ナザリックらいふ!~愛され上司のすゝめ〜   作:失望されないルプスレギナ

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模擬戦、必要な敗北

 シャルティアは頭を抱えていた。

 

「わからないでありんす……」

 

 表での活動を見据えたアインズ親衛隊の構成。

 草案ではあったが、自身で納得の出来る案が出来上がり、まずはとロコモコに提出したは良いが結果的に却下されてしまったからだ。

 

 シャルティアなりにといえば言葉は悪いが、持てうる知恵を絞りに絞って考えたものだった。

 簡単に却下されたわけではなかったが、ロコモコの言葉が頭にこびり付いている。

 

 ――親衛隊の意味をもう一度考えてくれ。

 

「親衛隊の、意味」

 

 小さく唇を指でなぞりながら反芻する。

 

 簡単に言ってしまえばアインズの身辺を一番近い位置で守護する役割のはずだ、親衛隊とは。少なくともシャルティアはそう認識している。

 だからこそ気配探知に長けた従僕を選りすぐり不意な襲撃に備えられる構成は勿論、外での活動を意識した人間に近い種族をとも配慮した。

 

 完璧だと思っていた。

 時間はかかったし、頭が溶けるほどに考え抜いた分だけ出来上がったものに満足もしていた。

 

 それだけに何故却下されてしまったのか。

 

「ロコモコ先生様が却下されたことでありんす、きっと何か致命的な見落としがあることはわかりんすが……うーん」

 

 意地悪という言葉は幼稚だが、そういった意味でダメだと言われたなんて欠片も思わない。

 思わないが、ここまで考えても何がダメなのかがわからず複雑な気分へと陥っている。

 

「お前たち」

 

「はい」

 

 内心藁にもすがる思いで、侍っていた吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)へ声をかける。

 

「親衛隊の意味とはなんぞえ?」

 

「我らで申せば、シャルティア様へと侍りその命を直ちに実行し、御身を守護することかと」

 

 頷くシャルティア。

 彼女たちの答えは今も尚正解だと自身でも思っているが故に納得できる。

 

「でもそれはロコモコ先生様からすれば不正解……。お前達も考えるでありんす」

 

「かしこまりました」

 

 その光景はシャルティア私室では今まで見られなかったもの。

 部屋の主と一緒に首を傾げながら頭を捻る。

 

 今まで吸血鬼の花嫁達然り、シャルティアの従僕は彼女を満たすがための存在意義が強かった。

 しかしロコモコが帰還してからと言うもの、今までの様な使われ方は見られなくなりつつある。

 少し前まではその事を残念に感じる想いもあったが、今となってはこれも別の角度からシャルティアを満たすその一環であると考え及び、一層の忠を尽くしている。

 

 とは言え。

 

「うー……わからないっ!」

 

「シャ、シャルティア様……」

 

 元よりの使われ方をされなくなったわけでもなく。

 こうして煮詰まり、壁にあたった時の気分転換として相手をすることはまだまだある。

 シャルティアに対しての尽くし方に多様性が生まれたことで彼女たちはその満足を深めてもいた。

 

「……全く、何荒れてんのさ」

 

「む、チビすけ?」

 

 たーべちゃーうぞースタイルをとっていたシャルティアへ呆れ顔を見せながらやってきたのはアウラ。

 

「何の用ですえ? 今ちょっと忙しいでありんす」

 

「そんな態度とっていいの? アインズ様とロコモコ様からのお言葉を持ってきたのに」

 

 アウラの言葉を認識した瞬間シャルティアは弾かれたように姿勢を正し、アウラの前に片膝をつく。

 

「拝聴致します」

 

「――コキュートスの蜥蜴人、シャルティアの親衛隊を確認するため模擬戦をトブの大森林にて行う。相手はあの時のアンデッド軍団に加えてロコモコ様、ソリュシャン、ルプスレギナを加えたもの。開始は明日午前とのことだよ」

 

「畏まりました」

 

 シャルティアは確信した。

 これは何故ダメなのかを教えて下さる機会だと。

 

「シャルティア、親衛隊案ダメ出しされたんでしょ?」

 

「う……な、なんで知っているでありんすか」

 

「ロコモコ様に教えてもらった。っていうか、あたしならどう編成するかって聞かれたの。あぁ、もちろんロコモコ様がシャルティアにダメ出しをしたって御自ら言われたわけじゃないよ、あたしが無理やり聞いた」

 

 アウラの言葉に強く動揺するシャルティア。

 もし、アウラが自分より良い案を生み出すようなことがあれば、お払い箱になってしまうのではと。

 

「安心しなよ。あたしもダメだった」

 

「そ、そうでありんすか。いえ、喜んではいけないとわかっていんすが」

 

 ほっとしたのは間違いないが、同時に与えられた仕事の難しさを再認識してしまう。

 

「難しいよね、馬鹿にしてるわけじゃないけどさ。でもがんばんなよ? 今回の模擬戦、アインズ様も戦場に立たれるんだって。あんたは親衛隊としてアインズ様を守護する役割らしいから」

 

「――っ!」

 

 震えを以て緊張感を高めた。

 模擬戦とは言え、なんてレベルじゃない。教えてくれるなんて生易しいものでもない。

 

「……ちょっとだけ、同情じゃないけどしてあげる。あたしでも、ううん。守護者全員、シャルティアの立場だったら、きっと今日は眠れないだろうから」

 

 アンデッド故に睡眠は要らない。なんて茶化しているわけでも、茶化し返せるわけでもない。

 アウラは言付けを頼まれた時、心底シャルティアの立場に自分が居たならと思い震えたのだ。

 

 ロコモコは、優しい。ナザリックに存在する全てがそう認識し慕っている。

 しかし、その根幹にあるものは冷たさだと認識した。アインズを守るためにならあらゆる手段をとる覚悟と冷酷さを持っていると。

 

 その事を誇りにも思う、より親しみを覚えながら尊敬の念を捧げて止まない姿勢だとすら思う。

 だが同時に、ロコモコの領域への遠さをも実感してしまうのだ。

 

「……コキュートスと、打ち合わせしてくるでありんす」

 

「うん」

 

 ぐっと唇を結んだ後、前を見据えたのはシャルティア。

 その姿を。

 

「がんばって」

 

 アウラは小さく、されども強く応援の言葉で見送った。

 

 

 

「ふむ……蜥蜴人の仕上がりは順調、いや想像以上だな」

 

 アインズはアウラが創ったログハウスにて蜥蜴人の戦いぶりへと内心舌を巻いていた。

 ロコモコへと預けたアンデット達は立ち向かう蜥蜴人の数に合わせて規模こそ縮小しているが、以前蜥蜴人集落を襲撃したものと同程度の力量。

 

「アインズ様」

 

「うむ、シャルティアか。警護ご苦労、変わりないか?」

 

 完全武装状態のシャルティアはアインズの前で跪き変わりがないことを報告する。

 しかし、戦闘開始から時間が経つにつれて緊張感は増す一方だった。

 

「先に説明しているが、私はこの通り何もしない。ここへとロコモコさん、あるいはその手のものがやってきたとしてもだ。全てお前に任せる、頼んだぞ」

 

「はっ! この命にかえましても」

 

 戦況は蜥蜴人優勢。

 優勢だが、このままで終わるわけがないとシャルティアは確信している。

 

 コキュートスとの打ち合わせにて、ロコモコの戦闘スタイルについては把握している。

 また、もう一度コキュートスとロコモコが戦えば、ほぼ確実にコキュートスが勝利するだろうとも理解しているし、自分とロコモコが戦っても同じく。

 元より戦闘に関するスペックが大きく離れているのだ、種の割れた手品に惑わされるはずもなく圧倒できるだろう。

 

 ロコモコ自身、コキュートスに対してはもう勝てないとわかっていたし、完全武装したシャルティアに対して出来ることはせいぜいが時間稼ぎ程度だろうとも理解している。

 ルプスレギナ、ソリュシャンにしてもロコモコ以上にスペックだけを見れば劣っているのだ、不覚をとる理由がない。

 

 だが。だがしかし、だ。

 

(絶対に、何かの一手がある)

 

 このままではコキュートスが統治している蜥蜴人の仕上がり確認にしかならない。

 ここに自分がいる意味がないのだ、ロコモコもアインズも親衛隊を確認すると言った。ならば必ず試しの時がやってくる。

 

「……眷属よ、周囲をもう一度確認してこい」

 

 焦燥感に突き動かされてシャルティアは再び眷属を放つ。

 何かをしていないと不安なのだ、正解、間違いがわからない。故に常に手を打ち続ける、意味があろうとなかろうとも。

 

「シャルティア、少し落ち着け」

 

「も、申し訳ありんせん。お見苦しい姿をお見せ致しました」

 

 慌てて頭を下げるシャルティアではあるが、直接言われても落ち着けない。

 直接戦うことに勝機を見出だせないのであれば、必ず奇襲を狙ってくる。それはつまり奇襲に対して備え続けなければならないのだ、気が気ではない。

 

「ふむ。シャルティア・ブラッドフォールン」

 

「はっ!」

 

 そこでアインズは声のトーンを少し改めた。

 

「お前は私の何だ? あぁ、もちろんこの模擬戦においてだ」

 

「アインズ様の御身を守護いたします親衛隊、その長として存在しております」

 

 確認だ。

 今この場においてシャルティアはナザリック守護者ではなく、親衛隊長その一人。

 

「では親衛隊とは何だ?」

 

「……それは」

 

 ロコモコよりも問われた親衛隊、その意味。

 少しの沈黙を漂わせた後、シャルティアは口を開く。

 

「アインズ様への害意と脅威を打ち払い、その御身を守る者です」

 

「……なるほど、な」

 

 何度も考えた。

 何度も何度も、従僕達にもコキュートスにも相談した。

 それでも変わらなかった答え。

 

「シャルティアよ、アルベドの役割を知っているか?」

 

「アルベドの、でありんすか? それは勿論我ら守護者を統括する者として――」

 

「違う、ナザリックにおける役割の話ではない」

 

 守護者統括として以外のアルベドが持つ役割。

 その意味がうまく理解できず、シャルティアは黙する。

 

「ナザリックにおいて敵対侵入者が玉座の間にたどり着くこと、それは我らの敗北を意味する。そしてアルベドが勝敗を左右する場ではなく、敗北の場に在る意味とは何だ?」

 

「……それは」

 

 わからない。シャルティアにはその意味がわからない。

 自身が敗北するという意味はわかる。その可能性だってある事は理解できる。

 だがナザリック、アインズ・ウール・ゴウンが敗北するという想像が出来ないのだ。

 

「アルベドはな、私と共に死ぬためそこに在るのだよシャルティア」

 

「――っ!」

 

 そのようなことと反射的に口へ出しそうになるのを堪えた。

 アインズの口調が酷く穏やかであるのに加えて、羨ましくも思ったのだ。アインズと共に死せると認められたアルベドのことを。

 

「私の隣に在るということは、そういうことだシャルティア。そして再び問おう、親衛隊とは何だ?」

 

「……」

 

 ナザリックという裏におけるアルベド。

 表の舞台とした場で親衛隊の長としての自分。

 

 それは。

 

「ふふ、どうやらそれを示す機会がやってきたようだぞシャルティア」

 

「っ! まさかっ! ちぃっ、コキュートスは一体何をしてるでありんすか! 眷属――くそっ!」

 

 薄らぼんやりとした答え、手をかける瞬間、驚異の気配はやってきた。

 コキュートスからの報告が無いことへ怒り、眷属を周囲警戒に放ってしまいすぐに戻せない状況を創ってしまった自分の愚かさを呪いながら、警戒を最大にまで強めるシャルティア。

 

(気配は……く、流石ロコモコ先生様、全然わからない! でも――)

 

「そこっ!」

 

「きゃんっ!? う、うー……やられたっす」

 

 スポイトランスを突き出した先から現れたのはルプスレギナ。

 小さく白旗を振りながらその場に蹲る。

 

(よし! でもここにいるってことは!)

 

「シャルティアアアアア!!」

 

「せん、せいぃ!」

 

 背後からシャルティア(・・・・・・)目掛けて突貫してきたロコモコ。

 見るからに何の策もないような突撃、それを身構えがっしりと受ける(・・・)

 

「らしくありんせん! ロコモコ先生様!」

 

「……いや、そうでもないさ」

 

「――え?」

 

 何を言っているのか、スポイトランスとロコモコが手にしていた短剣、合わされていた力がふっと抜けた時。

 

「――失礼致します、アインズ様」

 

「あぁ、構わないともソリュシャン。お前達の勝ちだ」

 

 声に振り向けば、そっとアインズに触れているソリュシャンの姿。

 

 ここに、勝敗は決した。

 

 

 

「シャルティア」

 

「コキュートスでありんすか。申し訳ありんせん、善戦どころか勝利は目前だったはずにも関わらず」

 

 模擬戦は終了した。

 コキュートスは蜥蜴人達の戦力向上、そしてその指揮を褒められ、シャルティアは何も言われなかった。

 

 そう、何も言われなかったのだ。

 その事実に肩を震わせシャルティアは俯き、既にコキュートス以外誰もいないログハウスに佇む。

 

「コチラコソ、悪カッタ。ロコモコ様達ノ動向、掴メテイレバ此度ノ模擬戦。敗北ニハナラナカッタダロウ」

 

「そう、なのかも知れないんすね」

 

 確かにロコモコ達がログハウスを急襲してきた時そう思った。

 事実、その報があればシャルティアは眷属を散開させる必要もなく、守備に備えられていたのだろうから。

 

 だが。

 

「違う……」

 

「ム?」

 

「違うでありんす!」

 

 シャルティアの答えは出ていた。

 

「親衛隊は、私は!! アインズ様の代わりに死ぬ事を許されていたんでありんす!!」

 

 あの時。

 確かに詰み目前だっただろうあの場面。

 

「だと言うのに私は! 敵を倒そうとしていんす! 何よりも先に! アインズ様の場所へ一歩でも近く向かわなければならなかったのに!!」

 

「シャルティア……」

 

 ナザリック守護者としても、親衛隊としても間違っていた。

 シャルティアは何よりも先に死ぬことこそが役目だった。

 

 ルプスレギナを発見することでも、仕掛けてきたロコモコの相手をすることでもない。

 何よりも先に、我が身を犠牲にしてでもアインズより先に死ぬことだった。

 

「私は……また(・・)失態を晒したでありんす! 血の狂乱を抑えきれなかった時のように! 自分を抑えられなかった! 敵を討ち滅ぼすことこそが私の役目であると思い込んでいた!! 何度も、何度も! 親衛隊としてここに居ると仰って頂けていたのに!!」

 

 難しいことだろう、事前にそうだと説明されてすらいなかった。

 何処までも自分で考え、自分で気づけと言われていた。だから気づけなくても仕方がない。

 

「蜥蜴人ニ私ガ敗北シタ時ノコト、覚エテイルカ?」

 

「……」

 

「私ハ、敗北シタコトデ学ベタ。敗北ガナケレバ今ノ自分ハイナイダロウ」

 

 コキュートスは言っているのだ。

 この敗北はシャルティアにとって必要な敗北であったと。

 先に在るだろう戦いで、勝利を捧げるために今敗北したのだと。

 

「……本当に、お厳しい御方達」

 

「アァ、ソシテ何ヨリ慈悲深クオ優シイ」

 

 二人は頷く。

 何より明日勝つために、必要とされる自分へ成長するために。

 

「コキュートス、忙しいのは理解しているでありんすが、親衛隊の編成案作り、手伝って欲しいでありんす」

 

「無論ダ。更ナル連携ヲ築コウ」

 

 二人が考えた、軍事編成(・・・・)

 それが認められ、大いに褒められたのは、このすぐ後のこと。

 

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