ナザリックらいふ!~愛され上司のすゝめ〜   作:失望されないルプスレギナ

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渾身のおねだり

「面を上げよ」

 

「一同。顔を上げアインズ様、ロコモコ様の御威光へ触れなさい」

 

 玉座の間。

 揃うはヴィクティム、ガルガンチュアを除く守護者とセバス率いるプレアデス。

 玉座に腰掛けるアインズ、隣へいるアルベドに階段へと立つロコモコ。

 

 またパンドラズ・アクターはアインズより八本指が王都に居ない間王都の監視を命じられ、冒険者モモンとして王都にいるため不在。

 

 漂う雰囲気はようやくと言う程時間が経ったわけではないが、それぞれの立ち位置に違和感を覚えることは無くなったと言ったところ。

 胸にある思いや誓いこそ変わりは無いが、新しいナザリックの形へと順応を見せ始めた。

 

「アインズ様、皆傾聴の姿勢が整いました」

 

「うむ。早速ではあるが、ロコモコさんが王都での仕事に区切りをつけた。その報告、並びに各員に任せた仕事の進捗報告をせよ。まずはデミウルゴス、牧場の状態と人間に関する心理把握、その調子はどうだ」

 

「はっ。まずは――」

 

 まずはと最初に口から出たのはロコモコへ労りの言葉。

 少し慌てたように、しかし最後まできっちりその気持ちをロコモコが受け取ったことにデミウルゴスの喜びが見えた後、報告が始まった。

 

 牧場、つまり巻物生産に関しては順調の一言。

 心理把握と兼ねて行い、人間の心理へ一歩踏込み触れたことにより生産性の向上が図れ、巻物一つの価値が低下した。これからはさらに量産出来る見込みであると。

 

「素晴らしい。デミウルゴス、お前の忠勤に感謝をしよう」

 

「勿体ない御言葉です。アインズ様、並びにロコモコ様の叡智あってこそのこと」

 

 一礼するデミウルゴス。

 また、報告しないのではなくまだ実感できてはいないため口に出来ないことだが、デミウルゴス配下にも変化は見られ始めていた。

 本人としては適材適所を探るという一環ではあったが、配下に対して多くの言葉を交わし始めたことにより互いの関係性再構築、それも良好な結果に行き着こうとしている。

 

 配下はデミウルゴスの気持ちに触れ、デミウルゴスは配下の意図を知った。

 互いのビジョン、そのすり合わせを行えたのだ。

 人間心理把握の効果だけが、生産性向上に繋がっているのではないとデミウルゴスが気づくのは近い。

 

「後から再度説明をするが、今後はその仕事にセバスが加わることになる。――あぁ、勘違いするな。同じ場所で働くという意味ではない。関係性が強い仕事をセバスが行うという意味だ」

 

「畏まりました、またお気遣い感謝致します」

 

「アインズ様」

 

「よい、後から再度説明する。セバスは今、新しい仕事を任せられるということだけ覚えておけ」

 

「畏まりました。口を挟みましたこと謝罪申し上げます」

 

 ぴりりと奔った緊張感ではあったが、それもアインズの言葉により消える。

 

「次にコキュートス。蜥蜴人達はどうだ」

 

「ハイ。集落維持活動ニ関シテハ本人達ヘ任セテイマス、デスガ裏切リノ様子モミラレズ。戦士トシテノ力量向上モ順調デス。イズレソレヲ示ス機会ヲイタダケレバト」

 

 コキュートスと蜥蜴人の関係は良好だった。

 蜥蜴人からすれば絶対的強者であるコキュートス。そんな存在が自分たちの強さを認めていると知り彼らは涙を流した。

 

 またコキュートスは良くも悪くも武人だった。

 明け透けとも言うべきか、そういった何かを認めているだ惹かれているだと、歯の浮くような言葉を極々自然に言う。有り体に言えば裏表なく接する姿へ、蜥蜴人は更に忠誠を日々高めている。

 

「うむ。コキュートスに任せて良かった。機会に関しては近いうちに考えよう、それまで引き続き統治に励め」

 

「有難キ御言葉。万事、オ任セクダサイ」

 

 今の蜥蜴人たちであれば、かつてのアンデッド軍団なぞ歯牙にもかけないだろう。その身体、心共に大きく成長を見せた。

 

「では次にシャルティア。今の所階層守護の任がメインだが……気になることはあるか?」

 

「はい、領域に関して大きな変化はありんせん。また、御身を守護するための親衛隊兵編成に着手してありんす。そのことでいずれアインズ様、ロコモコせんせ……様のお知恵をお借りしたく思いんす」

 

 シャルティアもまた何もすることが無いと腐ってはいなかった。

 先のビジョンが与えられたからだ、それに向かってあれこれと試行錯誤に励んでいる。

 

「わかった、こちらも同じく近いうちに時間を作ろう。ロコモコさんも、良いですね?」

 

「了解です。シャルティア、楽しみにしてる」

 

「そ、そのような――! ご期待にお答えできますよう、励みます」

 

 実際に動き始めてこそいないが、シャルティアは並々ならぬ思いを抱えている。

 アインズと敵対したという事実。それがあってもアインズの近くにいることが許され、あまつさえその警護を任されるとの話だ。

 

 最近口調が固くなりやすいことも含めて、シャルティアの心は燃えていた。

 自身の眷属、僕へのお楽しみが控えられ、眷属達が少し残念に思う程に。

 

「アウラ、マーレ。世界情勢を知るための活動としての世界地図作り。その進捗は?」

 

「はいアインズ様。おおよその地理が把握できました、あたしが集めた情報を元にマーレが今実際に地図を作っているところです」

 

 アウラとマーレではアウラの方が機動性が高い。故に二人は役割分担を行った。

 アウラが外で集めた情報を、マーレが領域守護にあたりつつ受け取り、地図へ起こす。

 その非常に効率的な仕事ぶりに思わずアインズとロコモコは目を見開いた。

 

「想定を遥かに上回る進捗具合だ。素晴らしいぞ二人共」

 

「も、勿体ない御言葉です」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 二人は照れたように身を捩る。

 

「地図作りが終わった後についても現在検討中だ、追って知らせるようにする。何か希望などあれば聞いておくが」

 

「あ、あたし達の役目は――いえ、ごめんなさい。それじゃあ、あたしはやっぱり外に出る仕事が嬉しいです。もちろんロコモコ様への組織的な補佐は継続して行います」

 

「ぼ、僕は……え、えっと、お姉ちゃんの補佐をするのが、い、一番かなと思います」

 

 アウラは外に出て活動することが性分に合うらしい。今回の地図作りで各地と飛び回る中で世界の大きさを知った。そこには自分の興味を惹かれるものがまだまだあるんじゃないかと心を踊らせている。

 マーレにしてもそういった姉のフォローをすることが性に合っているのか、姉の背中に隠れるという一環なのか。効率的かつ効果的に支えられるのはマーレ以外にいないだろう。

 

「わかった、考慮しておく。ではアルベド、気になるところなどあるか?」

 

「今の所はございません」

 

「よし。ならば皆も気になっているだろう、王都での活動について。ロコモコさん」

 

「はい。それじゃあ皆、少し長くなるが聞いてくれ」

 

 一歩進んでロコモコは口を開く。

 

 王国そのものをナザリックの資金源と出来るよう暗躍していた八本指を掌握したこと。

 第三王女と面識を得て協力関係を結んだこと。

 

「掌握したと言ってもまだ恐怖公とニューロニストの手にかかっている最中だがな、まぁ問題ないだろう。ラナーに関しては扱いが難しい、俺と同等……いやそれ以上に頭が回る。もしかしたらデミウルゴスとアルベドに任せなければならないかも知れない、その時はすまんが頼んだ」

 

「そ、そのようなこと!」

 

「ロコモコ様をしてそう言われる相手……私如きが代わりになれるとは思えません」

 

 先に声を荒げたのはアルベド。ロコモコ以上にいるのはアインズのみで、その中間に位置し得るものなど存在しないといった意。

 続いたデミウルゴスは少し遠回しなロコモコの、自分より上の知恵者だと言った言葉を遠回しに否定する意。

 

「まぁ今後の調査と利用方法次第ではあるよ。そのこと含めて、協力頼んだ」

 

「畏まりました、必ずや一助に」

 

「同じくして、御期待にお応えしますことを誓います」

 

 落とし所はここかとロコモコは一つ頷く。

 実際、やや手に余る存在だというラナーへの認識は変わらない。出来れば早く役割を設定して、手のひらの上で管理したいとロコモコは思っている。

 

「先のセバスについてへ繋がるが、使っていた屋敷にどう扱っても問題ない人間……まぁ背後関係がまったくない人間だな、そんなやつらを保護している。セバスにはこいつらのケア、そしてデミウルゴスと同じように、お前のやり方でこいつらを通し人間心理の把握へ努めてもらいたい」

 

「畏まりました。ですが、質問をしてもよろしいでしょうか?」

 

「あぁ、何故セバスにって話なら簡単だよセバス。元より築いていた偽造身分のこともあり引き継げる存在として適任だという理由もあるが、何より困っている人を助けるのは当たり前、だろう?」

 

「ロコモコ様……畏まりました。全力を持って、その任にあたるとお約束致します」

 

 セバスは感動に打ち震えた。

 ロコモコが自分でできないと思っていることを任せられたこともそうだが、何より自分の適所だろうという仕事を見つけて貰ったと認識したからだ。

 ナザリックでの自分、その任を不釣り合いだなんて思ったことは無い。しかし、そんなナザリックにおいて自分が得手とする仕事が見つかりにくいことも事実。

 

 やりたいことがナザリックの為になる。

 それがこれほどの喜びなのかと震える身体を止められない。

 

「セバス。わかっているね? 今後私との連携も必要になってくる。あまり傾倒しすぎても困るのだよ?」

 

「デミウルゴス様、元より承知でございます。必ずや、創造主であるたっち・みー様の名にかけて」

 

 セバスの返答へ僅かにたじろくのはデミウルゴス。

 創造主の名に誓うとまで言ったのだ、全てを賭けてセバスは仕事を全うするだろう。

 信じざるを得ない。反りが合わない等言っていられない、セバスへの不信は至高の御方への不信に繋がると、固く自分を戒めた。

 

「セバス、その敬称は要らないよ。今後似たような仕事にあたるんだ、よろしく頼むよ」

 

「……畏まりました。こちらこそ、よろしくお願い致します」

 

「続けるぞ? 二人で協力して人間に対する教科書を作成するんだ。それが出来上がり、内容と王国の状態をもって今後は改めて考える」

 

「畏まりました」

 

「重ねて言うが王国はいわば出し入れ可能な貯金箱といった扱いだ。それに加えて人間心理観察含めた実験の場でもある、今後王国に対して意図が掴めない命令等があればその一環だと認識してくれ」

 

「はっ!!」

 

 全員の返等を待ってロコモコは頷き一歩下がる。

 

「報告はこれで終わりだな。ロコモコさんの仕事含めて、これは私の……いや、アインズ・ウール・ゴウンのための国を作ることを目的としたその一環だ。各自、その認識を持ち正しく任せた仕事を全うするように」

 

「――! 御心のままに!」

 

 さらっとではあったがアインズは国を作ると明言した。

 これで全員の意識はそこへ集中しただろう、その確信をアインズとロコモコは得る。

 

「では最後になるが、今回ロコモコさんのした仕事には報奨が在るべきものだと考えている。アルベド、お前はどう思うか」

 

「まさにその通りかと」

 

 来た、とプレアデスの二人、ソリュシャンとルプスレギナは身を一瞬強張らせる。

 

「ロコモコさん」

 

「俺についてはもう貰ってますから。皆と一緒にモモンガさんのために働ける、その許しが今回褒美を貰えるとしたら最大の褒美です」

 

 決まっていたかのようにそう口にするロコモコ。

 守護者達がそんな言葉へ身を震わせる光景を尻目にアインズもまた肩を竦める。

 

「はぁ……じゃ、次のはマシマシで」

 

「あはは、加減お願いしますよ」

 

 それでも二人は笑っている。

 だから守護者達も笑う、それで良いのだろうと心で笑う。

 

「ではルプスレギナ、ソリュシャン。前に来い」

 

「はっ!」

 

 呼ばれた二人は身を固くしながらも静かに歩き、アインズの前で膝をつく。

 

「御身の前に」

 

「うむ。告げよう、ルプスレギナ、ソリュシャン。今回の働き、見事である」

 

「有難き御言葉」

 

「多くの言葉を贈りたいが、それはこの後ロコモコさんから貰うが良い。私からの言葉は今後のお前たちについてだけだ」

 

 場に緊張感が高まる。

 ルプスレギナ、ソリュシャン二人はもちろん。守護者や、セバス、プレアデスまでも。

 

 ルプスレギナか、ソリュシャンか。

 

 今ここで決まると、理解したが故に。

 

「その働きを認め……ロコモコさん率いる諜報部隊、その副官をソリュシャンとする。ロコモコさんの下、一層励め」

 

「――畏まりました。この身、この心、全てを捧げ忠勤に励むことを誓います」

 

 ――空気が、変わった。

 

 選ばれたのはソリュシャン。

 告げられた本人は、未だ痺れる心を制御出来ず身体を震わせている。

 

 まさか、私が。

 信じられない思いだった、なってみせると心に旗していたことが現実になった。

 なったのに現実感がない。ふわふわと、世界が微睡んでいるかのよう。

 

 周囲もまた複雑だった。

 喜ぶべきことだ、しかしルプスレギナの心を思えば素直に諸手を上げられない。

 

 誰も、ルプスレギナへと視線を向けられなかった。

 泣いているだろうか。そんな不義、普段なら許されるものではないが、今だけはそうなっても見ないふりをしよう。そう皆が思った。

 

「次にルプスレギナ」

 

「はい」

 

 呼ばれたルプスレギナの声は普段どおり。

 まだ現実に心が追いついていないのだろうか、理解することを拒んでいるのか。

 

「副官という地位は与えられないが。お前の働きもまた、褒美に値するものだ。何かあるならば叶えよう。今じゃなくても構わな――」

 

「アインズ様」

 

 構わないという言葉を遮って、ルプスレギナは姿勢を平伏に変え。

 

「私は……私はっ!!」

 

 叫んだ。

 

 誰しもが副官をとみっともなく言うだろう、そう思った。

 

 しかし。

 

「ロコモコ様を……愛することを許されたく思います!!」

 

「――は?」

 

 全員の予想を裏切った言葉だった。

 

 アインズも、ロコモコも、守護者もセバスもプレアデスも。

 全員が、そろって目を丸くしてルプスレギナを見つめた。

 

「畏れ多いことだと理解しています! 許されないことだともわかっています! ですが、ですが……何卒! 褒美を下さると仰られるのなら! 私にロコモコ様を愛すること! お許しください!!」

 

 まさしく必死。魂からの言葉。

 

 床に添えた指先は震えている、目からはとめどなく涙が溢れている。

 

「お願いします! お願い、致します――!!」

 

 誰もが何も言えない。

 頭が理解を許していない、それはロコモコさえも。

 

 そんな中。

 

「ハ――はははははは!! ……あーくそ、抑制された」

 

「あ、アインズ、様?」

 

 大爆笑だった。

 アインズは嬉しかったのだ、心の底から。

 

「良かろう許す。アインズ・ウール・ゴウンの名において、ルプスレギナがロコモコさんを愛することを許し、今後お前をロコモコさんの専属メイドとする」

 

「ちょ!?」

 

「あ――ありがとうございます! ありがとうございます!」

 

 驚いた様子のロコモコも、今も尚頭を下げ続けるルプスレギナも。

 

「ロコモコさん」

 

「は、はい? え、いや、はい?」

 

 今はロコモコしかいないかつてのギルドメンバー。

 そしてメンバーが遺した子どもたち。

 

 そう、まさしくかつてのNPCが仲間であり、子であるのならば。

 

「獣王メコン川さんの娘であり、俺の娘です。幸せにしてあげてくれないと許しませんからね?」

 

「え、あ、うそん? え? モ、モモンガさああああぁぁぁあんん!?」

 

 かつてを迎えることは出来ないかも知れない、だが新たに創り出すことは出来る。

 

 そう気付いたアインズ……モモンガは。

 今があることを、この上なく幸せに思った。

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