ナザリックらいふ!~愛され上司のすゝめ〜 作:失望されないルプスレギナ
歴戦の勇士は予知に限りなく近い予感を手にすることが出来る。
それは勿論素質による物が大きいとは言うまでも無いことではあるが、そういった素質を有していることは蒼の薔薇がアダマンタイト級冒険者チームである証左の一つ。
蒼の薔薇をまとめるラキュースは言うまでもなくこの世界における一角の人物。
ラナーからの依頼に一種のきな臭さを感じたが故に警戒はしていた、ましてや八本指が絡んでいるかも知れないなんて話だ高いレベルの意識を持っていた。
簡単に村へと入ってはいけない。
いや、ガガーランが言ったようにまだ正式な声明をカルネ村が発したわけではない。
冒険者一行、その依頼の為に立ち寄ったとでも言えば入ることは出来るはずだ、声明を出す前から事を大きくはしたくないだろうからと。
だがそれをイビルアイが止めた、発表前に蒼の薔薇が立ち寄ったという事実こそ何より渡してはいけないものになりかねないと。
「戻った」
「おかえり。早速だけどどうだった?」
斥候へ出ていた双子を迎えたラキュースは一つ胸を撫で下ろしながら状況を聞く。
態度に出てはいなかったがイビルアイも同じ気持ちだった、斥候すら失敗となってしまえば予想以上の戦力が既に集められているという証明であったが故に。
「まずあれは村とは言えない」
「ちょっとした要塞。いや、軍事拠点って言ってもおかしくないかも」
城壁を思わせる壁に囲まれたカルネ村。
外からでも見える位置に櫓が立っており、遠目でしか確認は出来なかったがそれでもわかる異質さを二人はラキュースへと伝える。
「――異様ね」
「独立、反乱を狙ってるっつーのも、ありえねぇ話じゃないか」
「襲撃にあった経験から防備を固めた……なんて村人が出来る規模じゃないのは間違いないな」
どう考えても何者かが手を貸したとしか思えない。
資材にしても人員にしても、襲撃を受けた村人が出来るようなものではなかった。
ティア、ティナは正しく自分たちの所感が伝わったことを理解した。
もう少し近くで確認は出来た、リスクを背負って良いのであれば。
一歩近づくたびに頭の中で鳴り響く警鐘。無視するには自分の命を賭けなければならないのではないかとすら思ってしまったその音色。
「正直、あの外観だけでも独立、反乱の信憑性になる」
「これ以上は報告して任せても良いと思う」
見たものにしかわからない感覚だろう。
僅かに肩を震わせながら二人は懇願に近い報告、いや忠告をする。
引き返すなら今だ、と。
「ガガーランはどう思う?」
「あん? 俺か? ……二人に賛成、かもな。報告して終いにするかは兎も角、出直しても良いんじゃねぇか?」
「イビルアイは?」
「なんとも言えないな。ここでヤバそうだから退くをしてしまえば、あの村を脅威として認定することになる。その意味がどういうことかわからないわけじゃないだろう?」
ラキュースは一つ頷いた。
心情的にはイビルアイに近い、自分たちはアダマンタイト級冒険者なのだ。強者があれは脅威だと言ってしまう意味なんて当たり前に理解している。
元よりラキュースはその意味を強く想ったからこそ引き受けた面があった。出来ることなら自分達だけで事を収めてしまいたいとすら。
カルネ村が脅威であると報告してしまえば、村に存在する命はどうなるのか。
今の軍部、その頂点達がどう判断するのかを考えればラキュースの頭に良いだろう答えは浮かばない。
反乱、独立なんてやめるんだと説得できれば、無用な血を流すまでもないのだ。
だが、蒼の薔薇チームリーダーとして考えるならば。
そんな自分のエゴを元にパーティを危険に晒していいのか? 良い訳がない。
自分たちの手に余ることかも知れないのなら、終息させることが出来る存在に任せるべきだ、それがどの様な形であっても。
ライラの畑を焼き払ったときと同じだ。
解決するためにはどうやっても犠牲は出る。ならば今回も同じことだ、冷酷かも知れないが必要な決断はある。
ならば。
「……調査を続行しましょう」
「わかった……ほんと、我らが鬼ボス」
「鬼リーダーここに極まれり」
言いながらも双子は笑った。
これだからはラキュースは、こうだからラキュースだと。
そうして笑いが伝染し、全員が立ち上がった時。
――都合のいい決断、ありがとう。
そんな言葉が聞こえた瞬間、蒼の薔薇に映る景色が移り変わった。
「まーさかこうして蒼の薔薇とご対面になるとはな。畑の件はありがとうよ、あいつに変わって言っておくぜ」
「ここは!? っく、あんたは――!」
「お前らが探してたヤツだとだけ言っておく」
一瞬の浮遊感後、蒼の薔薇は森の中にいた。
驚き慌てる様子の中、ゼロはニヤニヤと笑いながら語りかける。
「わりぃんだがよ、まだ時期尚早ってやつでな。知られるわけにはいかねぇんだ……おい」
「っ!? 囲まれてる!?」
ゼロの言葉と共に現れた、なんとも不気味な仮面を被った者達と。
「なんだこいつら……って、魔獣までいんのかよ」
「――」
黒い狼。
その姿が見えた瞬間、イビルアイは動かない心臓が大きく跳ねた気がした。
「――逃げるぞ」
「あ?」
「良いから逃げるぞ! あれは不味い! 魔獣なんて生ぬるい! 本物の化け物だ! わ、私がなんとか食い止める!」
「っく!!」
ただ事じゃないとわかるイビルアイの言葉に思考の一切を止めて、退転する蒼の薔薇達。
「おーおー見事だ。……俺もお前位賢かったらな、まぁ良い。行けっ!」
「ぐあっ!? ――
ゼロの言葉で黒狼がイビルアイへ口を開け――目に映らない速度の体当たりでイビルアイの身体を吹き飛ばした。
そのまま森の奥へと一匹と一人は姿を消す。
「よぉし! 俺達はアイツらを追うぞ!」
「……ち」
赤髪の女らしきものが舌打ちを一つ。
しかし足は既に前へ。
「ルプー」
「わかってるっす、手筈は間違えないっすよ。ちゃんとある程度の実力を確認したら逃がすっす」
「うん……行く」
全員で頷きながら、抜き去ってしまわぬように加減をして。
「まず私から、ラキュース、でしたか。アルファ、参ります」
その中からアルファは先行し、ラキュースへと追いつく。
「なんっ――っぐ!?」
「お相手致します、どうかお覚悟を」
「ラキュース!!」
そのまま殴り飛ばされたラキュースもまたアルファと共に姿を消す。
「くそが! おいティア、ティナ! 先に行きな! 俺がここで――」
「食い止める? 馬鹿っすね」
「浅はか」
振り向き足を止めたガガーラン。その左右をあざ笑うように抜けていくベータとデルタ。
そうして残ったのは。
「簡単には逃さねぇよ」
「――ったく。まぁいいさ、あんたが八本指だろう? 尻尾を摑ませて貰えなかった礼、ここでしておいてやる!」
得物を構え大地を踏みしめるガガーラン。
目付では、自分と同等かそれ以下。考えることはここで可能な限り早くゼロを撃破して誰かの救援へと向かうこと。
「……いや、まぁお前は本当に運が良い」
「あ?」
ガガーランが覚悟を深く心に刻む最中、ゼロは表情を消しながら言った。
「まだ
「そりゃ一体どういう――」
「気にすんな、失言だ」
しかしそれも一瞬。
二人の戦闘が開始された。
「くそっ! なんなんだお前は! ありえないだろ! あいつらの中にお前を超えるものは居なかった!!」
「――」
イビルアイは錯乱に近い状態。
ちゃんと目付が出来たわけでは無かった、だがそれでも今自分が相手をしている魔獣があの中で一番強いことなんて簡単にわかる。
それだけにあり得るだろう可能性、誰かがビーストテイマーで魔獣を使役してるというものを否定されて混乱していた。
「お前みたいなやばいのが! 何故人間の言うことを聞いている! あまつさえ何故アイテムなんか使っている!!」
「――」
更に黒狼はアイテムまで使用した。
「答えろ! 何故――っく!
姿を消していた黒狼が不意に現れ仕掛けてきた突進、それを水晶防壁で防ぎ――脆く崩されてしまったが――なんとか距離を取ろうとするイビルアイ。
言葉を理解しているとか、話が出来るとかそういったことを考えているわけではなかった。
口にしなければ頭がどうにかなりそうだったのだ、自分の理解できないことが立て続けに起こった、把握しきれないまま状況が進んだ。
ある意味愚痴に近い。
吠えたところで望む答えが帰ってくるわけでは無いなんて百も承知だったがそれでも。
「
イビルアイの手に魔法陣が発現し、結晶の礫が黒狼に向かって放たれるが。
「――無効化!? デタラメすぎる! 飛行!!」
何をするわけでもなく黒狼の身体へ当たる前にかき消される。
それがわかっていたかのように黒狼はそのままイビルアイの身体に牙を突き立てようとする瞬間、イビルアイは飛行にて空へ逃れる。
(無理だ、勝てない。けど時間を稼ぐだけなら出来る……こうして空に来ないところを見ると流石に飛行能力は無いはず、ならこの距離から――って!?)
位置さえ間違えなければと考えたところだった。
黒狼は木々を蹴りながら三角飛びの要領でイビルアイへと肉薄し。
「ぐ――あ」
腕に噛みつきその身体を地面に叩きつけた。
「あ、あぐ……だが空中ならっ!!
「――」
身体を横たえたまま発動した魔法。
しかし黒狼はまるで意に介さない様子のまま、再び何事も無かったかのようにイビルアイの魔法はかき消される。
(抵抗突破も!? いよいよ打つ手が無いぞ……だが)
わかっていたことだ、勝つ手段は無かったことなんて。
故に模索するべきは蒼の薔薇全員が無事に生きて帰ること。
(わざわざ木をバネにして空へ来たってことは、飛行能力が無いってことは確定、だろう。転移は出来ない、なら空で逃げる……そろそろ他の皆は逃げられたか? わからない、けどそう信じるしか無い)
魔力にはまだ余裕はある、しかしこのまま戦い続けてしまえば仲間を回収して帰還することは出来なくなってしまう。
仮面の下、イビルアイの顔は歪む。この戦闘から離脱する方法はある、あくまでも可能性として出来るかも知れない程度だが。
たがこの魔獣から逃げて、魔獣が他の仲間の下に辿り着く前に自分が到着できるのかまでを考えればほぼ絶望的以下の可能性であり賭けにならない。
「やるしかない!」
そう、最早イビルアイにはそれしか手段が残されていなかった。否、考えつかなかった。
未だに頭は混乱しているし、状況も理解できていない。
もっと冷静になれていれば、別の何かを思いついていたのかも知れないが、一度思いついた考えを検討している時間もなかった。
「こい化け物! 我が名はイビルアイ! 貴様を殺すものだ!」
「――」
一瞬黒狼が笑った気がした。
そしてその身体をかき消し――。
「
「っ!」
それは黒狼が初めて見る魔法だった。
イビルアイのオリジナル魔法であり、一見ではどの様な効果があるものか判断がつかない。
術者を中心にして広範囲に砂嵐が発生したことから恐らく行動阻害の魔法であるとはわかるが――。
(まぁ、頃合いか)
一つ頷いて黒狼はイビルアイを見失った振りをする。
「飛行っ!!」
その姿を見てイビルアイは空へと逃げる。
「この勝負、預けておくぞ!」
殺すものとして名乗った割に良い逃げっぷりだと感心しながら、その姿を