ナザリックらいふ!~愛され上司のすゝめ〜 作:失望されないルプスレギナ
なんちゃって稽古とそのお披露目から帰ってきて。
「んー……むぅ」
クライムを通して手に入れた情報が頭を悩ませる。
渡された時の所感はまるまるその通りで、深すぎる情報をどうしたものかと。
クライムが自主的に集めただろう情報は良いんだ。
どこどこの宿のメシが美味いとか、装備の質を保証できる店だとか。
使えるとはいまいち言いきれないが、王都内で何処に人が集まるってことは伝わってくる。
その中でも価値があるとすべき情報と言うなら強者についてだろう。
ガゼフ・ストロノーフ。王国戦士長その人については多分にクライムの主観混じりではあるが、それだけにどういった人間なのかが良くわかった。
モモンガさんもこいつと面識があるみたいだし、記憶に留めておく必要がある。
そして蒼の薔薇。
国内に二つしかない。いや、無かったアダマンタイト級冒険者チームの片方。
意外といえばそうだけど、クライムは顔が広いらしくこいつらに関しての記載も多かった。
尤も、名前から始まり、どういう功績をあげたとか概要程度で、どういった人間かという部分は主観的印象論の色が強く信憑に欠けているだが。
もう一つのアダマンタイト級冒険者チーム、朱の雫なんてのもあるらしいがそれは名前だけ。
まぁここまでと言うか、この程度であれば予想の範疇。
そう、ここまでなら良かった。
「良かった……んだけどなぁ。これ、絶対に試されているだろ」
あるいは解決出来ますかと依頼でもされているのか。
こちらが知りたいと思っているだろうことが記載されている文章。
「犯罪組織、ねぇ」
犯罪組織。
恐らく各八つの部門から構成され王国内のあらゆる裏組織と関係を持つだろう存在。
王都の腐敗具合から見ても納得のできるものだった、犯罪が跋扈しているに違いはないが犯罪組織というか結社かね、そういった存在がバックにあった方が裏の者は動きやすくなる。まさに今俺がナザリックの暗部として動いているように。
この辺からクライムが知っているか知っていないかが不明瞭な部分になってくる。
知っているのならば、クライムが集めただろう情報の中にも入っているだろうし、知らないならこれを書いた人間が誰なのかという問題が出てくる。
第三者にクライムを通して誰かが情報を集めていると露見するのは良い。
露見して緊張感を漂わせる存在程度であるなら安心して簡単に尻尾を掴めるってもんだ。
つまるところ、クライムと一緒に情報を集めた存在であるのか。
それとも、クライムが情報を欲しているからと与えた存在であるのか。
それが問題だ。
「考えたくは無いが。後者、かね」
一緒に情報を集めたのであれば、この深さを誇る情報はありえない。
一兵士がその気になった程度でここまで王国の裏を知ることが出来るのなら、とっくに国は滅んでいるだろうし、少なくともクライムは生きていない。
表層が濁っているとは言えまだ澄んだものがある以上、深刻であっても壊滅的じゃないだろうこの国の腐敗は。
次々と危うきを闇に葬り、裏だった存在が表となるまでいっていない状態だからこそ、付け入る隙があると思ったのだから。
やっぱり元々この情報を保有していた人間をクライムは頼ったんだろう。
いや、可能性として俺が困る程の情報を手にしているとは思ってなかったかも知れないが。
「じゃあ、そういう視点で改めて考えるとして」
クライムの事は一旦置いておこう。
相当過ぎる情報通がクライムの身近に居たとして、この情報を渡してきたそいつは俺を誘導しようとしている。
それも俺ならば解決できるだろうというある種の確信を持って。
「……いや、本気で?」
誘導を試みるということは、だ。
この情報があれば解決できるでしょうと見越しているということだ。
つまりこれを書いた存在は、僅かに過ぎる俺達の痕跡を辿ってそう結論付けられる程の智慧を有しているということ。
……深読みが過ぎるだろうか?
いや、そうは思わない。この文面から漂ってくる試しの意。
互いの存在だけは知り合いつつも、関係を結んでいないなら双方にデメリットはどうなろうと存在しない。強いて言うなら万が一俺達が失敗した時に負うだろうリスク程度。
「なら、メリットは?」
俺達がこれから先得られるメリットは言うまでもない、目的を定められるということだ。
この犯罪結社組織を傘下に置くでも、壊滅させてしまった上で新たに裏を牛耳るでも方針を決めやすくなる。この情報が信用できるかの裏取りは必要だが。
ならばこいつのメリットは?
まさかクライムが手ほどきを受けられる、要するに強くなるためになら何でもしますなんてバカじゃないだろう。
犯罪結社をどうにかして欲しいといった正義感を持つ人間という可能性?
「いや、無いな」
そんなちゃちなモンで動くようなヤツなら、とっくに別の手段を取っているだろう。見ず知らずの信用できない俺達を頼るなんてことはしない。それこそ信用できる人間を集めて壊滅へ向かっている。
つまり、だ。
そういった組織的な力を頼る、あるいは集わせることが出来ない存在であるということ。
そしてその情報を使う機会にも恵まれていない存在であるということ。
逆に言えば。
「個人に近い力でここまでの情報を保有したってこと」
……思わず身震いしてしまう。
明らかにこと知に関しては俺を遥かに凌ぐだろう、デミウルゴスといい勝負するのかも知れない。
これが人間であった場合なら癪に過ぎるが、認めざるを得ないだろう。
いや切り替えよう。
正義感で動いているわけでもない、更に組織としての力もない。
ならば個人の意、目論見や欲望があってこの情報を渡してきたってことだ。
なるほど、試されていると感じたのはここか。
与えた情報から想定されている通りに動けば、こいつだけが得をする。
そうなりたくないなら、自分は関知しませんのでご自由に利を得て下さいと。
「あークソ。やられたなー……」
まったくもって誤算も良いところ。
まさかあの
失策だ、失態だ。やってらんねぇ。
だが。
「先手取れて嬉しいだろうがな誰かさん。あぐらをかいてくれるなよ? あんたも綱渡りの舞台に立ったこと、思い知らせてやる」
正直楽しい。
この感覚はぷにっと萌えさんと悪巧みしていた時の感覚に近い。
今はもう一人だけれど、俺の思考にぷにっと萌えさんは生きている。
あの人のためにも、このままで終わらせてなるものか。
アインズ・ウール・ゴウンを試す? は、身の程を知れよ。てめぇが手にしたのは都合の良い道具じゃねぇってこと、教えてやる。
「ご思案中、失礼致します。よろしければお飲み物を」
「んあ、ありがとうソリュシャン。そだな、ちょっと気分を入れ替えようか」
気分転換は必要だよ。
ちょいちょいとソファを勧めてみれば一瞬驚いた顔をしたけど、すぐ微笑んで腰掛けてくれた。
「人間の相手は疲れるだろう? でもお陰で助かってるよソリュシャン」
「勿体ない御言葉ですロコモコ様。ロコモコ様、アインズ様、ナザリックへ尽くしてこその私達でございます。どうか存分に腕を知恵を振るわれ、私共を使って頂ければこれ以上の幸せはありません」
プレアデスは今日も平常運転ですねわかります。思わず苦笑いしてしまったけどいいだろう。
しっかしそれでもまぁすごいもんだ。いや、成長速度的な意味でね。
こっちが出した割と抽象的な指示にも関わらず、しっかり自分で考えた上で良い結果を出している。
俺もまだまだだ、見習わないとな。
ともあれ、休憩だ。仕事の話をするのもつまらない。
「そう言えばナザリックに帰ったのは俺がこっちへ来た時だけだったか。人間だらけのここは何かと疲労するだろう、身体や心の調子はどうだ?」
「問題ありません、常に御方達の御意志を叶えられるに万全を整えております」
うわぁお、平常運転ちょっとやばすぎない? やばい。
「ソリュシャン、それはとても嬉しい話ではあるがそうじゃないさ。そうだな……今の件が一段落したら何かしたいこととか、欲しい物は無いか?」
「したいこと、欲しい物でございますか? 無論、ロコモコ様のお作りになられる諜報部隊、その副官に据えて頂けますことが何よりの褒美でございます」
ぶっこんできたね、中々の意欲を示してくれる。
何処と無く自信に溢れているようにも見えるソリュシャンの表情。
実際、屋敷内でのキーパーソンはソリュシャンなんだよなバルド・ロフーレとの繋がり含めて。
副官の件は置いておくにしても、王都で活動する上でなくしてはならない存在になりつつある。
演技の質も見事だと思うし、構成ビルドにしても実に諜報活動に向いているだろう。
「ちょおおおおっと待つっす!!」
「きゃっ!?」
「うおっ!?」
ばたーんと大きな音を立ててドアから入ってきたのはルプス。
ていうか口調よ、何回か漏らしてたけどやっぱそれがお前の地か。
「抜け駆けはなしって言ったじゃないっすか! 約束破りは許さないっすよ!」
「お、落ち着きなさい!」
「落ち着いていられないっす! そうっすロコモコ様! 私! 私の仕事ぶりは――あ」
うん? 仕事ぶりは何だって? 何々? 何固まってるの? ほれほれ?
「も、申し訳ありません!!」
「大変お見苦しいところを!!」
はいはい、そうなりますよねー知ってた。
……ク。
「あはははははは!!」
俺、大爆笑なう。
「ろ、ロコモコ様?」
「え、えっと……」
いやー笑わずにはいられないよね。
なんせ久しぶりだ、敬われる立場を意識しなくて済んだのは。
「いやいや、すまんすまん。嬉しくてな」
「こ、この醜態をして嬉しく思われるとは……?」
「わ、私、この命捧げて償う覚悟はあるっす……」
ご乱心じゃないってば、もう。
「なぁ二人共。やっぱりさ、俺は皆から忠誠を捧げられるモンじゃないんだよ」
「そのようなこと!!」
「仰らないで下さい!!」
あー違う、違うって。要らないって言ってるわけじゃないよ。
「落ち着いてくれって。確かにさ、諜報部隊が出来たらさ二人どちらかは副官になる。そしてその隊の頭は俺。直属の上司になって忠誠を受け取る必要が出てくる。そん時は俺だってある意味の覚悟をしてるから、ありがたく受け取るさ」
「……!」
おっと? そこでどうして目を輝かせる?
んーあー……なるほど? あれか、ナザリックで初めて忠誠を受け取ってもらえる存在になるってことに気づいたわけね。うん、その通りだよ。
「でもさ、今はやっぱ違うんだって。試用期間っちゃそうで、先を見据えて忠を尽くしてくれるのは嬉しいし正解だ。さっき嬉しかったのはな、二人の仲が良い姿を見られたからだよ」
至高の御方である限り、上司である限り。
そうそう見られる光景じゃないだろう、今二人が思ったようにそれは失礼にあたるものなのだから。
「今のうちによく見せてくれ、お前達そのものを。仕事抜きの、これは俺のお願いだよ」
「ロコモコ様……」
瞳を潤ませる二人。
俺の言葉をどう思っただろうか? ……なんて、素直な気持ちを吐露した直後だって言うのにこの打算。
たまに嫌になる時があるのは残滓のせいだろう。
だけど、大事にしたい。
残った残滓は僅かで、クライムの輝きを見て少しの興奮を覚えどすぐに冷静になれてしまう程度の人間性。
ちっぽけで容易く消えてしまいそうな炎だけれど、ナザリックの成長を喜べて、モモンガさんと一緒に今を楽しめる心なのだろうから。