ナザリックらいふ!~愛され上司のすゝめ〜   作:失望されないルプスレギナ

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効果への後押し

「なるほど……」

 

「アァ、ドウカ知恵ヲ貸シテ欲シイ」

 

 蜥蜴人との戦い、頭の片隅でありえると思えていたナザリックの不利。

 目の前で繰り広げられる戦闘推移は的中して欲しくない予感を辿った。

 

 故にコキュートスは一つプライドとも言える何かを投げ捨て、デミウルゴスへと助言を求めた。

 未だに意図が掴めないロコモコとのやり取りを含めて話し、どうか助けてほしいと願った。

 

 しかし帰ってきたのは深く頷いただろうデミウルゴスの気配と、鼻を啜るかのような音。

 

「デミウルゴス?」

 

「あぁ、いやすまないね我が友よ。そんな場合じゃないとわかっているのだがね、思わずキミに嫉妬をしてしまった」

 

 コキュートスの説明は多分に主観的であったが故に、そして先んじてロコモコの大きな愛へと触れることが出来ていたからこそデミウルゴスは意図を掴んだ。

 同時に自分へと向けられたものとは別種の愛情を向けられたコキュートスに嫉妬をしてしまったのはご愛嬌と言ったところ。

 

 思わず言葉を間違ったのかと首を傾げながら嫉妬の意味を考え始めるコキュートスを他所に、デミウルゴスは咳払いを一つして口を開く。

 

「私如きが至高の御方々の真意を全て掴んだなどとは口が裂けても言えないがね。間違いなく言えることが一つある」

 

「ソレハ?」

 

「アインズ様も、ロコモコ様も。我らの成長を望んでおられるということだよ」

 

 掴んだからこそデミウルゴスは思考を加速させる。

 下手に明かしてしまえばその意図を台無しにしてしまう可能性があったためだ。

 

 モモンガの意図としては恐らく自分で考え行動するという面が強いだろう、ある種の確信を持って言える。

 

「確認したいのだけどね、コキュートス。ロコモコ様とのお手合わせ、キミはその命を守れなかったんじゃないかな?」

 

「ッ!」

 

 ロコモコ相手に9勝しろ。

 その命をコキュートスは守ることが出来なかった。

 

 その事実は、今でも恐怖に近いだろう感情を持って脳裏にこびり付いている。

 

「……アァ。9勝ドコロカ、一度モ勝テナカッタ」

 

「そうだろうとも」

 

 コキュートスが予想していた一敗。

 それは手合わせ開始より一番初めに訪れた。しかしただで負けたわけではなく、ロコモコの動き、力量、それらを推し量るための一敗にしたつもりだった。

 

「恐ロシ、カッタ。ワケガワカラナカッタ。何ヲシテモ勝テナイトスラ、思ワサレタ」

 

 ガチガチと無意識にコキュートスは歯を鳴らす。

 元より至高の御方、不敬ではあるが簡単に勝てるとは思っていなかったのは確か。

 それでも今で尚、純粋な力量は自身のほうが上回っていると思えるのにも関わらず、だ。

 

「アノ目、気迫。私ハ、ソノ前ニ敗北シタノダロウ」

 

 敗北の理由は理解している。戦い、武、そのものであると自身を定めているコキュートスであるがために。

 

 コキュートスの告白を、やはりデミウルゴスは涙を流し聞き、悟る。

 

「ロコモコ様はね、恐らく負けない理由をお示しになられたのだよ」

 

「負ケナイ、理由?」

 

「そしてアインズ様が望まれたのは、自分で考えて行動するということなのではないかな?」

 

「……アノ言葉ニ、ソノヨウナ意味ガ」

 

 コキュートスはまだ真に理解へ迫りは出来ていない。

 しかし、何か温かいものに触れたような気がした。

 

「……! コキュートス、申し訳ないが急ぎの用事が入った、最後にこれだけ言おう。キミの心のままに戦うといい、キミの勝利を祈っているよ」

 

「……」

 

 ちらりとコキュートスが視線を送った先にはエントマ。

 変わらぬ表情でコキュートスを見返している。

 

(ドノ道、モハヤ後ニハ退ケヌト言ウコトカ)

 

 理解できないことは多い。

 しかし、デミウルゴスの言った自身の心のままに戦えばいいという言葉。

 

「……指揮官タル、死者ノ大魔法使イ(エルダーリッチ)ニ命令ヲ下ス。蜥蜴人ニ力ヲ見セツケロ」

 

 

 

「顔を上げ、アインズ・ウール・ゴウン様。並びにロコモコ様の御威光に触れなさい」

 

 戦いの幕は蜥蜴人の勝利で降りた。

 終了を以て玉座の間に集められた守護者一同、アルベドの冷たさを含んだ視線がコキュートスに注がれた後、声へ従い一同は顔を上げる。

 

 そこには変わらず玉座に座る絶対支配者アインズ・ウール・ゴウン。

 隣に控えるのはアルベド、そして玉座へ続く階段にロコモコが立つ。

 

 たかが立ち位置、されど立ち位置。

 ロコモコはこここそが自身のあるべき場所と知らしめる位置を見て、守護者一同はロコモコに根付いた罪の意識が未だ根深くあることを悟る。

 

「アインズ様、守護者一同御身の前に揃いました。何なりとご命令を」

 

「うむ」

 

 そしてアルベドの言。

 ロコモコの名前を省いたのは意図的にであろう、アルベド自身気を抜けば、あるいは心へ素直に従えば加えていたはずの名前。

 ある種の共感を持ってロコモコへの念が注がれるが、意図を守護者一同正しく理解し、アインズの言葉へと傾聴する。

 

「よくぞ私の前に集まってくれた。まずは――」

 

 守護者達へ向けられるアインズの言葉。

 

 デミウルゴスへの感謝から始まり集めた情報の確認。

 そしてヴィクティムに対して。

 

「人、その友のために自分の命を捨てること、これよりも大いなる愛はなし」

 

 小さくも弾かれたように、ヴィクティムでさえもロコモコへと視線を向けてしまう。

 

 ――まさに御言葉を体現された御方。

 

 その意を含んだ視線を向けられたロコモコは慌ててこの場ではアインズへと目を向け。

 

「構わない」

 

「ありがとうございます。皆、今の言葉はヴィクティムに対して向けられた言葉だ。そして俺もまさにヴィクティムこそこの言葉に相応しい者だと思う。モモンガさんと合わせて、感謝をしたい。ありがとう、ヴィクティム」

 

「――これいじょうのよろこびはありません」

 

 そうとしか述べることが出来なかったヴィクティム。

 思考回路は御方二人よりの感謝により麻痺し、決められたかのような言葉を機械のように吐くしか出来なかった。

 

 そんな様子のヴィクティムへと嫉妬が混じりつつも、感謝を心で捧げる守護者達。

 

 落ち着く頃合いを見計らいアインズはシャルティアを近くへ呼び、シャルティアの心へ刺さった棘へと触れる。

 そして我を失ったかのように罰をと叫ぶシャルティアにアインズは告げた。

 

「私はナザリックに仕えるお前達全員を愛している。当然お前もだ」

 

 守護者一同、そして後方へ控えるプレアデスをして目に涙を浮かべた。

 いや、浮かべただけで済まなかったのがデミウルゴスだった。

 

(あぁ……あぁ……!)

 

 ロコモコが言った、アインズとて自分と同じことを常より考えているとの言葉。

 偽りなくその通りだったと深く、深く知ったのだ。

 

 アウラ、マーレをしてぎょっとする表情を浮かべていたデミウルゴスを尻目に、信賞必罰は世の常だと言うアルベドと何よりシャルティア自身が望んだために頷いたアインズ。

 

「コキュートス。アインズ様よりあなたに向けての御言葉があります。傾聴しなさい」

 

 改めて、重ねてアルベドの声が玉座の間に響き、コキュートスの脳へ届く。

 

「蜥蜴人との戦闘、見せてもらったぞコキュートス」

 

「ハッ」

 

 先程までとは変わった空気。

 コキュートスの吐息とてここまで冷たくならないだろう緊張感を纏う。

 

 叱責。

 告げられるに相応しい雰囲気の下、アインズとロコモコは良い結果になるだろう予感を覚えた。

 

「先に言っておこう。私はお前の今回の敗北を強く責める気はない。なぜならどのような者もまた失敗するからだ。それはこの私だってそうだ」

 

 響いたアインズの言葉に日和ったなと笑うことを堪えるのはロコモコ。

 確かにその通りではあるが、アインズは私でもミスをするという部分を強調したかったんだろうなと想像出来てしまった。

 

「ただ、問題になるのはそこから何を得たかだ。コキュートス、質問を変えよう。どうすれば勝てた?」

 

 ともあれ本題はここからだと頭を振って、コキュートスの成長を確かめようじゃないかと集中を戻すロコモコ。

 

 コキュートスの敗戦分析は一言真っ当だった。

 言う内容を最初から行えていれば、少なくとも勝敗はわからないという舞台まではたどり着く。

 

「素晴らしい」

 

 ここまではアインズの想定、いや期待通り。

 確かなコキュートスの成長を感じることが出来、これ以上を求めるのは酷だろうと言葉を続ける。

 

「二度と失敗しないよう精進するのならばそれは意味のある失敗だ。お前が何かを学び取ったことのほうがよほど意味がある。本当は誰にも聞かずお前だけで気づいて欲しかったが……許容の範囲だろう」

 

 ちらりとデミウルゴスへと視線を投げながらも、頷くアインズ。

 その後ロコモコへとも視線を投げるが、アインズの視線には気づかないのかじっと未だにコキュートスへと視線を向け続けているロコモコ。

 

(ん……? まだ何か気になってるのかな?)

 

 その様子に引っかかりを覚えるアインズだったが、ロコモコの目を見て納得する。

 

(はぁ、わかりましたよっと)

 

「蜥蜴人たちを殲滅させよ。今度こそ誰の手も借りずにな」

 

 わからないことをわかったアインズは元々用意していた言葉を響かせ。

 

「――アインズ様ニ、オ願イシタイ儀ガゴザイマス!」

 

(あっ……ロコモコさぁん……? また(・・)やりましたねぇ?)

 

 思わずロコモコを二度見してしまったアインズ。

 激昂するアルベドを余所に、ようやく交わせた視線はなんともいやらしい視線だった。

 

「――よい、アルベド。顔を上げよコキュートス。お前が私に願う儀とやらを聞かせてくれないか?」

 

 アインズの心境はもはやなるようになれ、である。

 もう知らない、ちゃんとケツは拭いてくださいねロコモコさんと、激おこぷんぷん丸なのだ。直ぐに沈静化が働いたが。

 

「どうしたコキュートス? 別に怒ってなどいないぞ? 私はお前が何を考え、何を口にしたいのかを知りたいだけだ」

 

 別に怒ってないんだからね、どうせロコモコさんが悪い事したんだから! コキュートスを責めてなんかいないんだからね! と言った感じだろうか。

 

 沈静化に舌打ちしたい気持ちもそこそこに、怒ってはいないなんてアインズはなんてツンデレ風味なんだと自嘲したい気持ちの下告げて見れば。

 

「蜥蜴人タチヲ皆殺シニスルノハ反対デス。ナニトゾ御慈悲ヲ」

 

 そしてまたアインズ様が下された罰に異を唱えるとはと激昂しそうになっているアルベドとは対象的に。

 ロコモコのお陰と言うべきかアインズは冷静さを持ってコキュートスの言を思考できた。

 

 理詰め。

 コキュートスが蜥蜴人に慈悲をかける理由を述べるに対して、アインズは理とナザリックの利を考え言葉を返す。

 

 コキュートスの更なる成長。

 まさに今蛹となったコキュートスは羽化しようと繭を破ろうとしているのだと理解したが故に。

 

 とは言えロコモコにとってこの状況はよろしいものでは無かった。

 お膳立てはしていた。ここで一歩踏み込むための材料を手渡したつもりだったにも関わらず、予想以上にアインズが冷静だったためだ。

 

「では、殲滅ということでよいな?」

 

 最終通告、いや確認がアインズの口から出る。

 

 その時だった。

 

「――なっ!?」

 

 ヴィクティムの時に口を開いてより見守ることに徹していたロコモコが、コキュートスの隣でアインズへ向けて頭を垂れたのだ。

 

「モモンガさん……いや、アインズ様。羽化には時間がかかるものです、少しだけよろしいでしょうか」

 

 コキュートスと同じ姿勢で、コキュートスの願いはまるで自分の願いでもあるかのように。アインズ・ウール・ゴウンへと願い出た。

 

「――」

 

 まさしく時が止まった。

 

 アインズもアルベドも、守護者一同までもが。

 

 いや。

 

(うーらーぎーりーもーのー!)

 

 ちっくしょうと一人であれば吠えていただろうアインズ。

 そして思い出す。

 

(えーえーそうですよね! キツイの担当さん! その調整っていう名前の尻拭いは俺ですもんね!)

 

 ムカ着火ファイヤーである。

 沈静化によって払われたおちゃめな怒り、それと同時にロコモコへとこの場を譲ることを決めた。

 

「コキュートス」

 

「ハ……ハッ!」

 

 頭は垂れたまま。静かにロコモコは口を開く。

 

「俺はお前を尊敬している」

 

「――!?」

 

「そしてお前が惹かれたものにも敬愛の念を捧げよう。自信を持て、お前は紛うことなき武人だ」

 

 コキュートスの目から、鱗が落ちた。

 

 同時に理解した、何故手合わせの時、ロコモコに対して恐怖を覚えてしまったのか。

 

「アインズ様! 私ハ! 蜥蜴人ノ武人トシテノ心意気ニ! 心惹カレテオリマス!」

 

 自身をナザリック、一振りの剣と定めたことに嘘は無い。

 なりたいと心底願ったのだ、アインズが振るう力。それを証明する武となると。

 

「彼ラノ持ツ輝キハ! ナザリックノ剣ト定メタ私ガ持タザルモノデシタ! 彼ラヲ戦イヲ通ジ知ルコトデ、我ガ身ニ何ガ足リヌノカ気ヅク事ガデキタノデス!!」

 

 ロコモコがコキュートスへ示した力。

 それはナザリックのためになら何にも負けないという意志の力。

 

「私ハ! 学ベルデショウ! 彼ラヲ通シコレカラモ! アインズ様! 私ノ、私ノ成長ヲ待ッテ頂ケルノナラバ! 何卒! 彼ラを生カシ私ノ下へオ付ケ下サイ! 更ナル成長ヲオ約束致シマス!!」

 

 理解した。

 蜥蜴人は弱い。弱い身でありながら低級アンデッド達相手とは言え勝利を収めることが出来たのは、まさしく守るものがあったからだと。

 

 コキュートスの言葉は守護者全員の魂へと響いた。

 ナザリックらしからぬ思いであり、理解に及ぶことも難しい者のほうが多い。

 

 しかしロコモコだ。

 ロコモコがコキュートスと共にそれを許して欲しいとアインズへと頭を下げたのだ。

 

 理解は出来ない。

 だが。

 

 大事なことなんだろう、少なくともコキュートスにとっては。

 

(あーあーどうするんですかこれ。めちゃくちゃいい方向に転がってるのはわかりますけどロコモコさぁん?)

 

 助けてくれと目を向けるがロコモコは頭を下げたまま。

 どうすんだこれと匙を投げたいアインズを救ったのはやはり。

 

「アインズ様、横からの発言お許しください。よろしければ私の愚案を聞いて頂けないでしょうか?」

 

 デミウルゴスだった。

 

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