ナザリックらいふ!~愛され上司のすゝめ〜   作:失望されないルプスレギナ

15 / 45
王都編
王都潜入


 王都におけるロコモコの活動拠点はセバスとソリュシャンが手に入れていた屋敷を使うことに。

 アンダーカバーもほぼそのまま引き継ぐことになり、ソリュシャンの従者としていてセバスの立ち位置にルプスレギナが収まる。

 

「まさかソーちゃんの従者になるとは思わなかったっす」

 

「本気で言ってるの? ロコモコ様を偽造とは言え自分の従者としてなんて考えられないわ」

 

 恐れ多すぎるどころか想像しただけで不敬と断じ自刃しかねない。

 

 わかってるっすよと笑った後直ぐに表情を引き締めなおすルプスレギナ。

 

「で、っす。情報の引き継ぎはしたっすけど、これからどうするっす?」

 

「さて、ね。フォローはすると仰っていただけたけど……まずはメイドらしく掃除でもしてみる?」

 

 まさかと笑ってから互いに考える。

 

 二人の認識上これはテストだ。

 予め副官は一人と考えているとも言われた、その言葉をそのまま受け取るならばよりロコモコに対して貢献することが出来ればその道は拓かれるだろう。

 

 ルプスレギナもソリュシャンもライバルと言える関係にある。

 競う事は必要だ、向上心を持つという意味においてだが。しかしながらそうも言っていられないだろう。

 

「ナザリックの利を考えろ、ね」

 

「そこから考える必要があるっすね」

 

 自分で考えてナザリックへ利となるだろう情報を集めなければならない。そのためにはライバル関係と言えど、お互いを蹴落とし合うなど論外。協力しあった上でどちらがロコモコ、諜報部隊の副官に適しているかを選んでもらうという体が一番だろう。

 

 ロコモコ自身は屋敷に着き、既に集まっていた情報を三人ですり合わせた後すぐ動き出した。

 何かしらの目処がついているのだろうか、ならばロコモコのアクションに呼応するための準備も必要だ。

 

「正直、目ぼしい人間を攫って拷問……いえ、尋問にかけるのが手っ取り早いのだけど」

 

「っすよね。私も一番簡単なんじゃないかと思ってたっす。けど」

 

 止められている。

 王都は既に裏のネットワークが確立されているのではないかというロコモコの見立て。

 ならば人攫いを始めとした暗いコトを起こしてしまえば逆に尻尾を摑まれかねないと。

 

「ならそうね、やっぱりこの街を牛耳っているだろう存在の尻尾を掴むことが肝要ね」

 

「賛成っす。手段としては……うーん、ロコモコ様に合わせる準備もあるっすから短時間で効果的な方法を考えないとっすね」

 

 揃って頭を悩ませる。

 

 自分で考えることの難しさに二人は直面しているのだ。

 戦闘メイドとは言え、基本的には従者として存在している二人はそもそも主の言葉に対してイエスと答えることこそが仕事であり生きがい。

 どの様な命令、要望であっても自身の全てを尽くし奉仕するという究極の指示待ちこそ絶対にして最大の基本姿勢。

 根幹としてある思想がそうであるが故に、自発的にアクションを起こすことは不得手だった。

 

 そういった意味でロコモコの動きに呼応するという面は簡単だろう。

 しかし同時に、一歩踏み込んだものをロコモコは求めていることも理解している。

 

 指示を待ち、受け対応する。

 それだけならば誰にでも出来るのだ、命令達成の出来を度外視するのならだが。

 何より二人は副官候補、誰にでも出来ると思うことを出来たとて、それは副官に相応しいという証明にはならない。

 

「ソーちゃん」

 

「うん? 何かしら?」

 

「私達って美人、あるいは可愛いっすよね?」

 

 真面目な顔をして何を言うのかと思えばルプスレギナは当たり前のことを言った。

 

「あぁいや、呆れないで欲しいっす。言葉が足りなかったっすね、そこら辺の人間から見てもその、是非お相手願いたい位の見目かって意味っす」

 

「それはもちろんでしょう。創造主様たちの美醜観を疑うの? 私達は美しきモノとして創造されたのよ?」

 

「そういう意味でもないっす! えっと、つまり。私達が外を揃って歩いたら、何としてでも手に入れたいって思うんじゃないかって話っすよ。今は強面でお人好しのセバス様もいないっす、なら」

 

 やや拙くもそこまでルプスレギナが言えばソリュシャンにも理解の色が広がった。

 

「なるほど。攫ってもらえる可能性があるってこと」

 

「そうっす。問題は触れられた瞬間そいつを縊り殺してしまわないかって部分っすけど」

 

 乱暴な手段を取ってこられたのなら、まさしく瞬間的に殺してしまうだろう。

 そこに思考は挟まれない、触っていいのは仲間だけであり、触られたいのは至高の御方のみだからこそ。

 ロコモコやアインズの言葉を有り難くも受け取るのならば自分たちは宝なのだ、ナザリックに飾られた宝であり、所有者も当然至高の御方。

 

「自信は、無いわね……」

 

「私もっす。うーん、いい案だと思ったんすけどね。自身を汚す覚悟があるか……難しいっす」

 

 一歩踏み込んだ考えとして、自分たちが敢えて王都に蔓延っているだろう裏の存在に拉致され、内部から情報を集められないかというものだったが、そういった理由により難しいと結論が出てしまった。

 

「けど、着想自体は悪くないのでは? そうね……たとえばナザリックの私財を使うことに抵抗は強いけれど、お嬢様らしく散財する様を見せていれば色欲の徒だけではなく、物欲の化も釣りやすいかと」

 

「えーと……なるほどっす。この家に対して正面からアクションを起こさせ易くするってことっすね? いい案だと思うっす。セバス様も居ないし、敷居は低くなったはず。散財に関しても同じく気が引けるっすが、短時間で出来る効果の高いだろう活動としてはベストだと思うっす」

 

 揃って頷く。

 活動内容の外側は決まった、後は細部を決めること。

 

「……ロコモコ様」

 

 外套を翻し颯爽と街へ向かった背中を思い出し、今何をしておられるのかと馳せた。

 

 

 

 王都の治安。

 報告書である程度把握し、想像もついていたことではあったがロコモコをして酷いと思わされた。

 

(……いや、ある意味人間らしいと言うべきなんだろうな)

 

 ディストピアに生きる者はユートピアを願う。

 それは逆もそうであるが、ディストピアに生きていたロコモコに映る王都はユートピアであった。

 

 無論腐りかけた、あるいは既に腐りきっているのかも知れないがそれでもである。

 

(だと言うのにこの辛気臭さ。ったく、なんとも言えないな)

 

 フード付き外套を着込み、認識阻害の魔法を自身にかけ歩く。

 低位の魔法であるがロコモコにとっては十分で、周囲の人間からはそこに居るが気にならない、気にできない程度の存在を保ち観察を続ける。

 

 王都と言うだけあって表通りは綺麗なものだった。

 行き交う人間も、少し足りないと感じるもののそれなりに活気はある。

 

 しかし、だ。

 

「おいてめぇ!」

 

「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」

 

 真っ昼間から喧嘩とは少しやんちゃが過ぎるとロコモコはこめかみを押さえた。

 

 なるほど、どうやら酔っ払いの足へ少年が何かを引っ掛けたらしい。

 酔いの勢いだろう加減されているようには見えない暴力が振るわれている。

 

(……たっち・みーさんじゃあるまいしなぁ。うーん)

 

 一瞬よぎる救出という考え、あるいは仲介か。

 自分、ひいてはナザリックへ何の利益も齎さないだろうとその考えを却下する。バカバカしいと。

 

 ただそれも。

 

「なんだその目は! 何か言いたいことでもあんのかよ!!」

 

「……あ?」

 

 火の粉が降りかからない範囲での話。

 

(しくったな、ちょっと気を向けすぎたか。変に欲をかかないで完全不可知(パーフェクト・アンノウアブル)にしときゃよかった)

 

 偉そうな事を言いつつの醜態だった。

 人狼と一目でわからないようフードを被ってはいるものの、自分という強者を見た時の反応が知りたいからと低位の魔法にしていたための失敗。

 尤も、強者を強者と見抜けるものどころか、偽装に関する魔法を突破出来る存在にすら今の所出会えてはいないのだが。

 

 思わず頭を抱えてしまうロコモコ、その姿が酔っ払いの気へ余計にさわったらしく。

 

「バカにしてんじゃ――」

 

「バカにする価値もねぇよ」

 

 伸ばしてきた腕、その拳にロコモコはカウンターを合わせた。

 相当どころかかなり手加減されたその一撃で簡単に殴りかかってきた男は意識を飛ばし地面に伏せる。

 

「まだやる?」

 

「あ、あ……やんねぇ! お、俺達が悪かった!」

 

 慌ただしく倒れた男を抱えてその場を後にしていく酔っぱらいの連れだろう達。

 

「あーあー……ったく、やっちまったな、まぁよくねぇけど仕方ない。ほら坊主、立てるか?」

 

「あ、ぐ……」

 

 倒れたままの少年に手をのばすが返ってきたのは苦悶の声のみ。

 状態を見るに胸骨を痛めているのか、呼吸に合わせて苦痛が顔に描かれる。

 

 どうしたものかと少し考えるロコモコだが、仕方ないと頭を振って。

 

「悪い、俺は旅人でね。王都には来たばっかなんだ、地理に明るくない。誰か神殿に連れて行ってやってくれ」

 

「あ、あぁ!」

 

 周りに後は任せたとぶん投げて、その場を後にした。

 

 

 

 自己嫌悪に陥るロコモコは路地へと歩みを進める。

 なんであんな事をしてしまったのかと思うのはもちろんだが。

 

(まぁ、目立っちまったしなぁ。でも、なんであれしきのことで尾行されなきゃならんのだ)

 

 後ろに感じる気配は一つ。

 その理由が掴めず首を傾げてしまう。

 

(敵意は……ない、か。持たれているようならとっ捕まえて目的を吐かせられるんだけども。どうしたもんかね)

 

 たかが喧嘩を収めただけだ。

 その程度で釣れる存在が求めている情報を持っている可能性は低い。

 

 つまるところ良い方向にも悪い方向にもロコモコにとってもナザリックにとっても価値が無いのだ。

 

(んー……処分しちまうか? いや、そりゃ短絡的すぎるか。しゃあない、こっちから――)

 

 対話を持ちかけるかと振り返ろうとした時。

 

「あ、あのっ!」

 

「……あんたは?」

 

 どうやら尾行ですら無かったらしいことに驚きを隠しつつ、ロコモコは声をかけてきた青年に応対する。

 

「あ……私はクライムという者で、この国の兵士の一人です。本来であれば私の仕事をやって頂き、ありがとうございました」

 

 一言で言うなら実直そうな青年だった。

 やや毒気を抜かれたロコモコではあったが、兵士という言葉に少しの価値を感じ雰囲気を和らげる。

 

「失礼、俺もどうやら少し気が立っていたようで。お勤め、ご苦労さまです。まさかわざわざお礼を言うために追いかけて来られたので?」

 

 それだけじゃないだろうとややカマかけ気味の言葉をロコモコは投げかける。

 意図に気づいたかどうかは不明だが、ロコモコの言を耳に入れたクライムは唇を一瞬強く結んだあと。

 

「先程の技を……どうか伝授しては頂けないでしょうか?」

 

 なんて事を口にした。

 

(あ、これあかんやつや。めっちゃ面倒くさいやつ)

 

 口を引きつらせなかったのは流石と言わざるを得ないだろう、ロコモコはここまで失敗が響くかとより強く自身の失態を呪う。

 

「はぁ……俺如きが国の兵士様に教えられることなんてありませんよ。人にものを教えるってのもガラじゃないので」

 

 なんとか断ることが出来ないだろうかと思考を巡らせるロコモコ。

 もしも星占いがこの世界にもあったのなら、本日はぶっちぎりのドンケツだろうなんてどうでも良いことを考えながら。

 

 ともあれ真面目、誠実そうな青年だ。

 こう言えばひいてくれるだろうとも考えた、赤の他人に何の対価もなく何かを教えてもらうなんて烏滸がましいことだと気づくだろうと。

 

「あっ! 申し訳ないです。か、金なら――」

 

「いえ、金に困ってはいないんですよ。困っていたとて欲しいとも思わないでしょうが」

 

 クライムはロコモコの見立て通り自分の失礼へ気づき、予想を裏切りまだ教えを請うつもりでいる。

 その事を不思議に思う。

 まさしく他人だ、兵士というのならばもっと気心の知れた、あるいは強く、尊敬すべき上司に教えを請えばいいだろうと。

 

「強く、なりたいんです。どうか、どうか! 金でダメなら他に何か対価となるものを教えて下さい! 用意できるものなら用意します!」

 

「――」

 

 クライムの瞳には強さへの渇望が表れていた。

 その目はまっすぐ、フードの奥に隠されたロコモコの目を貫いている。

 

 一瞬ロコモコの背に奔った痺れはなんだろうか。

 考えるのも数瞬、その痺れの理由がわかった。

 

(……無くした人間性、か)

 

 クライムの真っ直ぐな性根は、かつてのロコモコすら持ち得なかったものなのかも知れない。

 それを確かめることはもう出来ないが。

 

「情報が欲しいんです」

 

「情報、ですか」

 

 クライムは兵士だと言った。

 ロコモコがざっと見るに大した力を持っていないだろうことから地位も低いだろうともあたりがつく。

 

「あぁ、身構えないで欲しいです。別に国の機密を教えろとかそんなのじゃない、クライム……君が知っているとも思えないですし」

 

「そ、それはそう、ですが。では何を知りたいんですか?」

 

 見透かされていると身を捩りたい気持ちを堪えてクライムは再度問う。

 

「そうですね、ならこうしましょう。俺が欲しいかも知れないと思える情報を集めてきて下さい。もちろん明かせないだろうことは無理しないで構わないです。その情報を見て、君に伝授する力を考えます」

 

 ロコモコとしては別にここで無理だと言われても良かった。

 先も考えたように一兵士が扱える情報など大したものとも思えない、ただこれからも情報は集まるだろうその時判断材料の一つにでもなれば儲けもの程度だった故に。

 

「……それは、いつまでに?」

 

「期日なんて設けませんよ。別に俺としてはこの話が無くなっても構わないのですから。ですのでこれを」

 

 ロコモコは軽く言いながらクライムへと小さなガラスのような材質で作られた玉を手渡す。

 

「それは対玉と言いまして。片方が割れればもう片方も割れると言ったように状態を共有するアイテムです……俺が持っているこれですね。準備が出来たらこれを半分に割って下さい。応じることが出来ればそれを更に俺が砕きます。砕いたその日、今位の時間にここへ」

 

「わ、わかりました……ですけど、こんなアイテム初めて見ました」

 

 しげしげと対玉を眺めるクライム。

 それもそうだ、これはロコモコが道具創造(クリエイト・アイテム)でたった今作ったものなのだから。

 

「ではそういうことで」

 

「はい、どうかよろしくおねがいします」

 

 クライムに背を向けながら。

 

(うーん、まぁ結果オーライ? オーライ、だったらいいなぁ……)

 

 良い結果になるようにと願いながら、拠点へと足を運んだ。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。