ナザリックらいふ!~愛され上司のすゝめ〜 作:失望されないルプスレギナ
処分されて異世界
「あー……クソ、痛てぇどころか感覚無くなってきたぞ」
這々の身体で家に帰ってこれた、奇跡としか言いようがない。
とはいえ同僚たちから逃れきれたとも思えないしいずれすぐここに来て、改めて処分されちまうだろう。
これだから中間管理職ってやつは嫌なんだ、まして管理する側の管理職は。
いつでもトカゲの尻尾扱いされるなんてことはわかってたし覚悟もしてた、自分で誰かをそうしたことだってある。
だからこれは単純に順番が回ってきただけのことで、処分を下す側の人間だと錯覚していただけ。
「ったく、たまらねぇ、よな……」
胸ポケットに手を這わせてみてもそこに期待していたものはなく、どうやら最後の一服も出来ないらしい。
「死ぬ、か」
現実感は無い。
やっぱり他人事にしか感じられないのは、ここが自分の生きている世界だって認識が希薄だからだろう。
今の立場になってしまったことで、余計に生きる意味を見失ってしまったんだから。
「あーそういや……今日、だっけか」
ゲーム如きが生きる意味だったと言ってしまえば笑われるだろうか? いや、多分モモンガさんは頷いてくれるだろうな。
DMMO-RPG、ユグドラシル。
今日は、そのサービス終了日だったはず。
結局、変に立場ある位置に出世してしまったことで、出来なくなってしまった。
仕事が落ち着けば必ず戻ってくるからという約束。
これじゃ結局果たせそうにもない。
「はっ、他に考えることはねぇのかよ、俺ってやつは……」
なんと身軽なことか。
俺って存在は、死の淵にいてもなお、空っぽな人間で。
何かが抜け落ちていく感覚があることを不思議にすら思う。
「間にあう、かねぇ……?」
何もねぇ俺だ。だったらしっかり空っぽになりきろう。
戻るって約束、それ位果たして気持ちよく死のう。
そうして俺は。
「――!」
ログイン処理中、乱暴にドアが開かれた音を遠くに聞きながら、意識を暗闇に落とした。
笑い話だと思う。外にいるってことを実感した瞬間防護服を慌てて探そうとしたことなんて。
気がつけば外に居て、防毒マスクも何もない状態で。
ブラックジョークで済まないだろう、あの世界に生きていた人間ならきっと誰しも笑えない。
それでもすぐに笑えたのは横たわっていた大地で、自分を包んでいた草木のお陰だった。
「あー……何で生きてんだろ、俺」
ありえないくらいに澄んだ空気を、生で吸い込んで。
味なんてあるはずのないそれのせいで無性に泣きそうになって。
「んで? ここ何処だよ」
確かユグドラシルにログインしようとしたはずだ、成功したかどうかはわからんが。
それでもこの生きているって感触。こればっかは流石にゲームじゃ再現できないわけで。
「まぁあのクソリアルじゃなきゃなんでも、何処でも良いけどさ」
現状把握なんて出来ていない、それでも不思議と心は落ち着いている。
風の感触、地面の感触、全てがありえないからこそ、現実感がなさすぎて冷静になってしまう。
「って……え?」
何気なしに伸ばした手。それに違和感を覚える。
さて、俺は俺のはずだけど。
この手は一体誰のものだ?
「っ!?」
慌てて立ち上がる。
周囲を見てみれば、木々たちに囲まれていて。
「か、鏡! いや、水たまりでもなんでも――!」
慌てて自分の姿を確認できる何かを探す。
色々とおかしい、俺は、俺のはずだ。だって言うのにそうだと信じられない。
身体が軽い。特に力を入れて走ったつもりは無いのに、景色を置き去りにして。
危ないと思った瞬間木にぶつかったけど、痛みを感じるわけでもなく逆に木をなぎ倒してしまった。
わけがわからない。
それでも頭にあるのは自分の姿を確認したいっていう気持ちだけ。
「あ、あった!」
見つけたのは水たまり。
「嘘じゃん?」
水面に映った自分を見て、思わず呆然としてしまう。
「ロコモコじゃん……」
ユグドラシルで活動していた時の
それがゲームでは浮かべられなかった驚きの表情で見返してくる。
「ありえんじゃん?」
いやいやいや。
え? ここってばユグドラシル? マジで?
んなわけねぇよな? 自分の感情をトレースして表情を作るなんざ無理だぞ? 思わずコンソールを呼び出してエモートしようとしてしまうけれど、コンソールは出てこない。
どういうこと?
わけわからん世界にユグドラシル仕様で飛ばされたとか? いやそんなファンタジーやメルヘンじゃあるまいし?
「い、いや! 待て、ロコモコだって言うなら――!」
種族
コマンドやらショートカットやらが無いから勝手がイマイチわからないが、とりあえず念じてみたり?
「うそん……」
なれちゃった。ロコモコ狼形態。
これで確信が一つ。
ここはまさしく異世界だ。どうやら俺はユグドラシルプレイヤーの
「ファンタジーやメルヘンじゃ……って、まぁユグドラシルは大概ファンタジー、か」
元の姿に戻りながら呟く。
確信を得たことで絶望が一つ。
「これじゃ、モモンガさんに謝れねぇじゃん……」
確かにリアルじゃなけりゃ何処でもいい。生きていなくてもいい。
でも俺はあの間際、望んだことはそれだけなんだ。ただただモモンガさんに一言謝りたかったんだ。
嘘つきになってごめんって。
「こんなの、ねぇよ」
一体何が起こっているのかなんてわからない。
けど、もう謝罪も贖罪も出来ないって事実が、重く肩にのしかかる。
「ちくしょうっ!!」
八つ当たりとわかっている。
でも我慢が出来なくてそのへんの木をなぎ倒し尽くす。
望んでない。
こんな転移なんて望んでいない。
俺が、俺が望んだのは――
「ロコ、モコ……様? ですか?」
「あぁ!?」
「ロコモコ様! ロコモコ様だ!」
誰だよちくしょう苛立っている時に!
……って、あれ? 見覚えあるぞ?
「……もしかして、アウラ、か?」
「はいっ! アウラ・ベラ・フィオーラ! 御身の前に!」
うえっ!? 狂喜乱舞してたと思ったら急に傅いて来たぞ!?
つーかNPCだよな? なんで喋ってんの? あれ?
俺に向かって地面へ膝を付き頭を下げたままのアウラ。
なんかめっちゃうずうずしてるけど、いや、そうじゃなくて。アウラがいるってことは。
「ここ……ユグドラシル、なのか?」
「それは、その、上手く説明できません……ごめんなさい。ですけど、あの、ナザリックは無事です!」
ナザリックが、無事……?
「っ! モモンガさんは!? モモンガさんもいるのか!?」
「はいっ! ナザリックに居られます!」
そうか……そうか!!
「アウラ!」
「はいっ!」
「連れて行って、もらえるか?」
「もちろんです!!」
言うやいなやすぐさま立ち上がって。
「フェン! おいで!」
「お、おー」
地面を踏みしめて現れたのは上位魔獣のフェンリル。そういやビーストテイマーだったな。
「えっと、失礼になるかも知れませんが、よろしければどうぞフェンの背に」
「……いや」
それに乗るなんてとんでもない。
「そ、そうですか……」
しゅんと落ち込むアウラだけど、待て待てそうじゃない。
「俺は、人狼だぞ? 乗るよりも、一緒に走りたいな」
「あ……」
そう言ってみればアウラは目を再び輝かせて。
「はいっ! ではご案内します!」
「あぁ、頼む」
フェンリルの背にアウラが乗って、俺はまた狼形態になって。
一緒に森を、駆け抜けた。