荒野のコトブキ飛行隊 ~ 蒼翼の軌跡 ~   作:魚鷹0822

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空賊の襲撃を退け、ようやく目的地、ハリマへたどり着いた
マダムやユーリアたち。
到着した先で、彼らを出迎えた3人に彼女は見覚えがあるようで……。


第2話 ようこそ、緑の大地へ

 遅れていた食事を終え、食後の紅茶に舌鼓を打っていると、艦内放送がなった。

『え~、ただいまよりハリマ領空へと入ります。繰り返す、ただいま羽衣丸は、ハリマ領空へ入りました』

 サネアツ副船長の声によると、間もなく到着するのだろう。

「船橋に行きましょう」

「はい」

 ユーリアについて、ハルカは羽衣丸の船橋に移動する。

 船橋には、アンナやマリア、サネアツ副船長といったいつものクルーに加え、キリエやレオナ、マダムたちもいた。

「おお~」

 キリエが眼下を見て驚きの声を上げている。

 つられて眼下を見下ろすと、見慣れた土色の荒野ではなく、黄金色の広大な畑が広がっている。

「麦畑がこんなに!パンケーキ何枚作れるかな!?」

「何枚なんて単位じゃすまないのではなくて」

 自分の好きなものに置き換えて興奮するキリエ、あきれるエンマ。

「でもこれだけあれば、ビールが何樽できるかしら?」

「全部飲み乾すつもりか?」

「あら~悪い?」

「本当に飲み乾しそうで怖いな……」

 ザラも好きなビールに置き換えていた。

 風によって実った麦穂が揺れるたびに波が起きるように見え、黄金色の海を思わせる光景だった。

 眼下の麦畑だけで、ラハマ以上の面積がありそうだ。

 よく見ると、麦畑の麦が刈り取られ、文字が表現されている。

 

「ようこそ、ハリマへ」

 

 さらに視線を移せば、緑色の草原が見え、そこには白黒模様の牛が草を食べているのが目に入る。

 そんな光景を見ていると、聞きなれたエンジン音が耳に入る。

 こちらに向かって、1機の飛行機が接近してくる。

「あれ、何?」

「見たことない機体だな……」

 ハルカは双眼鏡を取り出し、飛行機を拡大する。

 華奢な胴体に、複座の長い風防。そして固定脚に3枚羽のプロペラ。

「九九式、襲撃機か、軍偵察機ですね。珍しい」

 ユーハングが作った襲撃機と偵察機で、良好な運動性を誇ったという機体だが、何分対地攻撃機や偵察機であるため、イジツではめったにお目にかかることがない機体だった。

 九九式襲撃機は羽衣丸に近づくと、機体を旋回させて並走する。

『こちら、ハリマ自警団のものです。ラハマ船籍羽衣丸、ガドール船籍ユーリア護衛隊の飛行船ですね』

「お出迎えありがとう、自警団の方」

 マダムが無線で応える。

『ようこそ、ハリマへ。我々が係留場までご案内します。ついてきてください』

「ありがとう」

 九九式襲撃機は、羽衣丸の前に移動すると無線で指示を出す。

『右へ20度、舵を切って下さい』

 アンナが指示通り進路を変える。

『はい。そのまま直進してください。しばらく行くと、係留場が見えてきます』

 羽衣丸はハリマ上空をゆっくりと進んでいく。

 麦畑や放牧地、水田、緑の多い森や点在する家々に湖など、色んな風景が眼下を流れていく。

 進むことしばらく、コンクリートで舗装された一帯が現れた。

『ここが空港で、係留場は一番奥になります。飛行船が並んでいる一帯がそうです』

 すでに到着している飛行船が、6隻も係留場には並んでいる。

 横には、まだ少なくとも10隻は係留できる広さがある。

 それだけでなく、自警団、護衛隊の戦闘機隊の格納庫や荷物を保管する倉庫、管制塔、対空電探、対空機銃も備えた、かなり近代的なものだ。

 滑走路が4本もあり、戦闘機だけでなく輸送機も離着陸できる広さや長さがある。 

「広い空港だね」

「アレシマの何倍もあるな」

「というか、アレシマの町がすっぽり入ってしまいそうな広さね……」

『作物の輸送を行う飛行船が何隻も出入りしますから、これくらいの広さがないと荷積み作業ができないんですよ』

「なるほど」

『羽衣丸はそのまま直進してください。係留作業が終了後、護衛隊の飛行船はその隣へお願いします』

 指示に従い、羽衣丸は係留場へ進み巨大な船体を固定した。

「お疲れ様、無事到着したわね」

 マダムは船橋から搭乗口へと進んでいく。

 ナツオ班長たちが搭乗口を開け、地上へつながる階段を固定する。

 マダムは作業が終わったのを確認すると、階段をゆっくり下りていく。

 続いてラハマ町長、ユーリアが、そしてコトブキ飛行隊のメンバーが下りていく。

 階段を下りた先には、3人の人影が見える。

「ようこそ、おいで下さいました。マダム・ルゥルゥ、ラハマ町長、ユーリア評議会議員」

 挨拶をしたのは、灰色のスーツを着た、栗色の髪に、銀縁の眼鏡をかけた女性。

 ハリマ評議会ホナミ議員だった。

「今回は、われわれの招待に応じて下さり、ありがとうございます」

「いえ、ハリマのお誘いとあれば、お断りする理由はありません」

「ラハマとしても、ぜひとも今回の話はお受けしたいものですからね」

 町長、マダムたちは握手を交わす。

「ご紹介いたします」

 ホナミ議員は隣にたつ年を召した男性と女性に振り返る。

「こちら、我々ハリマ評議会の議長の」

「カスガと申します。お久しぶりです、ユーリア議員。お初にお目にかかります、マダム・ルゥルゥ、ラハマ町長」

 髪に白髪が混じりつつも、綺麗な身だしなみの男性、カスガ議長は親しみを込めた笑みを浮かべる。

「そして、隣の方は現職の市長の」

「シズネと申します。ハリマまでの長旅、お疲れ様です」

 カスガ議長と変わらない年であろう、シズネ市長は温かみを込めた微笑みを浮かべる。

 ユーリア議員は議長たちに頭を下げる。

「お久しぶりです、カスガ議長、シズネ市長。お元気そうでなによりです」

「ははは、まだまだ議長をやめさせてもらえないもので。まだしばらくは、元気でいないといけないんですよ」

「ですが、あなた方が議長や市長だからこそ、今のハリマがあるのでしょう」

「そういってもらえるのは嬉しいんですが、若い世代に交代も、そろそろ考えたいものです」

「若いのはいいことですが、政治家には貫禄も必要でしょう」

「あはは、おっしゃる通りです」

 

 

 

 軽口をはさみながらユーリア議員が議長たちと話す様を、少し離れた位置からハルカは眺める。

 彼女にとっては、久方ぶりに見る、懐かしい顔ぶれだ。

「ねえ、議長と市長って、そんな偉い人なの?」

「ハリマの政治でトップの人々。この町で最も偉い人々」

「そんな人々が出迎えなんて、期待されているのかしらね」

 コトブキ飛行隊のキリエ、ケイト、ザラがひそひそと話す。

 ふと、議長と市長がこちらを見た気がした。

 ハルカは彼らと視線が合った瞬間、議長と市長は笑みを浮かべた気がした。

 でも、彼女は咄嗟に視線をそらした。

「まあ立ち話もなんです。時刻はちょうど昼時。軽食を用意させてありますので、会場までご案内します」

 マダムはコトブキ飛行隊を、ユーリア議員は隊長と副隊長、ハルカを伴って歩いていく。

 少し歩いた先には、タイヤが前後についた長い車両、バスが止まっていた。

「さあ、お乗りください」

 議長たちについで、皆がバスに乗っていく。

「なんなの、この乗り物?」

「バスという大人数を一度に運べる車両」

「ははは、他の町では殆どお目にかからないから珍しいんですね」

 全員が座席に座ったのを確認すると、議長は運転手に指示を出す。

 間もなくエンジンがかかり、車両が進み始めた。

 バスは空港を離れ、舗装された道を進んでいく。

「バスで移動とは、会場まで遠いのかしら?」

「ええ。ここハリマは、住民が暮らす居住区よりも、畑や水田、放牧地の方が圧倒的に広い面積を誇るので、日常的にはバスか自動車、最低でも自転車での移動が必須になっているんです」

「自転車?」

 キリエが首を傾げる。

「車輪が前後、2輪ついている人力でこぐ車両のこと」

「いずれもラハマでは見ないものだな」

「ここに初めて来たとき、皆さん驚くんですよ」

 ラハマなど普通の町との違いに、彼らは戸惑う。

 バスは畑の間に作られた道や生い茂る木々の間を進んでいき、周囲の風景が流れるように進んでいくが、その大部分は広い畑だった。

「にしても、これだけ畑が広いと、水やりやタネ撒き、他の世話も一苦労でしょう?」

 マダムが疑問を口に出す。

 どの畑も、ラハマではお目にかかれない広大な面積を誇っている。

 これだけ広いと、いくら人がいても苦労するだろう。そう皆は思う。

「いいえ、そうでもありませんよ」

 議長の思わぬ回答に、マダムたちは首を傾げる。

「どうして?」

 議長はバスの外を指さす。

「間もなく、始まります」

 議長が指さした先に現れたのは、出迎えの際にも現れた1機の飛行機だった。

「あれは、さっきの」

「九九式軍偵察機です。あれを使って、タネや農薬、肥料の散布を行うんです」

 速度を落とした偵察機は、畑の上を旋回する。

 そして、後部席の下にある偵察窓から、何かがまかれていく。

 偵察機は、低速で畑の上を縦断していく。

 その飛び去った後には、肥料と思われる粒状のものが畑にまかれていった。

「おお~!」

 初めて見る光景に、皆が目を見開き、その光景に見惚れる。

「ユーハングの遺産は、こうやって生活や産業を手助けしてくれているんです。以前は人の手で行っていた作業も効率化でき、広い畑を持つことができるようになった」

「すご~!こんな使い方があるなんて!」

 飛行機の見ない使い方に、皆は驚きを隠せない。

「これ以外にも、ハリマには暮らすうえでの工夫がありますよ。ドルハに並ぶ水源と、ユーハングの人々が持ち込んでくれた緑のおかげで暑い時期は森の木々がカーテンになってくれますから、意外に涼しく過ごすことができるんです」

 畑や水田の周り、バスが走っている道の両端には水路が引かれ、水が流れる静かな音を奏でている。

「あれ、何?」

 チカが指さした。

 彼女が指さした先には、白い壁の小さな建物がいくつもたっている。

「あれは蔵といって、お酒や調味料を作っている場所です」

「あんな小さなところで?」

「遠いのでそう見えますが、近くにいくと意外に大きいんですよ。今回の商談会で扱う商品のいくつかは、あそこで作られたものです」

「というと、ビールや果実酒の類かしら?」

「それもありますが」

 議長は笑みを浮かべる。

「間もなくわかります。皆さん、きっと驚かれると思いますよ」

 そうやってバスに揺られること少し、彼らは壁で囲まれた大きな建物についた。

 

 

 

「到着しました。こちらが、食事会の会場になります」

 到着した場所は、広いホールだった。

 内部にはいくつもの長いテーブルが置かれ、上には調理された料理が所せましと並べられ、室内に充満する匂いが食欲をそそる。

「今回の商談会で扱う製品を使ったものになります。あなた方の舌で確認したうえで、扱ってもらいたいというのが、ハリマの想いです」

「ありがとうございます、議長。しっかり確認させてもらいます」

 マダムとラハマ町長は頭を下げる。

「おお、パンケーキみっけ!」

「カレーみっけ!」

「こらこういう場ではしゃぐな!」

 いうなり、キリエとチカは走り出し、レオナが急いで追いかける。

 そんな様子にザラは苦笑し、エンマは呆れる。

 ハルカは会場を見渡す。

 会場にはすでに到着している、今回の交易先の市長や町長と思われる人物や商会の人間と用心棒と思われる人々が大勢おり、皆グラスやジョッキを手に談笑している。

 長いテーブルの上には料理が並べられ、パンケーキ、カレー、パン、白米のごはん、野菜やハムを挟んだサンドウィッチ、肉を挟んだハンブルグサンド、香ばしい香りが食欲をそそる焼いた肉、牛乳を使ったアイスクリームやヨーグルト、焼かれたトウモロコシ、鳥のから揚げや豚肉のとんかつ、小麦を使ったうどんやそば粉を使った蕎麦など、軽食と言いながらも色々な料理が並べられ、皆が我先にと皿にとっては味わっている。

「凄い種類……。これは軽食というレベルじゃないわね」

「この町1つで、これだけの食材があるなんて……」

「ほぼすべての食材が、ここハリマでとれたものになります」

 議長と市長はどこかへ去っていき、ホナミ議員がカートを押しながらマダムたちの所にやってきた。

「大麦やライ麦、小麦は言うに及ばす、お米、雑穀、野菜や果物、香辛料、牛や鳥、豚の肉に生乳、それらを使った加工品など、どれもこの都市だけで賄ったものになります。塩については、以前提供していただいた、ラハマ産の岩塩を使わせてもらっています。流石、ラハマの岩塩はものが違いますね」

「いえいえ、それほどでも」

 ラハマでは、岩塩が町の貴重な収入源になっている。それだけでなく、岩塩の中でも高級な部類として扱われている。

「ここハリマでも、塩については十分な量を賄うことができません。なので、ラハマとはぜひとも、いいお話ができることを期待しております」

「ラハマも、そう願っております」

「まあ、具体的なお話は明日以降にしておいて、まずは飲み物でもどうですか?」

 そういって、ホナミ議員はラハマ町長、マダムに透明な液体の入ったコップを渡す。

「ありがとうございます」

 町長は早速飲み物に鼻を近づけ、香りをかぐ。

「……ん?」

 一瞬、町長が目を見開いた。

 マダムも香りをかぐと、彼女も一瞬驚いた表情になった。

 そして、2人は液体を口に運ぶ。

「……ホナミ議員、これは」

「わかりましたか?」

 微笑む議員に、町長は問いかけた。

「これ、もしかしてユーハング酒ですか?」

 町長の問いに、レオナとザラは呆気にとられた。

 ユーハング酒といえば、ザラも滅多にお目にかかれない高級品。

 70年以上前にユーハングが去って以降、在庫は残されたものしかないため、発見されたユーハング酒はもれなく高値で取引されている。

 そんなものがこの会場にあるわけない。

「もう、町長、そんなわけないと思いますよ」

 ザラとレオナもコップを受け取り、中身の味見をする。

「ユーハング酒は数が少ない。こんな簡単に飲めるわけない」

 ケイトとハルカもコップを受け取る。

 そして味見をして、彼らは驚いた。

「皆さん、驚かれていますね」

 議員は笑顔で言った。

「町長のおっしゃる通り、これはユーハング酒です。これもまた、ハリマで作ったものです」

「ハリマは、ユーハング酒が作れるの!?」

 ザラは驚きの表情で問いかける。

「はい。この町も、かつてはユーハングの人々が多くいた町です。当時の人々からユーハング酒の作り方を教わり、今まで伝えてきています。そしてようやく、製品として出荷できる体制の確立ができたんです」

「いい味ね。後味もスッキリしていて飲みやすいわ」

「アレンが喜ぶ」

「香りもいいですね」

 評判はいいようだ。

「これも、交易が開始できたら買えるのかしら?」

「勿論です。今回の商談で扱う製品の1つです」

「でも、これだけおいしい酒なら、やはりお高いんじゃないでしょうか?」

 ザラが自然な疑問をつぶやく。

 いくら出荷できる体制ができたとはいえ、イジツ中で欲しがる人間が数多いるユーハング酒。

 安い値段ではきっとないだろう。

「いえ、そうでもないですよ。詳しい金額は申し上げられませんが、目安としてはビールより少し高いくらいの価格の予定です」

「……そんなに安くて大丈夫なのかしら?ユーハング酒なら、ビールの10倍、いえ20倍の価格でも欲しがる人はいるでしょうに」

「確かに、折角手間をかけて作ったものですから、高い値段で売りたいという思いはあります。ですが、これでも十分利益はでます。いい物を、少しでも多くの人々に楽しんでもらいたい。庶民の手の出ない高級品ばかり作る農業に価値はない。それが、現議長と市長の方針なんです」

「相変わらずなのね、市長と議長の方針は」

 ユーハング酒を飲みながら、ユーリア議員は話す。護衛隊隊長と弟さんも、ユーハング酒の味に震えている。

「食料生産都市として、多くの人々の胃袋を満たす責任と義務が我々にはある。だからこそ、多くの町と交易を行い、関係を構築しなければならない」

「その通りです。その議長と市長の方針のもと、我々ハリマは動いているんです」

「それで、評議員自ら交易ルート拡大のために動いているのね」

「ええ。今回の商談会も、その一環です。だからこそ、ユーリア議員の思想の後押しをしているわけです。各都市が協力し合い、この世界を生き抜くために。同時に」

「食料生産都市としての責務を果たすため、ね」

「そういうことです」

 どんな都市であれ、この荒廃が進むイジツでは、食料と水の確保は最優先事項だ。

 ハリマが味方になってくれれば、他都市を味方につけるうえで、利益はあっても不利益はない。

「ユーハング酒もいいけど、他にもお酒はありますか?」

 少し赤い顔をしながら、ザラが言う。

「勿論ですよ。あちらにはビールに果実酒にウォッカ等など。お好きなものをどうぞ」

「本当ですか!レオナ、行きましょう!」

「な、酒臭い!ザラ飲みすぎはだめだぞ!」

 レオナの注意など聞こえないように、ザラは彼女を引きずって酒が並んでいる場所を目指していく。

 

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