ナザリックらいふ!~愛され上司のすゝめ〜 作:失望されないルプスレギナ
なんと言うかまぁシャルティアには悪いことをしたと反省している。
提出してもらった親衛隊編成案は実に攻撃的だった。
敵となり得るものを全て討滅してしまえば結果的にモモンガさんを守れるだろうといった感じの。
確かに一理あるというか、それが出来れば一番なんだけども。
可能だと判断が出来るのならばそもそも親衛隊を作るなんて考えないわけで。
コキュートス、シャルティアは現ナザリックにおける最強クラスの矛だ。そして対を成す盾はアルベド位しかいない。
要するに万が一……いや、シャルティアが精神支配を受け敵対してしまった時のようなことが起きてしまえば対処が非常に難しくなる。
迂闊だなんだと言うつもりはない。が、やはり想定外が考えられる以上万全を期さなければならないわけで。
だからこそ派手に動きにくい場所へと据える必要があった。もちろん、戦力としても申し分ない。
ただ適任かどうかといえば、案の定ではあったが微妙なところ。
結局それを知ってもらうための模擬戦なんて側面があった。
ハナからコキュートスを相手にせず、王手狙い。モモンガさん狙いで動き徹底的に隠密、奇襲を心がけた。
予想以上に蜥蜴人が戦力組織として確立されていたから焦った部分はあったけど、ギリギリなんとかといったところか。
いや、予想以上なんて言葉は蜥蜴人だけじゃない。
「お待たせ致しました。ソリュシャン・イプシロン、御身の前に」
「ルプスレギナ・ベータ。御身の前に」
「あぁ、お疲れ様二人共。まぁ楽にしてくれ」
イスを勧めてから改めて予想以上の二人を見る。
こう言ってはなんだけど、俺についてこれたってのが驚いた。
生産職、情報収集特化ビルドとは言えレベルはカンスト。ステータスだけで言うなら二人よりも上なはずだけど、それでもである。
数字ってのは残酷だ、同じスタート位置からヨーイドンしてしまえば情け容赦なく差が出来てしまう。だが離されずついて来た。
つまり、ルプスにしてもソリュシャンにしても俺のしたいことを深く理解して先んじて動いているということだ。スタート位置を俺より先に置いて動けるように努めている。
「まず二人共、よくやってくれた。ほぼ俺の想定通りの形に収まった、これは二人の協力なくしてはなし得なかっただろう」
「勿体なき御言葉です。しかし、こうして御身に仕える者としては当然とありたく思います」
「同じく。でなければ御身の側に在る意味がありません」
さも当然と言ってくれるけれど、並々ならぬ努力があっただろう。
通常時ではなく戦闘時のような瞬間的な行動ってのは、予め想定しておかなければ咄嗟に対応できないものだ。
まだこうして副官、専属となって日は浅い。
だと言うのにこれほどまでの呼応を見せてくれるまでに至った。
「あぁ、二人を選ぶことが出来て本当に嬉しいよ。ありがとう」
「――っ! ありがとう、ございますっ!」
二人揃ってわざわざ立ち上がった後の一礼だった。うん、本当にありがとうな。
「よし。それじゃあ模擬戦からいこうか。どうだった?」
「……はい、どうやらしっかり網にかかってくれたようです」
「アウラ様に依頼していますが、どうやら帝国方面へと向かったようです」
模擬戦の所感を聞いたわけじゃない。
そう、あの模擬戦でしっかり何か釣れたかどうかの話。
「帝国、か。どれ程の情報を摑ませたと思う?」
「蜥蜴人とアンデッド達が戦っていた、程度かと」
俺達は完全に伏せていたしな、それくらいが妥当か。
帝国……デミウルゴスが調査していた部分を絡めて考えても、さてどうするか。
王国への工作は順調に進んでいるし、貯金箱化はもう八割方完成している。
別の方面へ手をのばす好機ではあるが。
「ロコモコ様、質問が」
「うん? どうしたソリュシャン」
質問は大歓迎ですよっと、絶賛成長中のソリュシャンなら尚更。
「何故、敢えて幻術などで秘匿、隠蔽を図らず模擬戦を? いえ、情報を掴ませるという意図は理解できるのですが」
「なるほど、実に根幹的な質問だなソリュシャン」
「も、申し訳――」
「あぁ、違う。咎めたわけでもがっかりしたわけでもないよ。根幹を知る事は大切だ、そういった部分に興味を持ち欲するという成長を嬉しく思ったんだ。良い機会だ、じっくりすり合わせよう」
「有難き御言葉」
ほんと大成長だよねって。
さて、模擬戦へ介入したのはシャルティア、親衛隊に関する部分とコキュートスの蜥蜴人の確認。
それに加えて俺達が戦いの中でどう動けるかを確認すること。それは十分にできた。
「じゃあまずは何で完全に隠匿しなかったって部分からだな」
「はっ」
ソリュシャンが言うように場所ならナザリックの、たとえば第六階層なんかでも良かった。
完全に秘匿して確認するならそれが一番だ。でもそうしなかった理由はもちろんある。
「俺とモモンガさん……いや、ユグドラシルでかつてアインズ・ウール・ゴウンとして活動していた時の基本戦術、いやこの場合は戦略だけど。それが戦う前に勝っている状態を作るというものなんだ」
「戦う前に、勝つ」
誰でも楽々PK術。
GVGといった組織同士の戦いでも勿論この考え方がベースになっている。
……知識というものは多くのものが持つべきではない。ぷにっと萌えさんの言葉にそのままあやかるなら、これも本当は秘匿しなきゃならんのだろうが……。
ほんと、何で教えようとしてるんだろうな? ぷにっと萌えさんが今の俺を見たらなんていうやら。
ただどの道言い方は悪いがギルメンが担ってくれていた各役割の代替え的存在は必要だ。個の力を見れば高いが、だからといって組織としての力が高いままというわけじゃない。
こういった育成に関しては組織力向上を考えた上で必要なことでもあるはずだ。
「その中に相手へどれだけ虚偽の情報を摑ませるかといった物がある。今回隠匿せず、知ろうとしているものに一部情報を摑ませたのはその意図だ」
「虚偽の情報を、でございますか? しかし今回行った模擬戦は真実です。どの部分が虚偽になるのでしょう?」
ほんと冴えてるよなソリュシャン。
こりゃ近い将来俺がお飾りになっちまうかも。
「あれだけ組織的な動きをアンデッドは見せた、統率……支配している存在がいると考えるのが普通だ」
「はい、でなくば組織的な動きなど下級アンデッドでは行えません。指揮するためにエルダー・リッチがおりました」
「その発想に行き着かないほどの愚者相手なら気にしないでいいんだがな。ともあれ、アンデッドを統率する存在が下級アンデッドを率いて蜥蜴人と戦っていた。これがソリュシャンの言う真実だ」
頷くソリュシャン。
ちらりとルプスを見てみれば若干頭を傾げ始めてるな? 可愛いけどもうちょっと頑張れ。
「不気味な勢力があるということだけわかっていれば、そのうち判断がつかない都合の悪い出来事をそれのせいにし始める。悪いことが起きればきっとそいつらのせいに違いないとまでいけば最高だな」
「なるほど! 理解致しました、核心に至らない真実を摑ませ、勝手に虚にまで発展させるのですね!」
いやはやほんとすごいな、これだけでそこまで考えられるか。
「思考の逃げ道を用意すると言っても良いか、俺達からすればそれは思考誘導でもあるが。袋小路を与えてしまっては窮鼠猫を噛む様に、閃きに近い何かで隠したい真実へ行き着く可能性もある」
「可能な限りそれを抑止するということですね? 川を分散させ水の勢いを衰えさせるように」
二人して頷き合う。
こりゃすんごい子を副官に得られたね、嬉しすぎる大誤算ですわ。
現状諜報部隊の規模は小さい。というより、うちで働ける適任者が少ない。ナザリック内での教育が進めば解消されるだろうが、まだ時間はかかるだろう。
数が増えれば潜入と言った手も打ちやすいんだけどな、無いものを言っても仕方ない。
こういう方法もあるんだよなんて紹介の体ではあったが、あまり打ちたくない手でもあるんだ。さっくり自分で確かめたほうが早いし確実でもある。
手に入る情報の分析に手がかかるという意味では同じだけど、行うための諜報部隊でもあるしな。
「ともあれこういった手段で得られた情報から相手の像を調べ確立し、手を回す。それが戦う前に勝利している状態への第一歩だ、理解してくれたか?」
「はい、有難うございます。この知、必ずや今後の活動へと活かすとお約束致します」
「あぁ、期待している。可能な限り早く戦略、戦術書を用意する。出来上がればまずはソリュシャンに渡すからそのつもりでいてくれ」
「はっ!」
追記出来るような形で作ろうか、渡す時自由に思いついたことや疑問とかを書けるように。
んでそれを二人で検討して現ナザリックにマッチしたものを作り上げて、ナザリック内教育に活かせるようにと。
よし。
「ルプス、地図を」
「畏まりました」
テーブルの上にアウラ、マーレお手製の地図が広げられる。
仮にそのまま模擬戦の情報を掴んだのが帝国、あるいは帝国へ情報を渡したい存在だとして。
改めてガワからあの模擬戦を見れば、アンデッドが多量に発生してそれを蜥蜴人が迎え撃ち殲滅したって形に見えるだろう。
トブの大森林は東側を帝国、西側が王国とで分けられ両国が管理している。
当然調査に来るだろう、来なければ二つどちらかの意味でやばい。
一つとしては、脅威になるだろうことを放置する暗愚だということ。
もう一つは、これが罠だと看破して放置するということ。
どちらにしても来なければこっちの警戒を高めるだけで終わってしまう、万が一来ないのであれば直接潜入するしかなくなるわけで、そうなるとナザリックの整備が遅れる。
来てくれる事を祈るばかりだ。
「当面ナザリック周囲からトブの大森林までの巡回にあたろう、見慣れない人間が侵入した場合は問答無用で捕らえる。全く関係ない場合は記憶操作して放逐するが、基本情報を吐かせるぞ」
「畏まりました。情報の吐かせ方はお任せ頂いても?」
「構わない。ただ、放逐する場合の事は考えて原型は留めてくれよ? 放逐しないと決定した後は好きにしていい」
「ありがとうございます」
支配なんしをかけたほうが手っ取り早いけど、仕事には楽しみがないとね。
「ルプス」
「はっ」
「アウラとマーレに竜王国の立地、状態を調べてもらうよう伝えてくれ」
竜王国は近年、ビーストマン達の侵攻を受けているって話。
カッツェ平野で毎年行われている王国と帝国の戦争、何らかの形で利用したいがでかい出来事だけに結構なコトになる。
動き方次第ではナザリックの存在を知らしめることになってしまうだろう、最悪周辺国の団結を促してしまうことになりかねない。
「竜王国、ですか?」
「今一番滅亡の危機に瀕しているのはここだろう、言い方を変えれば付け入り易い国だ。いや、まだ断言できないけどな。目星をつけとくってことで」
「畏まりました。すぐに伝えます」
「それとルプスには仕事を頼みたい、ユリからカルネ村についての情報があった。東の巨人、西の魔蛇だったか、モモンガさんが興味を示してな。元より森の賢王……いや、ハムスケの存在によって守られていた村だ。勢力バランスが崩れた今、どうなるかわからない、一時的に落ち着くまでカルネ村に行ってユリの補佐に入って欲しい」
「そ、それは……いえ、畏まりました。ユリ・アルファの下に向かい、バックアップに動けるよう図ります」
まぁ離れるのは寂しいと言うか抵抗あるのはわかるんだけどね! 専属メイドだし!
愛されてるなぁ……ってのは良いとして、他に適任がいないし、何よりも。
「気持ちはわかるがな。これは二人に対してだが、優先順位を間違えてはいけない。ここナザリックにおいてモモンガさんは頂点だ、何よりも優先すべき存在だ。仮に俺とモモンガさんが同時に命令をした場合、欠片たりとも俺に意識を向けるな。モモンガさんに従え、それこそ俺に忠義を示すことだと知っておいてくれ」
「畏まりました」
よし、ここは違えてはならないポイントだ。しっかり伝えておかないとな。
「……まぁ、複雑に思ってくれるなら嬉しい。けど、やっぱりナザリックの主はモモンガさんだ。ソリュシャンにとっての俺は上司であり主ではない。ルプスレギナは個としてみれば俺が主だけどその主としてお願いするよ、モモンガさんを優先してくれって」
やっぱり俺自身がモモンガさんを支えたいと思ってる存在の一人だから。
それこそがナザリックに俺が生きる意味だから。