ナザリックらいふ!~愛され上司のすゝめ〜   作:失望されないルプスレギナ

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人事異動 その②

「お、お姉ちゃんー待ってよー」

 

「もー! マーレ遅い! 早く行くよ!」

 

 誰がどう見ても一目で機嫌が悪いとわかるアウラの後を困ったような顔で追いかけるマーレ。

 ナザリック地下大墳墓、第六階層大森林を珍しく自身の足を地面につきながら走っている。

 当たり前だが、これには理由があった。

 

(ロコモコ様……! 何で、私達だけ……!)

 

 そう、守護者達の中で唯一姉弟だけが個人的な時間を持てないでいたから。

 

 それが理由で自分の機嫌が悪いことは自覚している。

 フェンの背に乗っていないことも、そんな自分で怯えさせたくないと思ってのことだ。

 

 わかっている、わかっているのだ。

 あのロコモコが決して自分たちを軽んじているわけがないということ位。

 

 マーレとてそんなわけがないと固く信じている、今は他にも大事な仕事があって仕方がないのだと。

 己の目から見ても一箇所に留まられることなく常に動き続けているロコモコを案じてすらいるのだ。

 

 アウラも同じこと。

 少しでもその負担を軽く出来ればなんて当然のように思っている。

 それでもこうして機嫌の悪さを面に出してしまうのは、つい先程あったシャルティアとのやり取りのせいだろう。

 

 ――アインズ様の最側近、守護役をロコモコ様より直接任じられた。

 

 それはどれほどの喜びか。

 いつもの口調を忘れて、ただただ真剣な顔をしたままアウラへと告げたシャルティア。その内に宿った歓喜を簡単に想像できてしまう。

 

 きゃっきゃと喜ぶことも、自慢気に話すことも出来ない。

 これは現実なのかと信じられず、まるで夢熱へ浮かされたように足がつかないのだ。

 アウラに報告したことも、自慢でもなんでもない。

 誰かにシャルティアは現実に生きているよ、さっきのことは夢じゃないよと教えて欲しかっただけだ。

 

 精神支配を受けてアインズと敵対してしまったシャルティアだ。

 その上でこの抜擢。

 恐らくシャルティアは今が現実だと認識した瞬間、涙するだろう。

 

 自分なら、どうだろうか。

 あまりの嬉しさに、粗相すらしてしまうかも知れない。

 

 アルベドも、デミウルゴスも、コキュートスも。

 

 ロコモコと直接対面した者達は、揃ってまさしく愛溢れる方だと口にする。

 それほどの人が、自身達へまだ何もしてくれない。

 

「……な、泣いてないもんね!」

 

「お姉ちゃん……」

 

 早く自分にも会いに来て欲しいと強請る浅ましさはある意味仕方ないと認めるところ。

 アウラは悔しかった。

 もしかしたら自分には、自分たちにはお会いにならないのではないか?

 そんな考えが過ぎってしまったこと、すなわちロコモコを信じきることが出来ない自分の弱さが悔しかった。

 

 マーレも同じく悔しかった。

 こんな時に姉へ何も言うことが出来ない自分が情けないとすら思う。

 そしてどうあがいても今のアウラを慰めることが出来ないと認めてしまったことが何より悔しかった。

 

 何処をどう辿ったのか、目の前の景色が森より闘技場へと変わった時。

 

「あぁ! 探したぞ! アウラ! マーレ! 遅くなってごめん!」

 

「ロコモコ、様……」

 

「ロ、ロコモコ様……」

 

 笑顔に一握りの申し訳無さを含んで、求めていた人がそこに居て。

 

「ふ、ふええええええ!」

 

「ろこもこさまぁあああ!!」

 

「うわちょ!? え? 何これ姉妹丼!? いやマーレは男……じゃなくて! 遅すぎたか? ごめん」

 

 ロコモコの慌てた様な謝罪の声に、腕の中で二人揃ってぶんぶんと首を横に振りながら。

 ぎゅっとロコモコに抱きついた。

 

 

 

 さて、アウラとマーレ。二人がようやくと言って良いだろうロコモコと個人的な対面を果たした頃。

 人事異動兼、ロコモコを頂点とする諜報部隊設立に向けて動きがあった。

 

「プレアデスの中から、副官をお選びになられる……?」

 

「はい。誰が選ばれるかはまだ決められていないそうです。ですが、副官という地位はプレアデスの中からと」

 

 セバスから告げられた言葉を数瞬理解できなかった戦闘メイド達。

 

 ユリ・アルファ。

 ルプスレギナ・ベータ。

 ナーベラル・ガンマ。

 ソリュシャン・イプシロン。

 シズ・デルタ。

 エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ。

 

 オーレオール・オメガの名前は挙がらなかった。それは現在与えられている役目を引き続き行えということで。

 それにあたって選考外であることについてロコモコは直接謝罪に赴き既に丸くどころか花丸に収まっている。

 また、セバスに関しても同じく。

 

 故にこの6名から、ロコモコに限りなく近いとされる者が選ばれる。

 

「――」

 

 未だ驚きに目を丸くし微動だに出来ない彼女達を前に、理解の色を目に宿しながら言葉を続けるセバス。

 

「諜報部隊はその名の通り情報収集を主とする他に、ナザリックに対して不利益を齎すだろう存在の事前排除も兼ねているとのこと。ロコモコ様より直接念を押して伝えろと申し付けられていますので言いますが、汚い仕事であると認識して欲しいと」

 

 ロコモコのために、ひいてはアインズ、ナザリックのために利を捧げる仕事だ。汚いなんてとんでもない、何から何まで誉れであり喜びだと全員が頭で思う。

 

 それでも敢えてセバスに口にさせたということは。

 

「……相当に、意へ沿わぬ事をする可能性がある、と」

 

「まさしく。あのロコモコ様をしてそう仰られるのです、相当の覚悟が必要でしょう」

 

 直接選考した人物へ説明するからと伏せているが、セバスはするであろう仕事の一部を聞いている。

 

 これはセバスというナザリック内に置いて珍しく善に偏っている存在だからこそ催す嫌悪感ではあるが、聞いただけで眉根を寄せてしまうという不敬を取ってしまっていた。

 

 同時に、ロコモコはセバスだからこそ先に伝えると言った。

 その真意を全て察することは出来ていないセバスではあるが、それが優しさから来るものであることだけは理解できている。

 

「……なら私は、予め辞退申し上げなければなりませんね」

 

「ユリ姉?」

 

 ふっと笑って、一歩後ろに下がったのはユリ。

 たとえばそれは他の妹達へと誉れを譲ったという意味ではなく。正しく自分では勤め上げられないだろうという自覚があったから。

 

「ナザリックのためになら何でも出来ます。その言葉に偽りはありません。しかし、ロコモコ様であればだからこそセバス様に念を押されたのでしょう」

 

 ロコモコの意を汲んだのだ。

 少しでも嫌と思うようであればやめておけというメッセージでもあったのだろうから。

 

「質問、よろしいでしょうか」

 

「構いません」

 

 音もなく挙手したナーベラル。

 

「活動内容には、あの下等生物(カマドウマ)達へ媚びることも予想されるのでしょうか」

 

 冒険者としてアインズに付き従った経験。

 その経験から、もしそういった内容があるのであれば、自分は適さないだろうと考えての質問だった。

 

「汚い仕事であるとロコモコ様は仰られました。それは手を汚すという意味はもちろん、自身の誇りを汚す覚悟をも必要であるということではないかと、私は考えています」

 

「では私も辞退するべきでしょう。ロコモコ様、アインズ様のためにならば何でも出来ます。ですが、お役に立てない可能性があるのならば、それは何よりも認めがたいことですので」

 

 ユリに続いて静かに一歩後退するナーベラル。

 彼女とて命じられれば下等生物とする人間に媚びることも出来るだろう、その演技の出来栄えはともかくだが。

 しかしそれが自分に向いていない仕事であることは重々承知していることでもある。

 

「……私も、辞退」

 

 ナーベラルの辞退を見て、シズもまた一歩下がった。

 それは直感としか言えないものではあったが、その勘が告げたのだ自分には向いていないと。

 カルマが善に寄っているからこその判断ではあるが、シズとてナザリックのためにならば何でも出来る。

 たとえば狙撃による対象の排除等が必要とされる場面は多いだろう、そういった時に胸を張って私をということも出来る。

 だが、それ以外はどうだろうか。そう考えた時自信を持って自分を推すことは出来なかったのだ。

 

「……じゃあぁ、私も、ですねぇ」

 

 熟考であった。

 その上でエントマも辞することを決めた。

 

 向いている向いていないの部分であれば間違いなく適材だと自認出来た。

 しかし、人間を前にして空腹であればどうか。

 意思の力で抑え込めるだろうか? そう自分自身へ問いかけ、長い長い思考の後、不可能だと結論を出した。

 

 諜報部隊。

 これに属するためには強い理性が必要とされることを理解したのだ。

 我慢できるか否か。そう考えた時点でダメだと。

 

 残るはルプスレギナ、ソリュシャン。

 

 二人とも、目には強い光を携えていた。

 口にこそしないが、言っていた、我こそがと。

 

(流石、ロコモコ様です。自分で自分の能力を分析させる意図、確かに確認致しました)

 

 残ったプレアデスの顔ぶれ含めて、ロコモコの予想は的中していた。

 多少の触れ合いがあったルプスレギナを除いて、創造主が付与した設定だけが判断材料であったにも関わらずの結果である。これもまた、ロコモコにとっては実験の一つではあったがこの結果によりさらなる確信を深められただろう。

 

「ルプスレギナ、ソリュシャン。よろしいのですね?」

 

「はっ!」

 

 二人は揃って頭を下げた。

 

(絶対、ロコモコ様の隣に、立つっす)

 

 ルプスレギナはその胸に宿した想い故に。

 

(必ず、お役に立つ、立てる。私なら)

 

 ソリュシャンは絶対の忠誠、そして自分こそが適しているという献身故に。

 

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