ナザリックらいふ!~愛され上司のすゝめ〜 作:失望されないルプスレギナ
「ではまた。次に来る時は商品もお持ち致します」
「そうね、少しは興味の惹かれるものであることを願っておくわ」
屋敷の応接間。
実は本業じゃないの? なんて訝しんでしまうほど堂に入ったソリュシャンのわがままお嬢様モードだった。
隣で泡食ってるルプスレギナも良い塩梅だ。
実にお嬢様の横暴や独断の体を演出している。さぞさっきまでソファに座っていた商人からすれば御し易そうに見えるだろう。
はっきり言って想像以上。
ソリュシャンにしてもルプスレギナにしても、自分で考えた上にこれをすると決めたなんて驚きじゃ済まない。
「お帰りになられました」
「そう、ありがとう」
二人のやり取り、やや緊張感が残っているのはここに俺がいるからだろう。
クライムとの出会いから三日。
ようやく地理等含めた王国の状態をある程度把握出来た俺は、二人の進捗を確認するためこうしている。
「……ロコモコ様」
「あぁ」
完全に気配が消えたのだろう、ルプスレギナが完全不可知状態の俺へと声をかけそのまま膝を床へつき、間を置かずソリュシャンも。
「まずは先に。素晴らしいな二人共、よく考えよく実行してくれた」
「も、もったいない御言葉です!」
「この程度、ロコモコ様に比べれば……むしろお目汚し失礼いたしました」
畏まっている体ではあるが、喜んでくれているのはわかる。
なんでって、ルプスの耳が帽子越しにもピコピコ動いてるし、ソリュシャンのちょっとその深すぎる笑みよ。
「いや、本心だ。演技もさることながら、商人をターゲットにしたことは何よりも特筆して素晴らしいと思う。情報とは常に金と共にあるものだからな、報告書も読んだがかなりの収穫だ」
あ、プルプル震えてる。プルプルプレアデスですねわかります。
まぁそうなのだ。
こういった国というか街というか。人が集う場所において情報と常に隣り合っているのは商人だろう。
鮮度が高い情報を持ち続けなければ、金の流れに乗る機会を逃してしまうわけで。次に大事なのが人脈と行ったところだろうか。俺が見ているだけでも今日は四人の商人と、商会の代表格の人間が三人。合計七人がここへ訪れている。
それだけここから金の匂いが漂っているのだろう、もしくはセバスが居た時から狙っていたか。
どちらにしても機を見るに敏なんて言わざるを得ない。
「まぁそうしてないで、情報のすり合わせをしよう。座ってくれ」
「はっ!」
「失礼致します」
いまいちまだ固さが取れない二人だけれど、気を抜かれすぎても困るか。
二人が主に商人と顔を繋げてくれたお陰で得られた情報の一つが王都での金の流れ。
どういったものが王都の民に好まれているか、需要が高いか。
やはりとは言えないが、そういったものを鑑みた上で健全とは言えないことがわかる。
言ってしまえば売りたいものが商人にとって利幅が大きすぎるモノが中心なのだ。
商売の基本はwin-winだ。どちらにとっても利がないと売買という契約は履行されない。結ばれるのであればそれは恐喝だとか、詐欺であり商売じゃないだろう。
無論契約の中で少しでも自分に利益をと駆け引きはあるし、それこそ商人の腕の見せどころ。
そういった部分をまるっと無視して、利益のみを貪ろうとする。まじで不健全。
加えて税金に関してだ。
税に関しては俺が調べた範疇ではあるが、あんまりにも高すぎる。
これじゃ農家であれば規模によってはほぼ自分の懐に収められる分はないだろう。市場価格も調査したけど、中間費用を抜いたら純利益総額がギリギリ税金に届くかどうかってところかね。
商人にしてみれば、金を巡らせるではなくどうにかして自分の懐に収めたいと動いても仕方ない。
もしくは……貴族とやらへ私的に金を収めて便宜を図ってもらおうとするか。
「さて二人共、今日来た者たちだが。その中に商人は何人居た?」
意地悪な質問だろう、二人揃って目を瞬いた。
彼女たちにしてみれば訪れた人間誰もが商人だ、しかしながら諜報活動をしていく以上人を見る目を養ってもらわなければならない。
人間なんて下等生物……というフィルターを外す作業とも言うが。
「申し訳ありません。私には、皆商人に思えます」
「そうか、ルプスは?」
「同じ意見です。申し訳ありません」
正直そう思ってもらわないと困る。いや、スタート位置の確認って意味で。
「よしそれじゃ――って、そんなマジの謝罪に移行しないでくれ!? ただの確認だよ」
「は、はい。失礼いたしました」
「か、かしこまりました」
やっぱプレアデスも大概だよね……。
いや、それだけ真面目だと考えよう。
「ふぅ、まぁ言い方を変えるぞ? 今日来た奴らの中で、こちらの欲しい物に対して追求してきた人間は誰だ?」
「え、えっと……」
「確か、バルド・ロフーレ商会の者はそうであったと記憶しております」
お、良いねソリュシャン、名前までよく覚えていた。
「そいつだ。もしも今日来た商人達に対して真っ当な商売を持ちかけるなら彼だろう。商会の長自らが来たということも含めて互いの利を探ろうという意気が見えた。ソリュシャンの態度があれにも関わらずな」
長自ら来るというのは言うまでもなくこちらとの取引を心底願っている上に重要視していますよってアピールに他ならない。
セバスのことにも触れていたし、個人的な面識もあるんだろうな。
「では、その者を中心に?」
「ルプス、確かに彼含めた周辺を調べれば情報は集まるだろう、無論暗部に近いこともな。だが恐らく彼が持つ情報は膨大過ぎる、解析するに時間と人手が足りない」
彼と良好な関係を築けても、欲しい情報が手に入る位の信頼を得るにはかなりの時間を要するだろう。
いや、よしんばこの上なく良好な関係を築けても、築けたからこそ簡単に情報を売り渡さない様になる可能性すらある。
「引き続き関係性を維持する必要はある。だが今獲物とする相手は他だ」
「バルド・ロフーレ以外の者を、ということでございますね?」
そう。
他の人間は自身の利しか考えていない。裏を返せば考えなければならない理由があるということだ。
「あぁ。よし、では今後バルド・ロフーレやその商会の者が訪れた際には二人で会ってくれ。可能な限り失礼な態度は取らないように、ソリュシャンに関してはあの態度は篩にかける一環だと言ってやればいい、むしろそのほうが彼も喜ぶだろう。その上でセバスが購入を進めていた巻物や、マジックアイテム類の商談を持ちかけてみよう」
「かしこまりました、そのように」
「その他、商会に属さない個としての商人はルプスのみで会い、商会の代表と言って面会を求めてきたものにはソリュシャンのみで会うんだ。ルプスは恐らくソリュシャンと繋ぎを求められるだろうがそっけなくしてやれ。ソリュシャンは今まで通りの態度で。そして二人共、
「はっ!」
思わず口角に力が入る。
楽しみなのだ、どうなるかが。
自分の力が何処まで通じるのかと言った面をそう思う部分はあるが、何よりも思い通りに踊ってくれるだろうそのことが。
個人商人であればフットワークは軽い。ソリュシャンに会えなくなったんだ、しかもそのメイド如きに冷たくあしらわれる。こちらをどれだけ重要視しているかを測りながら、何を用意できるかってとこを把握できる。
商会の者であればテンションはあがるだろう、ソリュシャンのみと会えるんだ好機と捉えるはず。
普段なら軽々と用意できるなんて言わないものすら出来ると言わざるを得ない。もちろん、こちらをどれだけ重要視してるかによるが。
……ん?
何々その目は、俺の顔になんか付いてる?
あぁ、やっぱ人間の相手は疲れたのかな? ちょっとぼーっとしてる感じ。
「二人共、ゴミの相手は疲れただろう? すまん。俺も二人の働きに見合うよう頑張るからな、ありがとう。この調子でよろしくな」
「と――」
「とんでもございません! 勿体なき御言葉! その御言葉こそ何よりの――」
あ、あぁ、うん? ちょっと間違えた?
やっべ、流石にモモンガさんムーブは出来ないぞ俺。
ん、んー……まぁやる気出してくれてるみたいだし、オッケー?
よしおっけー。
「と、ところでロコモコ様?」
「うん?」
「
あぁ、路地裏で拾ってきたヤツね。
「ソリュシャンはどうしたい?」
「……様々な病気に侵されておりましたし、食指はその……で、ですがご命令とあらば!」
「いやそうじゃない……ってあれ? ルプスに治療してもらっただろ?」
「はい、ご指示頂きましたので治療は終わっております。身体の、ではありますが」
まぁそうね。メンタルはやばいよね。
想像できるだけで、今の俺には理解できないが。
「そうかそうか、ありがとうな。んでどうするのかってのはまぁ一言で言うなら、ナザリックの為に働いてもらうのさ」
んじゃ、拾い物に会いに行きましょうかね。
「加減はどうだ?」
「――ッ!?」
そこまで驚くかね、いやまぁ驚くか。
一応路地裏で捨てられてたのを見つけた時、助けてほしいかとは聞いたし、その言葉に縋ったんだ。
その後
……いかんいかん。
「別に取って食いやしない。さしあたってはむしろ食べてほしいんだけどな、これ」
手渡したのは消化に良いだろうお粥みたいなもの。
自分で作ろうとしたらなんでか包丁がどっかに飛んでいくとか意味不明なことがあったので、ルプスに頼んだ。めっちゃ嫌そうな顔された。なんでか俺も食わされた。ルプスは喜んだ、なぜだ。
「……ふぅ、やれやれ。ほれ、あーん、だ」
後ろで壁にヒビが入った音が聞こえたのは気のせいだろう、気の所為にしたい。
だってこの子動かないんだもん、これじゃ話になんないよ、いいから食え。
「!?」
おっとー、一口食べたら手を伸ばして来たね。どうぞどうぞ。
うーむ、良い食べっぷりだ。あ、布団にこぼしたな? ハハハ、コヤツめ。
しっかし見れば見るほど不健康だね、ガリガリじゃん。これじゃソリュシャンの食指が動かないってのもわかる気はするな。
え? もう食べた? 早いね。
あーあー眠そうにしちゃって、これじゃ話聞けないじゃないか。足運んだだけ無駄――
「――!!」
「っておい!?」
うーわめっちゃ頭掻いてる! どうする? え? 良い人ぶる?
……あぁ、まっぴらごめんだ。
「なるほどな。
「……ぇ」
おいおい、人の悪意だ欲望へ慣れるには十分だっただろう? 救いなんざ降って湧いてくるもんじゃないんだよ。
そうだ、その目だその通り。
「生憎残念と俺はお人好しじゃないんだ、お前を助けたことには理由がある。錯乱している場合じゃないぞ? 役に立たなそうだと思ったら捨てるし場合によっちゃ処分する。理性を保て、集中しろ、今こそがお前の瀬戸際だ」
救われたなんて勘違いを許さない。仲間以外に向ける無償の愛なんて俺には存在しない。
「まずは名前を聞こう」
「……ツ、アレ……ぇす」
ツアレ、ね。了解。
自失までしてたら面倒くさかったから助かった。
「よし。良いか? お前の立場を明確にしよう。お前はエサだ、何を釣るのかは知らなくていいが、エサだと認識しろ」
「わ……たし、エ、サ? あな、たが……たべ、る?」
やめろとんでもない事言うな? ほら後ろのプレッシャーが大変な事になったぞ? どうしてくれる?
たしかにさー、フードも取ってるからケモミミが見えてるからさー。たべちゃうぞーがおーって意味に取られても仕方ないけどさーぐぬぬ。
「覚えているかは知らんが、ここにはお前より遥かに食べたくなるような女がいる。襲うならそっちに頼むさ」
あ、プレッシャー無くなった? うん、正解だったね? いやどうなのさこれが正解って。
ま、ままええわ。
「当面まずは療養しろ。そしてここでしばらく過ごせ。目論見通りにコトが運べば、その後面倒見てやるかも考えてやる」
「わか、り……まし、た」
まぁ、こんなものか。
王都で身売りの女がどれほどの扱いを受けるのかは知らんが、まぁここまでじゃないだろう。
薬物中毒に、数々の骨折、病気。明らかに普通ではない。
だからこそ、普通じゃない収穫が得られるはず。
……かつての自分だったら、どうなんだろうな。あんまり考えたくはない。
ともあれ。
「ではな。また折を見て顔をだす」
「は、い……」
対玉が割れた、いいタイミングだ。握りつぶして返事をしよう。