そんな中、レオナはケイトに気になっていた質問を問いかける。
太ももの上で寝るハルカの寝顔を見下ろしながら、レオナは笑みを浮かべる。
「ふふふ……」
ふと視線を感じたのでその方向を向けば、ケイトがジト目で見つめてくる。
「なんだ、ケイト?」
「……レオナはハルカに甘い」
「そうか?」
疑問を抱くレオナに、ケイトは頷く。
「抱きしめたり、頭を撫でたり、ケイトたちにはしたことない。なのに、彼女にはする」
「そ、それは……」
「まるで、妹を心配する過保護な姉のようだった」
「ぐっ!」
否定できない。マダムにも、ザラにも過保護だと言われたことがあるだけに。
「だって、隊長として隊員のことを放っておけないから」
「隊長と隊員という関係にしては親密だと思う」
「そ、それは……」
ケイトの押しに、次第にレオナが押されていく。
「だって、ハルカは危なっかしいから……」
「危なっかしい?」
ケイトは首を傾げる。
「……そうだ。危なっかしいから、つい目が離せなくて」
レオナはケイトから視線をそらし、明後日の方向を向く。
実際、レオナはそう考えていた。
ハルカの空戦での実力は、悪魔という二つ名が示すように、腕は凄くいい。
だからつい、年を取ったベテランのように思ってしまうが、実際には目の前のケイトや留守番をしているキリエやエンマと同い年で、まだ大人になって間もない。
態度は彼らより落ち着いているが、彼女の見た目は年齢より少し幼く見えている。ナツオ班長ほどではないにせよ。
そんな彼女が危なっかしいことをするから、技量はベテランなのに、その姿はパイロットになりたての向こう見ずの若手が飛ぶように見えてしまい、つい目が離せなくなってしまっていた。
それに、家族のためにと必死に空を翔けてきた彼女の姿が、一心不乱と言われるかつての自分と重なってしまうと、気にせずにはいられなかった。
いや、これがケイトのいう妹を放っておけない姉というものなのだろうか。
だがハルカならともかく、レオナには姉妹というものがわからないから知りようはないが。
「……まあいい、そういうことにしておく」
あっさりあきらめてくれ、レオナは安堵した。
「ところで、ケイト」
「何か?」
「……あの質問、本当なのか?」
「あの質問?」
レオナは、自身の太ももを枕にして寝る彼女に視線を落とす。
「ハルカが、ユーハングの関係者なのかって」
あの部屋の、ハルカを押し倒すケイトという光景も驚いたが、ケイトが彼女にした質問もレオナには衝撃的だった。
「……そうだとケイトは考えている」
「でも、なんでそんな考えに?」
「彼女の行動やいくつかの出来事が、それを証明している」
「だが、ユーハングが去っていったのは70年以上前。その頃の残った人の末裔だとしても、こんなに若い年齢じゃないと思うが?」
「穴にユーハングが去ったあとに来たユーハングの末裔だとすれば、可能性はある。アレンの言うように、ユーハングが去った後も、何度も穴は開いている」
「そうか。それなら可能性はあるか。でも彼女は否定していたぞ」
「それは、彼女が自分のルーツを知らされていない可能性がある」
「ルーツを?」
なぜ、彼女がユーハングの関係者ではないと否定するのか。
アレンが言っていた可能性はそれだった。
「彼女が関係者であったとしても、彼女がそのことを知らされていない可能性がある。いや、意図的に秘密にされている可能性もある。このイジツでユーハングに関係しているといえば、どこも手に入れようと動く」
「そうか。それで彼女には知らされていないと」
「知っている可能性があるとすれば、彼女の生まれ故郷のナガヤの人々。でも、彼らからそのことについては話がなかった」
「つまり、知っていながら秘密にしている、と?」
「ナガヤを救った、彼女の祖父のタカヒトさん。彼がイケスカに行った理由が、ユーハングの技術者をイケスカが欲していたからだとしたら?」
「ハルカに危害が及ばないように、彼女に出生の秘密を隠していた、と?」
「その可能性はある。彼女は、祖父から色んなことを受け継いだ唯一の孫らしいから。そして、この間の橘花の件を見るに、相手は遺産を戦力化しようとしている」
「だから彼女の知識がなければ、対抗できない」
「だからこそ、協力してほしい」
レオナもケイトの言いたいことはわかった。
先日の橘花の件もそうだが、彼女が対抗策を考えなければ、きっと今も事態は終息していない。
「気になることはあるが、とにかく、今はラハマへ無事帰ることを考えよう。ケイトも寝ること」
「……わかった」
ケイトも毛布をかぶり、寝息を立て始めた。
「帰りが遅くなり、申し訳ありません」
「いいのよ、あんな天気だったから心配ではあったけど」
無事にラハマのオウニ商会へ帰ってきたレオナたちは、マダムに受け取った報酬を渡し、報告をおこなった。
「にしても、知らず知らず悪事に加担するところだったとはね」
「ですが、宝石を返却したパール商会は、このことを問題にする気はないと」
「そう。よかった。にしても、随分なお金ね」
ケース3つ分にもなるお金に、マダムはご満月だった。もっとも大部分は無論ダイヤモンドを見つけた依頼主で、そこからオウニ商会は輸送費や護衛費用などかかった諸経費を請求することになる。
「さて、これが今回の報酬よ」
いつもに比べて大分分厚い封筒を、マダムは3人に手渡す。
その厚みに、3人は目を見開いた。
「ところで、レオナ」
マダムは表情を引き締め、静かに問いかけた。
「……問題は解決したの?」
その問いに、彼女は笑みを返す。
「はい、解決しました」
彼女は言いつつ、隣に立つハルカに視線を向ける。
すると、彼女も笑みを返した。
その反応に、マダムは目を丸くした。
「あなたたち、前より仲が良くなったんじゃない?」
「そうでしょうか?」
「というか、ハルカさん。あなた、そんな顔もできるのね」
「私だって、笑みを浮かべることぐらいありますよ」
「ふ~ん」
マダムは何か考えている様子。
「もしかして、雨で退避していた時、何かあったの?」
「「「え!?」」」
レオナたち3人は、同時に頬を赤らめた。
その反応に、マダムは意地の悪い笑みを浮かべる。
「そう、何かあったのね。一体、どんな一夜を過ごしたのかしら?」
「大したことはない」
ケイトが口を開いた。
自分の胸や体を抱くように、腕を回しながら。
「少し、裸同士の付き合いをしただけ」
「……へ?」
今度はマダムが呆気にとられる。
鳩が豆鉄砲をくらったような、そんな表情でマダムは固まる。
「ケイト!?」
「ケイトさん!?」
「何か?」
「何かじゃない!」
「その言い方は明らかに誤解を招きますよ!」
「間違っていない、問題ない」
「問題大有りですよ!」
「へ~、裸同士の付き合い、ね~」
3人は、一瞬にして室内温度が氷点下に下がったのを感じ取った。
そして、隠そうともしない殺気のする方角へ顔を向ければ、そこには全身からあふれ出る殺気に反して母性溢れる笑顔を浮かべるコトブキ飛行隊副隊長ザラがいた。
「3人とも、仕事の道中での出来事について、ちょ~っと説明してほしいんだけど?」
「ざ、ザラ誤解だ!やましいことは、何もしていない!」
「そう。なら包み隠さず全て話せるわよね?私とレオナの仲だものね~」
殺気と圧を込めた笑みに、3人の顔が引きつる。
「じゃあ3人とも、ゆっくりお話しましょうね~」
その後、マダムの部屋で3人とも正座の上、事の経緯を事細かに説明し、ザラの誤解を解くのに数時間もの時間を要したのは、言うまでもない。
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
今回は短めの中編というつもりだったのですが、
結局そこそこの話数になってしまいました。
不定期更新ですが、次回もお付き合いいただけたら
幸いです。