ナザリックらいふ!~愛され上司のすゝめ〜 作:失望されないルプスレギナ
目を瞑り想いを馳せるルプスレギナ。
一時的にユリへと預けていたカルネ村の管理、監視へと戻ってきて尚、わずかな時間ではあったがロコモコとの触れ合いを思い出さずにはいられない。
――お前達の為に何が出来るのか。
今でも尚頭を痺れさせる言葉。
デミウルゴス管理の牧場でロコモコが言ったもの。それは少しの変化をルプスレギナに与えていた。
「……ただの玩具、だと思ってたっす」
アインズの命を受けてよりここへ来て。
恐れ多いのは百も承知であったが、悪くないと思えていた仕事だった。
取るに足らない存在であっても、毎日必死に生きている人間たち。その人間が絶望に直面し今際の際、どのような表情を見せてくれるのかを期待するといった意味において。
トランプタワー完成の間際、自身の手によってそれを崩す事を楽しみとするルプスレギナ。
だからこそロコモコの言葉は今の自分というものを深く考えるものだった。
カルネ村をナザリックの管理下に置く。
それはつまりナザリックという勢力が統治するという事で、そこに生きる存在は配下であるともいえる。
ルプスレギナが思っていたように、あるいはたった今言葉にしたように玩具だとしていたそれだが、ナザリックに生きる物は宝であるとロコモコは言ったのだ。
「楽しみにする対象じゃ、ないっすね」
ロコモコは言った、大切にして欲しいと。
僅かにではあるが嫉妬すら覚えてしまう。まるで尽くしていないにも関わらず宝とされているなんて。
いや、自身の考えが及ばない領域で至高の御方たちの役に立っているのだろうそう考えて平静を装う。
そうしてカルネ村、そしてそこに生きる人間に対して認識を改めはじめ一つの考えに至った。
「私、向いてないんじゃないっすかね?」
認識を改めだしたとはいえ、恐らく村人の一人が危機に瀕することがあったのなら間違いなく自分は満面の笑みで見殺しにする。
それだけならまだいい、御方達の意を深く理解できず、気づかぬうちにナザリックへ不利益をもたらせてしまうのではないか?
「――」
そう考えたとき、ルプスレギナの身体に震えが奔った。
がっかりされるだろう、それだけならまだいい。
つまり仕事を与えられなくなる可能性がある。
役に立たないどころか足を引っ張る駄犬。
「ロコモコ様に、アインズ様に、見限られる? うぷっ」
そこまで考えたとき、喉元にこみあげるものがあった。
耐えられない。
考えただけでどうにかなってしまいそうなのだ、実現してしまえば……自害すら許されない、自分でも許せない。
同時に仕事への責任感が胸に到来した。そしてその重さに身体を伏せてしまいそうになる。
「……怖いっす」
初めてだった、仕事をそう思うのは。
ロコモコ、アインズへ尽くすだけならば喜びだった。恐怖なんて欠片も覚えなかった。
仮に死を命じられたとしても、笑って捧げられるはずだった。
だというのに。
「は、はは……足、震えてるっす」
がくがくと。壁に手をつかなければ立っていられない。
及ばない。圧倒的に今就いている仕事は自分の能力でこなしきる自信がない。
「ロコモコ様……助けて下さい……っす」
どうしようもない、どうすることも出来ない感情へと震える身体を抱えた、その時。
『各員、現在の仕事へ区切りをつけナザリックへ帰還するように。――べ、別に急がなくてもいいんだからねっ! 早くみんなの顔が見たいなんて思ってないんだからっ!』
「……はい?」
妙な口調が添えられた
ナザリック内は慌ただしかった。
アインズ、ロコモコの両名による招集命令が下ったからである。
「人事異動、ですか」
「ええ。ロコモコ様が提案されたことよ」
行き交う者たちを管理しながら、アルベドとデミウルゴスは言葉を交わす。
「守護者統括殿が落ち着いている所を見るに、アインズ様との立ち位置は変わらないと思っても?」
「私に対する認識を確認する必要がありそうね? でもその通りよ。ロコモコ様からいの一番に教えて頂いたわ」
人事異動の言葉を聞いたときアルベドは今の立場から降ろされるのではと瞬間沸騰しそうになったが、ロコモコよりすぐにその真意を聞けたために落ち着き、今はなるほどと深く理解を示している。
「……なるほど、適材適所の追求、ですか」
「そうね、そう捉えてもらって良いと思うわ。より私たちの能力を活かせる場所の模索とも仰っておられたけど」
デミウルゴスは瞑目し思考する。
確かに一部不安の残る配置はあった、デミウルゴスにしてみればセバスの王都派遣は気がかりそのものであったし、似たような問題は他にも存在している。
それらの解消は避けて通れない道だろう、どういう形でするのかまでは思い至っていなかったが。
「加えて……デミウルゴス、あなたには先に言っておくけれどロコモコ様は自身を筆頭とした諜報部隊を作りたいと仰っていたわ」
「なんと。そうであればこの私――あぁ、そういう事ですか」
名乗りを上げようとしたところで、自分に向かって先んじ告げられた理由に考え至る。
アルベドにしても少し悔しそうというべきか、無念だと思っているような表情を読み取ることが出来た。
つまり諜報部隊を作るという面を知っている、知る事を許された者はそこに所属できないのだ。
「これもロコモコ様からだけど、より高次元の仕事を任せられる存在を自分の下に付けるなんてもったいない。もっとアインズ様と近しい場所で頑張ってほしいとのことよ」
「……あぁ、ロコモコ様……なんと、なんという」
所属できないことを悔しくも思うが、続いた言葉に感動を禁じ得ない。
まさしくロコモコはデミウルゴスとアルベドを自分の横に並べようとしているのだ。
恐れ多いという思いが強いが、その覚悟とナザリックへの想いに身を震わせる。
「デミウルゴス。言うまでもないけれど、ロコモコ様が戦っていらしただろう敵の捜索。これは最大限優先すべき事案よ」
「元よりそのつもりだよ。……こうしてロコモコ様と隣り合うことが出来るのは何よりの誉れだが……無用な覚悟を、罪の意識を植え付けた存在。許しはしない」
アルベドとデミウルゴス、二人で頷きあう。
四つの眼には明確な敵意、深い深い怨嗟が浮かんでいた。
お門違いの憎しみをロコモコに対して抱いてしまった事。
それはアルベドの心へ深い罪の意識をもたらせた。笑ってロコモコは許したどころかそれを正当だと認めたが、そこで万事解決とするなんて出来ない。
(必ず、報いを)
ロコモコにある罪の意識を払拭する。アルベドもまた、それを最大の目的、その一つとして定めていた。
デミウルゴスもまたそうだ。
牧場視察の時に宿した思いは今もなお燃え盛っている。
ましてやこの人事異動という名の配置整理。
(私を、ロコモコ様と同列に扱わせる……この罪深さ。贖うすべはない)
ロコモコの認識としては単純で、その方が連携が取りやすいという一念。
しかしデミウルゴス、アルベドはそう受け取らず、ロコモコが言った共に支えるという言葉をわかりやすく周囲へ示す意図だと認識している。
そう、その罪の意識から自分の立場を貶めてまで。
(これが……愛。私も、アインズ様へこれほどの愛を捧げ、受け取ってもらえるようにならなきゃ……)
(これこそ大いなるロコモコ様の愛。……断れません、受け入れなければ。しかしいずれこの忠誠を……!)
瞳と心を燃え上げる二人へ、すっかり声をかけるタイミングを逃したパンドラズ・アクターはどうしたものかと頭を抱えていた。
「ロコモコ先生様!」
「……はい?」
シャルティアの自室。
僕兼愛妾である
「あーっと……会いに来るのが遅くなって済まないシャルティア。色々と言いたいことはあるんだけど……なんだその先生って」
「はいっ! 我が創造主ペロロンチーノ様は常よりロコモコ様の事を先生とお呼びしていたでありんす。ならば私もそう呼ぶべきかと愚考しました!」
「そ、そう、か」
内心でペロロンチーノの名前を盛大に吠えつつも、平静の体を保つロコモコ。
心当たりはあるのだ、自身でNPCを作った頃だっただろうかそれまでいまいち疎遠であったペロロンチーノより。
――師匠と呼ばせてください!!
なんて詰め寄られたことがある。
「話そうと思っていたことから逸れるが……ペロさんは何でそう言っていたんだ?」
「申し訳ありんせん。詳しい事は……で、ですが妖精オナ――」
「そこまでだ!! BANされちゃう!!」
がっくりと項垂れながら心で叫ぶ名前に獣王メコン川を付け加えたロコモコ。
(性癖ぶち抜きバトル……今思えば若かったんだなって)
作ったNPCに罪悪感を一つ。
予想以上になんちゃってツンデレな存在になっていたが、そういえばそういう設定をつけていたと思い出し顔から火を噴いてしまいそうなロコモコを前にシャルティアは慌てる。
「ご、ご不快な思いを――」
「いや、いいんだシャルティア。そういう事なら先生呼びで構わない。ペロさんを感じることが出来るんだ、これ以上に嬉しい事はないよ。本音で言えば呼び捨てで構わないが、付けるなら様か先生どちらかだけでいい」
何とか、ではあるが笑顔でそう告げることが出来たロコモコ。
メンタルにHPがあるのならまさしくレッドゾーンではあるが、ここに来た目的を思い出し自身を奮わせる。
「ともあれ、だ。人事異動の事については聞いているな?」
「もちろんです。許されない失敗をしたこの身でありんすが、何かにでもお役に立てるのであればこれ以上の喜びはありんせん」
真摯にそういうシャルティア。
罰はコキュートスの戦いぶりを観ていた時に、アインズの椅子になったこと、その際ロコモコからドン引きの視線を送られたことで済んでいるはずだが、やはりシャルティア自身は心底あれをご褒美だと思っているのだろう、禊ぎには程遠いと認識している様子。
「そうか。ならその機会を提供しようシャルティア」
「はっ!」
姿勢を改め、拝聴する体へ。
既にやってやるぞという意思が全身から迸っている。
「すぐに、ではないが。シャルティア、お前にはモモンガさん……いや、アインズ様の近衛兵、親衛隊長となってもらいたい」
シャルティアがその意味を理解するのに時間はかかった。
しかしすぐさま。
「ありがたき幸せ! この身、この心! 全て捧げ忠勤に励みます!!」
喜びの意を最大限に交え声を上げた。