ナザリックらいふ!~愛され上司のすゝめ〜 作:失望されないルプスレギナ
モモンガが突然膝をついたことにアルベドが慌ててどうされたのかと問えば、噛みしめるような沈黙の後至高の41人の一人であるロコモコ発見の報せを口にした。
モモンガは万感の想いだった。
アインズと名を改めてから今に至るまでで、初めてと言っていいだろうモモンガとして得られた喜びは最早言葉に出来ないものだった。
対象的にアルベドは複雑な思いだった。
ギルド、アインズ・ウール・ゴウンに対してではなく、モモンガ個人へ忠誠を誓い愛情を捧げたアルベド故に。
モモンガを苦しめる要因であるだけなら良かったのだ。
いずれあらゆる手段を用いてかつてのギルドメンバーの痕跡を消す。いや、自分で埋め尽くしてしまおうと考えていただけに、ロコモコの復活とも言える帰還は誤算だった。
「すぐに、ナザリック全てへ報せろ」
「はっ!」
守護者を始めとしたナザリック主要メンバーへと伝言を飛ばしながら。
――もしも、またアインズ様……いえ、モモンガ様を苦しめる存在となるのなら。
最大限、そうあって欲しくないと思いながらも、静かに心の中で決意を改めた。
その報せはナザリックを歓喜で震撼させた。
エ・ランテル等、現地の存在に紛れ情報収集を行っていた者たちは途中であろうと仕事を投げ出しすぐさまナザリックへ帰還し、ナザリック内にいた者たちは感涙しながら迎える準備にあたっている。
「……デミウルゴス」
「みなまで言わなくていいよコキュートス。私も、言葉がないのだからね」
報せの真偽は確定していない。
しかしアウラの至高の御方達への忠誠を疑うことはない。
仮に万が一どころか億が一。
偽報であったならナザリックにアウラの居場所は無くなるどころでは無いだろう。
誰かに操られた上での偽報であっても同じこと。
それはアウラ自身もよくわかっているし、わかっていることをよく理解している守護者達であるからこそ、十中八九至高の御方、その一人の帰還だと信じることが出来た。
ぱたぱたと慌ただしく一般メイド達が準備に奔走するなか、デミウルゴスは静かに涙を流し、コキュートスは身を震わせる。
「ほ、ほんとうなの!? ロ、ロコモコ様が!」
「アウラを疑うのかい?」
「そんなことないっ! で、でも!」
いつもの口調をすっかり失ってしまったシャルティアがそんな二人へ詰め寄る。
喧嘩友達のような間柄であるシャルティアであってもアウラの忠誠心を疑うようなことはない。
ただただ圧倒的と言える希望、救い。
それだけに信じたいが、簡単には信じたくないという二律背反を抱えてしまっている。
「わかる。わかるさ、シャルティア。私も、コキュートスも……いや、ナザリック全ての存在がそうだろうとも」
「アア、今マサニ、ナザリックノ思イハ一ツ」
早く迎えたい。早く真実であることを知りたい。
「お姉ちゃん……」
マーレはそういった思いをもちろん抱えながら、姉のアウラに対して嫉妬とも言える感情を覚えていた。
自分が真っ先にお会いしたかったと。
とはいえそれはもう少し全員が落ち着いていたなら感じる思いだろう。
先にその考えに至ることが出来たのは、姉が嘘をつくはずがないという信頼のお陰で、他の守護者含めた全員よりも幾分冷静だったから。
「皆、わかってると思うが」
「わかってるでありんす。わかっているだけに、もし私が無礼を働いてしまいそうであればその時は」
「ウム、ソノ時ハ即座ニ首ヲ刎ネル。逆ノ時ハ頼ムゾ」
静かに頷きあう守護者達。
無礼失礼が原因で再び身を隠されてしまうことなど何よりの恐怖だった。
神にも等しい御方たちの前で目を汚してしまうことも心苦しいが、それでも失礼を働いてしまった自分を許せないのだ。
つまるところ、守護者達は今日も平常運転。
何よりも
絶対に、無礼、失礼はしない、
ギルドメンバー達が創造した自分たちへ愛情を向けてくれた方には、絶対に。
「ルプー! ルプスレギナ!」
「っ!? は、はいっす!」
ナザリック入り口でロコモコを出迎える栄誉を賜ったのはプレアデス、ユリ・アルファとルプスレギナ・ベータ。
ユリの声で夢見心地とでも言うべきかの状態から我に返るルプスレギナ。
「緊張する気持ちはわかります、ですが決して粗相のないように」
「わ、わかってるっす……!」
そしてルプスレギナを慮るかのようなセバスの声と姿。
こうして出迎えるのはナザリックにロコモコの装備が保管されており、リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンも所持していないだろうからという理由。
そして何よりナザリック地下大墳墓は、アインズ・ウール・ゴウンは健在であるということをロコモコへ示したかったから。
自失しがちなルプスレギナに対してユリが声をかけるのはこれで何度目か。
普段なら呆れを通り越してこの場を辞させるどころか処分を検討するだろう状態。
しかしセバス、ユリ両名ともルプスレギナの気持ちはよく理解しているだけにこうして言葉だけで済ませている。
「……はぁ。ルプー? ロコモコ様に呆れられるわよ?」
「それはだめっす! でも、でも……!」
ルプスレギナにとってロコモコは特別なのだ。
自身を創造した獣王メコン川を敬愛していることはもちろんであるが、何より自分を生み出した際に獣王メコン川はロコモコの意見を大いに参考にしたというのは周知の事実。
つまるところルプスレギナにとってロコモコは第二の父でもある。
それだけを考えても他のものより緊張する理由としては十分だが、何より接する機会が多かった。
さもすれば獣王メコン川以上に。同種だからという理由もあるのだろうが何かと世話をしてもらっていたのだ。
間違っても普段通り、気質通りになんて応対出来ない。
元よりそんな失礼をするつもりは無いが、自分のことは自分がよく理解しているだけに気が気ではない。
「む……連絡がありました。もうすぐ到着なさるようです」
「はい」
「ひっ……」
一つ深呼吸を入れて落ち着きを図ったユリに対して、ルプスレギナは息を詰まらせる。
頭を駆け巡る言葉はもはや意味をなしていない。
再び会えて嬉しい気持ち。
絶対に失礼はしないぞと旗する気持ち。
そして獣王メコン川に対して抱えている愛情とは違う種の愛情を持て余す気持ち。
「ロコモコ様! ご帰還!」
「お帰りなさいませっ!!」
アウラの声が響き、自然に臣下の礼は取れた。
そして口から勝手に言葉が出た。
頭を下げているため、まだ顔は見れない。
見たくない、見たい。
葛藤するルプスレギナの心。
「あー……こういう時どうすんだ? ええっと、なんだ。皆、顔あげてくれよ。頭下げんのは俺の方なんだしさ」
「し、失礼いたしましたっ! しかし、ロコモコ様が頭を下げられる理由な――」
セバスとユリが慌てて頭をあげ言葉を口にしようとして、何故か途中で止まる。
漂う沈黙。
そんな中、未だにルプスレギナは顔をあげられない。
早く顔をあげなくては、至高の御方が言っているのだから。
そう思っていても、まるで縫い付けられたかのように動けない。
「ルプスレギナ」
「は、はい」
声は、ルプスレギナの頭上から。
ロコモコの影が頭へ差し掛かり、そこでようやく顔をあげられた。
「ただいま」
「あ――」
そうして直視した。
憧れ、焦がれ、帰還を誰よりも待ちわびたその人の笑顔を。
「――んきゅ」
「ってうぉ!? ルプス!? おい!?」
ロコモコが笑顔を向けてくれた。
そう理解した瞬間、ルプスレギナは意識を容易く放り投げたのだった。