ナザリックらいふ!~愛され上司のすゝめ〜   作:失望されないルプスレギナ

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セバスハーレムなう

 その出会いは運命だったのかも知れない。

 人間が何かの壁にぶちあたり、乗り越えるための力を掴み取ることが使命であるのならば。

 まさしくブレイン・アングラウスが出会ったセバスという男は運命の相手と言ってよかった。

 

「今日はここまでに致しましょう」

 

「はぁっ! はぁっ! ありがとうございました!」

 

 死んだ目で虚ろに生きるブレインの新たな仕事は屋敷の用心棒だった。

 シャルティアに心を折られた後、ガゼフとの再会。

 少なくともただの居候でタダ飯食らいという立場に羞恥を抱ける様になったブレイン。

 それでもかつてのような傭兵稼業には抵抗がある、故に選んだ仕事だった。

 

「ツアレ、彼にタオルを」

 

「畏まりました。ブレインさん、こちらを」

 

「はぁ……はぁ……ふぅ、ありがとう」

 

 傭兵稼業への抵抗、それは戦いへの忌避感。

 命を天秤にかける行為はまっぴらごめんだった、求めていた真の強さなんてどうでもいいとすら思った。

 だがそれでもこの屋敷に来た時からブレインは毎日死ぬ思いをしている。

 

 まだ少しぎこちない笑顔のツアレからタオルを受け取り、顔を拭いながら思わず苦笑いが浮かぶ。

 

「セバス、様。どうですか? 俺は、用心棒……いや、番犬役程度なら任せられる位にはなりましたか?」

 

「そうですね、いい目をするようになってきましたが……あと少しと言ったところですか」

 

 用心棒になりたいとこの屋敷へやってきた者はブレインだけではなかった。

 応募者の中から誰かを選ぶため、セバスはある方法で篩にかける中残ったのがブレインで。

 セバスからすれば誰でも同じ程度にしか見えなかったが、それでもブレインだけが残ったのだ。

 

 今はまだ、用心棒という本来の仕事にすら就くことを許されていない。

 訪れてはただ稽古をつけられる毎日。

 

 情けないと言って良いのかも知れない、しかし最早彼に捨てられるだけの恥は残っておらず、ただただ今は用心棒という仕事に就けるだけの自分へ至りたいという気持ちだけ。

 

 そう思ってしまうほどブレインから見たセバスの力量とは天上のものだったのだ。

 自分の心を折った原因へ似た感情を覚えてしまうほどに。

 

「少しでも早く、役目を果たせるよう努力します」

 

「はい、よろしくおねがいします」

 

 言い残してセバスはその場から離れていく。

 頭を下げながら見送ったブレインは、完全にセバスが居なくなった瞬間床へと腰をついた。

 

「……世界は広いわ」

 

「ふふ、全くです」

 

 残った二人は笑い合う。

 ブレインは如何に自分が大海を知らない蛙であったのかを知ったし、ツアレは自身の凄惨と思っていた過去がどれだけ小さな世界だったのかを知った。

 

 傷ついた、その傷は確かに深く大きなものだったし、今も尚自身を苛むことはある。

 だが、だからこそ新たな世界が輝いて見えるのだ、掴みたい、掴み取りたいと思うのだ。

 再び、羽ばたけるように。

 

「良いのかい? セバス様は行っちまったけど」

 

「この後セバス様はご面会の予定で、そこに私は呼ばれていません。今日のお仕事はこれで終わりです」

 

 そう言ってツアレは気づかぬ間にブレインの頬へ出来ていた傷へそっとハンカチを這わせる。

 

「あらま、こんな所に」

 

「お、お屋敷が血で汚れてはいけませんから。掃除するのは、私達なんですよ? ならこれも掃除、です」

 

 もう一度二人は笑う。

 いつか大きく輝いた世界で笑うために。

 

 

 

「セバス」

 

「お待たせ致しましたデミウルゴス」

 

 屋敷の一室。

 先に部屋へ居たデミウルゴスに一礼と共にセバスは入室した。

 気の合わない相手ではあるが、礼を失することなど出来ない故に。

 

「早速だがねセバス。あのメイド達はなんだい?」

 

「あのメイド達と言いますと?」

 

 セバスはロコモコより命を受け、自分なりにではあるが彼女たちを知ろうとした。

 そのために保護された者をこの屋敷にてメイドとして教育し始めるとアインズ、ロコモコへ報告し受理されている。

 

 同時にそうなったと守護者各位に連絡もされているためデミウルゴスもまたこの屋敷における彼女たちの役割を理解していた。

 

「まるで教育が行き届いていない。監督不行きなのではないかい? あまりにも気が抜けすぎている」

 

 珍しく立腹している様子のデミウルゴス。

 珍しくというのは誰が見てもわかるほどに感情を表に出しているといった意味合い。

 それだけにセバスは肝を冷やした、彼ならば自分の気づかぬ間に彼女たちを処分などいくらでも出来るだろうから。

 

「申し訳ありません。メイドとしての仕事はきっちり教育していたつもりではあったのですが」

 

「そうだろうとも、それは疑っていないさ。実際あまり使われ無いだろうこの部屋にしても掃除が行き届いている、その手腕は素晴らしいと思っているよ」

 

 デミウルゴスのそんな言葉にセバスは首を傾げる。

 自分の知っている彼の像から出るような言葉、人間如きの仕事を認めるような言葉であることへ違和感を覚えたのだ。

 そしてその上で立腹しているのは何故かがわからない。

 

「わからないようだね。良いかい? 彼女たちはロコモコ様が保護した存在だ、つまり彼女たちを蔑むことはロコモコ様を蔑むこと。そのような不義出来るはずもない」

 

「なるほど、それは重ねて申し訳ありません。失礼をお許し下さい」

 

 理解が及んだセバス。

 確かにそういった理由ならば納得が行く、性格は対極と言っていいが至高の御方へ向ける忠義を互いに疑ってはいない。その面においては誰よりも信頼していると言っても過言ではないのだ。

 

 ならば何故怒りを表しているのか。

 デミウルゴスは遠回しに言っているのだ、あのメイド達の所有権はロコモコにあると。

 

「は……」

 

「理解したようだねセバス」

 

 そこまで考えてセバスはようやくデミウルゴス立腹の理由を悟った。

 

「申し訳ありません!」

 

「私が許せることでもないがね。許しはロコモコ様に頂くべきだ、何より私自身も似たような失敗はあるのだから」

 

 そう、デミウルゴスは言っているのだ。

 今のメイド達ではロコモコ様の所有物であるなんてとても言えないと。

 至高の御方を飾る存在にも関わらず、汚してしまうなんてとんでもないと。

 

「彼女達はキミしか見ていない。キミの目が届かない場所では手を抜く、態度を緩める。セバス、キミはアインズ様、ロコモコ様の居ないところではそのような事をしているのかい?」

 

「言葉もありません、直ちに意識改革へ努めます」

 

 デミウルゴスも最近なのだ、その部分を改めたのは。

 部下が自分たちを通して主を拝していることは理解している。

 畏れ多いことではあるが、だからこそ自分たちは主の鏡なのだ、主達は自分を通して部下へと感情を向けているのだ。

 

 逆もまた然り。

 自分たちは部下の鏡でもある、部下の失態は自身の失態。

 主である至高の御方は自分たちを通して部下を見ているのだから。

 

「すまないね、会って早々に」

 

「いえ、私だけでは気づけなかったこと。感謝致します」

 

 デミウルゴスの想いを正しく理解したセバス。

 これは彼なりの部下へ対する愛情なのだ、そうあれと願い期待しているのだ。

 

「私は、デミウルゴスの事を誤解していたようです」

 

「……誤解ではないさ、今も尚私はキミに対して苦手意識を抱いている。キミもそうだろう? だがね、好きだろうが嫌いだろうが上手くやる。全ては御方達のためだよ」

 

 今日は珍しいことばかりだとセバスは少しだけ笑う。

 照れたのだろうか? デミウルゴスが少し顔を背けながら言った言葉。

 

「そうでございますね。ですが、だからこそ私達は互いを埋めあえるのでしょう」

 

「まったく……アインズ様、ロコモコ様のお見立て通りということさ。さぁ、無駄話はこの辺りにして来た目的、教科書の最終確認をしようじゃないか」

 

「畏まりました」

 

 

 

 恩というものは最も簡単に裏切れるものである。

 地獄からの脱却、救いというものは堕落でもあるのだ。

 

 困っていれば、また誰かが助けてくれるかもしれない。

 ある意味期待と言って良いだろう、そんな気持ちは緩みを生む。

 

「でもさー、こんな所誰も来ないのにねー」

 

「いいじゃん、これしてるだけでお金貰えるんだし」

 

 窓を、壁を磨きながらメイド達は言う。

 こんな簡単な事をしていれば自分たちは生きていられるのだと。

 娼館に監禁されていた時、遡れば苦しい生活の中にいた時。

 それから考えればまさに天国だった、六日働けば一日は休みだ、給金は満足のいくものだったし住み込み働き故に衣食住で困らない。

 

 つまり得られる金全て自分のために使える。

 

「あ、あの……ちゃんとお仕事して下さい」

 

「……はぁい」

 

 緩み始めた空気を引き締めなおそうとするのはツアレ。

 そのツアレとて恩義に報いるためなんて意識は薄れつつある。

 

 それでもこうした空気を嫌うのは、ソリュシャンの仕事(・・)を目の前で見たからだろう。

 

 もしも、この光景を彼女が見れば。

 

「――っ」

 

 身震いしてしまう。

 セバスは確かに優しい、そして仕事も丁寧に教えてくれる。

 ここはまさに人間が人間らしく働ける場所だ、しかしただの人間が働き続けられる場所ではないと、ツアレは正しく認識していた。

 

 簡単に、それこそ何の感慨もなく処分される。

 

 自分たちの代わりなんていくらでもいるのだ、ナザリックと呼ばれた場所に存在するだろう人達は簡単に代替品を見つけてくるだろう。

 

 自分の価値を示し続けなければならない。

 恩義という気持ちが薄れてきてもその想いだけは決して薄れない。

 だからこそツアレはメイド達の中で一番幼い風貌にも関わらずまとめ役に収まっている。

 

「ツアレ」

 

「セ、セバス様!」

 

 そこへ不意に現れたセバス。

 ツアレの声に慌てて姿勢を正す他のメイド達、彼女たちもまずいと思ったのだろう冷や汗が浮かんでいる。

 

 そして。

 

「へぇ? 様になってるな、ツアレ。久しぶりだ」

 

「ロ、ロコモコ、様……!?」

 

 セバスの後ろに居たのはロコモコ。

 そうだと認識した瞬間ツアレはその場に平伏した。

 他のメイド達はツアレの様子に戸惑いを隠せない、この人は一体誰なんだろうかと訝しんだり首を傾げたりと。

 

 実に間抜けを晒していた。

 

「セバス」

 

「申し訳ありません! 皆、平伏しなさい!」

 

「もも、申し訳ありません!!」

 

 不愉快気にメイド達の姿へ眉根を顰めたロコモコ。セバスの焦った様な声がことの重大さ、そして現れたロコモコという存在が遥か至上に居る方だと示していて、そんな存在の前で先程の姿を晒したということがどういうことかは流石に彼女らとてわかる。

 

「セバス」

 

「……はっ」

 

「お前は俺にこいつらを纏えと? 俺を飾るに相応しいと?」

 

「そのようなことは。申し訳ありません、全て私の失態です」

 

 絶対零度の響きどころではない。

 冷たすぎて温度すら感じず、ただ鋭い針に刺されているかのような声。

 

 ――殺される。

 

 メイド全てがそう思った。心底数刻前の自分を無かったことに出来ればと涙すら浮かべた。

 

「信賞必罰は世の常。ならこれはどちらに値すると思っているセバス、答えろ」

 

「無論、罰でございます」

 

 予感は正しかった。

 救われた。それは間違いだった、救われつつあったことを自覚した。

 同時に自分でその機会を無に帰してしまうことも。

 

「お、お許しくだ――」

 

「黙れ」

 

「ひっ」

 

 最早何も言えなかった、許されないと悟った。

 

 だから、諦めざるを得なかった、自分の愚かさを心底認めて。

 

『顔を上げ、目の前の光景から目を離すな』

 

「――っ!」

 

 そんな時何処からか逆らえない力を孕んだ声が聞こえた。

 言葉通り、メイド達は顔を上げ目を見開く。

 

「ではセバス、罰を与える」

 

「はっ!」

 

 ロコモコは腕を振り上げ、そのままセバスの頬へと――

 

「――悪いセバス、無理」

 

「……は?」

 

 向かうはずだった腕を静かに降ろした。

 

「何も期待していない、期待していないから責任もない。だが管理してくれているセバスには責任がある……そして上司はその責任を取らなければならない」

 

「ロ、ロコモコ様……?」

 

 戸惑いの空気が流れた。ロコモコ以外の全員が呆然とする中、自嘲する様な苦笑いがやけに映えていて。

 事前の打ち合わせではここでセバスへ暴力を振るい、メイド達が不始末をすればそれはセバスが責任を取らないければならないことを知らしめるはずの予定。

 そうすることで自分以外の誰かが苦しむと教え、自分たちについてを自覚させる目論見であった。

 

 セバスとデミウルゴス、二人からの立案故簡単に袖に出来もせず曖昧に頷きここまで来たロコモコだが、直前になってやはり無理だと諦めた。

 

「この場で責任を取るべきなのはセバスじゃない。それは俺だ」

 

 小さくロコモコが呟いた。

 そして間を置かずにロコモコは腰に回していた短剣を取り出し。

 

「だ、だめっす!!」

 

「――ぐっ」

 

 完全不可知を解いてまでの静止。

 しかしルプスレギナの声は間に合わず、短剣はロコモコの手のひらを貫いた。

 

「ロコモコ様っ!!」

 

「いってぇなぁ……まぁ、セバス殴るよりかマシだわな。ルプス、まだちょっと待て。セバスもだ……あぁいや、ルプスをちょっと抑えといて」

 

 言いながらロコモコはようやく初めてメイド達へと視線を向けた。

 

「さて、はじめましてではないがはじめまして。貴様達の上司であるセバスの上役、ロコモコという」

 

「――は、はい」

 

 何が何だか分からない彼女たちは頷くしか出来ない。

 未だに抜かれていない短剣が、血を伝い床へと流れていることにすら気が向けられない。

 

「あまりバカと話す気にもなれなくてな、少しだけ言っておこう。精々ぬるま湯で生きろ、代価はちゃんと支払わせる……誰かにな」

 

「――」

 

 さも当然とロコモコは言った。

 いや、既にこの場においてロコモコは支払ったのだ、まさしく血で。

 

 その事実に、彼女たちは息を呑んだ。

 遠回しに言われているのだ、次もまた自分以外の誰かが血を流すと。

 

「……くたびれ儲けにならなきゃ良いがな。セバス、ルプス、行くぞ」

 

「はっ!」

 

「……畏まりました」

 

 言いながら何事も無かったかのようにメイド達に背を向けるロコモコとセバス。

 ただ一人、ルプスレギナは。

 

「……もしも次、同じ様な事をすれば、助かった事を死にたくなる位後悔させてやる」

 

「――ひっ」

 

 この世の憎悪を煮詰めに煮詰めたらこんな視線になるのか。

 向けられた瞬間、多くのものが床を濡らした。

 

「ルプス」

 

「申し訳ありませんすぐに……。覚えておけ、無価値なゴミ共」

 

 そうして完全に姿が見えなくなった後。

 

『自由にして良い』

 

「――ひ、ぁ……」

 

 身体が自由になりそのまま床へと崩れ落ちた。

 上手く呼吸が出来ない、身体は芯から震えて立ち上がることも出来ない、動く気になれない。

 

 頭の中はぐちゃぐちゃで、まともに何かを考えられない。

 

「……今の私達じゃ、またこうなります。ううん、こうにすらならない」

 

「つ、つあ、れ?」

 

 唯一だろう正しく立ち上がれたのは。

 そして静かに言葉を続ける。

 

「メイド長と呼びなさい。そして命じます、今後非番時以外気を抜くことを許しません。加えて、この命を破った場合の保証もしません」

 

 毅然としてツアレは告げた。

 唇を強く噛み締め、手を握りしめて。

 ツアレも理解したのだ、自分の、自分たちの役割を。

 

「かしこ、まりました……メイド長」

 

「よろしい。ではまずここの掃除をします、素早く行い元の業務に戻りなさい」

 

 メイド達もまた理解した。

 

 ――このままでは、いけない。

 

 自分たちは救われたのではない、助かったわけでもない。

 救いを手にする権利を得られただけに過ぎず、掴み取るのは自分自身だと。

 

 

 

「もうっ! ロコモコ様! ほんとに……ほんとにもう!」

 

「あはは、悪かったよルプス。ごめんな」

 

 部屋に着くなりルプスレギナはロコモコの手を取り回復魔法を使った。

 目には涙を浮かべて、言いたいことは沢山あるのにロコモコの苦笑いで何も言えないまま。

 

「申し訳ありませんっ!!」

 

 同時にセバスとデミウルゴスが額を強く床へと叩きつけた。

 自分たちがこうすれば上手くいくだろうと考え願った結果、ロコモコが自傷という行為に出たのだ。

 少なくとも二人はそう思っている、故に最早どう償えば良いのかすらわからない。

 

「止めてくれって。全部俺が悪かった、言われた時に却下するべきだった。俺には出来ないって、二人が考えてくれた事を無駄にしてしまって本当に悪かった」

 

「あ、頭をお上げ下さい!? そのようなこと……! 私達が未熟だったがせいです!!」

 

「その通りです! ロコモコ様のお気持ちを考えず、この様な愚案を!! 信賞必罰と仰るのであれば、どうか我らに罰を!!」

 

 必死だった。

 愛情も与えすぎては毒になるのだ、このままでは堕落してしまうという気持ちもあったが、こんな様ではいつになったら自分たちの忠誠を受け取って貰えるのかわからない。

 

「さっきも言ったが……言ったっけ? まぁ責任は上司が取るもんだ。全部これでチャラにしよう。お前達がアインズ・ウール・ゴウンの子、モモンガさんの子なら俺にとってもそうだ。我が子を殴るなんてドメスティックバイオレンスも良いところでな。お互い、次に活かそう」

 

 治療が終わった手をひらひらと振りながら、やっぱり苦笑いで二人に話すロコモコ。

 

「ロコモコ様……! っく、申し訳ありませんでした! そして畏まりました、以後この様なことが無いよう、忠勤に励みます……!」

 

「私とて……! ロコモコ様の大いなる愛情へ応えられますよう、さらなる精進を誓います……!」

 

 平伏する二人。

 

 ――もう、間違えない。

 

 デミウルゴスは固く心に誓った。

 自分は他の者に先んじて人間心理の把握へと着手出来た。

 驕りがあったと確信した。人間心理は仕事だ、だがそれを理由に最大優先したい気持ちを無碍にしてどうするのかと。

 

 セバスもまた、自分の甘さを実感した。

 自分の責任という範疇を見失っていた、面倒を見ていたメイド達の失態は自分が責められるべきもので。言い換えれば自分が犠牲になればいい等というナルシズムとも言える何かに踊らされていたと。

 

 困っている人を助けるのは当たり前。

 

 だがそれは無作為に救いを与えるだけでは終わらないのだ、その後に対してもしっかり責任を負うこと。

 それをもって助けると為る。

 

「うん、お互い頑張ろうな。それじゃ教科書の確認をしよう、よろしく頼む」

 

「はっ!」

 

「畏まりました!」

 

 出来れば、ここで働く喜びを彼女たちも知ってほしい。

 否、知らせるのだ。忠を捧げること、捧げる相手が居ることの喜びを。

 

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