名乗りを上げた商会を探す。そして、その宝石と引き換えに
渡された報酬にレオナは目を見開くが、彼女はどうも疑い
のまなざしを向けているようで……。
「え~っと、エメー商会はっと……」
マダムにもらった地図を頼りに、レオナたちは目的地を探す。
ふとケイトが立ち止まり、指をさした。
「ここ」
アレシマの大通りに面している建物の一つに、エメー商会という看板を確認した。
レオナとケイトはその建物の前にやってきて、ドアをノックしようとする。
すると、レオナはハルカが誰かと無線で話しているのを目にする。
「はい……、はい。……わかりました」
彼女はなにかしらやり取りを終えると、無線を切って彼らにおいつく。
「大丈夫か?」
「……はい」
彼女の表情が少し曇った。
やはり、昨日の件が尾を引いているのだろうと、レオナは察した。
積み荷の引き渡しと報酬の受けとりが終われば、あとは帰るだけ。
その間なら、流石に時間も取れるだろう。
なら、さっさとこの厄介な依頼を終わらせなければならない。
そんなことを思いながら、大きな木の扉をあけ、正面に現れた受付に話を通すと、彼女たちは奥の部屋に通された。
「お待ちしておりました、オウニ商会の皆さま。私、エメー商会の社長のカガヤと申します」
出迎えたのは高級そうなスーツに身を包み、丸縁の眼鏡をかけ、顎髭を少し伸ばした男性。このダイヤモンドを買いたいといったエメー商会の社長だった。
彼の両脇には、社員だろうか屈強そうな男性が2人直立不動で立っている。
「では、ダイヤモンドを拝見します」
レオナが小箱を取り出し、社長に手渡す。
彼は蓋をあけて中身を確認する。
「おお、見事なダイヤですね。こんな大きなダイヤを引きうけられるのも、イジツ広しといえどもこのエメー商会のみ」
4センチをこえる大きなダイヤを目の前に、社長はうっとりとした甘美の表情を浮かべる。
確認を終えたのか、彼はダイヤを小箱に戻した。
「では、報酬をお支払いします」
カガヤ社長が右手の指をはじいて合図を送ると、左側の男性が大きなケースを3つ持ってきてレオナたちの前に置いた。
「中身のご確認を」
レオナたちはケースの中身をあける。
そこには、100ポンド紙幣の札束が隙間なく敷き詰められていた。
あまりの大金を目の前に、レオナは息をのむ。
「確認しました」
「それでは、これで取引は成立とさせてください」
中身を確認し、ケースのフタをしめる。
ふと隣を見れば、ハルカは何か考え事をしているように口元に指をあてていた。
「それでは、帰りの道中お気を付けて」
「はい、ありがとうございました」
ケースをもって退出しようとするレオナとケイト。
「……どういうつもりですか?」
ふと、ハルカが声を発した。
レオナが振り返ると、彼女はどこか険しい表情をしていた。
「ハルカ、どうかしたのか?」
彼女はレオナの問いに応えることなく、カガヤ社長に視線を向けている。
「カガヤ社長、どういうつもりかとお聞きしているんですが?」
彼は眼鏡のブリッジを持ち上げる。
「何のことでしょう?」
「でしたら、はっきり言います。……私たちを騙して、報酬は碌に払わず、ダイヤを自分のものにするつもりなのですか?」
レオナとケイトの表情が驚愕の色に染まり、カガヤ社長の視線が険しくなる。
「な、なんということをおっしゃるのですか!?」
「ハルカ、失礼だぞ!」
レオナの言葉に耳を貸さず、彼女は続ける。
「なら……」
彼女は報酬の入ったケースを立てると、鍵を外す。
すると、フタが勢いよく開き、床に当たって鈍い音をたてた。
彼女は蓋の裏面にある、中身を保護するクッションをはがした。
「ケースのフタが異様に重いのでまさかと思っていましたが……」
彼女がはがしたクッションの下から出てきたのは、テープで固定された延べ棒のようなもの。それは、鈍い灰色をしていた。
彼女はそれを固定しているテープごと剥がし、社長に突き出した。
「これは何ですか?」
「それは、その……」
社長は明らかに狼狽し始めた。
「この鈍い灰色。鉛ですね。こんなもので重さを誤魔化すなんて」
「ご、誤魔化してなんか。それは、バランスをとるために」
彼女はケースを蹴飛ばした。
詰められた札束がこぼれ、床に散らばる、はずだった。
「な!」
レオナが驚きの声をあげる。
ケースから出てきたのは、薄い札束が少しと、厚さを誤魔化すための上げ底、そこに仕込まれた鉛の重り。
そしてわずかな札束も、100ポンド札は少しで、あとは適当な紙を切ったのであろう、本物の札は僅かしかなかった。
「これが意図的でなくてなんですか?初めからだます気だったんですね」
社長は、明らかに苦々しい表情をする。
「それと、これは小耳にはさんだことなんですが」
ハルカは社長に話始める。
「そのダイヤ、ラハマのある住人が、飛行機の残骸あさりをしている中見つけたものだと」
「……そう、聞き及んでいますが」
「そして、その大きさから話題になり、あなた方が買い取ると申し出たと?」
「……ええ」
「そうですか……。なんでも、その残骸というのはあなたの商売敵である、パール商会の百式輸送機の残骸で、空賊に襲われて撃墜されたとのことです」
「それが何か?」
「……撃墜したのは、あなた方ですね」
「な、なんの証拠があって!」
「商会を通じてその輸送機のパイロットに確認してもらいましたが、襲ってきた空賊の機体は零戦21型。機体には鎌のマークが描かれていた、と」
ハルカは、社長の左右に控える男性たちを見る。
「その男性たちの服に描かれているマークと同じ、鎌のマークがね」
「な!?」
社長は慌てて左右に控える男性たちを見る。
失念していたのだろう。
「そしてそのマーク。私たちに道中襲撃を仕掛けてきた空賊の21型にも描かれていました。何で戦闘機3機の編隊を襲うのか疑問でしたが、ダイヤを持っているとわかっていれば話は別。私たちを撃墜して、ダイヤだけを回収するつもりだったのでしょう」
「そ、そんな適当な……」
「あなたたちエメー商会は、ここ数年ダイヤ等の宝石類の売り上げは好調のようですね。だって、ライバルの商社たちが空賊被害にあって買い付けたダイヤの多くを失っていることが多い。なので、あなたたちから買わざるを得ない。独占的な状態になり、値段を吊り上げ、利益は増加。そして、あなたたちだけは被害にあっていない」
「それはうちの用心棒が優秀だから……」
「ですが不思議なのは、エメー商会はダイヤの採掘場所やオークションに意外なほど顔を出さない。なのにダイヤの在庫は潤沢にある。そして襲撃に会うライバル。あなたが空賊と手を組み、ライバルを空賊の襲撃に見せかけて襲わせ、ダイヤを奪っているなら説明がつく」
「そんなバカな話!」
「今日の襲撃にしたって、私たちが持っている積み荷がなんであるか知っていれば襲撃する理由はありますし、回収しやすいアレシマに近い場所でしかけたのもわかります。そして、私たちを騙すために、ケースにこんな偽装をした」
途端、社長の右に立っていた男性が動いた、隠し持っていた刀を抜き、下から上に振り抜いた。
「くっ!」
咄嗟に飛びのいたハルカだが、刀の切っ先が彼女のスカートの左端を切り裂いた。
そして、上段に構えた刀を振り下ろそうとする。
前に、男性は顔に衝撃を感じ、後ろに倒れた。
ハルカが、先ほどケースからはがした鉛の延べ棒を男性の顔面に力いっぱい投げつけたのだ。
その衝撃に、男性は床に倒れ動かなくなった。
「なめるな!」
もう一方に控えていた男性が銃を抜いた。
咄嗟に、彼女はレオナが持っていたケースを奪い男性の手元に投げつける。
引き金を引いて発砲。銃弾が発射されたものの、大きな上に鉛で重くなったケースの軌道は銃弾程度では変わらない。
男性の拳銃と両手に重いケースが勢いよく命中し、男性は銃を取り落とす。
痛みでうめき声を漏らした瞬間にハルカは距離をつめ、左足で死なない程度に男性の顎を蹴り上げた。
衝撃で脳が揺さぶられ、彼も意識を失った。
「あ、ああ……」
用心棒が倒されたことで、社長は狼狽える。
ハルカは男性が落とした銃を拾い上げると、弾薬を確認し社長に視線を向ける。
「ひっ!こ、殺さないでくれ!」
彼女は左手を差し出した。
「取引は不成立。ダイヤを返して下さい」
「ふ、ふざけるな!こんな大きなダイヤ、滅多にお目にかかれるものじゃない!どんな高値がつくか」
ハルカは銃身を握ると、銃を社長に投げつけた。
投げた銃は社長の額に命中し、彼は倒れた。
「はあ……」
ため息を吐きだすと、彼女は倒れた社長の懐からダイヤの入った小箱を見つける。
フタを開けると、中身は無事だった。
彼女は無線でアレシマの自警団に連絡をいれる。
「すぐ来てくれるそうです」
事態が収束し、ようやくレオナとケイトは体の硬直が解けた。
「ハルカ、どういうことなんだ?」
事態が飲み込めていない様子の2人に、ハルカは説明を始める。
「私たちは、エメー商会の悪事に加担させられるところだったんです」
「悪事?」
彼女はかいつまんで話す。
このダイヤモンドは、元々パール商会という宝石等の輸送や買い付けを行う商会が輸送している中、空賊に襲われ機体が墜落。
後日、その残骸を見つけたラハマのとある住民が偶然ダイヤモンドを発見。
そのダイヤの買い取りに、エメー商会が名乗りを上げたが、パール商会の輸送機を撃墜した空賊は今いるエメー商会に雇われており、空賊と繋がることでライバルからダイヤを奪っていたということ。
「じゃあ、無線で話していた相手は」
「マダムです。調べものを頼んでました」
「そうか。……つまり、このダイヤモンドは盗品なのか?」
「そういうことになりますね……。商会の中にはこういうことをするところが時にあるんです。特に、得られる利益が莫大な業界はね」
空賊時代に見覚えがあったのだろう、彼女の表情に影がさした。
ケイトとレオナは、目に見えて肩を落とした。
「これじゃあ、骨折り損のくたびれ儲けじゃないか……」
挙句、エメー商会に偽装された報酬をつかまされるところだったのだから踏んだり蹴ったりである。
「仕方がないですよ。でも、このままだと私たちも悪事に加担したと思われる可能性があります」
「それはまずい!」
このことが世間に広まれば、オウニ商会もコトブキ飛行隊も危機に陥ることになる。
「ですから、そうなる前に持ち主に返しに行きましょう」
「持ち主?」
ケイトが首をかしげる。
「この宝石を運んでいたのは、パール商会。ここアレシマに本社があります。そこに届けましょう」
3人は事後処理をアレシマの自警団に頼み、エメー商会の出入り口正面に出た。
「ところで、ハルカ」
「なんですか?」
ケイトは、ハルカのある部分に視線を向けた。
「そのまま町に出るつもりか?」
「何か問題でも?」
首を傾げるハルカに、ケイトは言い放った。
「……見えている。いつもより」
「見えている?」
彼女はケイトの視線の先を見る。
そして、ようやくその意味を理解した。
「あ!」
彼女は瞬時に頬を赤く染め、スカートの左側の裂け目をつかんで引き寄せる。
先の戦闘時、刀を振るってきた際ここを切り裂かれたことを失念していた。
「いつもより、太ももが上まで見えている」
「外に出てから言わないでくださいよ~」
「それに、そんな格好で蹴りなどするから、その中も」
「それ以上言わないでいいですから!」
抗議する彼女だが、ケイトの表情はイタズラに成功した子供のように少し笑みを浮かべていた。
「あなたは、もう少し自分がどんな格好しているか、気にしたほうがいい」
「格好を気にして用心棒ができますか!?」
頬を赤く染めて抗議するハルカに、レオナとケイトは苦笑する。
表情が沈んでいたが、今はいつもの彼女だった。
片方が切り裂かれたスカートであれだけ動けば、結果は言わずもがなだ。
流石にこの状態で人通りの多いアレシマの中央通りに出ることは気が引けるのか、ハルカは防寒用の茶色の上着を脱ぐと腰を覆うように巻き付け、落ちないように両袖を結び、裂けた部分を隠した。
「とりあえず、これでいいです。零戦に帰れば、予備の服がありますから」
「中が見えることを気にするなら、ケイトみたいにズボンをはけばいいのに」
「いえ、それは考えたことありますし、1日だけしたことあるんですけど……」
「けど?」
彼女は、少し小さめの声で言った。
「……ユーリア議員が、ダメだって」
「……なぜ?」
ケイトとレオナは首をかしげた。
「……これがあなたの制服なんだから、この格好でいるように。一か所でも変更は認めない。そう指示がありまして」
その時、妙に圧を加えながら言われたことをハルカは憶えている。
因みに、整備班たちはなぜか絶望に満ちた表情をしていたような……。
なぜ議員がそんな指示を出すのだろうかとレオナとケイトは疑問に思うも、そこは聞いてはいけない気がしたので二人は言葉を飲み込んだ。
レオナは、ハルカに本当は言いたいことがあった。
無事だったからよかったものの、また一人危険に踏み込んで。
でも、その場から動けなかった自分を思うと、レオナは何も言えなかった。
その後、彼らは持っている宝石の輸送を行っていたパール商会を訪れ、宝石を渡した。
社長の喜びようは凄く、報酬として大型ケース3つ分になる札束を受け取ることになった。
無論、今回は中身がちゃんと入っている。
重いケースを必死に引きずる3人は飛行場にたどり着くと、レオナの機体にケースを乗せ、アレシマを飛び立った。