無双の能力者(ボッチドライバー)   作:詞連

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第8話 水妖

「カトレちゃん、無理しちゃダメッスよ?

 無理だと思ったらすぐに言うんスよ?」

 

 カーゴの中。毛布の塊に向けて松田が心配そうに語りかけていた。毛布の中身はカトレだ。彼女は松田に応えもせず、じっとモニターを眺めている

 モニターの中に移っているのはシェラザードと、そして捕虜となったマークスの映像だ。動画や写真、音声が付いたものや、映像を合成して3D化したものまで。

 流れ続けるそれらの映像を見ていたカトレは、不意に立ち上がった。

 

「準備はできたかね?」

 

 少し離れて腕を組んでみていたハラフィが訪ねると、カトレは小さく頷いた。普段からおどおどしている彼女には珍しく、迷いのない動きだ。

 

「わかった。

 ―――アマンダモルゴと相対速度を合わせる。松田、計算と観測を急げ」

「―――ああもう!しょうがないっすね!カトレちゃんの負担減らすためにも全力ッスよ!」

 

 頭をかきむしりながら、松田はコンソールに向いた。

 

「ってことでレベッカさん達!今からカトレちゃんが引っ張るっすから、ちゃんと手掴んでくださいよ!」

 

 

 

数光年離れた先で、レベッカ達は松田の声を聞いていた。

その表情は険しい。納得がいっていない、とそう大書されている。

 

「なあ……本当にイケるのか?」

「カトレちゃんの能力で君らをカーゴまで引っ張ること?

 大丈夫大丈夫!カトレちゃんはやればできる子だし、彼女の“水妖《ケルピー》”は条件さえそろえば距離は関係ないから」

「それもあるけどそうじゃない!

 あんた、一人で艦隊潰すって正気!?というかできるの!?」

「いや、潰しはしないって。機能不全くらいまでにはするけど」

 

 

 

 三枝から提出されたプランは次のような物だった。

 まず前提として、レムスの艦隊は“原因不明の磁気嵐に襲われたアマンダモルゴを救助するため”にTk-g11に向かっている。それが彼らそういう大義名分を主張するつもりのようだ。

 なので、それを利用する。

 救助に来た時点でアマンダモルゴは謎の自然現象で轟沈。レムスの艦隊もその現象に巻き込まれ、機能不全に陥り、後から来る帝国の艦隊に“保護”される。

 そういう筋書きだ。正直無理のある話だが、それをまとめるのは外務省の仕事であり、現場はそれを信じて結果を出すのみ。

 そしてその筋柿の中の “謎の自然現象” を担当するのが、コード0“無双の能力者(ボッチドライバー)”賽河原角一、というわけだ。

 

 

 

 

「つか、そもそもこのバカでかい戦艦を沈められんの?」

 

 レベッカは艦橋のスクリーンに眼をやる。

 現代の戦艦に外部を直接視認できる窓ガラスはない。カメラからの映像を壁面のディスプレイに映しているだけだ。

 レベッカが目をやったディスプレイには、アマンダモルゴの船首部分に設置されたカメラの物だ。カメラは船体尾部に向いており、アマンダモルゴの長大な船体を映している。

 10㎞級の双胴艦。多数の合金や樹脂、セラミックで作られた大戦艦。

 これを完全破壊するとしたら、同級以上の戦艦による砲撃や数多の爆撃機による攻撃を、何時間にもかけて浴びせ続けなくてはならないだろう。

 だが、角一はまるでそれをわかってないかのように気楽に

 

「問題ないって。“双”胴艦だし。下手したらさっきの50人相手にした方が疲れるかもってくらい。レムスの艦隊も、情報見る限り駆逐レベル麦価みたいだから、まあなんと何とかできる規模だな」

「―――」

 

 断言されると、何も言えない。

 少なくとも、彼のことをよく知る第十室の同僚達が、“角一がそれをできること”に対して、一切疑問を持っていないのだ。

 だがそれでも常識が、納得の邪魔をする。

 

『かどかず』

 

 レベッカが懊悩していると、通信に聞きなれない少女の声が入った。

 少し驚いたが、すぐにその正体に思い当たる。

 

「お、カトレちゃん!珍しいな、何?応援してくれるの?」

『おかし……たべ、たい』

「アッ、ハイ。そうですね。俺ってばお菓子が本体ですよね。食玩とは逆でお菓子が本体、俺おまけですよね。けど今ちょっとそちらまで距離があるので、近くにいるまっつんとかに頼んでくれると――」

『……みんなで、おでかけ、して、たべたい』

 

 途切れるように紡がれた言葉には、二つの感情が読み取れた。

 断られるのではないか、嗤われるのではないかという不安と、いいよ、といってくれることへの期待。

 言われた角一は、一瞬呆けたような果をしてから

 

「――めずらしいな。ヒッキー検定一級のカトレちゃんがそんなこと言うなんて。ボッチレベルの低下、著しいね!」

『……だめ?』

「いやいやおーけーおーけー!ぼっちなんて好きでなるもんじゃなし。このままとっとと卒業して、スイーツキメてSNSにアップして変なコメントいれて炎上するようなリア充目指そう!応援してるよ!

第一歩として帰ったら一緒にスイパラいこうスイパラ!俺スイパラ童貞だから超楽しみ!俺がみんなの分までおごっちゃうぜ!」

『あり、がとう。

 蒼京帝国ホテルBUFFET THE BLUEのラグジュアリービュッフェコース、たの、しみ』

「ちょっと待ってくださいカトレさん。めっちゃ高そうな響の単語をめっちゃ流暢に発音されませんでしたか?」

『ごちになるッスセンパイ』

『甘味以外のメニューも充実しているようだな』

『あらあら、楽しみねえ』

「お、おおう……」

 

 艦隊に1人で立ち向かえと言われた時より、ずっと深刻そうな顔をする角一。自分達と彼らの空気の違いに、レベッカ達は居心地の悪さを感じる。

 そうこうしているうちに、向こうでも準備ができたようだ。

 

『―――準備ができた。

 ミス・マージン、ミス・アミダラ。今からカトレの手がそちらに伸びる。

 それをつかみ給え。そうすれば、カトレの“水妖”の能力で君たちを引っ張れる。

 マークス・オリバムは?』

「簀巻きにしてるわ。意識はなし。紐は握ってる。」

『大変結構だ。起きていて、引かれるのに同意を得られない人間を引っ張るのは、カトレの負担も大きい』

 

 カトレの能力“水妖《ケルピー》”は、“空間を超えて目標物を引っ張ってくる”能力だ。

 一見すると万能性の高い能力のように見えるが――

 

「相手が意思を持っている場合、自主的に手をつかむという行為を挟まないと負担が増える。対象が手を握らなかったり、抵抗する場合やそもそも惹かれるということに心構えがない場合などは負担が増える。相対速度がありすぎるとそもそも手をつかめない。

また能力者本人がイメージをしっかりと持てない人物や物品は引っ張れない。または際に負担が大きくなる。

 ただし、距離に関してはほぼ無制限。

 ―――こんな感じでしょうか?」

『―――感心しないな、ミス・アミダラ。他の能力者の能力は、不必要に問わない、語らない、探らないのがルールだ』

「自分とその相棒の命を預ける能力のです。探るのは不必要とはいえないのでは?」

『一理はある。だが印象はよろしくないな』

「それは申し訳ありません。自重します」

 

 口でそう言いながら、まだ他にも条件がありそうだと、シェラザードはカトレの能力について思考を巡らせる。

 一方でレベッカは、まだ納得がいかず

 

「なあ、やっぱ私だけでも残ってやろうか?」

『それは許可できん、ミス・マージン。繰り返すがこの配置は能力を鑑みた時に必要十分なものだ。――心配せずとも、その馬鹿は無事に帰ってくる』

『―――』

 

 吐息のような無言の言葉が通信に乗った。

 カトレだ。

 もうすぐ手を引かれる。

 その直前、レベッカは角一に向け

 

「アンタの能力《ドライブ》、本当に何なんだ?」

「ここに来る前に言ったろ?

 “双(ふた)つで一つとして成り立ってるモノを、二つにわけて独り(ボッチ)にして、一つとして存在できなくする”能力《ドライブ》だよ」

 

 その言葉の直後、レベッカ達はカトレに引っ張られた。

 

 レベッカとシェラザード、そして簀巻きにしたマークスの姿が消える。

 少しして、

 

『三名の乗船を確認した』

「了解。じゃ、俺の方は後で迎えに来るってことで」

『何日ほどトバす気だ?』

「まあ、3日もあればいいんじゃないかな?」

『わかった。健闘を祈る』

 

 ハラフィは通信を終了。

 それを最後に、完全に通信が切れた。

 独りだ。

 アマンダモルゴの中で、角一は自分が独りになったことを実感する。

 周囲にはまだ脱出ポットに乗ったレムスの兵士やマークスの協力者がいるかもしれないが、少なくともこの巨大な船の中には一人だけだ。

 

「ふぅ~、どっこいしょー」

 

 角一はため息をつくと、その場に寝転んだ。

 大の字である。

 そのまま何度か深呼吸をした後

 

「っしゃあっ!仕事仕事!とっとと終わらすか」

 

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