無双の能力者(ボッチドライバー)   作:詞連

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FILE1 エンジェル ミーツ ボッチ
第1話 ボッチはヒトカラを嗜む


 後地球歴(P E)710年現在の社会の様子を見るに、人類という生物が最も住み良いと感じる環境は、西暦換算で21世紀頃の地球社会であるようだ。多くの列強、先進国と呼ばれる人類共同体の都市構造や生活家具のデザイン、そして個人的なライフスタイルは、技術面の革新により多少の変化はみられるものの、外観的にはその頃からほとんど変わっていない。宇宙における人類生存域の20パーセントを支配する陰陽双帝国もその例にもれず、首都の様子は、その前身の一つであった日本という国の首都“東京”の21世紀前半頃の姿に酷似していた。

 第4太陽系の6番惑星と7番惑星。二重惑星の内、政治的首都としての機能が詰め込まれた蒼京(そうきょう)は7番惑星“アマツ”の赤道直下。沿岸(あくまで惑星レベルの距離感で)に軌道エレベーターの基部が巨木のように起立し、その巨木の根元から沿岸の間の領域に1000m級の高層ビルが林立。その林の根元には、木に寄り添う下草のように商業ビルや住宅地が密集し、密集の中心から離れていくほどに、地衣類のような農地が広がっていく。

 それらの植生の間を縦横に走る灰色の線、灰色の樹脂系セラミックで舗装された道を、一台の大型バイクが走っていた。

法定速度5割増し。強引な追い越しをする背にクラクションを投げかけられる。疾走するのは双帝国では比較的珍しい白色人種の若い女。

 まだ二十歳もそこそこ。やや赤みががったブロンドの髪。官能的な曲線で構成されたすらりとした四肢。だがただ嫋《たお》やかなだけでないのは、その白磁の肌を内側からうっすら押し上げる筋腱のシルエットと、大型バイクを自在に操っているという事実から見て取れる。

 服はパンツルックに丈の短いトップス。その上からビンテージの革ジャン。動作の邪魔にならない程度に派手なアクセサリ。化粧もそれに合わせたやや派手寄りの、だが過剰を感じさせないレベル。

 イカしたカッコイイ女。

 もしも彼女が繁華街で5分もバイクを止めれば、ダース単位で男が群がっていただろう。

 だが今の彼女を見れば声をかけないか、かけた直後に回れ右をして逃げていただろう。

 

 彼女はイラついていた。

 

 釣り気味の気が強そうな眼差しに、少し濃いめのアイシャドー。

 ナチュラルよりやや派手めのメイクは、普段ならば彼女の魅力を最大限に引き出すセッティングだ。しかし現状、焦燥と怒りが目つきと眉間のしわとして顔に出ている状態では、有毒生物の警戒色と同様の効果しか示していない。

 

 イラつきの理由は、探し人だ。

 

 

 

「アイツなら久々のまとまったオフだからと街に降りている」

 

 彼女が出向いた先で言われた言葉だ。携帯をかけても連絡に出ない。

 なにかトラブったのかと思ったが、彼女が訪ねた件の人物の同僚達は

 

「じゃあ、きっとヒトカラ中ッスね、1人カラオケ」

「トラブル?ないな。アイツはあれで腕利きだし生き汚い。奴が死ぬか連絡取れないようなトラブルがあるとしたら、今頃蒼京は非常事態宣言だ」

 

 オフになると、『彼』は次のような行動に出るらしい。

 

「まず一人焼肉か一人回転寿司、または一人ファミレス行って腹を満たした後、一人カラオケか一人ボーリング。その後はスーパーに寄って食材買い込み、一人宅飲みとセルフトレーニングを次の出勤まで続ける。それがパターンだ」

「ここ出て2時間、で、最近一人飯と一人ボーリングん時はちゃんと出るッスから、今はヒトカラタイムッスよ、きっと』

 

 行きつけのカラオケの名前を聞いて、すぐに飛び出した。

 ちなみにそのカラオケ屋に電話をしたところ、なんとこちらも出なかった

 

「うらぶれてるッスからねえ、あそこ。バイトも一人学生さんがいて、大体いつもやる気ないし」

 

 だからといって客商売としてそれはないだろ。

 思い返すのも苛立たしい。高速を降りて高架下の雑居ビルにバイクを横づけ。3階から上がカラオケ屋だ。

 受付を見れば、いかにもモラトリアムを満喫していますといった風体の青年が、イヤホンから音漏れさせながら体をゆすっていた。

 彼女の美貌に刻まれた、眉間のしわがいよいよ深くなる。

 大股で受付に近づくと、コードをつまんでイヤホンを耳から引っこ抜く。

 驚き振り向く青年の顔に手帳と、そして

 

 ぎぃいんっ!

 

金属同士をぶつけ、こすり合わせたような音と共に生み出した、“炎でできた剣”を突きつける

 

「ド、能力者《ドライバー》……!?」

「帝立調査局よ。ここに1人で入ったいかにもボッチって面した男がいるわよね。どの部屋?」

 

 帝立調査局。この陰陽双帝国において、絶対権威者である双帝達に侍る半私的組織だ。行政府である帝室諮問機関と帝国内閣、立法府である帝国二重議会、司法府である帝国高等裁判府、帝立法学院、さらには軍部からも独立し、横断的に行動を起こすことを許された、双帝の懐刀にして権力の源泉。実働隊の全構成員は能力者《ドライバー》であり、各々の能力《ドライブ》を駆使して、常に双帝と帝国の為に陰に日向に奔走している。

 とはいえ、その規模は大きくなく世間的な認知度は低い。そして帝国民は伝統的に政府やお上のすることにあまり興味がない。

彼女としては、週の楽曲チャートは知っていても現職の帝国宰相の名前は知らなそう青年が、帝立調査局の手帳やエンブレムを見て理解できず、こちらの言うことを聞かないかもしれないという不安があった。だが手帳はともかくもう片方の突きつけられたモノが、自分の脳みそを焼き味噌にするくらいの殺傷力を持っていることは理解できた様子で、

 

「に、205号です」

 

と蚊が鳴くような声で答えた。だがそれと同時に、そっとテーブルの下で警備につながっているであろう警報スイッチを推そうとする。しかし

 

「それ、無駄よ」

 

 彼女は手帳を監視カメラに向ける。

 手帳に仕込まれた電子コードに監視カメラに搭載されたAIが反応し、その背後につながる警備システムごと一時凍結。

 その直後、バイトの青年は警報スイッチを押した。そうすれば、警備会社に連絡が言った証拠として、受付側からだけわかるような位置でサインなりライトの点灯なりがあるはず。が、それがない。

 目に見えて動揺する受付の青年に対し、

 

「知ってる?最近、急ぎの連絡をしても出るはずの相手が出ない、ってのが流行ってるのよ?」

 

 そう告げることで少し留飲を下げて、彼女は奥へと向かった。

 

 

 一番奥の部屋、205号室にそいつはいた。

 陰陽双帝国では珍しくもない、黒髪の黄色人種。未成年からはおっさん呼ばわりされ、中年からは若造呼ばわりされるくらいの微妙な年齢だ。

 

 分厚い防音扉をケリ破るような勢いで開き、彼女はボックス内に突入する。その時、ボックス内にいた男は、カラオケボックスにいる人間がすべき事をすべからく行っていた。

 つまり歌唱である。

 

「話せばわかる きっとわかる わからん奴は 問答無用さ ジェノサイッッ!

 ごたごた何かを ぬかす前に とにかく殺せ 言葉は無力さ ジェノサイッッ!」

 

 突入してきた美女にもかまわず、熱唱を続ける男。モニターにはアニメVTRが流れている。

 どうやらアニメソングのようだが、彼女にはアニメという文化になじみが薄く、本当にアニメソングなのかはわからない。そしてどうでもいい。

部屋に突入した彼女の右手には通話呼び出し中の携帯端末。スピーカーから流れる呼び出し音は、ボックス内のソファーに置かれた男のそれとリンクしている。

 

 こいつ、着信を無視してやがったな!!!

 

 怒りを超えてもはや殺意すら視線に帯びさせて、彼女は男をにらみつける。一方、男の方はまるで気づいていないかのように彼女を無視。サビの所をキッチリ歌い切り、間奏に入ったところで、ようやく彼女と目が合う。

 美男、というにはややたれ目たれ眉が過ぎる。身長は高めだが平均から突出して、というわけでもなく、体つきは鍛えられてはいるものの、道行く人目を惹くほどではない。人種もあって蒼京の街中に出れば、すぐにでも人並みに埋没してしまう様な見た目の男だ。

 双方、牽制し合うように無言で視線を交わす。

 その内、カラオケらか流れる間奏が終わり

 

「恋もクーデターは いつも突然 開こう 心と首相官邸の扉」

 

 男はそのまま2番、ないし3番を歌いだし、彼女は男に炎剣を投射する。

 彼女の手元から飛び出した炎剣は、男の顔をかすめて飛んで、カラオケの筐体に突き刺さった。突き刺さった炎は一瞬で剣の形から本来の不定形の姿に戻り筐体を燃やし尽くし、そして消えた。金属非金属の関係もなければ煙すら出ない。

 尋常の炎による現象ではない。能力が生み出した不条理の炎による、燃えカスすら残さない完全燃焼だ。

 

「今のを避けるってことは、やっぱあんたで間違いないのね。すっっっごく信じたくないけど」

「え!?何が!?っていうか今、可愛い系の小動物みたいに小首を傾げなかったら俺、燃え上がってたと思うんだけど!?」

 

 ウザかったのでもう一投。予備動作なし。手から投射。狙うは回避しにくい胴体ど真ん中。それをひょいと、難なくよける男。

 

「名刺代わりにそういうの飛ばすの良くないと思うよ!そう思うよ!

 目覚めたてで厨二回路大回転状態になってる新人(ニュービー)能力者(ドライバー)じゃあるまいしさ!!」

「黙んなさいよ」

「そうそう!そんな風にまず口で言おう!?ね!きっと炎とばすより簡単だと思うな!!」

 

 言いながら、男はマイクを構え

 

「話せばわかる きっとわかる」

「ジェノサイ」

 

 能力発動《ドライビング》に伴う金属音。彼女は放ち彼は避ける

 

彼女は頭痛すら感じ始めた。全く以て、行動も言葉もウザキモいことこの上ない。

 だがこのウザキモい生き物こそ、彼女が探していた男であり、そして彼女の半身である相棒と、そしてこの陰陽双帝国を危難から救うことができるかもしれない人物なのだ。

 口から滝のようにあふれ出そうな罵倒を苦虫と共に噛み潰し、彼女は名乗る

 

「レベッカ・マージン。第四室所属、コードは(マイナス)の29。コールネームは"智天使《ケルビム》"よ、クソナード」

「ワオ、いきなりニックネームとかフレンドリーだなあ

 第十室所属のコード0。コールネームは"無双《スタンドアローン》"。名前は賽河原《さいがわら》角一《かどかず》

 よく今みたいにクソナードとかキモヲタとか、あと―――」

 

 ―――本来、調査局員は二人一組。それぞれ+と-のコードナンバーを与えられる。しかし、その大原則からたった一人、外れる局員がいる。

 コードナンバー0。

 全局員、全能力者(ドライバー)の頂点に立つ、絶対のエース

 

「あとまあ、無双の能力者《ボッチドライバー》っても呼ばれるね」

 

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