やはりあたしのがっこうぐらしはまちがっている   作:harusame

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第一話 あたしのがっこうぐらし

あたしは奉仕部が好きだ。

 

奉仕部にはゆきのんとヒッキーがいる。

依頼人は来ないけど、

その分、三人でゆっくり過ごせる。

 

ゆきのんが入れた紅茶の香りが優しく教室の空気を満たしてくれる。まず、あたしの分を入れて、次にゆきのん自身の分を入れて、最後にちょっと様子を見ながら入れるんだよね。ヒッキーの分を。

 

そんな様子を私はニコニコしながら眺めてる。

 

ゆきのんが紅茶のカップを置く音。

ヒッキーが読んでる本をめくる音。

 

ゆきのんが穏やかに「どうぞ」って言って。

ヒッキーが遠慮がちに「ああ」って応える。

 

なんだかそれを見てると心がとても暖かくなるんだ。

あたしが手に持ったカップもずっと温かい気がする。

だからこそ満たされているから願ってしまうんだね。

 

 

ここにずっといたいなって。

ここがとっても大事だって。

ここはあたしの居場所って。

 

 

だからあたしがーーーーー。

 

 

 

 

 

✕✕✕

 

 

 

 

 

起きた瞬間に寝過ごしちゃったと分かった。

 

 

部屋の中は明るいし、窓の外からちゅんちゅんした声が聞こえるし、いかにも朝って感じ。

 

「あー!急がないと」

 

どうしてあと10分早く起きれないんだろう。

いつもそう思うんだよね。でもその10分が気持ちいいいんだよね。

 

そう思いながらあたしは寝袋から起き上がる。

 

二重にしたマットの上の寝袋にもすっかり慣れちゃった。今では寝坊するくらい。最初は全然寝れなくて、ゆきのんの手を握らせてもらってたけど。

 

隣の寝袋は綺麗に畳まれている。

ゆきのんはもう支度してごはんに行ったのかな?

あたしも急がないと。

 

急いでるあたしの足元に柔らかい感じがする。

 

「ちょっとサブレ!邪魔しないでよ…」

 

あたしの愛犬サブレも一緒だ。

なつくのはいいんだけど、ついでに起こしてくれないかな?

 

急いで制服に着替えて、鏡の前で髪型を整える。

ちょっとお団子の形が気になって、手間取ってしまう。

 

とりあえずこれでよし!!

なんか、よし!!って猫のキャラクターがよく言ってるよね。その猫のぬいぐるみ可愛いからカバンに着けてたらヒッキーが変な顔してたけど。

 

 

サブレに朝ごはんをあげて、わたしは部屋を出る。

 

「サブレ!部屋で大人しくしててね!」

 

廊下に制服姿のゆきのんがいた。

 

「由比ヶ浜さん?」

 

「おはよう~ゆきのん~」

 

そう言いながら思わず前から抱き着いてしまう。

ゆきのんって何だかとってもいい匂いがするんだよね。

同じ女の子なのに何だかちょっとドキドキしちゃうくらい。

 

「ちょっと…由比ヶ浜さん」

 

そう言って照れる様子も可愛いんだよね。

 

「どうしたの?」

 

「とても気持ちよさそうに眠っていたから起こしづらくて…。さすがに遅れるから起こしに来たのだけれど…」

 

「ごめーん、ゆきのん。またやっちゃったね…」

 

「別にいいわ。もう食事できてるから食堂に行きましょう」

 

「は~い」

 

そう言ってあたしはゆきのんに着いてく。

 

 

 

 

「おせーぞ、由比ヶ浜」

 

食堂の部屋に入るとマグカップを片手に椅子に座った制服姿のヒッキー。まだ寝ぐせが残っているのがヒッキーっぽい。飲んでるにはいつものあの甘そうなコーヒー。

 

「ごめん、ごめん。サブレが起こしてくれないんだよ」

 

「犬のせいにすんな…。つーか前はどうやって起きてたんだよ」

 

「うーんと、スマホのアラームは…切っちゃうから、ママに起こしてもらってたかな」

 

「高校生にもなって親かよ…」

 

「由比ヶ浜さん、さすがに高校生なので自力で起きれるかと…」

 

「何なの~。そういうヒッキーだってほとんど小町ちゃんに起こしてもらってたんでしょ?あたし知ってるよ!小町ちゃんから聞いたもん!」

 

「その、あれだ、違う、起こしてもらってるんではない。俺が頼んでいるんだ。対価も払っている。夢の世界からつらい現実世界に少しでもストレスフリーで起きれるよう、セルフマネジメントしてるんだ」

 

「また、そんな訳わかんないこと言って!」

 

「相変わらず屁理屈ばかりね…。もういいから朝食にしましょう、せっかく温めたのに冷めてしまうわ」

 

「わ~!美味しそう!」

 

確か材料は缶詰やレトルトしか無かったけど、綺麗に盛り付けされて、まるで普通のお家の朝食みたい。

 

「出来合いのもので申し訳ないけど。材料がもっとあればね…」

 

「いや、美味しそうだ。いつもすまん。材料は平塚先生に相談してみる。」

 

「ゆきのん、いつもありがとう!でもいつも悪いから、あたしも手伝うね!」

 

「ありがとう由比ヶ浜さん。では洗い物をお願いできるかしら」

 

「うん!頑張るよ。あたし!」

 

「雪ノ下おまえ、当たり前に調理から除外したな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたしたちは今、学校で暮らしている。

 

 

寝室は奉仕部の教室。

食堂は家庭科室。

 

ちなみにヒッキーは寝室の隣の教室で寝てる。

私たちは気にしないし同じ部屋でいいって言ったら、「女子と同じ部屋とかムリ、眠れねーし」とか言うし。ヒッキーってへたれだよね。

 

ちょっと不満な事はあるけど(お風呂とかね…)こうしてゆきのんやヒッキーと一緒に暮らすのって、とっても楽しい。

 

ゆきのんっていっつもしっかりしてるけど、寝ぼけている時とかとっても可愛いんだ。この間は寝起きに私に抱き着いてきたし。普段と違うところがまたいいんだよね!

 

ヒッキーはいつもヒッキーっぽい。いっつも「働きたくない」って文句言いながら、私たちが見てないところで、いろいろやってくれている。まえに小町ちゃんが「兄の家事スキルは私が仕込みましたから!」って言ってた通りけっこう家事できるんだよね。マメに片付けや掃除してくれるし。もしかして…あたしが一番できてないかも。

 

 

 

 

 

✕✕✕

 

 

 

 

 

「ヒッキーそこの草全部抜いてよ~」

 

「あ~分かった。つーかすぐ生えてくるよな。農薬とか使えないのかこれ?」

 

「う~ん、あたし使ったことないから分かんないかな。どうせなら体にいい方が良くない?」

 

「まあ、素人が扱っても量とか分からんか」

 

体操服姿のヒッキーが腰をトントンしてる。

あたしとヒッキーは屋上に作った菜園の手入れをしている。

 

ママが趣味で野菜とか作ってたのを手伝ってたから、あたしも少し詳しい。だから菜園を仕切らせてもらっている。屋上にプランターと土運ぶのたいへんだったけどヒッキーが頑張ってくれた。

 

「水菜とレタス…じゃがいもは数が取れるといいな…」

 

早く、ゆきのんの料理の助けになればいいな。野菜欲しいって言ってたし。栄養とかのバランスも考えてるってゆきのん本当にすごいよね。

 

「由比ヶ浜。こんな感じでいいか?」

 

「うん!ありがとうヒッキー。休んでていいよ」

 

「ああ。丁度あれだ。平塚先生の補習の時間だ」

 

「あ…、そうだったね。ごめんねヒッキー手伝わせて」

 

「いや、いいって。たまに体動かさないといかんし。それに食料は大事だからな」

 

うーんと背伸びしながらヒッキーは言う。

 

「平塚先生によろしくね…」

 

あたしは手を振りながらヒッキーを見送る。

 

 

さあ、今日の作業を一通り終わらせようっと。

そうして作業をしてると、足元に柔らかい感じがする。

 

「サブレ!ここまで来ちゃったの?教室で待っててッて言ったよね!」

 

サブレは嬉しそうに尻尾を振っている。

 

「しょうがないな~。今作業中だから教室帰ろうね」

 

と、捕まえようとすると、それに気が付いたかサブレはダッシュで逃げていく。

 

「も~、何してんの!待ってよ~」

 

そうして、サブレと屋上で鬼ごっごする事になってしまう。

途中から散歩代わりだよね。しばらく遊んでから、捕まえるのを諦めて、作業の続きをする事にした。

 

 

そしたらサブレ寝ちゃってたからあっさり捕まえれた。

 

 

 

 

✕✕✕

 

 

 

 

「何やってんだお前?」

 

サブレを教室に連れて行こうとしたらヒッキーと廊下で会った。

 

「いや、あのね。とにかく大変だったんだよ」

 

「わーった、わーった」

 

「何その生返事」

 

「お前そんな難しい言葉知ってたのか」

 

「も~、馬鹿にしすぎ!」

 

「すまん、すまん。今休憩中なんだ。補修がまだかかるから、雪ノ下に部活は遅れるって言っててくれ」

 

そう言って手に持っだマグカップをグビグビ飲むヒッキー。いつもの甘いやつだよね。

 

「あ、そうなんだ…。いいよ」

 

「先生が容赦ないんだよな、まったく…」

 

「じゃあ、頑張ってね…」

 

「おう」

 

そう言ってヒッキーは頭かきながら戻っていく

 

 

 

「…もうこんな時間なんだ」

 

窓からの光はだいぶ弱くなってきた。

もう部活の時間…だね。

 

 

あたしは制服に着替えて、ゆきのんを呼びに行くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

✕✕✕

 

 

 

 

 

 

「あら?由比ヶ浜さん?」

 

いつものキリっとした姿でゆきのんは座っていた。

 

 

「うちのクラスまで来てどうしたのかしら?」

 

ゆきのんはいつもの優しい笑顔であたしに言う。

 

 

 

「部活に迎えにきたの…。ヒッキーは遅れるって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆきのんの机と椅子だけがある教室。

 

 

 

 

割れた窓ガラス。

散らばったままの破片。

 

 

 

 

「もうそんな時間?分かったわ」

 

 

 

 

破れて濁ったシミが残ったカーテン。

 

 

 

 

「ええ?彼はたんなる同じ部活生なだけよ…」

 

 

 

 

消えたままの教室の蛍光灯。

 

 

 

 

「ゆきのんどうしたの…?」

 

「クラスの人達が比企谷君の事をね…」

 

ちょっと照れたようにゆきのんは言う。

 

 

 

 

「…そうなんだ」

 

 

 

 

床に散らかったままの誰かの持ち物。

見たくない黒いシミがあちこちにこびりついている。

 

 

 

 

「では、行きましょうか、由比ヶ浜さん」

 

 

 

 

窓から差し込む夕日は薄暗い教室を少し明るくする、

そんな教室の中で、ゆきのんは帰り支度をしている。

 

 

 

 

「うん…」

 

どこか嬉しそうなゆきのんの姿見ながらあたしは廊下を歩く。

 

 

 

 

「…あのね…ゆきのん…」

 

 

 

 

廊下の奥は積んだ机のバリケードで塞がれている。

 

 

 

 

「あら、廊下の窓が開きっぱなしね」

 

 

ガラスが割れた窓をゆきのんが閉める。

 

 

 

 

 

 

 

 

夕暮れの廊下で、

そよ風に髪をゆらす彼女の姿に

あたしの胸がとてもきゅっとなる。

 

 

だって、なんだかとってもキレイで。

絶対、大切にしなきゃいけないって。

 

 

 

なんだか目が熱くなってきて

思わず窓から外を見てしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かれら」が

 

 

何十ものかれらが

校庭や運動場をさ迷ってる。

 

帰る場所が分からないのか

前の記憶を辿っているのか

毎日毎日ずっとさ迷ってる。

 

何かを求めているような

「かれら」のうめき声が

夕暮れの校舎を埋めてる。

 

 

 

 

 

 

 

「はやく自宅に帰れるようになると良いわね。由比ヶ浜さん」

 

ゆきのんがそう言ってあたしに優しく微笑む。

いつものキレイなあたしが大好きなゆきのんの笑顔。

 

 

「…そうだね。ありがとうゆきのん」

 

あたしは精いっぱいの笑顔で応える。

 

 

「今日は依頼…来るかな」

 

「どうかしら。確かに最近は来てないわね」

 

「うん…。でもあたしは依頼来なくてもいいかなって」

 

「あら、由比ヶ浜さんも比企谷くんに汚染されたのかしら?あなたも働きたくないとか言い出すのかしら?」

 

「そういうのじゃなくって。あのね…。暇だと、ゆきのんやヒッキーとゆっくり過ごせるし…」

 

「それもそうね。私も騒がしいのは好まないわ」

 

「それにね、あたしは…」

 

 

 

 

×××

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あたしは奉仕部が好きた。

 

 

 

あたし達三人が何てない毎日を過ごしていく。

そこであたしの心はとっても満たされている。

もうこれ以上何もいらないって思えるくらい。

 

 

どうしてこうなったかなんてあたしには分からない。

今から何をするべきかってあたしには思いつかない。

でもこの場所でどうにかやっていかないといけない。

 

 

だってあたしはこの場所が大好きだから。

ゆきのんとヒッキーがそばにいてくれる。

もうあたしはこの場所しかないんだから。

 

 

もうここしか…

あたしにも…

二人にも…

 

 

ううん。

だめだね、弱音を言ったら。

つらいけど、叫びたくなる時もあるけど。

今まで何度も助けてもらってたから。

今度はあたしがお返する番だよね。

 

あたしは改めて、強く思うんだ。

 

 

 

 

 

 

「だからあたしが守らないと」って。

 

 

 

 

 

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