃たせるなどという真似をした。

 

 ナガヤ防空戦では単機で戦い、地面に不時着。空賊に危うく殺されそうになった。

 

 先日の橘花の件は、結果的に事態は終息したものの、レオナが言った通り知識を持っているからと危険な作戦を立てて単身実行した。

 

 おまけに今回は、あの放棄された施設を攻撃する勢力の新兵器を機銃で迎え撃ち、爆風に飲み込まれた。

 

 結果的に無事だったとはいえ、キリエもケイトも彼女を弁護する様子はなかった。

 うん、情状酌量の余地なし。レオナの言いたいことを、ザラは理解できた。

「私たちを頼れ、少し甘えるくらいでいい。そう言っているのに、結局……。でも、だからって、さっきのは言いすぎた。彼女が動かなければ、私たちはここにいない。自分は何もできなかったくせに、彼女に助けられておきながら、腹の中に貯めていた、あんな感情を、八つ当たり同然で全て彼女にぶつけて……」

 ザラは黙って、レオナに寄り添い、彼女の話に耳を傾ける。

「隊長失格。いや、人として最低だ。隊長は、隊員の支えでなければならないのに、あんな、あんな突き放すような、一方的に自分の思っていることを、汚い言葉にして……」

 レオナは自己嫌悪に襲われているが、腹の中で思っていたことの全てをぶちまけてしまうほどに、彼女は頭に来たのだろう。

 危険行為を何度もしてきた上に、仲間に対する隠し事。

 もう限界だったのだろう。

「どうして、なんだ……」

「……何が?」

 

「……どうして、何も言ってくれないんだ。……ハルカ」

 

 その意味が、ザラにはわかった。

 

 何のために同じ飛行隊で飛んでいるのか。

 何で仲間を信用しないのか。

 あなたにとって、コトブキとは何か。

 

 その問いに、彼女は応えなかった。

 

 ザラにとっては、大事な居場所であり、レオナや、みんなと居られるかけがえのない場所。

 それが、ウソ偽りのない気持ちだった。

 レオナにとっても、ケイトにとっても、キリエ、エンマ、チカ、誰しもがそうだろう。

 では彼女は、ハルカにとって、コトブキとは何か。

 まだ短いとはいえ、途中いくつもの大きな面倒ごとがあったものの、ともにいくつも大きな仕事をやり遂げてきた。

 コトブキの隊員は、彼女を仲間とみていた。

 彼女がいれば、どんな窮地に陥ってもなんとかなる。

 でも、ハルカにとっては違うのだろうか。

 所詮、賠償金を払い終わるまでの一時的な飛行隊として、仕方なく一緒に居るのか。

 でも、その答えを知るすべはない。

 今の状況では、とても聞けたものではない。

「もう、今日は寝ましょう。お互いまともでない頭で話し合っても、こじれるだけ。ね?」

「……ああ」

 殆ど手足に力の入っていないレオナに肩を貸し、ザラたちは自室へ戻った。

 

 その晩、ハルカは部屋に帰ってくることはなかった。

 

 

 

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